ウマ娘で学ぶ競馬史 #29 絶対女王 (2009)
みなさん、ウマ娘やってます?
先月、2024年に地方GIが2つ増えるというニュースが流れてきました。23年にもダートのレースがいくつか増えるとか増えないとか。
ウマ娘ではいつ追加されるんでしょうか。未だに東スポ杯がGIIIなのがすげえもやもやするんですけども。てかはよ大井以外の地方GI追加して追記:ありがとうウマ娘
今回紹介する2009年は00年代牝馬全盛期の後半戦。
ウマ娘になった競走馬はウオッカしか出てきませんが、サムネがブエナビスタ(のようななにか)です。今回はウオッカとダブル主人公回です。世代交代の一年となっております。
それでは早速参りましょう。
明星
サンデーサイレンスが輸入されて以降、進歩に進歩を重ねてきた日本競馬。その余波は未だ続く。
日本競馬暗黒期と呼ばれた時代。
夢を繋いだ女王がいた。
今はまだウマ娘では語られない、父の夢を継ぎ、日本のエースとなった女王。
彼女が見た景色を、一つずつ振り返っていこう。
伝説の新馬戦、再び
01世代の回で「競馬には伝説の新馬戦と呼ばれる超豪華メンバーによる新馬戦がある」と解説した。
ジャングルポケットの新馬戦は後のGI馬が3頭の「ほぼGI戦」だった。
今回紹介する伝説の新馬戦は…
GI馬3頭
重賞馬5頭
出走馬11頭の平均生涯獲得賞金2億超え
の、「ほぼグランプリレース」だ。
一見、普通の新馬戦であるが、ネタバレをするとだいたいここに出てる馬でクラシックは決まる。
上位5頭の馬名をタップするとだいたい察する。
中でも4着までの4頭の名前を覚えていてほしい。
(ここで覚えなくてもすぐ出てくるけど)
阪神JF
まずは牝馬クラシックから。
早速例の新馬ちゃんが活躍する。
1番人気はさっきのレースで3着のあと未勝利戦を快勝し、同賞金の馬たちとの抽選をくぐり抜け、なんとかGI出走へこぎ着けたブエナビスタ。
収得賞金400万しか稼いでないのにGIで1番人気。これには理由がある。
競馬はブラッドスポーツ。
ブエナの父がスペシャルウィーク、母がビワハイジと知れば、昔ながらのファンは応援しない理由がない。しかも阪神JFは母子同一GI制覇もかかっている。
とはいえ2.2倍はかなりのオッズだが、レースの後にはそれすらも過小評価に思えただろう。
後方一気に教科書があるのなら、たぶんこういうレース運びだ。
坂登り終える頃にはもう楽な追走。
こんな器用な競馬ができる馬は追込に拘らなくていいんじゃね?と思ってしまうが、そこはアドマイヤムーンすら追込一辺倒で勝たせたマツパク厩舎。この後も後方待機が続き、それきっかけで色んな事が起こる。
桜花賞
チューリップ賞はもちろん余裕で勝利したので割愛。
桜花賞でも女王は女王のまま。
阪神JFとほぼ同じ競馬。阪神JF以上の豪脚で抜き去って勝利。
ここまで無敗で駒を進めていたのに単勝14倍で離れすぎた2番人気のレッドディザイアを仕留め、ラジオNIKKEIの実況で「まず一冠!!」とすら言われた。
今までの「アグネスタキオンまず一冠!」「武豊、三冠馬との巡り会い!」のようなフレーズはだいたいラジニケではなくフジテレビ産。フジ/関テレ実況はラジオ放送されないため、状況をさほど忠実に伝えなくてもよく、ドラマチックな言葉も入れられる。
ラジオNIKKEIの檜川アナがそんなフレーズをぶち込む時点で、この馬に対する期待が尋常ではなかったとわかる。
オークス
二冠目でもブエナは1.4倍の圧倒的人気を背負ってすんごいレースをする。
桜花賞2着レッドディザイアも人気は上がったが、大本命は揺るがなかった。
最後の直線手前で後方3番手。
JRA版の映像を見ると良く分かるが、追い出すタイミングでサクラローズマリー三浦皇成の内を突こうと進路を取ったが、上手く抜けられず急遽外に持ち出している。
かなりまずい騎乗だが、それをリカバーしてクビ差勝利。着差こそ微妙な感じになったが、言い換えると「1ミスしても勝てるほど能力が抜けた馬」だったということ。
この勝利で、陣営は「凱旋門賞出走」を決意した。
札幌記念
叩きの舞台は夏の大一番、札幌記念だった。
札幌競馬場は凱旋門賞の舞台となるロンシャンと同じ洋芝(他の国内競馬場よりちょいハードな芝)を採用しているため、ここで好走できれば戦えると踏んで挑ませる陣営も多い。
実際は
札幌:坂ほぼない↔ロンシャン:坂しかない
札幌:直線超短い↔ロンシャン:直線超長い
札幌:平坦コース↔ロンシャン:起伏しかない
なので、洋芝適性以外は全く別のスキルが問われるコース。叩きとして適切なコースなのかは不明である。
ここでブエナビスタは後方待機が祟り、アグネスデジタル産駒の善戦ホース、ヤマニンキングリーをクビ差差せず惜しくも2着となった。
この結果、凱旋門賞出走は立ち消え。
素直に秋華賞に向かうことになった。
