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猫科の動物 #1
大きな目に追いやられて狭くなった額がもっともこの動物の特徴を示しているのかもしれない。短くて堅い毛は前進を多い、何も模様を作っているわけでもないのは目立たずに獲物を狩る執念とも取れる。斜め上を見るときに右耳が少しだけ下がるのか彼、もしくは彼女の特有の癖であるのだろうか。目は上を見ているが、口はシュッと閉じて鼻にも集中力が集まるように表情に緊張感が見られる。どんな臭いからの環境の変化を感じとることができるのだろう。ひとつ瞬きをする。捉えた獲物を見失わないように力を集める分だけ右耳が傾く。目玉は灰色で中心に黒い点が内部からの筋肉によって焦点を定めている。鼻頭は黒に近い灰色で、目の周辺は濃い灰色、口の周辺だけは真っ白の毛が生えている。鼻だけは唯一少し赤みがかっているが目立たないのには変わりない。
二つ目の瞬きをする。右足を足音を立てずに移動する。左足も移動する。足が草に当たれば慎重に経路を調整する。風の音すらも聞こえない草原。木々は久しぶりの穏やかな夜に癒やされているが、野生動物たちの戦闘に休みはない。なぜなら彼らは生きねばならない。腹が減っているならばここでやってきた機会を逃してはならない。二十本ほど生えている髭がクールさを感じさせる。空気の移動すらも観察対象にして、この瞬間に全身を研ぎ澄ませている。左耳は孤独に鳴くミミズクの声を聴いて少しだけ後ろに向いた。しかし目と鼻はそれとは別に働くことをやめない。
三つ目の瞬きをする。首を少しだけ下に下げ、より見つからない姿勢を取る。邪魔をするものはない。獲物は夜の月明かりに神経が緩んでいる。夜は現在のときを越えて、あの時の寂しさや、これからの栄光に船出をする心の船頭に身を任せる。一瞬でも気が緩めばそのように心は自由を失う。もし、動物にもそのような心があるのであれば、の話だが。ネコ科の動物の腹が減っているときに、そのような余裕はない。干からびた腹は数日の記憶を失い、満たされた腹の到来を待ちわびている。目尻から口元に引かれている黒い線はこの動物がいかに飢餓状態を我慢してきたのか、その勲章かもしれない。
さっと、機を捉えて動き始める。獲物の首がコクりと傾いた瞬間である。このときばかりは少し音が立ってもしかたがない。それよりも速さが求められる。伸縮した筋肉を燃え上がらせて、とっくに枯渇した身体の油をひねり出して全身を動かす。初めて見せる牙は獲物の首を捉え、気づけば永遠に首は傾き続けていた。