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ウマ娘で学ぶ競馬史 #24 大王、君臨 (2004)

みなさん、スイープトウショウはお好きですか?
唐突ですが、今回から何回かに渡ってスイープトウショウ特集です。

ステゴといい、やべーウマは取り上げがいがあります。次々登場するやべーやつらに翻弄され続ける池添謙一ジョッキーをお楽しみに。


というのが裏テーマで、今回はサブタイの通り日本競馬を変えた最強の大王の話です。
ようやく現行世代の競馬に近付いてきます。
それでは参りましょう。

魔女と大王

シンボリクリスエスとタップダンスシチーがすんごいレースをし続けてる裏で、2歳世代もすんごい馬が続々と誕生していた。

日本競馬のレベルがもう一段階上がる時が、すぐそこまで来ていた。
そして夢は世界へ羽ばたく。


阪神JF
堂々の1番人気で出走したのはこの娘。

激情の箒星

スイープトウショウ

父 エンドスウィープ 母父 ダンシングブレーヴ

24戦8勝[8-4-2-10]

主な勝ち鞍
宝塚記念 秋華賞 エリザベス女王杯 京都大賞典

04世代

(顔が良い)

このシリーズでは度々「実馬とウマ娘のイメージが違う!!」とゴネているが、スイープは完全にスイープ。このまんま。古馬になってからは特にスイープ要素が濃くなっていく。

デビューから鋭い末脚を武器に勝ち上がってきていたが、阪神JF本番では差し追い込み馬あるあるの負け方で屈してしまう。

ウマ娘でも垂れウマ回避積んでないと詰むやつ。
しかし、スイープが沈んだおかげで生まれたドラマもあった。

レース結果はヤマニンの馬でワンツー。
2着ヤマニンアルシオンは阪神3歳牝馬S覇者ヤマニンパラダイスの娘だった。そして勝者が…

帝王の娘

ヤマニンシュクル

父 トウカイテイオー 母父 ニジンスキー

19戦4勝[4-3-4-8]

主な勝ち鞍 阪神JF

03世代

トウカイテイオー産駒、ヤマニンシュクルだった。

テイオーが種牡馬になった頃、ちょうど海外種牡馬三強(ブライアンズタイム、トニービン、サンデーサイレンス)が猛威を振るいだした。
優秀な繁殖牝馬はみんな彼らに取られ、テイオーは種牡馬として苦しい道を歩まねばならなかった。

オグリキャップ、ミホノブルボン、ビワハヤヒデ、ナリタブライアン、マヤノトップガン、サクラローレル、テイエムオペラオー。

テイオーと活躍時期が近い年度代表馬で、GI馬を輩出できなかった馬だ。
サンデーサイレンスブームは日本競馬のレベルを猛烈に引き上げたが、同時にこれらの名馬の種牡馬としての未来を潰したともいえる。

そんな中でテイオーは奮闘した。GI馬を3頭輩出した。
牡馬がセン馬&乗馬になったので後継のGI馬を残すことはかなり厳しくなったが、いまだにクラウドファンディングやらなんやらで孫世代へ血を繋いでいる。
この血が繋がった果てで爆発するドラマを見たい。




年が明け、スイープは転厩することになった。
というのも、調教師の渡辺栄さんが70歳定年のため、他の厩舎に預けなくてはならなくなったからだ。

渡辺厩舎はフジキセキやジャングルポケットなどを管理しており、主戦騎手は上記2頭やヒシミラクルなどに騎乗していた角田晃一騎手(現調教師)だった。
もちろんスイープにも角田さんが乗っていた。

引越し先は鶴留明雄厩舎。本シリーズでも紹介した、チョウカイキャロルやタヤスツヨシの厩舎だ。
あれから数年、鶴留厩舎にも新しい風が吹き始めていた。門下生としてデビューした厩舎の主戦騎手が、GIで大活躍を見せていたのだ。

その男の名は、池添謙一
出会っちゃったんですね、ここで。

既にデュランダル(気性荒い追込馬)で結果を出していた池添騎手。スイープトウショウ(気性荒い追込馬)の扱い方を理解するのも早かった。乗り替わり初戦でチューリップ賞を勝利し、もちろん向かうは…