直線短いとこで差し届かなかっただけで、挑めば普通にチャンスはありそうに感じるが、日本のホースマンは宝塚か札幌で2着だとだいたい回避する。そういう馬こそ勝てそうなのに。
凱旋門賞は斤量の差が激しく、古牡馬が59.5kgを背負わないといけないのに対し、3歳牡馬は56kg、3歳牝馬は54.5kgで済む。
この差があるため、勝ち馬の約半数が3歳馬だったりする。
なので日本としては相当なチャンスだったのだが、ここは見送り。ブエナは引退まで凱旋門に出ることは無かった。
凱旋門賞を諦め国内専念。この判断が運命を変える。
秋華賞
夏を越え、レッドディザイアが大幅に評価を上げた。
トライアルのローズSで強烈な脚を見せたからだ。
着順こそ2着で、タキオン産駒ブロードストリートが勝利した。
しかし、ダスカが出したレコードを1秒以上塗り替えた爆速決着のレースで、ブエナのように外から差してタイム差無しの2着。体重10kg増でハイパフォーマンスを見せたディザイアはブエナの対抗株と見られた。
秋華賞本番では14kgも落としてきた究極仕上げのディザイア。彼女には追い風が吹いていた。
ブエナビスタは、2枠3番だったからだ。
牝馬のレースは、基本的にペースが遅くなりやすい。
この秋華賞も先頭グループこそ飛ばしているが、後方馬群はひとかたまりだ。こうなると内枠の馬の選択肢はかなり少なくなる。
例えばディープインパクトは、仮にペースが遅くなったとしても全力の7割の力を出せば並の馬を余裕で抜かせたため、道中で馬群が空き次第軽く促せば外に出すことができたし、仮にそれで掛かったとしても中盤以降ならそのまま追い続ければ勝てたし、序盤なら抑えれば勝てた。なんだこいつチートだな
ブエナビスタはそうでは無かったため、内側から無理やり馬群をこじ開けて抜け出すか、ものすごいタイムロスをして最後方からスタートするかの2択を迫られた。
もちろんアンカツさんは前者を選択し、めちゃくちゃ詰まった。なんとか開いた進路を無理やりこじ開け、どうにかこうにか追い出したのが運の尽き。
逆襲の餌食となってしまった。
緋き渇望
レッドディザイア
父 マンハッタンカフェ 母父 カーリアン
14戦4勝[4-3-3-4]
主な勝ち鞍 秋華賞 🇦🇪マクトゥームチャレンジR3(G2)
09世代
味方したのは展開か、あるいは父譲りの晩成力か。
2着つづきの終止符はGIで。
父と同様、最後の一冠を手にしたレッドディザイア。
どよめきが収まらない淀の舞台で、彼女の蹄音だけが気高く響いていた。
そして…
審議のランプは絶望を連れてきた。
女王は3着に降着した。
絶景の女王
ブエナビスタ
父 スペシャルウィーク 母 ビワハイジ
23戦9勝[9-8-3-3]
主な勝ち鞍
牝馬二冠(桜花賞、オークス) JC 秋天 VM 阪神JF
09世代
ちょうどブエナが進路を見つけて進出を始めた瞬間、ブロードストリートも同じ所を目指していた。
ブエナがブロードの進路を塞ぐ形となり、なおかつブロードの伸び足がブエナより勢いがあり、「これ進路塞いでなかったら2着だったな」と見なされたため、ブエナはあえなく3着に。
史上三代目三冠牝馬の夢は、降着というなんとも後味の悪い結末で終わりを告げた。
ラジオNIKKEI杯
スポーツというものは往々にして「スター」と「それになれなかった者」が生まれる。
この世代のクラシック組は素質馬だらけながら、ブエナビスタ以外全て後者になってしまった悲しき世代だ。
そうなってしまったのには理由がある。スターになれた馬は間違いなく存在した。
牡馬の戦歴を見ていこう。
ラジニケ杯では2歳馬最強決定戦が繰り広げられた。
例の新馬戦2着、スペシャルウィーク産駒リーチザクラウン。馬主はスペシャルウィークの人。
そして札幌2歳S勝ち馬、ネオユニヴァース産駒ロジユニヴァース。
武豊VS横山典弘の頂上決戦。
圧倒的人気のリーチザクラウンに、二冠馬の血は牙を剥いた。
4馬身差。
いくらリーチザクラウンが逃げ馬で、阪神の急坂が苦しかったとて、2歳戦のほぼGI級レースでこれだけ突き放すのは常軌を逸している。
ロジユニの快進撃はここで止まらなかった。
弥生賞すらも快勝し、無敗の皐月賞馬にリーチをかけた。
皐月賞
そして皐月賞。
父ネオユニヴァースを超えるため、圧倒的人気ともに通過点に立ったロジユニヴァース。
父と同じくきさらぎ賞をステップに、三冠の夢を目指すリーチザクラウン。
弥生賞で大敗したが、2歳チャンピオンとしての意地を見せたいセイウンワンダー。
スローペースのスプリングステークスを勝利したアンライバルド。
無敗馬とほぼ無敗馬3頭の争いは、意外な結末になった。
前提として、リーチザクラウンは気性が荒い。逃げたくて逃げているのではなく、馬群に入ると掛かるから逃げていた。
そんな彼が大外18番。すぐに先頭を取れるわけもなく、掛かって最後は沈んだ。
