ハウスをサインで解釈すると混乱する
西洋占星術における12ハウスは一日の太陽の動きと人の営みを象意として分割したもので、人の生涯の象徴でもある。太陽は東からのぼり、西に沈むので、ホロスコープにおけるハウスは1室、12室、11室、10室…と時計回りに設計されている。
という話を前回しました。
ホロスコープをみると惑星はハウス番号順、つまり1室、2室、3室…と反時計回りにすすんでいきます。一方一日の時間、つまりACをはじめとするハウスの位置は東から西へ、つまり時計回りにすすんでいきます。
このハウスとサインに相関関係はあるのでしょうか。
「ナチュラルサイン」と占星術の基礎
12ハウスのそれぞれの室は12サインの星座を順次あてはめて解釈できるという考え方があります。この考え方はナチュラルサインとよばれます。占星術を学び始めるとすぐにこの解説にたどり着くので、多くの方はこれを伝統的な解釈だと思っておられるのではないでしょうか。
12サイン、いわゆる12星座は黄道十二宮をめぐる一年の太陽の動きから春夏秋冬の人の営みを象意として分割したものです。12サインと12ハウスは支配する惑星も違えば順番も違います。なので12サインのルーラーでハウスを解釈しようとするとつじつまがあいません(例外として水星が支配する乙女座と6室、木星が支配する射手座と9室、金星が高揚する魚座と金星が支配する12室はやや共通点があります。)
ハウスの構造から考える
ハウスの解説を読むとき、それがベーシックな解釈なのか、近代になって付け加えられた伝言ゲームの結果なのかをみわけるには以下のハウスの構造を知る必要があります。
ハウスの役割は太陽の位置と連動している
ハウスは相対するハウスと入れ替えられる(ポラリティ)
ハウスの働きはハウスルーラーとジョイに象徴されている
ハウスルーラーとはハウスの働きを象徴する惑星で、1室土星にはじまり、公転周期の遅い惑星から早い惑星に設定されています。(上の図を参照ください)また1室、3室、5室、6室、9室、11室、12室にはジョイと呼ばれる副次的な働きを象徴する惑星もあります。
1室 土星 / 水星
2室 木星
3室 火星 / 月
4室 太陽
5室 金星 / 金星
6室 水星 / 火星
7室 月
8室 土星
9室 木星 / 太陽
10室 火星
11室 太陽 / 木星
12室 金星 / 土星
それでは上記の基本的な仕組み、とくに3~4を踏まえて12サインと12ハウスを重ねて読むナチュラルサインに整合性があるかどうかを考えてみましょう。
蟹座と4室は“家庭的”なのか
4室には終の棲家、墓という意味があります。4室に太陽が位置するのは時間帯でいうと一日の終わり、真夜中です。4室は安全に身を横たえる場所、ともに身を横たえる仲間がいる場所、家や家族、共同体というわけです。
一方蟹座は初夏に位置するサインで、牡羊座から数えて四番目のサインです。12サインを人の生涯と重ねて読むなら、蟹座は青春真っ盛り。ここで終の棲家に落ち着いて墓に入ってしまっては先がありません。
月を母性の象徴として考えると家庭を象徴する4室に月が支配する蟹座が位置するのは納得のいく配置かもしれません。しかし4室は古くから父を象徴する室で、4室を支配する惑星は太陽です。父権社会では家を支配するのは父であり、他者の居場所である10室から嫁いでくる母の象意は10室から読みます。
月は共感や郷愁によって他者と繋がりますが、太陽は魅力と尊敬の念で仲間を作ります。ハウスルーラーから考えるなら、家庭とは生まれ落ちた場所によって選択の余地なく与えられるのメンバーのことではなく、長じるにつれてあらわれる個性と人間性により主体的に作り上げるものです。
ちなみに家事労働や育児は人生の面倒ごと、厄介ごとである6室の分野です。中世の貴族は必ず乳母と使用人を使いました。6室は知覚、認知、識別を司る水星が支配します。蟹座は共感力が高く、人をまとめる才能はありますが、木星が高揚するサインであり、理知的な分析や細かい作業が得意とはいえません。サインとハウスの構造から考えると4番目のサインである蟹座を家事労働と結び付ける根拠は希薄であると言わざるを得ません。
牡牛座天王星は2室で経済を改革するか
