ウマ娘で学ぶ競馬史 #16 革命前夜 (1997)
みなさん、ウマ娘やってます?
見出しのタイキシャトルのかわいさに釣られてやってきた人もいると思うので、一応企画説明しときます。
ウマ娘で競馬を学ぼう!ってことで、1983年から今やってる競馬までを徹底解説していくというやつです。そういうやつです。
#16って書いてるけど変なナンバリングしちゃった回があったのでこれで18回目です。ちなみにエアシャカール回でもっかいそういうナンバリングするので完結した時には話数+3〜4になってると思います(予告)
突然ですが、ウマ娘ハマった頃は知ってる声優さんがあんまりいない印象だったんです。皆さんはどうでしょうか。
知っててもタキオンとかカフェみたく「ぽくない」役が多かった中、タイキシャトルの大坪さんとMachicoさんのテイオーだけ本人すぎてなんか好きだったんですよね。
その後のぱかライブのせいで、Machico見る度にテイオーが、タイキ見る度にあの顔が浮かぶようになりました。
\ハウディ〜?/
\↑前回ディ〜/
ということで(?)タイキシャトル回です。
近年稀に見る雑な導入を更新し続けてますね。
最終回には引くほどつまらん謎かけとかやってそう。
バランスを取るように真面目になっていく本編です。
今回も真面目にいきましょう。
前世代の主力馬が競走生活を終える中、新しい風がターフに吹き荒れはじめた。
その風は常識をも吹き飛ばし、奇跡を普遍に変え、不朽の光を放った。
今から語るのは、日本競馬を作りかえた激動の1年の、最初の4ヶ月のことである。
晴天を裂く
97年、エリザベス女王杯。
真の女王を決める戦いに、今年も彼女の姿があった。
ダンスパートナー。
しかし、史上初のエリザベス女王杯連覇を狙う彼女は、去年とは別物になっていた。
騎手の乗り替わり。
それだけで馬の走りは180°変わる。
急に覚醒したり、全然走らなくなったり。
ダンスパートナーは度重なる凡走により、主戦が四位騎手(デジタルの人)から河内騎手(タキオンの人)に変更になった。(謎のアグネスつながり)
その結果、ムラは無くなったが善戦マンになってしまっていた。
鳴尾記念(GII)3着、宝塚記念3着、京都大賞典ではシルクジャスティスのクビ差2着。
このままじゃ面目がつかない。
単勝1.4倍という圧倒的な人気を背負い挑んだダンスだったが…
後方から突き抜けるダンスパートナーの一歩先を行く馬がいた。
疾駆の豪脚
エリモシック
父 ダンシングブレーヴ 母父 テスコボーイ
17戦4勝[4-2-2-9]
主な勝ち鞍 エリザベス女王杯
96世代
秋華賞でファビラスラフインの2着になった実力者。一年振りに掴む勝利。
的場均。有力馬をマークさせたら最強かつ最恐の騎手。
そんな彼が生涯で一番上手く乗ったと語るレース。
乾坤一擲の大駆けが刺さった。
一方のダンスパートナーはまたしてもクビ差負け。
女王陥落。
しかしエリモシックの天下も短かかった。
長期休養から翌年の産経大阪杯で復帰したものの、5着に破れそのまま引退。
まだ5歳だったが、もともと勝ち切れないところが目立った彼女。続けるより花を持たせて引退させたかったのかもしれない。
女王の椅子が空いた…などということはなかった。
王より強い女王が、満を持して帰ってきたのだから。
遡ること2ヶ月前。札幌記念でのこと。
97年からGIIに昇格、ハンデキャップ戦(馬の成績で負担重量が変わる)から別定戦(GI同様の定量の負担重量+通算獲得賞金で負担重量がプラスされる)に変わり、よりレベルが高くなったこのレース。
当日はエアグルーヴとジェニュインのどちらが勝つかが注目されていた。
斤量(負担重量)59kgと出走馬中最高重量のジェニュインに対し、エアグルーヴは55kgとかなり有利なため、1番人気に支持される。
蓋を開けると予想以上だった。
エアグルーヴは最後の直線で抜群の伸びを見せ、2着のエリモシックに2馬身半差を付けて勝利。
骨折明けとは思えない力強い走りで、秋のGI制覇を期待させた。
天皇賞(秋)。
