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人は、蝿っぽい虫を蝿、虻っぽい虫を虻、蚊っぽい虫を蚊と呼ぶ。それでいいじゃないですか。

ハナアブは虻の仲間ではないと言う人がいましたので、どういうことなのか、裏に回って確認しました。

問題の記事へのリンクです。

↓こんなことが述べられています。

そこでこの記事では、そもそもカやハエとはどんな生き物か、どう間違えられているのかを中心に、双翅目という昆虫の分類群について、その知られざる世界の一端を簡単に紹介しようと思います。

ちなみに、2019年9月2日の BuNa に投稿された記事を転載したもののようです。

対象読者は、「一般に生きものと自然が好きな人」と推測されます。


そしてそもそも虻の仲間でもありません。

と言っています。なんか言い方が嫌な感じですね。

和名は見た目からつけられたもののはずなので、ハナアブは虻に違いありません。

参考

古来より我々は形(形態)の違いでもって種を区別してきました。これが形態分類の原点です。

https://www.kanpira.com/iriomote_museum/scientific_name.htm
「生物の名前と分類」より

長いので、引用箇所を確認しただけです。

で、ハナアブは、見た目から○○アブという名前で呼んで来たわけです。後々の研究によってハエの仲間と判明した、というかハエの仲間に入れることにした、ということですよね。

この辺、正しく理解できていないかもしれません。

個人的には、アブと呼ばれるものがハエの仲間だとわかったときに、ハエというグループの名称を変えるべきだったと思うのです。ハエやアブは見た目でつけられているのです。それをそのまま見た目ではない分類の名称として流用したところに無理があったのではないでしょうか。名称をそのままにしたために、矛盾を生むことになってしまったと思うのです。勝手に和名を変えようと試みたり、虻の仲間ではないと言ってみたり、いい迷惑です。

和名の混乱を招いた研究者に対してはもっと文句を言いたい気もしますが、やめておきます。なぜなら、和名がいやなら学名を使えば良いと思うからです。

ちなみに、和名で混乱しているのは、日本人だけのはずです。


わかったこと

記事の感想を書いては消し書いては消ししているうちに、整理するには分類を知る必要があると気づきました。そこでハエやアブがどのように分類されているのかを調べました。

Wikipedia のハエ下目の説明

私は、最終更新 2017年8月30日 (水) 07:12 の記事を閲覧しました。

調べた中ではこの Wikipedia の記事を結論として良いだろうと思います。

Wikipedia では、ハエ下目の中に、いわゆるアブの分類はありません。となると、何ももって「虻の仲間」と言えば良いのでしょうか。

現在、ハナアブは次のところに所属しています。

ハエ亜目>ハエ下目>Eremoneura>環縫短角群>無額嚢節>ハナアブ上科

環縫短角群というのが、いわゆる昔ながらのハエの仲間ですね。

アブはどこにいるかというと、

ハエ亜目>アブ下目>アブ科

このアブ科とは、狭義のアブです。

ハエっぽいハエはどうでしょうか。ハエと言えば、イエバエ、ニクバエやキンバエあたりと、それからショウジョウバエみたいな小蝿くらいかと思います。

これらはの所属は次のとおりです。

ハエ亜目>ハエ下目>Eremoneura>環縫短角群>額嚢節>有弁翅亜節>
 イエバエ上科>イエバエ科
 ヒツジバエ上科>クロバエ科
(キンバエの仲間)
 ヒツジバエ上科>ニクバエ科
 
ハエ亜目>ハエ下目>Eremoneura>環縫短角群>額嚢節>無弁翅亜節>
 ミギワバエ上科>ショウジョウバエ科

昔は、直縫短角群という分類で、いわゆるアブの仲間が定義されていました。いましたというか、らしいです。しかし、それはもうありません。

細かい分類を元に言うと、ハエは額嚢節、ハナアブは無額嚢節に属しますので、ハナアブは虻の仲間ではないかもしれませんが、ハエの仲間でもないと言えるのかもしれません。

Syrphoidea ハナアブ上科とは

ハナアブ上科(Syrphoidea)は、ハエ類の上科であり、現在の分類では2科だけを含む。そのうちの1科(Syrphidae ハナアブ科)には、最も一般的で身近なアブが多く所属している。そのひとつが、ドローンフライと呼ばれるアブ、ナミハナアブである。

Wikipedia の英語の記事を和訳
誤訳があるかもしれません

英文中、fly という単語は、文脈に合わせてハエと訳したり、アブと訳したりしました。

2科あるのに、Wilipedia の説明は1科だけです。なんかムカつきます。
説明がない方の科を調べたら、Pipunculidae アタマアブ科とわかりました。

また、ハエ亜目にはアブ下目の他にアブという名前がついたグループが他に2つぶら下がっています。ミズアブ下目とキアブ下目です。
です、というか Wikipedia にそう書いてありました。

ハエ下目の下の Eremoneura というグループ

Eremoneura とは何かと思ったら、Wikipedia のハエ下目の系統図そのままを言葉で表したような説明がありました。
Eremoneura は、オドリバエ上科と環縫短角群を合わせたものということでした。

アブについて

私は、最終更新 2021年5月19日 (水) 12:10 の記事を閲覧しました。

ハエについて

こちらは、この記事を校閲しながらの閲覧です。

以上、いかにもアブという感じのアブとハナアブが、分類学上どのような位置にあるかを調べた結果です。けっこう周り道をしましたので、回り道の内容は、この下に書き残しておこうと思います。

調べたこと

分類上

ハエとアブは何をもって区別されるのでしょうか。
まずその観点から、整理しました。
こんな感じで合っているでしょうか?

