[読書録] ギリシア神話を知っていますか

新潮文庫『ギリシア神話を知っていますか』阿刀田高 2023.05読了

正直絵が欲しい。

ギリシア神話にはもともと興味があったので、その入門ということで読んだ。


要約:

トロイアのカッサンドラ
少女カッサンドラがアポロン神に予言の能力と、その予言を誰も信じない呪いを授けられる話。トロイの木馬で有名なトロイア戦争において、木馬を引き入れることに反対し続けたのはカッサンドラだったという。この章にはパリスの話も書いてある。

嘆きのアンドロマケ
友を討たれた将軍アキレウス、国を守る賢将ヘクトル(カッサンドラの兄であった)の一騎打ち。ヘクトルはアキレウスに槍を突き立てるものの槍の先は折れ、ヘクトルは打たれる。アンドロマケは、なんやかんやあって帰ってきたヘクトルの無残な遺体に、おいおいと嘆くほかになかった。ちなみにアキレウスも戦死している。アポロンに唯一の弱点であったアキレス腱を射抜かれたとか。この章にはもう一つ、アンドロマケ周りの愛憎話が描かれている。

貞淑なアルクメネ
この章の部分には著者によるギリシア神話の神々の名前と、それに対応するローマ系のその神々の名前が挙げられている。
ゼウスがアルクメネを抱きたいというので、ヘルメスが一知恵図ったという話。
この章の中ではレダの話が引かれている。こちらもヘルメスの悪知恵の話。ちなみにその知恵というのはゼウスが白鳥に化けるというもの。なんと成功する。この性行の結果レダは絶世の美女ヘレネを生む。卵で。
そしてこの話では、ゼウスはアルクメネの夫に化ける。そして成功する。なんてこった。この性行の結果アルクメネはヘラクレスを生んだ。この章にはヘラクレスの死についても書かれている。妻が、愛をつなぎとめる妙薬と信じ込まされた猛毒を下着に塗られ、苦しんで死んだとか。妻は自責の念で後追い自殺する。

恋はエロスの戯れ
キプロス島に、ピュグマリオン王とかいう、二次元に恋した挙句、二次元(象牙に描かれた美女)が人間となって妻になったうらやまけしからん王様がいた。そしてその孫のキニュラス王は正体を隠した自分の娘ミュルラを抱いてしまった。やっべー。ミュルラはついに正体がばれ、キニュラス王のもとから逃亡、アラビアの南のほう、サバの地で子を宿したまま樹木と化した(防腐剤になる没薬の木の樹液というのは、この木の樹液だとも)。この樹木から妖精が取り出した子が絶世の美少年アドニスであった。さてこのアドニスに恋をした女神がいた。美の女神アフロディーテである。というのも、アドニスを見ているとき息子のエロスの金の矢が乳房を傷つけたとか。結局、アドニスはアフロディーテと交わることなくイノシシに殺され冥界送りとなる。さてもう一つ。アポロンとダフネの話。エロスはアポロンの揶揄いの報復に、アポロンに金の矢を、少女ダフネに鉛の矢を射る。金の矢は恋焦がれさせ、鉛の矢は恋から遠ざける。結局アポロンは燃える恋に燃やされるだけ燃やされて結局その恋はかなわない運命となってしまった。アポロンはダフネに粘着ストーカーまがいのことをして、最後の追いかけっこでダフネは清い体のままでいたいと願う。河の神ペーネイオスはこの願いを聞きつけた。そしてなんということだろう、ダフネの体を月桂樹にしてしまった。アポロンは月桂樹の冠をしているが、それはこの話に由来するらしい。

オディプスの血
テーバイのライオス王は己の男児が自分を殺すという神託を得ていた。そのため、ライオス王の子息オディプスは捨て子となり、隣国の牧人に育てられた。オディプスはあるとき、自分が牧人の本当の子ではないという噂を聞き、神託を求めた。結果帰ってきたのは、「故郷に戻るな。父を殺し母を娶ることになる。」だと。オディプスは訝しんだが、それに従い、本当の故郷、テーバイのほうに向かった。道中、身分を隠したライオス王に遭遇するが、なんと諍いののちに殺してしまう。国につくと、オディプスは、スピンクスの「朝は四本、昼は二本、夜は三本の足で歩くものとは何か」という謎に「人間である、赤子、成人、杖をつく老人」と答え、スピンクスを自殺させたことで王として迎えられた。そしてオディプスの母、を妻として娶ってしまう。オディプス王が即位してから凶作だのなんだの。神意を問えば、先王殺しをし、人倫に悖る行為をしたものがいるから怒っている、追放しろ。だと。調査をすると、それはオディプス自身であった。驚いたオディプスは自ら両目をつぶし、盲目の旅人として、娘アンティゴネに手を引かれ国から去ったのであった。この章にはアンティゴネの生涯についてもう少し詳しく描かれている。