そして何故かロジユニヴァースも沈んだ。とにかく体調が悪かったらしく、ハイペース追走から直線に向いた時には、もう体力が残っていなかったという。こればかりは生き物だから仕方がない。
そんな彼らを外からすごい勢いで捉え、突き放して完勝した馬がいた。
無比の末脚
アンライバルド
父 ネオユニヴァース 母父 サドラーズウェルズ
半兄 フサイチコンコルド
10戦4勝[4-0-1-5]
主な勝ち鞍 皐月賞 スプリングS
09世代
例の新馬戦の1着馬、アンライバルド。
勝ったのはネオユニ産駒でもこちらの方。
歴代のクラシックでも5本の指に入るほど衝撃的な末脚。兄フサイチコンコルドに勝るとも劣らない衝撃。その名の如く、この先が期待される「無敵」の勝ちっぷりだった。
2着はこちらもスペシャルウィーク産駒で桜花賞馬キョウエイマーチの5番仔、トライアンフマーチ。武幸四郎の好騎乗で2着に食らいついた。世はまさにスペシャルウィーク産駒全盛期。
日本ダービー
ここまでは期待値の高いクラシックであった。
ブエナは二冠、無敗馬ロジユニを倒したアンライバルド、そしてリーチザクラウンとトライアンフマーチ。
5月の府中でどんな頂上決戦が待っているのか、誰もが期待していた。だが…
ダービー当日。
昼頃に突如として降り出した雨は瞬く間にゲリラ豪雨へと変わり、府中の馬場を不良馬場へと変えてしまった。
東京競馬場は日本一水はけの良い馬場で有名で、前日に雨が降ろうが槍が降ろうがだいたい良馬場発走になる。
しかし、雨は止み、GIのファンファーレが鳴り響いても、馬場状態は回復しなかった。
不良馬場でのダービーは1969年以来40年振りのことだった。
出走馬はロジユニヴァース、アンライバルド、リーチザクラウン、トライアンフマーチ、セイウンワンダーに加え、青葉賞勝ち馬でレーヴ一族のアプレザンレーヴ、キングカメハメハ初年度産駒で好成績を残していたフィフスペトルとゴールデンチケット、藤岡康太騎手(藤岡兄弟の毛量多い方)をGI初制覇に導いたNHKマイル勝ち馬マンハッタンカフェ産駒ジョーカプチーノ、そして京成杯2着馬ナカヤマフェスタなど、ダービーらしい好素材が揃った。
不良馬場、読めない展開。誰が勝利を掴むのか。
薄曇りの府中。10万を超える観衆が選ばれし優駿たちの行方を見守った。
レースは序盤から波乱の展開。なんと、NHKマイルからの臨戦となったジョーカプチーノが大逃げを打った。
この地獄の不良馬場で1000mを59.9で走るという、数字以上のハイペース。
しかし、おかげで大きく離された2番手のリーチザクラウンは実質逃げの形に持ち込めたため、すんなりと折り合いが付いた。こうなったらリーチは強い。
それを眺める3番手達の位置取り争いが激しくなるが、1頭だけ究極の選択を取った馬がいた。
圧倒的人気を背負ったアンライバルドは伸びない。
この馬場で後方勢が軒並み苦戦を強いられる中、粘るリーチザクラウンの内を突きすごい手応えで駆け上がってくるのは、泥まみれでもなお輝きを放つ黄金と蒼の勝負服。
横山典弘とロジユニヴァースだった。
もう誰も追い越せない。
15度目の挑戦。悲願のダービー制覇に鳴り響く歓声。
メジロライアンでもセイウンスカイでも勝てなかったダービーを、ついに手にしたのだった。
泥中の夢
ロジユニヴァース
父 ネオユニヴァース 母父 ケープクロス
10戦5勝[5-1-0-4]
主な勝ち鞍 日本ダービー 弥生賞
09世代
常勝無敗、初の挫折を糧に泥の中で咲いた花。
儚くも美しきその姿は、誰しもの目に焼き付いた。
印象的だったのが勝利騎手インタビュー。
ダービージョッキーになる事は何にも変え難い栄光で、初勝利の騎手は誰もが満面の笑みでインタビューに答える。しかし、横山典弘は違った。
開口一番、そう語った。
自分より何より馬を大事に考える彼だからこそ出た言葉。彼がそんな人間だからこそ、「勝てて良かった」と感じたファンも多かったのではないだろうか。
ロジユニヴァースは期待されていた。
今のノーザンファーム生産馬は、心肺機能や筋肉の疲労度などを随時分析し、それに応じて外厩でトレーニングをする。
この頃も今ほどではないにしろデータを分析していて、ダービー前は今までにないほど心肺機能の調子が良く、全盛期のオペラオー並だったという。
そんな状態だったが、ノリさんはそれに気付けなかった。不良馬場だから返し馬でもたついたのかもしれない。むしろ状態が悪いと思ったという。
感覚派の騎手なので「この状態で馬と一つになるには」をイメージして本番に挑んだだろう。
その結果がひたすら最内をロスなく進み続ける競馬となり、突き放して勝利することができた。
ノリさん本人は納得がいっていないかもしれないが、あのコース取りだからこそ勝てた部分は間違いなくあったと思うのだ。
ダービーまでのクラシックは、例年同様かそれ以上にアツかった。
牡馬はアンライバルド、ロジユニヴァース、リーチザクラウンの三強、牝馬はブエナビスタにレッドディザイアが食らいつく。