エアグルーヴは2番人気だった。
マヤノもローレルもおらず、マベサンも復帰は有馬記念ということで、例年よりは少し強い馬が少なめ。
だが、1番人気はバブルガムフェロー。
昨年のジャパンカップでボロボロになったとはいえ、復帰後はGII1着、GI2着、そして秋天トライアルの毎日王冠を快勝と、底こそ見えたが安定した走りを見せていた。
単勝は1.5倍。対してエアグルは4倍と大きく離れており、バブルの勝ちは不動だと思われていた。
これには2年前のヒシアマゾンの件も関係していたんじゃないかと思う。
ノースフライトやフラワーパークが短距離の名牝として名を馳せる一方、中長距離は牡馬の寡占市場。
そんな中現れた女傑ヒシアマゾンが(グレード制以降)牝馬としてはじめて古馬王道GIで1番人気になったのが1995年有馬記念。
結果は5着。
中山競馬場で追い込み馬が勝てるわけないのは今なら常識だが、当時はそれでも勝てるほど強いと思われていたのだろう。
だからそれ以降は「牝馬はやっぱり勝てない」という風潮になり、4倍という高倍率になった、と推測する。
もっとも、そういう常識や風潮は
真の強者が破るために存在するのだが。
前走からようやく逃げさせる方針に転換したサイレンススズカ。
府中の直線、遠くにスズカを見据えながら位置取りを争う後続。
スズカがバテ始めた時に飛び出した2頭。
バブルか、エアか。
100m以上に及ぶ接戦の末、エアグルーヴが抜け出す。
15頭の牡馬を蹴散らしたエアグルーヴ。
動画の実況は牝馬の天皇賞制覇は17年振りと言っているが、秋天が2000mになってからは初。
競争率が高い中距離2000mで勝ち切るのは、3200の天皇賞で勝つより難しい事だ。
97年秋。日本の競走馬の頂点には、間違いなくエアグルーヴがいた。
ジャパンカップ。
秋天から連戦のバブル、エア、ロイヤルタッチに加え、シルクジャスティスも加わった日本勢。
対する外国馬も闘志を滾らせていた。
それはもうギンギンに。
いや、ビンビンに。
東京競馬場のパドックには、一頭だけ5本足の怪物がいた。
ピルサドスキー。
既にGIを5勝しており、凱旋門賞を2年連続2着。アメリカ芝最高峰GIのBCターフを勝利しているが、それ以前に彼は英国紳士♂であった。
パドックを周回するエアグルーヴの美貌を見て、彼は内に秘めたるモノ♂を大きくしてしまったのだ。
当時の映像はネットに残っている。
なぜなら、全国ネットでうまだっち♂が放映されてしまったからだ。
視認できる程度にはちゃんと大きいので見たい人は見るといい。
秋華賞ではフラッシュ焚かれた上に骨折、天皇賞で勝っても引退まで牡牝馬混合GIでは1番人気になることはなく、ジャパンカップでは外国馬に発情されてしまう。
エアグルーヴという馬は意外と不幸属性持ちな気がするのは筆者だけだろうか。
うまだっち♂した馬は普通はレースどころではないので走らない。
この日もピルサドスキーは1番人気だったのがそれの影響で3番人気に急落した。だが…
うまぴょいしちゃうんだなあ…
世界を股にかける紳士
Pilsudski
父 ポリッシュプレシデント 母父 トロイ
半妹 ファインモーション
22戦10勝[10-6-2-4]
主な勝ち鞍
🇺🇸BCターフ 🇬🇧チャンピオンS 🇮🇪チャンピオンS
🇯🇵ジャパンC 🇬🇧エクリプスS 🇩🇪バーデン大賞
95世代
これでGI6勝目。
世界を巡り戦う馬は次元が違うのだろうか。
色んな意味で世界との壁を感じるレースだった。
それでもエアグルーヴは奮戦して2着。バブルも3着だった。
なお、バブルはこれにて引退。早熟馬だったからこれ以上は下降線だと判断したのだろう。賢明だと思う。
ちなみにピルサドスキーもこれで引退したのだが、子供は引くほど走らなかった。そういう欲と子供の優秀さに相関関係はないということがよくわかる。
どうでもいい追記:日本ではピルサドスキー表記だが、向こうではピウツスキーと発音する。日本そこらへんガバい。グローリーヴェイズも海外ではグローリーヴァーズが正規発音。ペリエ騎手も日本に来た頃はペスリエって呼ばれてたらしい。
