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MEMOry ESSay:「未来駅の待合室」2月1日 昼

プロローグ「未来駅への招待状」

西暦2057年。

都市のすべての交通システムはAIによって制御され、人々は自動運転の乗り物に乗り、最適なルートで目的地へと運ばれていた。渋滞や待ち時間は完全に排除され、出発と到着は計算され尽くしたものとなった。

人々は移動に対する「ストレス」を忘れ、快適な時間を享受していた。だが、その一方で、「待つこと」の価値も、ゆっくりと消えていった。

そんな時代に、ひとつだけ、奇妙な噂があった。

「未来駅」

都市から少し離れた地方に、未だに「待ち時間」が存在する駅があるという。そこでは、過去に消えたはずの記憶が蘇り、失われた人々と再会できるという噂だった。

それをただの都市伝説だと笑う者もいれば、実際に行ってみたと語る者もいた。ただ、そこへ行く方法を知る者はほとんどいない。

ある日、高村隼人(たかむら はやと)のもとに、一通の手紙が届いた。

「未来駅で待っています」

差出人は、五年前に亡くなったはずの母・高村澄子だった。


第一章「未来駅への切符」

母を失ったあの日以来、隼人は「過去」を振り返らないように生きてきた。

AIが予測する最適な未来へ進むことが、この時代に生きる者の正しい在り方だった。振り返ることに意味はない。

それでも、あの手紙を見た瞬間、隼人の心は揺れた。

「母さんが……待っている?」

彼は、あの手紙が何なのか確かめるため、「未来駅」を探すことを決意した。

だが、未来駅の場所は公式の鉄道マップには載っていなかった。

「知っている人がいるとしたら……あの人しかいない」

隼人は、かつて鉄道設計の仕事をしていた伯父・高村俊一のもとを訪ねた。

「未来駅……ああ、まだ残っていたのか」

伯父は、懐かしそうに遠い目をした。

「行き方を知っているんですか?」

「簡単には教えられないさ」

伯父は一枚の古びた紙を取り出した。

それは、AIがすべてを管理する以前の時代の、「紙の切符」 だった。

「お前が本気でそこへ行きたいなら、この切符を持って行け。だが、注意しろ。未来駅で出会うものが、お前にとって良いものとは限らない」

隼人はその言葉の意味を考えながら、切符を手にした。


第二章「未来駅への旅路」

伯父から教えられた通り、隼人は最新のデジタル鉄道ではなく、地方へ向かう古い路線に乗り込んだ。

電車は、ゆっくりと都市を離れ、郊外へと進んでいく。

車窓に広がる景色は、都会の近未来的なビル群から、どこか懐かしい田園風景へと変わっていった。

やがて、目的地の駅が近づいた時、車内アナウンスが流れた。

「次は……未来駅」

通常の鉄道アプリでは、そんな駅の名前は表示されていなかった。

車内の乗客はまばらで、誰もそのアナウンスを気にしていないようだった。

電車が速度を落とし、隼人は立ち上がる。

扉が開くと、そこには時間が止まったような世界が広がっていた。


第三章「待合室の再会」

駅のホームに降り立つと、目の前には古びた待合室があった。

時が交差する幻の駅『未来駅』。そこでは、過去と未来が交わり、失われた記憶と再会できるという。夕暮れの待合室で、一人の旅人が静かに列車を待っている——。

そこには、今の時代では見かけない、木製のベンチと、時刻表の張り紙があった。

「ここが……未来駅?」

隼人はゆっくりと待合室の扉を開けた。

そこに、ひとりの女性が座っていた。

「……母さん?」

彼の声に、その女性は静かに微笑んだ。

「遼、来てくれたのね」

確かに、母だった。

だが、彼女は五年前に亡くなったはずだった。

「これは……幻なのか?」

「いいえ。私はここで、あなたを待っていたのよ」

隼人は言葉を失った。

なぜ、母はここにいるのか。

「母さん……これは一体?」

「未来駅は、過去と未来が交わる場所なの」

母はそう言いながら、一冊のノートを差し出した。

それは、彼が幼い頃、母と一緒に書いていた「未来の夢」を綴ったノートだった。

「あなたがこの町を出る前に、一緒に書いたわね。あなたの未来の夢を」

隼人はノートを開く。

そこには、幼い自分が書いた「未来」の理想が並んでいた。

「未来では、どこにいてもすぐに会える」
「未来では、人はもっと自由に生きられる」

しかし、今の自分はどうだろうか。

最適化された生活の中で、本当に「自由」に生きているのか。

「待つ時間」も、「過去を振り返ること」も、すべて無駄なものとして消し去っていたのではないか——。

母は静かに微笑んだ。

「あなたに伝えたかったのは、それだけよ」

次の瞬間、遠くから列車の警笛が響いた。

母の姿が、少しずつ薄れていく。

「……行かないでくれ」

「遼、大切なのは、未来ばかり見つめることじゃないわ。たまには、振り返ることも必要よ」

隼人が手を伸ばした時、光が広がり——

彼は、駅のホームで目を覚ました。


エピローグ「未来へ」

隼人は、未来駅のホームに立っていた。

母の姿は、もうどこにもなかった。

手元には、あのノートが残されていた。

ページをめくると、最後の一行に、母の字でこう書かれていた。

「時には、待つことも大切」

隼人は、静かにノートを閉じた。

未来へと進むために、過去を振り返ること。

それが、母が残した最後のメッセージだった。

電車がホームに滑り込み、ドアが開く。

隼人は、もう迷わなかった。

「未来へ、行こう」

Memory Essay:未来駅の待合室——完

——そして、次の物語へ。
次回、「記憶の書庫」

かつて存在した世界中の書物を集めた、失われたはずの図書館。
そこでは、本を開くたびに、誰かの記憶が蘇るという——

お楽しみに。


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