初めてお付き合いした時の話
彼と出会ったのは短大2年の時でした。
卒論がある大学で、実験結果と結論をまとめれば良い程度でしたが文章を作成するのにかなり弱っていた所、彼の猛アタックでお付き合いをはじめました。
毎日電話でとりとめない事を話し、毎週デートを重ねました。
しかし、お互い20歳の若造。私に至っては毎日実験の連続でバイトをする時間など持てず、常に金欠で、どこに行くにも、欲しいものがあってもウィンドウショッピングの日々。
また、私自身もそれまで男っ気なかったのでお付き合いというものが、よく分かっておらず、何をしゃべれば良いのか、世の中の男の子が相手に何を欲っしているのか、そもそも自分のどこを彼は気に入ってくれたのかさっぱり分からず、まだ卒業まで2年もある彼に卒論の愚痴を言う訳にもいかず、安く観れる古い映画を鑑賞し、その感想を言ったり、彼の大学生活の謳歌をひたすら聞き、同じ大学の仲の良い女子を聞き、ヤキモチを焼き、それを彼に言ったら嫌われるかも知れないから顔はポーカーフェイスを気取って心の奥底にとどめたり、そんな日々が続いていました。
「たまには何か買いたい」とか、「もっと最近の流行りの映画が見たい」とか、「こっちは卒論で苦しいのに、いいね、あと2年もあって」「私といる時は他の女子の話をしないで」だとか嫌われるのがひたすら怖くて本音が言えなかったのです。
卒論が大詰めを迎える頃、彼から実家が駅前再開発の為、立ち退きになる事を聞きました。「どこに引っ越すの?新しい電話番号は?」と立ち入った事は彼に失礼な気がしてとても聞けませんでした。私の電話番号は彼が知っているし、彼から教えてくれると思ったのです。
そのうち、私の友人が、「卒論、大変みたい」と教えたそうで、彼から電話は来なくなりました。
「終わったら…終わって教授に、承認されたら…!!」
を目標に私も彼に連絡を入れませんでした。
そして…彼に「終わったよ!!論文発表で拍手貰ったよ!!」
の連絡を入れようと震える手で彼に電話をしました。
「あのね…」
電話の応答は非情なものでした。
「この電話は、現在、使われてはおりません。番号をお確かめになって…。」
こうして生まれて初めての私のお付き合い体験は終わりました。