ネオユニヴァース産駒VSスペシャルウィーク産駒VSその他有象無象。サンデーサイレンス孫世代全盛期。
ネオユニもスペシャルも勝てなかった菊花賞。
父の夢をかけた全面戦争が始まろうとしていたのだが…
不良馬場の代償はあまりに大きかった。
サラブレッドは犬よりやや劣るくらい、人間でいう2〜3歳児の知能を有しているという。つまりそこそこ賢い。ともすれば嫌な記憶やもうやりたくない事の区別くらいはもちろんつく。
アンライバルドは枯れた。
あの衝撃的な末脚はダービーを最後に身を潜め、もう戻ることはなかった。
大抵の馬が勝てなくなる理由は、精神面の影響が大きい。9歳でかしわ記念を勝ったワンダーアキュートや、この記事の後半で紹介する馬のように、レースを頑張るモチベが続く馬はいつまでも強くいられる。
考えてみてほしい。3歳の頃の自分が泥だらけの中を無理やり持久走させられてしまうのだ。前のレースで気持ちよく勝ててたぶん余計にしんどい。
アンライバルドはサンデーサイレンス系。
SS系の馬は繊細かつ気性が荒い馬も多く、前へ行こうとする「前進気勢」が強い。根性ややる気のようなものだ。それがレースに向かなくなってしまったら、もちろんそこで終わる。アンライバルドはそのパターンだったんじゃないだろうか。
(エフフォーリアもこれに近い)
あるいは、父ネオユニヴァースの影響もあるかもしれない。
ネオユニヴァースは脚の柔軟性がすごい馬で、ゴム毬のようなしなやかな筋肉をしていた。トウカイテイオーをイメージしてもらえるとわかりやすい。
ただ、その柔らかさは危険と隣り合わせ。テイオーもネオユニヴァースも脚部の故障を経験している。
アンライバルドも目に見えない故障やその予兆があり、馬側がそれを訴えていたのかも。(実際最後は2度の屈腱炎で引退した)
そして、ロジユニヴァースも秋から年明けの冬をまるまる休養に充てなければならないほどに脚部に大ダメージを受けた。
復帰後に在りし日の走りを見せることは出来ず、ひっそりと引退している。
菊花賞
神戸新聞杯はダービー上位組は不調で、マンハッタンカフェ産駒イコピコが大穴の勝利。秋に強いカフェ産駒。
そんな中で2着に食いこんだのは超健康体だったスペシャルウィークの産駒リーチザクラウン。
アンライバルドは4着に敗れた。
菊花賞ではもちろんこの3頭とセントライト記念を制したナカヤマフェスタが上位人気。
でも全員飛ぶのがこのレースの難しいところだ。
8番人気の低評価を覆し、浜中俊、初のGI制覇。
勝ち馬はスリーロールス。例の新馬戦4着の馬だった。
戦績を見て欲しい。このローテからの臨戦で勝てると思えない。
ダンスインザダーク産駒としてはもう3度目の菊花賞制覇。競馬はブラッドスポーツだということを再認識させられる。
1〜9着までの馬の父を上から見ていくと
ダンスインザダーク
ダンスインザダーク
グラスワンダー(母母父にリアルシャダイ)
マンハッタンカフェ
スペシャルウィーク
マンハッタンカフェ
タニノギムレット
ジャングルポケット
スペシャルウィーク
と、見事に上位は「そういう馬」の血、下位は「頑張れば長距離もゴリ押しできそうな馬」の血が流れている。ネオユニ産駒にここは厳しかったし、いくらスペ産駒といえどダンス産駒のスタミナには勝てなかったのだった。(リーチはハイペースで逃げてしまったのも大きいとは思うけど)
09世代の夢はここで終わらなかったが、それは最後に取っておいて先に古馬に触れていきたい。
旅路の果てに
日本競馬は緩やかな右肩下がりが続いていた。
リーマンショックからの不景気の波に、馬券売り上げは徐々に減少。
90年代後半の日本競馬全盛期からGIのレース賞金はほとんど変わらず、円の相場だけが安くなっていくのでジリ貧ムード。
ダイワスカーレットが引退し、強い牡馬もいない。
ブエナビスタと2歳世代の影響で、暗黒期のトンネルには少しずつ光が見えはじめていた。楽しい時代までもう少し。09年はそんな一年。
だが、トピックが無かったわけではない。
旅路の果てに最高の終着点を見つけた馬達は大勢いた。そこを詳しく掘り下げていこう。
高松宮記念
まずは短距離路線から。
昨年の女王、スリープレスナイトがいた。
怪我で香港スプリントを回避し、半年ぶりの実戦。
とはいえ芝スプリントでは未だ無敗。春秋スプリント連覇を狙う。
迎え撃つは親子制覇を目指すビリーヴの子ファリダット。キングヘイローの子ローレルゲレイロ。
勝敗を分けたのは、騎手の勝負強さだった。
(ウオダス桜花賞の年から)阪神競馬場が改装され新コースになった事は以前紹介したが、中京もカレンチャン高松宮記念の年に新コースになる。
今の中京は「コーナーのきつい東京」みたいなイメージだが、昔は「左回りの京都」みたいな感じだった。
直線そこまで長くない、坂ほぼ無し、逃げ先行有利。