桜花賞だった。
しかし、チューリップ賞を勝っていながら、スイープは2番人気に落ち着いていた。
1番人気はフラワーカップ勝ち馬、ダンスインザムード
フラワーCは同時期に行われる毎日杯同様、クラシック出走の最終切符を掴むためのレース。主に、フェアリーSやチューリップ賞といったクラシックに繋がるレースで賞金を加算出来なかった馬や、デビューが遅れた馬が使うレースだ。ムードも後者だった。

フラワーCを余裕で通過してきたムードか、阪神1600を何度も経験してきたスイープか。
事の顛末は意外と呆気なかった。

一切の無駄のない位置取り。
勝つべくして勝った走りだった。

闇に舞う華

ダンスインザムード

父 サンデーサイレンス 母 ダンシングキイ
半兄 エアダブリン 全姉 ダンスパートナー
全兄 ダンスインザダーク

25戦6勝[6-6-1-12]

主な勝ち鞍
桜花賞 ヴィクトリアマイル フラワーカップ
🇺🇸キャッシュコールマイル(G3)

04世代

とにかくすごい家系の出で、ほんですごい能力を秘めた馬だということは上を見てご理解いただけたと思うが、スイープが5着に甘んじた理由も解説しておこう。

魔の桜花賞ペース」という言葉があった。
阪神競馬場は2006年に改修されて外回りコースが誕生したのだが、それまでは直線の短い京都競馬場みたいなコースだった。
コーナーが急で、1600mのスタート位置がコーナーにかなり近いため、距離ロスを避けようと有力馬が前へ前へいっちゃうため、殺人的ペースになってしまっていた。

このシリーズを読みながらレースを見てると、年々芝の状態が良くなっていってるのがお分かり頂けると思う。芝が走りやすいとタイムも出る。
桜花賞は毎年タイムが早くなっていっていた。
91世代のシスタートウショウが1分33秒8の爆速レコードをたたき出していた。それ以降のレースはほぼ1分34秒4以降で決着していたのだが、今世紀に入ってから急加速。ついにムードが1分33秒6レコードで走り切った。

そうなると厳しいのは差し追込勢。今回の桜花賞もヤマニンシュクルが上手いことまくっていったが3着止まり。スイープトウショウも進路取りが厳しく5着。
これで桜花賞は5年連続先行馬の勝利となった。
今では考えられない偏りだ。




オークスの舞台は、様相が今までと大きく変わった。

桜花賞は展開に泣かされたスイープ。
4番人気に後退し、桜花賞で好走したヤマニンシュクルが2番人気に。

そしてダンスインザムードは、単勝1.4倍を背負い1番人気となった。
ダンスインザムードの姉はオークス馬、兄は菊花賞馬とステイヤーズステークスレコード勝ちの馬。

距離が長ければ長いほどいい家系の馬が桜花賞を手中に収めた。三冠牝馬としての可能性が大きく開けたのだ。

しかし、敵は思わぬ所にいた。

飛んだ。分かりやすく飛んだ。
単勝1.4倍。その人気の裏で、ムードはパドックから発汗し、入れ込みまくっていた。
姉ダンスパートナーはゲート難持ちでかつ気性難、兄ダンスインザダークは気性難のせいで追込脚質。ムードは桜花賞で集中力を欠きながら走っていた。

加えて、ムードの所属は藤沢和雄厩舎だった。
実は、調教師の育てかたで馬の適正はかなり変わってくる。
友道厩舎のディープ産駒は3200m走れるし、中内田厩舎のディープ産駒は全員マイラーだ。(偏見です)

藤沢厩舎の活躍馬のほとんどは、賢く、位置取りの融通が効くマイラー〜中距離馬だ。これは恐らく調教方法に起因している。藤沢厩舎は基礎トレを重点的に繰り返してやる方針だったらしい。

ダンスパートナーをゲートに縛り付けたスパルタ白井厩舎と、ダービーで負けたダンスインザダークを菊花賞に勝たせるためガチガチに仕上げた橋口厩舎。そこの違いもあったのかもしれない。

しかし、敵は自分自身にあったというべきだろう。
道中で軽く掛かり、最後は促しても伸びない。
以降、ムードは2400mのレースに出ることは無かった。

影を落としたムードに対し、波乱を演出した勝ち馬はこの馬。

ダイワエルシエーロ

父 サンデーサイレンス 母父 ドクターデヴィアス

13戦5勝[5-1-1-6]