双翅目(ハエ目)
 ┃
 ┣ 短角亜目(ハエ亜目)
 ┃  ┃
 ┃  ┣ 直縫短角群 → アブ
 ┃  ┃    進化上の側系統群
 ┃  ┃    
特徴:羽化の際に蛹の背中が縦に割れる
 ┃  ┗ 環縫短角群 →  ハエ
 ┃       進化上の単系統群
 ┃       
特徴:羽化の際に蛹の前方が円形に開く
 ┗ 長角亜目
     
省略

直縫短角群、すなわちアブは、羽化の際に蛹の背中が縦に割れるグループである。
環縫短角群、すなわちハエは、羽化の際に蛹の前方が円形に開くグループである。

アブとハエを分ける特徴は、これです。蛹の割れ方。
確か、こういうことを虫の先生?が私に言ったような気がします。

そんなの成虫の外見からわかるわけがないじゃないですか。
これも、虫の先生が言っていたかもしれません。

虫の先生というのは、私にハエやアブの魅力を語った、ある人物のことです。

さらに調べると、上に書いた分類は古いことがわかりました。現在は上のような分類は使われないようでした。

直縫短角群(いわゆるアブ)という分類は廃止

直縫短角群は廃止されたという情報を見つけました。
進化上の単系統群であるハエ、つまり系統が明確になっているものに対して、アブというものは側系統群であると。つまりそれ以外、いわば「じゃない方」のハエ達ということでした。調べているときに、現在は認められていないとかいう話は出ていましたが、ある記事が「廃止」と言い切っていました。

そうですか、廃止ですか。

じゃあ、直縫だとか環縫だとか言う分類基準はなんだったのか。なんか、いやな気分になってきました。直縫短角群に相当する分類がなくなってしまった今(皆が廃止に合意しているのか疑問ですが)、環縫短角群の存在が気になってきます。

これ以降、直縫短角群を直縫群と言ったり、環縫短角群を環縫群と言ったりします。それぞれ同じ意味です。

外国の情報に頼りますかね

例によって、海外のサイトに情報を求めることにします。
日本人は、直縫とか環縫とか言っていますが、海外ではそのようなことを言っていないのではないかと思ったわけです。

先日、ちょっとゲノム解析に興味を持って調べたときに知ったサイトがありますので、そこで調べてみます。

ちなみに、Taxonomy とは分類学のことです。
Taxonomy Browser とは、分類学上の分類を閲覧するアプリケーションということでしょう。

たまたま浮かんだホシメハナアブで調べてみます。

ホシメハナアブ

ネットで検索して、学名を調べます。

ホシメハナアブの学名は、Eristalinus tarsalis とわかりました。

Taxonomy browser の "Search for" 欄に入力して、Go

Lineage( full )となっているので、Lineage をクリックして、Lineage( abbreviated )に変更します。

abbreviated = 省略された です。full だと情報が多過ぎますので、省略表示にしました。それでも多いです。下に書き出します。

Eukaryota; 真核生物上界
Metazoa; 後生動物門
Ecdysozoa; 脱皮動物
Arthropoda; 節足動物(門)
Hexapoda; 六脚類(六脚亜門)
Insecta; 昆虫(鋼)
Pterygota; 有翅類(有翅亜綱 or 有翅昆虫亜綱)
Neoptera; 新翅類(新翅下綱)
Endopterygota; 完全変態亜節
Diptera; 双翅目
Brachycera; 短角亜目
Muscomorpha; ハエ下目
Syrphoidea; ハナアブ(上科)
Syrphidae; ハナアブ(科)
Eristalinae; ハナアブ(類)
Eristalini; ナミハナアブ(族)
Eristalinus; ナミハナアブ(属)

そして、種名が tarsalis。
学名は、属名と種名を合わせたものだとかで、ホシメハナアブの学名は、Eristalinus tarsalis と表記されるものらしいです。

上のデータは、表示された検索結果に、私が日本語を書き足したものです。日本語に間違いがあるかもしれません。Syrphoidea は、英語と日本語が対になったものが見つかりませんでしたので、英語の説明から日本語を導き出しました。

分類の仕方にはいろいろあるようで、Wikipedia は、次の4つの分類学をあげています。

進化分類学
分岐分類学
表形分類学
分子系統学

NCBI Taxonomy Browser の場合は、基本的には分子系統学になるのでしょうか。分類の細かさは、世の中に存在する分類名をありったけ拾ってきた結果のようです。利用者が遺伝子の情報にたどり着くために、ありとあらゆる分類を閲覧可能にしているみたいな説明がありました。