先手取ったものの行き足の鈍い18番の馬を見て自分がペースを握る展開に切り替え、内ラチギリッギリを攻めながら極端にペースを落とし、直線向いた瞬間から追い出して粘らせた。コースと乗り馬の癖を熟知していないと出来ない、藤田伸二渾身の騎乗。
7枠13番。奇しくも父と同じ馬番。
外から豪脚で差し切った父と対照的な、逃げ切り戦略勝ちだった。
スリープレスナイトもやっぱり桁外れの強さだったが、先に抜け出したローレルゲレイロの粘りは尋常ではなかった。
スプリンターズS
この後、ゲレイロは2連続で惨敗する。
安田記念は距離、セントウルSは斤量59kg。
原因はあるがさすがに15着→14着は厳しい。
酷な斤量を背負い真面目に走ってセントウル2着の後、屈腱炎で引退したスリープレスナイト。
スプリンターズSは本命不在の大混戦となった。
このレースはゲレイロ陣営にとって大事な一戦だった。宮記念の前哨戦、阪急杯にて、絶好調だったゲレイロを下したビービーガルダンという馬がいた。
本番の宮記念では鞍上のアンカツがカジノドライヴ(カジノフォンテンの父)と一緒にドバイに行くため、武幸四郎に乗り替わり惨敗。
鞍上を戻しキーンランドCを叩いてきた彼と、決着を付けるための場でもあったのだ。
レースはまたもゲレイロが先手を取った。
4コーナーで藤田が鞭を軽く入れると、一段階ギアを上げ、沈み込むゲレイロ。
攻めてきたのはビービーガルダン。
ガルダンの頭が見えるか見えないかの距離で追い出し始めると、強烈な粘りを見せる。
坂を登っているはずなのに、差し馬の勢いが足りない。登った後はゲレイロとガルダンの叩き合い。
ギリギリで凌ぎきったのはゲレイロだった。
ライバルを倒し、父を超え、勇敢な戦士は短距離界の頂点へ立った。
王を超えし者
ローレルゲレイロ
父 キングヘイロー 母父 テンビー
31戦5勝[5-7-2-17]
主な勝ち鞍 春秋スプリント 阪急杯 東京新聞杯
07世代
その一族の前途は多難であった。
最初から短距離に路線を絞り、苦難の果てに本格化し父を超えたローレルゲレイロ。
3歳で頂点に立ち、たった一度のアクシデントで迷宮に迷い込んでしまったカワカミプリンセス。
常に上位に食い込み続け、地方ダートで連戦連勝の末女王になったメーデイア。
中央で戦力外通告を受け地方で成り上がったのに、運命の巡り合わせで一番勝ちたかったレースを勝てなかったキタサンミカヅキ。
デビューから引退までずっと無敵に近い強さを見せ続けたダンシングブレーヴとは違い、苦難の道に喘ぐキングヘイロー産駒たち。
しかし完璧でないからこそ、我々は血のドラマが紡ぐカタルシスに惹かれるのだ。
ドリームジャーニーの朝日杯で僅かに届かず2着。ピンクカメオのNHKマイルでも2着。長い長い低迷の果てに掴み取った勝利だった。
天皇賞(春)
天皇賞も色々あったが尺と展開の都合上雑に触れる。
(松岡正海騎手が好きな方は申し訳ない)
母父サッカーボーイでスタミナ抜群のマイネルキッツが勝利。アドマイヤベガ産駒のアルナスラインとの激闘を制した。
この時の勝利騎手インタビューがクセ強なので暇な人はチョリ岡で検索。
ヴィクトリアマイル
昨年の女王、ウオッカ。
最大のライバルがいなくなった彼女は、ドバイに赴いていた。
されど結果は伴わなかった。
ドバイデューティーフリー、7着。
ウオッカという馬は東京競馬場をこよなく愛している。コーナーが緩やかで、最後の直線が長く、瞬発力勝負になりやすいコースだ。
それに加え最後に坂もあるため、脚を溜めるだけ溜めといた方が有利になりやすい。
対して当時のナドアルシバ競馬場がこちら。
ウオッカが挑んだのは1777m。コーナーが3つで歪な形。坂のない超長い直線。求められるものが全然違った。
現在のメイダン競馬場はこれ。
直線除けばパッと見ほぼ東京である。
実際にJC勝ち馬が勝利するパターンも多く見られる。こっちだったらな…と思ってしまう。
そんなウオッカの帰国初戦。
ヴィクトリアマイルを見ていく。
まだ創設されて日の浅いレースだけに「このGIといえばこれ!」みたいな伝説のレースの絶対数は少ないが、VMは基本的にドラマティックな展開になりやすい。この年は特にVMらしいレースだ。
笑ってしまうような勝ちっぷり。
ここまで実況が語彙力を無くすレースも珍しい。
古馬マイルGI史上最大着差、7馬身差の圧勝劇。
もう二度と更新されなくてもおかしくない着差の勝利。彼女にとってはこんなもんGIIと変わらなかったのだろう。
安田記念
ウオッカは中2週でVMから安田へ飛んだ。
なかなかハードな臨戦過程。
調教技術が向上した昨今ではレース毎に身体の状態をピークに持っていくため、より負荷がかかる。GIではなるべく避けたい出走ペースだ。
(地方はそこまで仕上げないため中1週もかなりある)
その果てで見せた走りが、未来永劫彼女の代名詞として語り継がれる事となる。
異次元の末脚をとくと見よ。
ブッサシター!…ウオッカカッター!!スゴーイ!!
