投資って何?で、チコちゃんを叱る ②
「投資って何?で、チコちゃんを叱る」(12月6日投稿)の続編です。
「チコちゃんに叱られる」(12月2日放送)での投資についての解説がこの番組らしからぬものであったことから、私なりのスタイルで解説を試みました。
ポイントは「投資はお金の変身!」でした。お金が仮面ライダーのように、株式や債券、不動産などに変身し、利益を得ようと奮闘する。投資を読み解くとこうなります。今回は投資と老後資金の確保について、深掘りしてみましょう。
老後資金2000万円問題
番組では政府が投資を推奨する理由のひとつとして、老後の資金確保をあげていました。念頭にあるのが、「老後資金2000万円問題」でしょう。
2019年6月、金融庁の審議会が「高齢社会における資産形成・管理」という報告書を公表しました。報告書は議論の前提として、標準的世帯の老後では、毎月約5万円、年間で60万円の不足が生じ、30年で約2000万円のお金が必要になるなどと試算し、その対応策を提案するものでした。
ところが、メディアがこの前提にだけ焦点を当てて、「老後資金は2000万円必要」との見出しで伝えたことから、「そんなの不可能!」などと、大きな波紋を広げることとなりました。
しかし、2000万円という金額の評価は別として、老後の資金が不足するのは紛れもない事実です。退職すれば収入が減ります。「働かざる者食うべからず」、生活が苦しくなるのは当然のことなのです。
では、どうすればいいのか・・・。答えは単純です。「不労所得」で埋めるのです。働かなくなった自分の代わりに、他の誰かに働いてもらって、そのお金をもらう。子供たちからの仕送りに頼るわけにもゆきませんから、期待されるのが投資によって得られるお金です。老後に働かなくなった自分に代わって、お金から変身した仮面ライダーに働いてもらい、不労所得を得ようというわけです。
仮面ライダーの報酬は2つ
投資による収益には、大きく2つあります。一つは前回説明したキャピタルゲイン、もう一つが「インカムゲイン」(income gain)です。インカム(所得)をゲイン(得る)、つまり仮面ライダーの「給料」ですね。
インカムゲインでよく知られているのが、株式投資の配当です。株式投資は、お金が株式に変身して企業活動を支え、その働きで利益が得られると、その一部が配当として支払われます。配当は「成功報酬」ですから、企業の業績に応じて変動し、赤字になった場合にはゼロ(「無配」)となります。
しかし、その変動幅はキャピタルゲインより遙かに小さく、マイナスになることもありません。(株主優待もインカムゲインの一種です。仮面ライダーから贈られてくるお中元、お歳暮のようなものですね。)
不動産投資でも、インカムゲインが得られます。マンションの一室を購入し、賃借人を入れると、毎月家賃収入が得られます。お金が「大家さん」に変身するわけで、これが家賃というインカムゲインをもたらしてくれます。この他にも、債券に投資すれば利息、投資信託に投資した場合にも配当と、それぞれにインカムゲインが得られます。
しかし、インカムゲインの水準は相対的に低く、キャピタルゲインのような大儲けは期待できません。したがって、短期間で資産を増やすならキャピタルゲイン狙い、長期にわたって不労所得を得る上ではインカムゲイン重視となります。仮面ライダーに大勝負させるのか、コツコツと働かせるのかを選択するというわけですね。
2つの寿命の追いかけっこ
投資をする人たちの多くは、キャピタルゲインを狙います。しかし、キャピタルゲイン狙いは、老後の生活を安定させる解決策にはなりにくいのです。
老後を迎えたとき、幸いにも2000万円の残高が銀行口座にあったとします。この資産でキャピタルゲインを狙った場合、上手くゆかずにキャピタルロスになってしまうと、挽回が容易ではなくなります。
現役時代なら収入もあり、態勢を立て直す余裕もあるでしょう。しかし、老後にはそうした余裕はなく、無理をして傷口を広げる恐れもあります。番組に登場したNHKの解説委員が、自分が投資をしていない理由として挙げていたのもこれでした。