有馬記念。
役者は揃った。
1番人気、春秋GP制覇を狙うマーベラスサンデー。
それほど大きく離れず2番人気のエアグルーヴ。
実力未知数の二冠牝馬メジロドーベル。
JC5着から再起を狙う素質馬シルクジャスティス。
女王の座奪還へ、ダンスパートナー。
引退の花道を飾れるか、タイキブリザード。
史上に残る大大大激戦。
最後の最後、図ったように差し切った。
正義の暴君
シルクジャスティス
父 ブライアンズタイム 母 ユーワメルド
27戦5勝[5-3-3-16]
主な勝ち鞍 有馬記念、京都大賞典
97世代
タイキとエアが競り合い、マベサンが抜けてエアが差し返す。この2頭で決まったかと思いきや突き抜けたジャスティス。
鞍上、藤田伸二の技術が光った。
最後競り合った4頭はどれもキャラ立ちしている。
すんごい首を下げながら走るタイキブリザード、パドックで放尿するし先頭経つとやる気なくすマーベラスサンデー、ピルサドスキーのせいかめちゃくちゃ男嫌いだったというエアグルーヴ。
そしてシルクジャスティスも曲者だった。
それはもうサッカーボーイ並に気性が荒く言うことを全く聞かないヤンキーのような馬だったのだが、同じ厩舎のエリモダンディー(後のGII勝ち馬)がいじめられていると割って入りダンディーを守ってあげるという、意外と名前の通りジャスティスな馬だった。(でも調教助手は振り落とす)
エリモダンディーと一緒に併せ馬やら調教メニューをこなす毎日と陣営の努力の結果、なんとかGIにまで手が届いたのだった。
しかし、翌年にエリモダンディーが色々あって亡くなってしまうと調教でも言うことを聞かなくなり、連敗のまま引退となった。
なんだか青春を感じる。
2着のマーベラスサンデーは翌年も現役を続ける予定だったが屈腱炎で引退。続けられてたら宝塚連覇もあったかもしれない。
ダンスパートナーも繁殖に入るため引退と、時代を飾った馬たちが次々と引退していった。
スター不在だったからこそ、次の世代が輝いたのだ。
中山競馬場は牝馬が得意としないレース場だ。
実際の距離以上に長い距離を走れる力を要求される。
坂の昇り降り、コーナーが多く、息のつく暇がない。
どれだけ能力面が改善できても、牡馬の方が牝馬よりスタミナがある馬が多い。
天皇賞(春)を勝った牝馬がここ半世紀いないことからもわかるだろう。
そのため、ヒシアマゾンはともかく今回の有馬に出走したダンスパートナーやメジロドーベルも大敗した。
しかしエアグルーヴはどうだろう。
有馬記念で3着。パワーを要求される札幌と阪神でも重賞勝ちを収めている。
どんな条件でも牡馬と互角に戦えているのだ。
世代の頂点に立つ馬達が次々と去り、残ったのはエアグルーヴただ一頭。
彼女の孤軍奮闘が、後の牝馬時代到来の大きな布石となる。
叛旗と歓喜
97年クラシック戦線が終わり、怒りに震える者がいた。
メジロブライト。
期待されながら無冠に終わったメジロの星は、雨の中山競馬場で鬱憤を晴らす。
(流れるコメントは右下の吹き出しマーク押せば消せます)
その結果がこれである。
GIIで大差勝ち。
ゲームでは度々発生する大差勝ちだが、重賞で大差勝ちの例は10年に一度あるかないか。
ブライトもちゃんと強かったことが証明された。
余計にサニーブライアンとマチカネフクキタルの株が上がる。
ここで終わらないのがブライト。
翌年の天皇賞に向け、暫しの間英気を養うのだった。
一方その頃、短距離路線では事件が起きていた。
マイルチャンピオンシップ。
すっかり落ち目となったジェニュイン、ヒシアケボノ、カネツクロス、タイキフォーチュン、タイキブリザード。
新世代の台頭を固唾を飲んで見守るしか無かった。
3歳馬と3歳馬の激闘。
先頭を駆け抜けたその末脚は、ニホンピロウイナーとも、ノースフライトとも違っていた。
圧倒的なスピードとパワーを併せ持つ、その豪脚。
日本の馬など敵に非ず。これが外国産馬だ。
世界のマイル王
タイキシャトル
父 デヴィルズバッグ 母父 カーリアン