ここまで実況が語彙力を無くすレースも(以下略)
たぶんウマ娘ウオッカの固有スキルの元ネタはこれだ。
ウオッカは進路取りに苦しんでいた。
ディープスカイが粘り強く伸びたが、後ろから進路見つけた途端にかっ飛んでくるウオッカ。さすがにプスカが不憫である。
本シリーズではウオッカ初出時に「アレが付いてないだけでこいつは牡馬です」と紹介したと思うが、それはこういうことである。
ただでさえ牡馬並に能力があるのに、牡馬と戦うと斤量が軽くなるから強い。ハイペースで前が垂れるともう確定で勝てる。
この時の豪脚を、鞍上はこう語った。
えぇ…なんかもっと他にいい例えあったやろ…
豊さんはおばちゃんの底知れぬバイタリティに畏敬の念を抱いていたのかもしれない。
このコメントありきでウマ娘ウオッカにおばちゃんエピソードを追加しなかった名采配を称えたい。ありがとうサイゲ。
ウオッカおばちゃんは2年連続宝塚記念ファン投票1位となったが、2年連続でこれを回避。
一部の厄介競馬民からは「東京でしか戦えないのか」と非難を受け続けることにはなったが、VM→安田→宝塚は脚を壊しかねないので残念だが当然の休養。
それ以外のメンツでNo.1を決めることとなった。
宝塚記念
ハーツクライ、ディープインパクト、アドマイヤムーン、メイショウサムソンと、年度代表馬級の名馬が毎年出走し、好成績を残していたこのレース。(グランプリだもんね)
この年の一番人気はディープスカイ。
強いは強いが…ダービー以降ずっと2〜3着の連続。安定感はダントツだが決定打に欠ける馬という印象が大きい。それでも圧倒的人気で迎えられた。
そんな彼らを虎視眈々と見つめる人物がいた。
マーク屋、GIのスペシャリスト、気性難専門家。
後の「グランプリ男」である。
彼が乗るドリームジャーニーは長い間勝利から遠ざかっていた。
蛯名騎手が騎乗を続けていたが負け続き、豊さんに乗り替わるもあまり効果は出ず。
08年の安田記念でたまたま豊さんに先約があり、池添謙一に乗り替わる。が敗北。
転機は次走の小倉記念だった。
馬は生物であるが、騎手にとっては乗り物でもある。
自転車やバイクのように、個体によって乗り心地も違う。「どれだけ馬の重心と騎手の重心を近付けられるか」に騎乗の本質がある。
小倉記念の返し馬の最中、池添はその重心を見つけたのだという。そこからはGIII2勝、有馬4着、中山記念2着、大阪杯1着で今に至る。相当相性が良かったのだろう。そんな彼らが牙を剥く。
その進路取りは、敵の牙城を崩すが如く。
ディープスカイが追い出した所を外から被せに入り、勢いを潰しきって内に切り込み、粘ったサクラメガワンダーをも突き放して勝利。
大阪杯と同じタイミングの仕掛けと進路だが、よりディープスカイを潰しにかかる積極的騎乗だった。これぞ池添謙一の本領。一度狙った獲物は逃さない。
朝日杯2着のローレルゲレイロが復活したのなら、1着馬がGIを勝てない理由がない。2歳チャンプの強さを証明した。
(ちなみに2着サクラメガワンダーは同年のラジニケ杯勝ち馬。2歳チャンプ同士でワンツーとなった。
母サクラメガ、父グラスワンダーという世界一分かりやすい馬名でお馴染みの善戦マンで、サクラ軍団なこともあり非GI馬の中ではそこそこ人気な馬である)
そしてディープスカイはここで引退となった。
いわゆるタキオンタイマー(産駒特有の脚部の弱さによる故障)。屈腱炎である。
3着内率ほぼ100%の優秀さだったため、鳴り物入りで種牡馬入りするも鳴かず飛ばず。
22年現在、後継種牡馬はクリンチャーの進退に委ねられている。
ウオッカとブエナビスタ。日本競馬は2頭の女王が席巻していたが、彼女らの強さはどちらも最強と呼ぶにはあまりにピーキーなものであった。
挫折や苦難を乗り越え、少女達は一つの境地にたどり着く。
天皇賞(秋)
一葉落ちて天下の秋を知る。
物事の僅かな前兆からその後を予期することの故事成語だ。
毎日王冠、ウオッカは2着に敗れた。
元より得意でない非根幹距離のレース。しかしここに来て囁かれはじめた「距離限界説」。
マイルであれだけのパフォーマンスができる馬が、たった200mの延長で簡単に負けるわけが無いのだが…
それを裏付けるかのように、秋の盾では苦しい競馬を強いられる。
逃げ不在によるスローなレース展開。
ペース読みを誤った豊さんがウオッカを後方に下げてしまい、そこからはご覧の通り。安田記念のように上手くはいかない。
そんな中で勝った馬はなんと、8歳馬のカンパニーであった。
マイルCS
04年2月、きさらぎ賞。初めての重賞挑戦。
ハーツクライやブラックタイドが1着争いをする中、後方でレースを終えた。
菊花賞。初めてのGI挑戦。
後方でレースを終えた事には変わりなかった。
けれど、ハーツクライにクビ差まで迫った。
05年中山記念。最速の上がりで駆け上がるも、バランスオブゲームを捉えきれず2着。
京阪杯。翌年からスプリント戦となるこのレースを、1800m時代最後の勝者として名を刻んだ。重賞初制覇の瞬間だった。
06年産経大阪杯。GI馬スズカマンボを倒し、GIIにまで手が届いた。
07年関屋記念。前年秋からの長期休養の末、重賞3勝目。その勢いで天皇賞(秋)では3着に食い込んだ。
08年。横山典弘に乗り替わり中山記念でドリームジャーニーを破ると、マイラーズCでも連勝。されどGIには繋がらなかった。
09年。前年とほぼ同じローテで中山記念1着、マイラーズC2着と善戦。秋になり更に状態は上向き、毎日王冠でウオッカを破った。そして。
天皇賞(秋)、GI初制覇。
5年間の旅路。しかし馬は何も変わっていなかった。
変わったのは騎手と調教とローテのみ。
自分の持ち味を最大限活かしてくれる横山典弘との巡り合いが、彼にとっての本当の勝利だった。
天皇賞勝利により、正式に年内引退が決定。
4着続きで散々ヨンパニーとバカにされたキャリア中盤。それがまるで嘘だったように、カンパニーはラストダンスで煌めいた。