主な勝ち鞍
オークス 京成杯 マーメイドS クイーンC

04世代

またしても福永祐一。絶好調だ。
しかも今回は道中2番手からスーッと先頭に立ち、そのまましぶとく粘って粘って勝利。たぶんキングヘイローのダービーでやりたかったであろう戦法だ。

スイープも追い詰めたが2着まで。
リベンジは秋に持ち越された。



秋華賞

そして迎えた大一番。

ローズSは1番人気ダイワエルシエーロが大敗、スイープは3着。ダンスインザムードは夏のアメリカンオークスに出て2着。トライアルを使わず直行。それでも1.7倍の1番人気だった。

ウマ娘で何度も聞いたことがあると思うが「皐月賞は最も速い馬、ダービーは最も運のある馬、菊花賞は最も強い馬が勝つ」と言われている。

牝馬においてこれがどうなるのか分からないが、秋華賞だけは間違いなく最も強い馬が勝つ。

阪神JFの1番人気と1着馬で決着。
京都競馬場という、日本の中でも屈指の「追込が決まりにくい競馬場」で、上がり33.9秒の脚で追い込んでヤマニンシュクルを完封したスイープ。
この世代で最も強い牝馬は、スイープトウショウだった。




牝馬で強烈な追込馬という、なかなか見ないニューヒロインが誕生した04世代。
一方の牡馬も互角どころか想像を超えるヒーロー達が名を馳せた。

朝日杯
2歳チャンプ決定戦は、我らがペリエのメイショウボーラーが1番人気。
この年は短期免許でボリクリに乗るついでに国内を荒らし回っていた。
メイショウボーラーはウインクリューガーに続くタイキシャトル産駒のGI馬になるべくファンが応援していた馬。実際そうなるのだが、輝く場所はここではなかったようだ。

目には目を、外国人騎手には外国人騎手を。
武豊から、後のイタリアのリーディングジョッキー、バルジュー騎手に乗り代わりでの勝利となった。

コスモサンビーム

父 ザグレブ 母父 レインボウクエスト

16戦5勝[5-3-0-8]

主な勝ち鞍 朝日杯 スワンS 京王杯2歳S

04世代

必殺技みたいな名前だが、「コスモ」は冠名だ。
マイネル、コスモ、ウインは社台グループやノースヒルズと並ぶ競馬の一大勢力と覚えてもらっていい。

バルジュー騎手は以前紹介したファルブラヴのイタリア時代に主戦を務めていた人だった。
コスモサンビームは内国産だけど外国血統。2着メイショウボーラーも父タイキシャトル(外国産馬)に母父ストームキャット(米国馬)と、完全に外国対決(?)だった。



もちろん本年も本年でJRA賞は朝日杯の勝ち馬に授与されたが、後世に名前が残るのはやはりこのレースの出走馬だった。

ラジオたんぱ杯
それは伝説の始まりか、あるいは修羅の道か。

道営の星

コスモバルク

北海道競馬所属

父 ザグレブ 母父 トウショウボーイ

48戦10勝[10-8-1-29]

主な勝ち鞍
🇸🇬シンガポール航空IC セントライト記念 弥生賞

04世代

2004年。地方競馬は困窮していた。
中津競馬場の一連のクソみたいな閉場騒動のおかげで、地方競馬場は閉場ラッシュが続いていた。(調べたい人は調べて欲しい。胸糞でしかない)

少しでも地方競馬のために還元できることはないか。マイネル軍団のオーナー兼バルクとサンビームの所有者の夫、岡田繁幸氏は考えた。

ちょうどその頃、北海道競馬で外厩制度が使用可能になった。今でいうノーザンファーム天栄やチャンピオンヒルズのように、所属の厩舎以外で好きに調教できちゃうアレだ。
これを利用して、北海道からヒーローをつくろう
そう思った岡田総帥が北海道から彼をデビューさせ、北海道所属のまま中央競馬に参戦させ、走らせた。

中央初戦でスペの馬主さんの超人気馬ハイヤーゲームを破ると、ラジたんでもブラックタイドを破った。
知ってる方も多いと思うが、ブラックタイドはディープインパクトの兄であり、キタサンブラックの父だ。
彼らを倒したということは、バルクの未来は明るいということ。

しかし、1つだけ懸念点があった。
北海道を盛り上げるためか知らないが、岡田総帥は北海道所属の五十嵐騎手を乗せることにこだわった。
しかし、バルクは五十嵐騎手が御すると死ぬほど外にヨレた。上のレースでもそうだ。
これが度々レースを破壊し、次第に腫れ物扱いされる存在になることは、未だ知る由もない。