13戦11勝[11-1-1-0]
主な勝ち鞍
🇫🇷ジャック・ル・マロワ賞 マイルCS連覇
安田記念 スプリンターズS
京王杯SC スワンS ユニコーンS
主な産駒
メイショウボーラー サマーウインド
ウインクリューガー レッドスパーダ
母父としての主な産駒
ストレイトガール ワンアンドオンリー
レーヌミノル クラーベセクレタ バビット
97世代
僅かGI1戦で短距離最強馬としてその名を轟かせてしまった。
しかも次走のスプリンターズステークスで、1200mでも戦えることを証明してしまう。
マイルで粘ったキョウエイマーチが沈む中、悠々と先頭を征くシャトル。
見る者を魅了する圧巻の強さで一躍スターダムにのし上がった。
鞍上の岡部幸雄は勝利ジョッキーインタビューでタイキシャトルをベタ褒めしている。こんなのは滅多にない事だ。
三冠ジョッキー(にして筆者の最推し)の池添謙一騎手はこう語る。
と。
三冠馬やそれに準ずる強さを持った馬は能力が違う。
一度そんな馬を経験してしまうと、価値基準が高くなってしまうのは当然だ。
岡部幸雄に関しては無敗三冠馬シンボリルドルフの他に、グリーングラス、オグリキャップ、トウカイテイオー、ビワハヤヒデに乗った事があるのだから尚更だろう。
その岡部騎手が手放しで評価する強さ。
タイキシャトルは短距離なら日本で一番強いはず。
関係者も同じように見ていただろう。
この強さなら、もしかしたら獲れるかもしれない。
陣営とファンの目は、既に世界に向いていた。
革命前夜
一瞬で時代は変わる。
常識や概念など、すぐに覆される。
日本競馬において、その時は97〜98年に訪れた。
エアグルーヴの天皇賞制覇、タイキシャトルの台頭。
そしてもう一つ。
不死鳥
グラスワンダー
父 シルバーホーク 母アメリフローラ 母父 ダンジグ
15戦9勝[9-1-0-5]
主な勝ち鞍
有馬記念連覇 宝塚記念 朝日杯 GII3勝
主な産駒
アーネストリー スクリーンヒーロー
セイウンワンダー サクラメガワンダー
母父としての主な産駒
メイショウマンボ
98世代
「怪物が現れた」
当時、競馬関係者はその話題で持ち切りだった。
デビュー戦を3馬身、オープン戦を5馬身、GII京成杯で6馬身ちぎって勝利。
これがGIならどれだけ強いのか。
古馬になったらどれだけ強くなるのか。
その試金石となるレースにグラスは立った。
朝日杯。
後のGI馬が他に2頭出走していたレースで、グラスワンダーはいつも通り、驚愕の走りを見せた。
「どこまで千切るんだグラスワンダー!!」
実況のその言葉は、観衆の総意だった。
しかし、思ったより差は広がらない。
さすがに怪物と言えどGI。
それでも強い走りだったと感服しつつ、電光掲示板に目をやれば…
1:33:6。
日本の2歳馬が初めて1600mを1分33秒台で走った瞬間だった。
マルゼンスキーの再来。
海外で生まれた背景や圧倒的なスピードから、グラスワンダーは巷でそう呼ばれた。
まさかマルゼンスキーを超える輝きを放つ事になるなんて、この時に考えた人はそう多くなかっただろう。
そして迎える98年。
強さと強さが対峙する時、競馬は競馬を超える。
最強の時代が、来る。
まとめ
本当は今回中にダービーまで行きたかったんですけどね。
エアグルーヴが強すぎて無理でした。(?)
ここで一抹の不安がよぎります。
98世代が終わってマンハッタンカフェあたりまである程度紹介しきったら、「もうウマ娘出てこないし見なくていっか」と閲覧を止める人が続出し、急激に伸び悩むんじゃないか、と。
2.5話みたく一回だけなら逆に伸びることもあるでしょうけど、00年代後半はウマ娘が好きなだけの人からすればスーパー虚無期間ですからね。
運営さんダイワメジャーとメイショウサムソンの実装頼むわ。
ちなみに、アニメ3期とか来てキャラめっちゃ増えたら今まで書いた部分も加筆修正するので期待しといてください。
そんなことにならなくても普段から定期的に加筆修正してるのでまた見てください。よろしくお願いします。
それではまた。