集った海外の強豪とGI馬たち。
そんな中でもさも当然のように勝利してみせた。
無事是名馬の到達点。
最後に見せた末脚は、どの出走馬よりも溌剌としていた。
平成の老雄
カンパニー
父 ミラクルアドマイヤ 母父 ノーザンテースト
35戦12勝[12-4-1-18]
主な勝ち鞍
天皇賞(秋) マイルCS 中山記念連覇 毎日王冠 大阪杯
04世代
その昔、“老雄”と呼ばれた馬がいた。春秋グランプリホースに輝いた8歳馬、スピードシンボリ。
しかし“平成の老雄”カンパニーは、これを明確に超えた。スピードシンボリの8歳は昔の馬齢表記。今基準だと7歳である。
8歳以上のGI級競走制覇は中央競馬整備以前の1906年と12年帝室御賞典の2回のみ。(どちらも走破タイムは今のGIIIより20〜30秒遅い)
つまり、日本中央競馬史100年弱の中で平地GI級競走を8歳で勝利したのはカンパニーが初であり、2連勝など前代未聞どころか永久不滅の大記録ということだ。
(当のカンパニーくんはそんな事も露知らず、天皇賞では歓声にビビって急に走り出してしまったりと、良くも悪くも若々しい姿を披露していた)
その功績を称え、JRA特別賞が授与された。
誇るべき偉業だ。
国内の平地国際GIだと未だに彼が唯一の8歳以上の勝利記録保持者である。
ジャパンカップ
ウオッカ陣営は、悩んでいた。
マイルに逃げる選択肢も、もちろんあった。
それでもここに挑もうとしたのは、「世界」を相手にしたかったからだ。
戦場から去ったダイワスカーレットを仮想敵とするなら、世界を相手取るくらいの事をしない限りは越せそうもない。
そして、角居調教師の夢、馬主の谷水さんの夢もかかっていた。
二度にわたるドバイでの敗戦。
何が原因で何が悪いのか。
考え抜いた先に見付けた解決法は、「走り方を1から変えること」だった。
今までのウオッカは、ディープインパクトのように前脚で軽く地面をはじき、その流れで後ろ脚も蹴っていた。
これなら加速時のトップスピードが速ければ速いほど、全力出した後の惰性で他馬を追い抜かせる。
しかし、その走法では限界が見えたことも事実。ドバイで勝てる馬づくりをしたい。
なのでこれからは、グラスワンダーのように脚で地面をグリップし、末脚に全てを賭けて駆け抜ける走法へと変化させる。
野球選手がフォームを変えて失敗する事が多いように、この作業もかなりのリスクを要した。
しかし、ウオッカはまだ上を目指せる。陣営はそう信じていた。
トレーニングはハードなものだった。
折り合いを重視して、ゆっくりとした走り込みをひたすら続ける。その間に走り方を教え込む。
欧州型、パワー型の走りへ。
同時に、陣営は批判覚悟で大きな選択をした。
走法が変われば位置取り、騎乗も変わってくる。
以前の先入観がある騎手では新ウオッカを上手く扱えない可能性があった。
そこで、武豊からの乗り替わりを決意した。
コーナーをロスなく回り極限まで追い出しを我慢して、最後の直線だけに全てを賭けられる肝の据わった人物。クリストフ・ルメールへ。
ファンにとってはウオッカとレッドディザイアの女王対決の一戦。
当時は半ばタブーであった「武豊を降ろす」ことを決断したウオッカ陣営にとっては、絶対に落としてはならない一戦。
2番人気には東京巧者ジャングルポケットの子、オウケンブルースリ。3番人気にはアメリカ芝最高峰GI、BCターフを連覇した欧州の至宝、コンデュイット。
満を持して世界に挑む。
ウオッカにとっての散り際の美学は、限界を超え華々しく散ることだったのかもしれない。
ウオッカは先行した。
ハーツクライの有馬記念の時のように、前の方で脚を溜めさせる。本質が差し馬でも、先団でスタミナを温存させ、同じように脚を弾けさせる。
ルメールにはそれができる。
運命の直線、ルメールは極限まで追い出しを我慢した。
残り200mのハロン棒を通り過ぎるあたりでようやく右鞭を入れた。
しかし、思ったより伸びない。
慌てて左鞭を入れ、外から来る敵の進路を潰そうとするが、時すでに遅し。
オウケンブルースリがすぐそこまで迫っていた。
なんとか粘ってくれと追った先がゴールライン。
あの天皇賞の時と同じような雰囲気。
間もなくして、電光掲示板がウオッカの勝利を伝える。またしても2cm差。
コンデュイットやレッドディザイアは完封したものの、オウケンの猛攻になんとか粘り勝ったような感じ。
でも、以前は勝てなかったジャパンカップの舞台を、新しい走りで勝てた事に意味があった。
と思った矢先、衝撃の事実が判明した。
ウオッカはレース中に鼻出血していた。
マチタンの時に触れたが、馬の鼻血は人と違って口呼吸ができないため相当苦しくなる。
その状況下で粘り勝てたという事実が凄い。
これが女王の意地。
ウオッカはこの勝利で東京競馬場のGIを全制覇したことになる。
一意専心。小回りコースが苦手でもここまで東京で走れるのなら、弱点を加味して余りある強さだ。
翌年、直線の長い競馬場ならやれるというところを示すため、ドバイワールドカップのステップレースのG2へ、レッドディザイアと共に飛んだ。
ディザイアが勝利を収めた裏で、ウオッカは8着に敗れた。鼻出血が再発していた。
相当なダメージが来ていた。
フォーム改造の末、払拭した距離の壁。
限界はとっくに超えていた。
牝馬初のGI7勝の冠と共に引退したウオッカ。
完璧ではなかったし、得手不得手がはっきりしていた馬を上手く導いた結果がこの蹄跡。
牝馬でも漢らしく、ただ我が道を往く。
それが彼女の歩む道だった。
エリザベス女王杯
世代交代の旗が、大きく風に揺れていた。
ウオッカとダイワスカーレットが砕いた壁。
その向こうの茨道を切り拓くのは新世代の女王、ブエナビスタに他ならない。誰もがそう信じていた。
そう信じて…いたのだが…
もう文字より見て頂いた方が早い。
解説全放棄でいきたい。
そんな事ある??????????
