夜行
眠れない夜が続く.頭の中ではひっきりなしにアップテンポの曲が入り乱れ,思考は常に何かと戦い,身体は喉につっかえを覚えながら休まることなく薄い呼吸を続けた.眠剤を飲んで暫くした時のまどろみだけが身体を癒していく.
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「最近眠れないのと,たまに猛烈な吐き気に襲われて吐きます」
通院で医者に放った言葉だ.医者は驚いた様子だった.原因がわからないのだろう.出てきた言葉は「週末から気圧が酷かったからね.他の患者さんも参ってるから,そのせいかもしれない」.それに合わせるように「今日は晴れなので少し気分は楽です.吐きましたが.」と添えた.
結局,様子見が続く.
自社の人事との電話では好奇心混じりに「やっぱり気圧の変化って受けるものなの?」と聞かれた.あぁ,中高の時に男子が女子の生理に対する理解のなさに似ているなぁと思いながらも,一般的な症状としてあること,そしてこれは休職してから顕著に現れたことを淡々と説明した.「きっとそれが克服できた時が復職のサインなんだろうね.雨だからって復帰早々休まれちゃうとあれだしね」と軽快に笑いながら人事は話す.そうだろうね.とりあえず様子見をしてみます.と返して電話は終わった.
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昨日は,自分のよくわからない身の上の現象について,複数人に謂れのない分析を受けた気分だった.相も変わらず心は空っぽだし,復職に向けた努力なども皆無だし,人間不信であることには変わりないけれど,それでもモルモット感が否めなかった昨日は明らかに気持ち悪い1日だった.
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何が足りていないのだろうか.人を信じる心か,規則正しい生活か,将来のキャリアビジョンか,生涯設計か,いろんなものが足りていない気がするが,いずれにも手が届くことはなさそうだ.
気分気のままに生きている今が一番楽なのだと自堕落になっている状態から,がむしゃらに働いていたあの時代に戻ることはきっと大変なのだろう.「楽しく働けるように」という洗脳的な呪文はああも人を変にさせてしまうのか,自分はあちら側にいたんだ,と思えば思うほど怖い.
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沈んでいると言えば沈んでいる状態なのだろう.疲れていると言えば疲れている状態なのだろう.それでも安らかな救いは求めている.眠りでも,死でも,享楽でも,なんでもいい.
溺れた時のように,死に物狂いで足掻いてみるか.周りはプールサイドから笑って見物しようが,こっちは必死だ.見返してやる,というエネルギーだけでどこまで足掻けるだろう?失うものが無い/背負うものが無いと最後の最後で踏ん張れない.踏ん張り時に勇気をくれるのは誰だろう?