闇のエウリュディケ
竪琴の名手オルペウスと妖精エウリュディケは互いを愛し合っていた。しかしエウリュディケは毒蛇にかまれ死ぬ。オルペウスは冥府にエウリュディケを返してもらいに行った。ハデスもその妻ペルセポネも、まあお前の頼みならと「地上に出るまで後ろを見ない」という条件でそれを飲んでやることにした。結局オルペウスは不安に耐えきれず振り返ってしまう。それから、地上に戻ってもエウリュディケのことしか考えられないオルペウスはほかの女に恨まれトラキアで殺された。
ところで、この章にはハデスの話もある。兄弟であるハデス、ポセイドン、ゼウスは、それぞれ冥界、海、地上を任された。妻ペルセポネはゼウスと農耕の女神デメテルの娘である。ゼウスがハデスの妻によい、既成事実を作ってしまえとそそのかしたのである。ハデスはさっそくペルセポネを攫った。なにしとんねん。太陽神ヘリオスがこのことをデメテルに教えてやると、デメテルはペルセポネを溺愛していたので、たいそう悲しみ、怒った。悲しみは深く、デメテルが凶作を起こしてしまうので、神々はハデスにペルセポネを返すよう頼んだ。ハデスはそれを半分のみ、2/3年は地上に帰ってもいいとした。のこりの1/3が凶作の時期、すなわち冬である。

アリアドネの糸
仮想敵国アテネの王、テセウスに恋をしたアリアドネ王女の話。テセウスがラビュリンスのミノタウロスを倒すというので、出てこれるものかと心配になりダイダロスの入れ知恵で毛糸を持たせた。まあパンくずである。結局テセウスはミノタウロスを倒し、アリアドネと愛の逃避行を敢行することとなった。結局行きついた先でアリアドネは男神ディオニュソスに寝取られちゃうんだけど。テセウスはアリアドネをそこまで愛していなかったので、かごと引き換えにアリアドネをおいてアテネに帰ってしまう。ここで面白エピソードがあって、黒い帆はテセウスの死の証、白い帆はテセウス生還の証であったのだが、ディオニュソスのもとを発つときアリアドネを思って黒い帆を掲げていたため、アテネの老王がテセウスがしんだと勘違いして身投げしてしまったという話がある。
さて、ダイダロスとその息子イカロスはテセウス逃亡幇助罪のため投獄されてしまった。イカロスの翼、開幕。塔に閉じ込められた二人は、逃亡のため、翼を作った。しかし、蝋で止められた翼は高温に耐えられない。空を飛べることに調子に乗って高く飛びすぎたイカロスは、太陽に蝋を溶かされ海へ墜落死した。

パンドラの壺
この話の登場人物は兄弟であったプロメテウス(先に考える人)、エピメテウス(後で考える人)、それから地上初の女パンドラである。パンドラという名はすべての贈り物という意味があるらしい。エピメテウスが留守番をしていると、ゼウスからの贈り物として、パンドラが送られてくる。プロメテウスがエピメテウスにゼウスの贈り物にはろくなものがないと忠告していたが、エピメテウスはあまりの美しさにパンドラを家に上げてしまう。そんでもって人類初めての性行をしてしまう。なにやっとんねん。それから、パンドラはエピメテウスのもとで暮らした。ところで、パンドラは開けてはならない壺を持たされていたらしい。パンドラだけの留守の時、パンドラは気になってその壺を開けてしまう。その拍子に、すべての悪がこの世に解き放たれた。パンドラは急いで壺を閉めたので、壺には希望だけが残った。まあパンドラとエピメテウスはそのあとも仲良く暮らしたらしいが。
ところでプロメテウスというのは、パンドラが使わされた原因である。ゼウスと知恵比べをしたり、地上に火を持ち帰ったりしてゼウスの恨みを買っていた。なんやかんやあって和解するのだがそれについてはこの章に描かれている。