しかし、銀行預金にしたままではじり貧となります。残高が少しずつ減ってゆく中、自分が何歳まで生きるか分からないため、「死ぬまでに無くなってしまうのでは?」ということになります。
残高が3000万円あっても5000万円あっても、こうした不安は拭いきれません。「資産の寿命」が短くなってゆく一方で、「自分の寿命」は予測できないのです。2つの寿命の追いかけっこが続くことになり、安心して老後を過ごすことができなくなってしまいます。
インカムゲインで老後を支える
一方で、インカムゲイン重視の投資には、こうした心配が生じません。「老後資金2000万円」の根拠となっている、年間60万円の老後資金不足があるとします。これを同額のインカムゲインを得られるような投資を考えてみましょう。
現在、東京証券取引所・プライム市場に上場されている株式の平均配当利回りは約2.5%です。これが適用できるとすると、年間60万円のインカムゲインを得るために必要な株式総額は2400万円となります。(単純化のために税金は考慮していません。)
2000万円より多いと思われるかもしれませんが、投資資産はそのままで、銀行預金のようにじり貧にはなりません。株価の変動でキャピタルゲインもキャピタルロスも生じますが、配当が続けられている限り関係はありません。
さらに、配当は銘柄によって様々で、3%や4%、さらには2桁のという高い配当利回りを持っているものもあります。(極端な高配当の株式は、ワケありの場合もあるので要注意ですが・・・)。
仮に4%であれば、1500万円で老後資金の不足分の年間60万円のインカムゲインが得られる計算です。不動産投資でも、4%程度の投資利回りが期待できるとされています。投資利回りが4%であれば、2000万円で年間80万円のインカムゲインとなるわけです。
もちろん、配当利回りも不動産投資の利回りも、保証されたものではありません。配当は企業業績で変動しますし、不動産投資の場合にも、賃借人が出て空室になった場合、新たな賃借人が見つかるまではインカムゲインはゼロです。
それでも、その変動幅はキャピタルゲインよりも遙かに小幅です。したがって、一定程度のインカムゲインが得られる投資資産を形成できれば、資産の寿命とのの追いかけっこに気を揉むことは少なくなります。
インカムゲインは「第2の年金」なのです。公的年金と同じように、投資資産を持ち続ける限り、死ぬまで受け取り続けることができ、さらに子供たちにも引き継ぐことが可能です。お金から変身した仮面ライダーが、私たち専用の「年金基金」となって、老後を支えてくれるというわけなのです。
「長寿の仮面ライダー」を育てよう
「老後資金は2000万円必要」と指摘したとされる金融庁の報告書ですが、実はそうした記述はどこにもありません。報告書にはこう書かれているのです。「長寿化により、資産寿命を伸ばすことが必要」と。
私たちの寿命が延びる分、資産の寿命も延ばす。これを可能にするのは、変動の激しいキャピタルゲインではなく、着実に不労所得を手にできるインガムゲインを重視すべきなのです。
ところが、現実には日本人の多くがキャピタルロスを恐れて、お金を預金や現金のまま保有し続けています。投資にはリスクがありますが、老後を安心して暮らせるチャンスも秘めています。政府が投資を奨励する理由がここにあるわけです。
しかし、インカムゲインを重視した投資資産は、一朝一夕で形成できません。若いうちから老後の生活設計を考え、準備をしておく必要があるのです。まずは少額からスタートし、リスクを減らすために投資先を分散し、目先の動きに一喜一憂することなく、老後を見据えた長い視点をもつ。
その観点から考えたとき、つみたてNISAは有力な選択肢の一つとなります。少しずつ積み立てたお金を、複数の投資先をまとめた投資信託に投資することでリスクを分散し、長期的な視点で行うのがつみたてNISA。非課税や低い手数料といった優遇策も施されています。
老後を少しでも安心して暮らす上で、投資は必要不可欠です。老後を迎えたときに慌てても、取り返しがつかないのです。
「ぼーっと生きていた・・・」と、そのときになって後悔しないように、人生の最後まで寄り添ってくれる、長寿で頼もしい仮面ライダーを育成してゆく必要があるのです。