皐月賞

弥生賞もバルクが制し、「いよいよ地方の星誕生か」というムードが生まれていた。
能力は出走馬の中でも上位。
普通にやれば負けない強さは持っていたのだが。

10番人気の大激走。これだから競馬は面白い。

超克の冒険者

ダイワメジャー

父 サンデーサイレンス 母スカーレットブーケ
半妹 ダイワスカーレット

28戦9勝[9-4-5-10]

主な勝ち鞍
春秋マイル(マイルCS連覇) 秋天 皐月賞 GII2勝

主な産駒
アドマイヤマーズ レシステンシア レーヌミノル
カレンブラックヒル メジャーエンブレム
コパノリチャード ブルドッグボス ノーヴァレンダ
レーヌミノル ホッコーメヴィウス セリフォス

母父としての主な産駒
ショウナンナデシコ ナミュール
グランブリッジ ラヴェル ベルピット

04世代

またしてもデムーロ。
道中2番手から直線で突き放す。
完璧な競馬を見せつけられ、バルクは2着に敗れた。




NHKマイルカップ
そんな波乱も霞むほど、衝撃のGI勝利を収めた馬がいた。

シンザンやマルゼンスキー、ブライアンのように、生まれて来る時代を間違えた(と思うくらい強い)馬は突然に現れる。
されどここまで欠点がなく、仮に今ターフを走ってもGIを勝てると確信できる馬は、日本競馬史に何頭いるだろうか。

怪物が現れた。きっと誰もがそう思った。

1頭だけ古馬が混じっているかのような、あるいは何かブースターのようなものを積んでいるんじゃないかと疑ってしまいたくなるような、そんな走りだ。
3歳マイルGIを5馬身差クロフネのレコードを0.5秒更新
当たり前だが、以降このレースを5馬身どころか4馬身ちぎった馬もいない。

元々この馬は皐月賞に出る予定だった。しかし京成杯で乗り替わりのバルジュー騎手がしくじってしまい3着。同じ中山2000mの皐月賞出走に不安を覚えた陣営は、いわゆる松国ローテに打って出た。

馬主は金子さん、調教師は松国さん。クロフネの時と同じだ。

毎日杯を快勝し、NHKマイルを圧勝。
そして大王は最強になる。



日本ダービー

一生に一度の夢舞台へ。

皐月賞馬ダイワメジャー、2着馬コスモバルク、ラジたん3着から青葉賞を勝利し雪辱に挑むハイヤーゲーム。同じく皐月賞で大敗し京都新聞杯で巻き返してきたハーツクライ。そしてコスモサンビーム

そんな強豪を相手に、最強の大王が玉座につく。

超ハイペースで逃げるバルク。
疲れからか第4コーナーでバルクが外に膨れ、かなりの不利を受けながらも悠々と差し切り。
後ろで脚を溜めていたハーツクライに影すら踏ませず、真っ向勝負を挑んだハイアーゲームを蹴落としての勝利。

今、最強の大王が降臨した!キングカメハメハ強し!

三宅正治

1990年。アイネスフウジンが競走馬としての生涯を全て注ぎ込んだ魂のレコード、2:25.3。
それを2秒も更新する、世紀の大レコード、2:23.3

NHKマイルと東京優駿を制し、史上初の変則二冠馬となったキングカメハメハ。

先程、ダービーは最も運のある馬が勝つと言った。
しかし、これほどまでの圧倒的な走破タイムと変則二冠。とても運の範疇ではとどめられない。

キンカメは運を実力で捩じ伏せた。そう言っていいだろう。

大王

キングカメハメハ

父 キングマンボ 母父 ラストタイクーン

8戦7勝[7-0-1-0]

主な勝ち鞍
変則二冠(NHKマイル、ダービー) 神戸新聞杯 毎日杯

2009〜10年日本リーディングサイアー
2020〜21年日本リーディングブルードメアサイアー
主な産駒
ロードカナロア ドゥラメンテ アパパネ レイデオロ
ホッコータルマエ ルーラーシップ ローズキングダム
ラブリーデイ ミッキーロケット レッツゴードンキ
チュウワウィザード リオンディーズ ベルシャザール
タイセイレジェンド スタニングローズ エアスピネル
他多数
母父としての主な産駒
デアリングタクト ソダシ インディチャンプ
ワグネリアン モズカッチャン ブラストワンピース
アカイトリノムスメ ジオグリフ クラウンプライド
タガノエスプレッソ ステイフーリッシュ