また2番目のサインである牡牛座と所有物を管轄する2室を重ねて解釈し、牡牛座を豊かさと富のサインとする考え方があります。牡牛座に天王星が入った2020年は富の部屋に革命の星が入った、牡牛座天王星は経済改革、働き方改革の年のはじまりだという解釈もありました。
牡牛座は十二支でいうと巳年。巳年は財を掴むといわれ、宿曜でも牛宮は富と親和性が高いエリアです。
牡牛座の支配星である金星はあらゆる嗜好品、陶酔とときめきを呼び覚ますものの象徴です。金銀財宝、たとえば黄金のコインはまさに金星にふさわしそうでしょう。しかしその富によって得るものすべてが金星的かといえばそうではありません。
たとえば真夏の夜にぜひともほしい虫除け、虫刺されの痒み止め、そして殺虫剤や誘蛾灯はとても金星の象意とはいえません。しかし網戸や虫除けを所有する余裕があるのは富んだ暮らしではあります。猫砂、使用済みオムツ袋、トイレットペーパーはどれも金星の象意とはいえませんが、それらが潤沢にある暮らしは豊かです。
次にハウスルーラーとハウスの名前、太陽の位置から2室を考えてみましょう。2室は木星が支配する室で、幸運の星ともよばれる木星は豊かさと富の象徴です。陶酔をもたらそうが、もたらすまいが、キラキラしていなくても、可愛くなくても、生きているあいだ手にするものはすべて2室の管轄です。
2室に太陽が位置する時間帯は夜明け前、新しい朝を迎える直前です。1室は人生のはじまりを意味するエリアなので、その手前に位置する2室には人生の終焉を意味する Gate of Hades (死の国への門)という名前があります。死んだときこの世に遺すもの、それが2室の富の正体です。
ハウスは反対側のハウスと表裏一体となっています。1室から数えて2番目の室である2室は「私がこの世に遺すもの」ですから、2室の反対にある8室(7室から数えて2番目の室)は「あなたがこの世に遺すもの」、つまり相続や遺産、負債を意味することがわかります。
これらを総合的に考えるなら牡牛座天王星は金星が支配し、月が高揚する春のサインである牡牛座に関する改革、食物、畜産、美容、性愛、嗜好品などに関する改革が起きる時期だと考えられますが、それらと無関係な経済や事業に起きる改革を牡牛座天王星由来とする根拠はありません。
おめでたい11室と悲壮な水瓶座
ホラリー占星術では11室を幸運の室と呼びます。しかし11番目のサインである水瓶座は厳冬の大寒に位置し、支配するのはマレフィックの親玉である土星と革命の天王星です。土星は構造や仕組み、枠組みの象徴ですが、それらの仕組みを作らざるを得ない恐れや不安の象徴でもあります。
さらに風のサインはタロットカードでいえばソードの世界です。
ソードは仁義なき権力争いの世界。これらの絵柄におめでたさを見だすのは不可能です。11室は友情のハウスとも呼ばれますが、ソードの世界の友情は信頼した相手から背中から刺されそうです。
また11室には未来という意味もありますが、水瓶座は牡羊座からはじまった一年も終盤に近付いたサインです。
では11室の構造はどうでしょうか。
11室の支配星はまぶしい太陽、さらに幸運の星である木星が歓喜します。太陽が位置する時間帯は営業開始時間。12室で雲に隠れて朝に支度を済ませ、開店準備を終えた太陽がいざ今日の仕事をはじめるところです。11室は幼少期を意味する室でもありますが、まさに可能性のハウス、未来のハウスです。
1室では牡羊座的に戦うべきか
1室は肉体や気質、無意識の行動などをあらわす室です。1室を支配する土星と歓喜する水星はどちらも地の惑星で、冷×乾の性質をもちます。冷は外部の影響を取り込み、乾は自他の境界線を明確にすることで自己保全をはかります。土星は警戒心を、水星は知覚能力を司るので、肉体とは外部の影響を敏感に察知し、警戒を怠ることなく自己保全をはかるものだというのをハウスルーラーからうかがい知ることができます。
しかし1室を春分に位置する牡羊座で解釈するなら、その根拠は牡羊座の支配星火星と高揚する太陽から考えなければなりません。肉体とは危険を顧みず挑戦するもの、尊厳を最重要とし、個性を主張するものということになります。
