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映画『君の忘れ方』 感想

 『君の忘れ方』、みた。
 主人公のエピソードや心情それ自体が思いのほか刺さらなかったのは、同じような経験をしたことがないからなのか。話が残るというよりいろんなこと思い出した。

 題名的に記憶とか忘却がテーマなんだと思うんだけどずっとドラえもんのOPの「大人になったら忘れちゃうのかな、そんなときには思い出してみよう」っていう歌詞が映画観てる時からすごい鮮烈に浮かび上がってきて、今の今まで離れない。小さいころ、というかたぶんこの映画を観るまで、思い出そうと思って思い出せるならそれは忘れちゃってないよ、って思ってた。
 でもそうじゃなくて、完全な忘却とずっと思って心に置いておいて常に思い出せる状態と、その二極だけが記憶ってものにあるんじゃないんだよな。
いつもは忘れちゃってるけど、ふとした瞬間にパっと思い出す、もしくは思い出そうと思って思い出す、そういう忘却と常駐のグレーゾーンみたいなのがぶわーっと広がっててその中のどこかに亡くなってしまった人の存在とか子供のころ描いていた夢とかを置いておいてたまには取り出して、思い出してみてよ。ということなんだね。
 ドラえもんのあの主題歌を現役でみていたときは「子どもの頃の夢を忘れるような大人にはなっちゃだめだよ!」的な歌詞だと思ってたんだけど、違った。大人になったら子どもの頃の夢を忘れちゃうことはある。それでもいい。でも完全に忘れ去らないで。たまにはそのグレーゾーンとして広がってる記憶の海の中からすくいあげて、きれいだな~ってみてみてね。って意味だったんだ。
 「ねえ、次はいつ会える?」だったけど彼の中で「次はいつ会おう?」になると素敵なのかな、と考えたり。

 こんな感じで自分のなかでふんわりと何かが広がっていくような感覚があって心地いいな~とかは思う反面、特に音楽とかで煽情的になっている場面はちょくちょく感じた。車の中のシーンとか。チェロとピアノだけが基本の音(いや、この二つだけ?)とは言え結構迫ってくるように感じるシーンもあったなあ。パンフレットを読む限り、監督は「映画の娯楽性」とか「ホラー要素」とかも意識しながら作られたとのことなのでその部分が反映された結果なのだろうとは思う。だけど、昴の感情から距離を取りながら客観的に淡々ととるっていう取り組みと娯楽要素がなんだかマッチしてない感じがしてて個人的に惜しかった。私はその淡々さが結構好きで何となく漂うような心地の中でみていたからかな。あと私が心身疲弊していた状態で観ていたっていうのも大いに関係あると思う。

 パンフレットを読んでいて、坂東さんのインタビューの中で「震えが止まらない僕の背中を西野さんがずっとさすってくださった」という文章があったんだけど、これさ、泣いていることをこういう風に表現したのかな。たしか別のネット記事の中でカットがかかった後も涙が止まらないことがあったりして、みたいなことを言ってる記事があったんだよね。だからきっとそのことを言ってるんじゃないかと思うんだけど、なにこれすごいね、この表現。
 涙って言葉を入れてしまうと坂東さんの顔が見えてしまうんだよね。涙って泣いてる時に落ちる雫のことでしょ。だからそれを言葉にするとどうしても読者が映像を思い浮かべるときに坂東さんの顔をみちゃう。し、泣くって動詞を入れても、あまりにも感情的すぎて、映画の空気に合わない。そもそも昴は映画の中で号泣したりはしなかった。そういう人なの。彼は。
 私たちは坂東さんと西野さん、ふたりの姿を後ろからみることしかできていない。けど、坂東さんの背中が震えていて西野さんがその背中をさすっているから、たぶん、坂東さんは泣いているのだろう。彼の泣き顔は私たちには意図的に隠されている。昴はいつだって感情的になることを避けようとしていた(時には自分の前でまでも)。美紀もそれを尊重する。昴が美紀を思って涙を流す姿は美紀にだけ開かれる。この映画はそういう、彼の尊厳とか意志を尊重する。素顔とかありのままを乱暴に晒そうとしない。映画の権力を乱暴に行使しようとしない、そういう姿勢が、彼のインタビューの中でこういう形で現れたのかなあ、と思う。監督は坂東さんに100%主観でやってもらって構わないと仰ったそうだが、この姿勢によって彼を過去で無理やり動かそうとはせずに、ひとりの俳優の尊厳を認め、尊重したからこそ、見せたくないところは見せない。という姿勢が昴の役と重なったのだろうなあと思うなど。

 そしてこの映画に対しての思考がぐるぐる回って、「さて、君はどうかな?」ってこっちを向いてくると私は困るんだよな。彼が体験したような喪失を味わったこともない。そもそも毎日一緒にいたようなひとを突然亡くす経験をする人ってこの世に何人ぐらいいるんだろう。私はそういう経験将来するんだろうか。もし、経験するとして、彼らが味わったような苦しみは味わいたくないし、彼らみたいに苦しめない苦しみを経験するのももちろん嫌だ。祖父が癌になって危篤状態になって亡くなってお葬式をして。お葬式から少し経ったときに妹と母から「○○(私)だけは最後まで泣かなかったね」って言われたのが忘れられない。父と母と妹はなんやかんやどこかしらのタイミングで涙をみせていたそうで(私はみたかな?忘れた)、泣いてないのは私だけらしい。別に一人でいるときに泣いたりもしてない。私には感情がない…とか中二病ぶりたいのではなく(そうだったらいいな)、たぶん涙とかじゃない、例えば情緒不安定とかの形で悲しみの表出はされていると思うんだけど、悲しみの出力が普通のひとみたいにうまくできないって、将来的にまずいんじゃないかな、とか思ったりして、る。自分の身近な人が亡くなった時に、自分はちゃんと悲嘆に暮れて落ち込んで、また立ち直ることができるのか?いや、自信ないな、とは思ってしまう。