04世代

ディープやオグリ、テイオーなど、稀代の名馬はその馬にしか成し得なかったドラマや記録があり、それはいつまでも語り継がれるものだ。

しかしキンカメは知名度が低い。その活躍期間の短さも影響しているが、本来はディープやオルフェ、ブライアンやオペラオーらと並んで最強馬の一角と扱われていいほどの存在だ。今でも高い評価を受けているが、それでも過小評価だと思う。




史上初の変則二冠を達成し、距離適性から天皇賞へ挑むとされたキンカメ。変則二冠からの秋古馬三冠が決まれば空前絶後。特別待遇で未来永劫語られる。

秋の神戸新聞杯でも上がり33.7秒という破格のタイムでハーツクライ以下後続を蹴散らし勝利。
天皇賞でシンボリクリスエスを超える勝利を見せるか。そう思われていたのだが…


強烈なレコードや、ハードな展開になったレースの出走馬は、往々にして過酷なダメージを受ける。
馬の疲れは目には見えない。疲れを伝える手段が無い。
フウジンのレコードを2秒、例年のタイムを3秒も上回るダービーの激走は、出走馬の身体を蝕んでいた
あのダービーはやがて、「死のダービー」と呼ばれる事になる。

出走馬のうちキョウワスプレンダフォーカルポイントコスモサンビームマイネルデュプレが故障で長期離脱マイネルマクロスが屈腱炎を発症し引退マイネルブルックは最後の直線で脱臼し予後不良。3着ハイアーゲームもこれ以降一気に成績が低迷、2着ハーツクライも3歳秋シーズンは散々で、ダイワメジャーも以降数年苦悩の日々を過ごす。

そして、キングカメハメハは屈腱炎で引退した


引退後は上記の通り種牡馬として名馬を輩出し尽くしたと言ってもいい。その上、顕彰馬の父にもなったキンカメだったが、もっと現役が見たかったと誰もが思っていたはずだ。

キンカメ鞍上のアンカツさんは未だにキンカメ大好きおじさんで、笠松時代のオグリの話は全然しないのにキンカメとダスカの話は無限にする。それだけ衝撃的な強さだったのだろう。




キンカメ不在の菊花賞
ハイアーゲームはオールカマーで調子を崩したため、もちろんハーツクライが1番人気だった。

レースは今から思えば納得の結果だった。
ダービーに出ていない馬が、菊花賞を制したからだ。

皐月賞はイタリア人騎手、NHKマイルとダービーは笠松出身の元地方競馬騎手、そして菊花賞は、現役の地方競馬騎手が勝利した。

魂の激流

デルタブルース

06/07シーズンオーストラリア最優秀ステイヤー

父 ダンスインザダーク 母父 ディクシーランドバンド

32戦6勝[6-2-3-21]

主な勝ち鞍
🇦🇺メルボルンカップ 菊花賞 ステイヤーズS

04世代

鞍上、岩田康誠。調教師、角居勝彦
兵庫の地方競馬の騎手が、重賞どころかオープン戦すら勝ててない馬で完勝した。
中央の根幹を揺るがす大事件だった。
実際、鞍上も「勝ってもうたわ…」と思ったらしい。

父はダンスインザダーク。ダンスの鞍上だった武豊とハーツクライは大敗。
何から何まで時代の変化を感じさせるレースだった。


不遇の一年

一方の古馬戦線も激動の一年となったのだが、どうも存在感の薄いレースばかりだった。

高松宮記念では、デュランダルがものすごい脚で追い込みをかけたが…

クビ差でしのいだ福永祐一。昨年2着のリベンジを果たした。

世界の良血

サニングデール

父 ウォーニング 母父 ダルシャーン

27戦7勝[7-4-4-12]

主な勝ち鞍
高松宮記念 CBC賞 函館SS ファルコンS 阪急杯

02世代

馬の父ウォーニングも母父のダルシャーンもヨーロッパのGI馬。鞍上も天才福永洋一産駒(?)福永祐一。良血コンビでの制覇となったが、以降はJBCスプリント3着が最高成績で引退となった。