環縫短角群をハエであるとするのは、古い分類によるものという記述もみつかりました。現在は、より広い範囲を含むらしいです。

直縫短角群は、Orthorrhaphous、英語ではどのように扱われているでしょうか。

Time Flies, a New Molecular Time-Scale for Brachyceran Fly Evolution Without a Clock


↑この資料に添付された左端の図を見ます。

Brachycera から二股に別れた下の方は、Muscomorpha とあります。ハエ科目です。
別の方には何も書かれていません。こちらは大きく3つに分けられるようです。

Stratiomyomorpha ミズアブ形類
Xylophagomorpha クシロファグス形類
Tabanomorpha アブ下目

さらには、こちらに情報がありました。日本に戻りました。

双翅類の系統


英語の Bing で調べると、これら3つは全て Infraorder (下目)という説明でしたが、日本語では、下目はアブだけで、他は形類と呼ばれるのでしょうか。

これをみると、さらにハエ下目に、環縫短角群以外のグループが含まれていることがわかります。

前の方に書いた側系統群が、すでに単系統群として明らかになったということなのでしょうか。その辺り、専門家に聞いてみないとわかりません。

なんにしても、研究は日々進められていると思いますので、巷に公開されている情報が古い可能性があります。また、分類方法による違いもあるのかなと思います。

わからない分類群とその英語の説明を羅列します。

Paraplatypeza
Paraplatypeza is a genus of flat-footed flies in the family Platypezidae.

Rhingia ハナアブ属
Rhingia is a genus of hoverflies. They all have a very distinctive long snout. The larva are associated with animal dung. Adults feed on nectar and pollen.

Musca ハエ属
Musca is a genus of flies. It includes Musca domestica (the housefly), as well as Musca autumnalis (the face fly or autumn housefly). It is part of the family Muscidae.

Drosophila ショウジョウバエ属
Drosophila is a genus of flies, belonging to the family Drosophilidae, whose members are often called "small fruit flies" or (less frequently) pomace flies, vinegar flies, or wine flies, a reference to the characteristic of many species to linger around overripe or rotting fruit.

Paraplatypeza がわかりませんでしたので、Taxonomy browser で検索しました。最後の要素をクリックすると、、、

Platypezinae を先頭に、下位の分類が表示されます。
Paraplatypeza には、次の3種が書かれています。
Paraplatypeza atra
Paraplatypeza bicincta
Paraplatypeza velutina

画像検索してみます。赤い複眼に特徴があるやつ、似たようなやつを図鑑か何かで見たことがあります。Google Lens で調べると、ヒラタアシバエ科という語が見えます。
Platypezinae かと思ったら、Taxonomy browser のスペルミスですか。Platypezidae が正しいようですね。
Platypezidae なら英辞郎にもありました。訳は、ヒラタアシバエ科。
Paraplatypeza はヒラタアシバエ科で良いでしょうか。

色々と周り道をしましたが、結局、Wikipedia の記事をよく読んだら、理解できたということです。

DNAバーコーディング

というものがあるのですね。覚書として書いておきます。

果樹・果菜類の受粉を助ける花粉媒介昆虫調査マニュアル 増補改訂版 by 農研機構

https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/pollinator_survey.pdf

23ページ

面白いやつら Gallery

ここで双翅目の魅力を語ろうとしましたが、これ以上語っても読まれないと思いますので、写真をいくつか貼ってこの記事を終わりにしたいと思います。

昆虫の先生に教えてもらったものを中心に、面白いと思うハエやアブの写真をここに置いておきます。

ミナミカマバエ(多分)
鎌を持っている、動きが面白い
オオハナアブ
複眼に縞模様その1
キゴシハナアブ
複眼がそばかす
ツマグロキンバエ
複眼に縞模様その2
ミドリバエ
独特のカラーリング、輝いている
ニトベハラボソツリアブ(多分)
平均棍と2枚の羽その1
メバエの一種
平均棍と2枚の羽その2


おまけ(未同定)
黄色い目のハエ

関連用語

目にした用語を並べます。

双翅目(そうしもく)
短角亜目(たんかくあもく)
長角亜目(ちょうかくあもく)
直縫短角群(ちょくほうたんかくぐん)
環縫短角群(かんぽうたんかくぐん)
直縫群(ちょくほうぐん)
環縫群(かんぽうぐん)
分類学(ぶんるいがく)
分類群(ぶんるいぐん)
進化分類学(しんかぶんるいがく)
分岐学(ぶんきがく)
分岐分類学(ぶんきぶんるいがく)
単系統群(たんけいとうぐん)
側系統群(そくけいとうぐん)
分子遺伝学(ぶんしいでんがく)
形質的類似(けいしつてきるいじ)

各部名称

"fly anatomy" で画像検索

t.koba

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