狂恋のメディア
ことは、正当な多い継承者たるイアソンに、その叔父が王位を明け渡す条件として、黄金の羊毛皮をとって来いといったから始まる。神々はイアソンに好意的であった。しかし現在の羊毛皮の所持者、コルキスのアイエテス王はしたたか者であった。神々は彼を何とかするために、アイエテス王の娘メディアをエロスに撃たせ、イアソンの恋人にしてしまった。アイエテスは羊毛皮を要求するイアソンに、火を吐く牛に手綱をつけて畑を耕し、畑から沸く兵をことごとく倒せという難題を吹っ掛けた。メディアは恋をしているのでイアソンの手助けに、燃えなくなる薬を渡した。結局イアソンは難題を乗り越えるが、アイエテス王は怒りイアソンを殺そうとする。結局イアソンとメディアは愛の逃避行と相成る。メディアは弟殺しまでやってのけながら、彼らはイオルコスに帰還した。それからメディアは、イアソンのため、あるいは嫉妬のために人殺しを何度もやってのけた。ヤンデレかな。

幽愁のペネロペイア
ペネロペイアというのは英雄オデュッセウスの妻である。オデュッセウスの面白い話としては、トロイの木馬の立案者であるとか、自分を食べようとした巨人に「だれでもない」と名乗り、目をつぶし、巨人が仲間に目つぶしの犯人を問われたとき「だれでもないだ」と答えさせるよう仕向けたはんしとか。まあそんなこんなあって、トロイア戦争からオデュッセウスが帰るまでずいぶん時間が空いた。オデュッセウスの妻であったペネロペイアは貴族連中に結婚を申し込まれるが、口八丁で断っていた。という建付け。

星空とアンドロメダ
アルゴスのアクリシオス王は、娘ダナエの子に殺されると神託を受け、娘を幽閉した。しかしなんたることか、娘がゼウスに目をつけられた。ゼウスは流れるように性交を完了し、英雄ペルセウスをなす。ペルセウスの逸話にゴルゴン退治がある。ゴルゴンは蛇の頭髪とイノシシの牙、黄金の翼をもつ化け物である。これを見ると恐ろしさのあまり石になるという。固有名詞ではなく、三人おり、それぞれ名前をステンノ、エウリュアレ、メデュサといった。メデュサだけが不死身ではないので、討伐対象は自動的にメデュサになった。鏡によってメデュサの首をえたペルセウスは一目散に逃げだした。その帰り道に見つけた娘がアンドロメダであった。エチオピアのケペウス王と王妃カッシオペイアの娘であった。カッシオペイアの軽口でアンドロメダが人身御供にとられたのをペルセウスが助けて娶ったんだとか。

古代のぬくもり
著者がギリシア神話に立ち入るきっかけなどが記されている。またもっともギリシア神話らしい神話についても書かれている。カオス(混沌)からガイア(大地)とエロス(愛)が生まれ、またエレボス(闇)とニュクス(夜)が生じた。エレボスとニュクスからアイテル(天空の光)とヘメラ(昼)が生まれた。ガイアからウラノス(天空)とポントス(海)が生じた。さらにガイアはウラノスと性交しティタン族とクロノスを生んだ。クロノスはレアとの間にヘスティア(竈と火)、デメテル(農耕)、ヘラ(ゼウスの妻)、ハデス(冥)、ポセイドン(海)、ゼウス(最高神)をなすのだが、ゼウス以外はみんな食べてしまった。ゼウスはというとレアが隠し生んで生かしたのだった。結局ゼウスはクロノスに兄弟を吐き出させ、クロノスを討った。それからゼウスは子供をポンポン作る。まあ神話だから……。ヘラとの子はヘパイストス(火山と鍛冶)とアレス(軍神)、レトとの子は太陽神で芸術・医術の神アポロン、狩猟と出産の神アルテミス、それからマイア、メティス、デオネとはヘルメス(商業と交通)、アテネ(知恵と芸術)、アフロディテ(美と愛)をなした。オリンポス12神とはこれらゼウスの兄弟または子供たちに酒の神ディオニュソス(アリアドネを寝取ってたやつ)を加える。12より多いが、数を合わせるためにいくらか削るのが通例である。



堅苦しい感じもなく、ギリシア神話とはこんなものなのかと教えてくれる。地の分に織り交ぜられる著者のコメントもありがたい。どんなものかって?通して読んだとてつもなく率直で元も子もない感想は下品だ。まあ、神話というのはたいてい現代の感覚からすると下品なもんではある。もう少し鮮明にギリシア神話の英雄達やオリンポスの神々をイメージしたいなら、絵の入った図鑑のほうが良いかもしれない。まあ、取り敢えずギリシア神話に触れてみたいと思うなら、不足ない本だ。出版年は少々古いが、文章はそれほど古くないし、読みやすいものだ。

以上。


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