産経大阪杯(GII)
春の中長距離重賞も波瀾含みで進む。

GIでは少し足りないバランスオブゲームと、昨年の女王アドマイヤグルーヴを抑え、1.8倍の1番人気ネオユニヴァース
59kgという過酷な斤量を背負いながらも、執念の勝利を果たした。

ダービー以来1年弱振りの勝利を手にしたネオユニ。
しかしここから復活…とはいかなかった。
よりによって春天に挑んじゃったからである。


天皇賞(春)
二冠馬ネオユニヴァース、菊花賞馬ザッツザプレンティ、未完の大器ゼンノロブロイリンカーンら「4歳四強」で決着するムードが漂っていたが…
このレースは、説明しようにも「すごいレース」としか言えない。
とりあえず見てほしい。

そんなことある?

嵐を呼ぶ逃げ

イングランディーレ

父 ホワイトマズル 母父 リアルシャダイ

34戦8勝[8-3-2-21]

主な勝ち鞍
天皇賞(春) 日経賞 ダイヤモンドS
ブリーダーズGC(交流GII) 白山大賞典(交流GIII)

02世代

この馬の母父リアルシャダイは社台グループがスタミナ血統に傾倒していた時代の産物。ライスシャワーの父と言えばそのスタミナもなんとなく想像できるだろう。

その血を受け継ぎ、そんで不良馬場で凱旋門賞2着の父ホワイトマズルのパワーと根性とムラのありすぎるところを兼ね備えたイングランディーレに死角はなかった。

地方GII、ダイオライト記念2着からの参戦。そして横山典弘の大逃げ。

まさか終盤まで逃げ粘るとは思うまい。この馬、実はダイヤモンドSの勝利経験があるのだが、前走と前前走がダート長距離戦のため判断が鈍る。

リンカーンもザッツザプレンティもネオユニヴァースも届かず。
果敢に追い上げたゼンノロブロイだけが追いすがるも、着差は7馬身。力業で押し切った。

こんなとこでもしっかり2着に入ってくるゼンノロブロイ。やはり堅実。しかし影が薄い。


その後、ネオユニヴァースは骨折が判明し、引退した。脚元のつなぎがやわらか〜い馬だったため、その分折れやすかったのかもしれない。
ネオユニの種牡馬としての栄光は後々語ることになる。




安田記念
でもまた波乱が起こった。

昨年好成績を残したローエングリンが1番人気、2番人気は連勝で波に乗ってるウインラディウス、3番人気が年明け一発目でここを選んできたファインモーション
どの馬も不安要素がある中、先頭を駆けたのは孤高の善戦マンだった。

馬群をパワーでこじ開け差し切り勝ち。
アンカツの好騎乗と馬の息が噛み合った勝利だった。

孤高の最終兵器

ツルマルボーイ

父 ダンスインザダーク 母父 サッカーボーイ

32戦7勝[7-6-3-16]

主な勝ち鞍 安田記念 金鯱賞 中京記念

主な産駒 シャア

01世代

母の名前がツルマルガールだからっていくらなんでも安直すぎネーミング。親子共にコアな人気のある競走馬だった。

ウマ娘的にはツルマルツヨシが秘密兵器らしい。ならばボーイは最終兵器だろう。
いくつものGIを紹介してきたが、この馬がすごい数入着していることは、レースを毎回飛ばし飛ばしでも見てる人なら分かっているはず。

02年のメトロポリタンSでオークス馬レディパステルと覚醒前タップダンスシチーを破り、金鯱賞で末期エアシャカールを倒してからというもの…
ダンテフレーム宝塚、ナリタトップロード京都大賞典、タップダンスシチー金鯱賞(1年目)、ヒシミラクル宝塚、ボリクリ天皇賞(秋)で2着だ。
シルバーコレクターにもほどがある

乗り替わり一発目、ようやくここで掴み取った栄冠。
シルバーコレクターにファンはつきもの。そんな馬のGI制覇は何よりも喜ばれる。

ここで出し切ってしまい、キャリア末期はいい成績が残せなかったことと、ダンスインザダークが長距離馬ばっか出しすぎて不人気になったことから種牡馬入りできず路頭に迷ったが、色々あって今はツルマル様として崇め奉られている(????????)

とりあえずYouTubeを見てほしい。「ツルマル様のしもべ」で検索。
ウマ娘リリース初期にウマ娘動画見てたらやたらと関連動画に出てきた記憶がある。まさか同じ冠名の馬が実装されると思ってなかった。ボーイも来てくれ!