警戒心が強く現状把握力の高い動物と、攻撃性と自己顕示欲が強い(そして楽観的な)動物がいたとして、生き残る確率が高いのは前者です。向こう見ずな挑戦を繰り返せば肉体は危機にさらされます。
1室に惑星が集中する場合、そのチャートの持ち主は挑戦的なのか、守りが強力なのかでは意味が違ってきます。
1室の正面には共感力をつかさどる月が支配する7室があります。自己保全と自己開示の度合いは時と場合によって反比例するものというわけです。ハウスルーラーから考えるなら、土星が高揚する理詰めの天秤座では言葉にならない思いや人となりを相互に伝えあうことはできません。
乙女座は6室で奉仕して喜ぶのか
「乙女座はサラリーマンのサイン、有能さを誇りとし、人の役に立つことを喜ぶ」という説に困惑する乙女座は少なくありません。もちろん誰だって無能よりは有能でありたいでしょうし、人の役に立てれば(そして感謝されれるなら)うれしさを覚えるでしょう。しかし乙女座にまつわる有能さについてくる「使える、奉仕」とはどこから来たのでしょうか。
6室は奴隷のハウスといわれた時代がありました。密教宿曜占星術という本に天永三年(紀元1113年)12月25日の宿曜占星術図、いわば和式ホロスコープがあります。10室は官禄位、4室は田宅位、5室男女位とわかりやすい名がついていますが、6室の名は奴僕位、下僕と使用人の室というわけです。
夏から秋の移り変わりに位置する乙女座は水星が支配し、12サイン中でもっとも水星の働きが強力になるサインです。同じく水星が支配する双子座との違いは双子座が風のエレメントを持つのに対して、乙女座が地のエレメントを持つ点です。
風のエレメントはトリプリシティに土星と水星をもちます。
風のサインは仕組みと枠組みをつかさどる土星と知覚認知をつかさどる水星をベースに持つ構造化と分析、再現性を重んじるサインというわけです。
一方地のエレメントのトリプリシティは金星と月です。地のサインは金星の快楽と月の肉体が満足できるかどうかを重視するので、乙女座は暮らしを豊かにするための知恵、生産性を重視し、経験によって学び、単なる思考実験や机上の空論を好みません。
地のサインはタロットカードでいうならペンタクルスにあたります。
地のサインが求めるのは他者に認められることではなく、わが身を養い、この世の美味美食美男美女に触れ、心地よさを味わい、人生を謳歌することです。地のサインである乙女座がその有能さを他者への奉仕に捧げる根拠があるでしょうか。
さて、ハウスルーラーをみると6室の支配星は水星です。しかし同時に6室では火星が歓喜します。ハウスルーラーから考えるなら、この世の面倒ごと、厄介ごとは片っ端から知覚認知し、多少手荒な方法でもやっつけるしかありません。
時間帯は日没後、忙しく晩の支度に追われる時間です。ハウスの名前は Bad Fortune (悪運、ツいてない)。家畜を納屋に入れ、仕事道具を片づけ、山を越え、渋滞の中を、満員電車に耐えて、やっと帰宅したけど冷蔵庫に卵がない!家族が帰ってこない!職場に忘れ物が!これが6室です。
乙女座は利得のために頭を使いますが、6室はただひたすら面倒ごとをどうにかするために知恵を絞る場所です。これを使用人にやらせていたのが昔の特権階級にいた占星術師であり、彼らは6室を奴隷に、奴僕に丸投げしました。しかし6番目のサインである乙女座は金星と月をベースに持つ地のサインですから、他人のための無償奉仕をとくに好む理由をサインを構成する要素から見つけるのは難しいでしょう。
ハウスとサインは混ぜるな危険
占星術は円を分割することでできているので、360を割った同じ数がたくさん出てきます。しかしサインの3つのクオリティがハウスの3つの格と別物であるように、そして12サインと12ハウスは元来成り立ちも構造も別物です。
謎多き8室と12室も蠍座、魚座とは別に考える必要があります。
今回の内容は西洋占星術基礎講座で扱います。動画講座では基礎13 ハウス前編、基礎14 ハウス後編を参考にしてください。前編はハウスの定義、後編では各ハウスの解説です。
【本日のおさらい】
ハウスの役割は太陽の位置と連動している
ハウスは相対するハウスと入れ替えられる(ポラリティ)
ハウスの働きはハウスルーラーとジョイに象徴されている