~ライトな感想編~
・昴が幸せそうにフォトショで加工してた写真がそのまま美紀の遺影に繋がるの、うめえ~と思った(何様)。たぶん小さい子?が え、なんで?って声上げてた。事故のシーンとかないのがいいよね。昴は美紀が事故に遭ったところに遭遇してないわけで。事故シーンがないことによって美紀の死の唐突さとか非現実さを昴と共有できるのが、いいな~。それで言うと美紀の遺体のシーンは出てこなかったのはなんでだろ。昴は美紀の遺体とは対面してないのかな。
・葬式のシーンの横顔、綺麗~フォ~!目が死んでてすげえ、目に光が入ってない。
・昴の顔を真正面から撮らないの、さっきから何度も言ってる、昴の尊厳の尊重しているのがいいな。で、はじめて真正面から昴の顔を撮るのは美紀の主観ショットのときだけ。カレー作って おいで、のシーンのときだけ(かは、わからん。が、たぶん初めて?)なんだよね。ていうか書きながら思ったんだけど美紀の主観ショットあるんだ。他にあったかな。死者(でかつ、基本的になんの意思表示もしない)の主観ショットってなかなかすごいな。
・パンフレットの飛騨高山市長のコメントまじでいらなかったかも笑笑笑笑。これなんで入れた?申し訳程度に映画に言及してるのが余計に腹立つ笑。あと訪問のときの坂東さんめちゃくちゃ昴でちょいやりにくかったやろな…本来の人懐っこさはでなかっただろうな…と思うなど。たぶん、「不信感」を抱いてる段階の撮影のときなのか分からんけどめちゃ背もたれに寄りかかってて草。このどんな感情でその記念品の籠持ってるん⁇でなかなかシュール。なんかアンニュイな感じになってて顔綺麗だが。最後の方の聖地らへんのチープな広告達はぎり許しません。
・カレーにめっちゃ酒入れる!日本酒らしい。私はアルコール飲めないので食べられないのが残念…。全然違うのか…そうなのか…食べてみたいな…。カレー食べたくなった。
・西野七瀬顔ちっせ~~~!!!すごいな、坂東龍汰の顔が大きくみえ、そして監督の顔がさらに大きくみえるよ!!暴力的な顔の小ささ。
・あとこれ乃木坂出身の子たち(に、限らないか)に言えるんだけど顔めっちゃ幼いよね。頑張れば子供にみえなくもなくてなんかなじまないというか、大人っぽい声といまいちリンクしないというか。そもそも声と顔が一致してのシーンがほとんどなかったからそう思うのかな。
・最後の料理を捨てるシーンhttps://x.com/yeskiri/status/1407200676682235909  このツイート思い出した。昴は食べなかったけど。
・亡くなった恋人と一緒に住んだ部屋、自分なら引き払えるかな…いやー無理だな…と思うなど。
・この水を飲んですべてを忘れられるなら…の最後のほうのシーンで 自分勝手だって言われた後の昴の目が本当に真っ黒すぎてすごかった。なんなら葬式のときよりも真っ黒だった。からの ㇵッって笑うの、なんかすごい、きた。言語化し難いが…。けど私も同じようなことを言って同じように笑うだろうと思う。忘れていくのが辛いのか、忘れられないから辛いのか…の件、昴が「辛い」みたいな言葉をこの女の子の前で言うのが個人的になんか意外だったんだよな。それでもって嘘っぽくない。本心っぽい(と、個人的に感じた)。だからあの笑いも本心なんじゃないかなあ。可哀そう可哀そうと言われ続けて、腫物扱うみたいにされてきて、初めてそうじゃなくて自分勝手って言われたことに対しての心の底からの感情だったんじゃないかな、とは思う。
・昴の服全部かわええ~~!私が着たい!!!しかし、シャツ系は私が着るとシルエットが最悪になり、妊婦になってしまうので着れないが最後らへんのシーン(列車のってカメラをみつめるとことか)で着てた衣装は私でも着れそうなので、ぜひ、着たい!!しかし高いんだろうな。
・帰省の度に乗ってるあの列車、といい美紀をみつけるあの演出といいゲ謎を想起させる。特に意味はないが。
・あらためて…本編みて思ったんですけど…まじでポスターの坂東龍汰盛れてないっすね…(最低)
・でもこのポスターめちゃくちゃいいのが二人が互いに寄りかかっているようにみえて寄りかかってないんだよね。ふたりの間はガラスによって隔たれていて触れ合うことができていない。それは昴の姿がガラスに反射していることによってわかる。この暗喩がいいよね、なポスター(しかし坂東龍汰は盛れてない)。
・葬式のシーンでめちゃ好きなカットあるんだよね。パンで泣いてる参列者映して最終的に昴の後ろ姿の真ん中配置でピタっととまるところ。そもそも私はちょい猫背な後ろ姿を真ん中に配置して、その人だけが全然動かないでぼやけたところでは人がせわしなく動いてるっていうあのカットが好きなので。

この辺かな~まあ後からぽろぽろ思い出すんだろうけど。



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