色即是空を抱きしめて

かれこれ人生も折り返しに迫る。まだ折り返し地点だと思うと先は思いやられるが、積み上がった月日は短く、あっという間に過ぎていく。
最近の時の過ごし方は、所謂初老のそれと何ら変わらない。

早朝に起き、一杯の水と持病薬を飲み、冷蔵庫に食材があれば食べる。無ければ食べない。カーテンを開けてソファに腰掛け、空模様を確認する。

空模様とは、見たまんまの空模様だ。

予報なんて見ず、その時の空気、雲、太陽、風を、その目その肌で感じる。部屋が寒ければ外もきっと寒かったんだ、なんて思ったり。
ベランダに出てぐぐっと身体を伸ばす。陽の光を浴びれたらラッキーだ。鳥なんかが飛んでると、尚良い眺めである。

何をしようかと、部屋で悩むのもまた一興だ。この歳になると研鑽に励むということもしない。良くも悪くもその場で活かせない知識なら無駄だと思っている。いくらでもすぐ調べられる時代だ。多少の時間を対価にすれば、知識には何も困りやしない。
だいたい、迷うと勢い任せで歩きに出る。外の空気と触れ合いたい気持ちが大きい。

午前に外出をすると、この季節はまだ空気が冷たい。太陽に照らされる前の、夜の名残が冷ややかに、確かに残っている。風は少し強めで、車通りはいつもと変わらない。
歩む方向はその時の気分だ。前、左右、後ろ。どこにでもいける。だいたい、眺めたいシーンが頭に浮かび、そこを目指すように足が進み出す。全てはその時の気分だ。これを縁と呼ぶなら、きっとそうなのだろう。

町の自転車屋、カレー屋、立ち食い蕎麦屋、工事現場、小川沿いのスーパー、その一つ一つを眺めながら、街ゆく人々を眺めながら歩みを進める。
親子、独り身、子連れ、子どもたち、老夫婦、独り身、店主、警備員、清掃員。
みんな、何かをしている。私も、歩いている。そんな日常のふとしたワンシーンの繋がりが、休日を演出している。そう、思った。

歩く時は方向だけ決めて、知らない道をのんびりと、周囲を眺めながら進む。知ってるようで、はじめての土地。住所は知らないけど、あんなとこにパン屋さん。こんなとこに印刷屋さん。工場は休みも動く。犬はこっちを見つめている。
買い物袋も、カバンも、何も持たず、財布とケータイだけで歩くのはきっと珍しいのかもしれない。ポケットに煙草を一箱だけ忍ばせているが、これはとっておきである。
歩く姿はどう見えるのか。気になりつつもガラス戸に映る初老から目を背けてしまう。まぁ、どうせ、と思いながらゆったりと歩を進める。

目的地はその時々で異なる。埠頭もあれば、丘の上もあれば、時にはその辺の石の上であったりもする。道中に買った菓子と珈琲を開け、煙草を蒸し、鳩がいれば菓子をやる。近くの生命に寿命を与えながら、自身は寿命を縮めていく。
日差しもほどよく、風も良好。見渡す景色はこれといって特別ではないが、それがまたいい。

あぁ この瞬間で良かった と、
そう思わせてくれる時を繰り返し、繰り返し、過ごすのである。時が止まってるようにも、物事が変わらないようにも感じるが、少しずつ毎回変わっている。同じ時は来ないからこそ、この特別な瞬間を、抱きしめていたいのだ。

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urara
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