これが競馬の恐ろしさだ。
クィーンスプマンテ
父 ジャングルポケット 母父 サクラユタカオー
22戦6勝[6-1-4-11]
主な勝ち鞍 エリザベス女王杯
07世代
プリキュアとスプマンテめっちゃ逃げる
↓
3番手のスミヨン騎乗リトルアマポーラがそれを放置
↓
後方の騎手たちは後方だけで潰し合い大逃げ馬に気付かない
↓
イングランディーレで同じようなことしたノリさんだけがカワカミプリンセスを動かすも時すでに遅し
↓
なんかブエナビスタがすんごいスピードで上がってくるけど届くはずもない
↓
大荒れ
そうはならんやろグランプリ優勝。
余談。
初めて紹介するし今後も出てこないがスプマンテの勝負服はトキノミノルと同じデザインになっている。
スプマンテの馬主はグリーンファームといい、実は社台グループのクラブ馬主。勝負服の件についてはトキノミノルの馬主さんに許可を得ているらしい。
(23年にハーツコンチェルトが活躍したらまた取り上げるかも)
さらに余談。
スプマンテはラッキー勝ち逃げで即引退。
スプマンテの母はセンボンザクラ。年代的にボカロではなく元の意味の千本桜から来てる。(後続離して逃げすぎて)君の声も届かないよという訳ではない。
2着プリキュアは…実はもうとっくに引退している予定だった。
阪神JF以降鳴かず飛ばずで、09年の時点で6歳。
基本的に牝馬は6歳春で引退して繁殖入りするので、プリキュアもそうしようとして、引退レース(仮)の日経新春杯に出走した。
若手の荻野騎手を乗っけて49kgの軽ハンデが功を奏したようで、すごい突き放して勝てた。
(もちろんこの時も逃げ切り)
勝っちゃったので現役続行。
その後春天出てボロ負けしたりして、なんやかんやで今に至る。
GIのエリ女で下手に結果を出してしまったため、引退は翌年まで引き伸ばされることになった。
(言っちゃ悪いけど今まで紹介したGI牝馬の中で産駒成績が群を抜いて悪いのはそれも影響してるのではと思ったりする)
有馬記念
毎度毎度気が遠くなるほどの文字数で申し訳ないが、今回最後のGIレースはこれだ。
不安なのは、最初の方に書いた内容を読者の方が覚えてくれているかどうか。
冒頭で触れた「伝説の新馬戦」。
出走馬のアンライバルド、ブエナビスタ、リーチザクラウン、スリーロールスがそれぞれGIを制覇したという話だった。
その4頭がそれぞれの歩みで、有馬記念という大舞台で再び相見えたこの奇跡。この凄さ。
文字数多すぎて感動が薄まってないかが不安だ。
しかし、この4頭の再戦はこれが最初で最後のものとなってしまう。
このレースの結果が、この世代の行く末を如実に表していた。
積極的にハナを切るリーチザクラウン。
そしてブエナビスタはなんと先行策。ウオッカだけでなく、ブエナもブエナで暗中模索の時期に入っていた。
道中ゆったりとしたペースで進…む中でスリーロールスが故障。騒然とする中山。
これに動揺したのか三宅アナは「マツリダオホオホ」なる謎の馬を生み出す。(割と今でもネタにされがち)
オホオホが直線半ばで力尽き、ノリさんらしくない力強い追いで先頭を奪い取ったのはブエナビスタ。
(過去二戦の敗走でアンカツさんは主戦から降ろされた)
その刹那、ブエナの外から一頭とんでもねえスピードで駆け上がってきた馬がいた。
後のグランプリ男、池添謙一。悲願の有馬記念制覇の瞬間だった。
小柄な馬体に異次元の脚の回転数と気合いで走りきったジャーニー。
ディープインパクト以来の春秋グランプリ制覇となった。
一方、伝説の新馬戦の牡馬3頭は後方で力尽き、ブエナビスタだけが2着となった。
スリーロールスは引退となった。
この世代は今後もこんな感じだ。ブエナビスタだけが2着、他は後方。
もしもあのダービーが晴れていたら、こんな事にもならなかったかもしれない。
しかしダービーが晴れていたら、より残酷な結果が待っていたかもしれない。
新時代に突入し、日本競馬はまた一つ次の段階へ移行する。
2010年。
「最高の世代」と称された優駿たち。
ディープインパクト無き世の寂寞は、この時代で終わりを告げる。
衝撃を塗り替える栄光、閃光、翼、そして祝祭。
やがて導かれし黄金航路へ、日本競馬は帆を掲げる。
次回、渇望の果てに。
誰もが待ち望んだ時代が、そこにはあった。
まとめ
ウマ娘の新イベントが面白くて予定より投稿日が2日遅れた者です。もう謝罪はしません。開き直ります。
ということで、いよいよ僕の大好きな、というか皆さん大好きであろう時代がやってきました。
ここからが地獄です。内容量凄くて平気で2万字超えそうなので削りに削ってお届けします。
いずれは次回出てくる馬がだいたいウマ娘になってますように、という遅すぎる七夕の願い事と共に今回は終了です。
それでは〜。