宝塚記念の前に金鯱賞も解説しよう。
ちょうど旬のネタなので。

札幌記念と並んでGI並のメンツが出揃うことでおなじみ金鯱賞。
もちろんこの年もタップの他にスティルインラブ、ザッツザプレンティ、アドマイヤグルーヴ、ブルーイレヴン、GII2勝&大阪杯2年連続2着マグナーテンが出揃ってほぼGIとなった。

斤量59kgを背負いながも堂々の1番人気に支持されたタップは…

サイレンススズカ(斤量58kg馬なり)が出した爆速レコードを0.3秒も更新し金鯱賞2連覇。伝説になった。
僅差2着に食いこんでるブルーイレヴンもすげえよ…

ちなみにこのレコードはローゼンクロイツが更新。(斤量は57kg)そして2022年にジャックドールがタイレコードを出して今に至る。(ただし斤量は56kg)




そして宝塚記念
グランプリでタップダンスシチーがまた魅せた。

ジャパンカップはすごくうまくハマってしまった。ハマりすぎてしまった。
タップの本質はこういうレースにある。

ローエングリンが息を入れるところで先頭に立ち、完全に潰しにかかった。
そこからはいつも通りの逃げで堂々の1着。

常に一定のペースで逃げの手を打てるタップだからこそ組み立てられたレースだ。これが出来るのはタップだけ。

こんな馬がその年の凱旋門賞で(輸送のトラブルもあったが)17着に大敗するのだ。
アンカツさん含め色んな騎手が言ってたけど「凱旋門賞は異種格闘技」なのだと思う。



そして夏の札幌記念
ここはファインモーションがぶちかました。

安田記念の大敗が幻だったかのような勝利。
上がり34.9秒。洋芝の札幌競馬場でこれは破格。
牝馬で57kg背負ってこれなので底知れぬ強さだ。

札幌で57kgで上がり35秒切れる馬は、2000m最速のトーセンジョーダンや、全盛期ブラストワンピースなどの限られた馬しかいない。


札幌でこんだけいけるんだから天皇賞使えば…と誰もが思っただろうが、それでも次走はマイルCS。
天皇賞(秋)の武豊はアドマイヤグルーヴの先約があるからだ。つくづく振り回されっぱなし。




天皇賞(秋)
ロブロイ以外に本命と言える馬がいなかった。
今回は初コンビのペリエ。
ペリエと言えばシンボリクリスエス。
既にここの勝ち方を分かりきってるジョッキーとのコンビということで、勝ちきれないロブロイでも3.4倍の1番人気だった。

ゼンノロブロイという馬は、善戦させる分には誰が乗っても強い。だが、ハイレベルレースになると勝たせるのはとても難しい。
出走しているGIレースを見返しても、ロブロイだけなんか手綱の動かし方が独特なため、ハミの受け方にも癖があったのかもしれない。騎手の技術が無いと伸びきらない馬だったのだろう。

その点、秋天は文句無しといえるレースだった。
逃げるローエングリンのペースになったが、斤量の利を活かして伸びたルメール騎乗のダンスインザムード。アドマイヤグルーヴも末脚を爆発させる。
そんな中、パッカリと開いた進路からじわりじわりと伸びたペリエ騎乗のロブロイ。

外国人騎手&藤沢厩舎のワンツー
粘ったアドマイヤグルーヴやツルマルボーイをしっかりと差して勝利した。

長く苦しい善戦マンとしての日々は、名手オリビエ・ペリエの手によって終わりを告げたのだった。




エリザベス女王杯

秋のビッグタイトルの裏、牝馬路線も熱かった。
女王に立ちはだかるは世紀の問題児。
天皇賞から中1週。それでも見せた女王の強さ。

ちょっと出遅れたスイープトウショウ。この時点で少し不利だった上に、直線に入ってからのアドマイヤグルーヴの瞬発力を見てほしい。あんな走りをされるとスイープトウショウはもう勝ち目がない。

堂々の走りで連覇達成のアドマイヤグルーヴ。
有馬記念には出走せず、翌年の大阪杯に備えた。




ジャパンカップ
はもちろんロブロイの一強ムードとなった。
3200を走れるスタミナをもってすれば、2000でやった走りを2400で再現するなど容易なこと。

名手ペリエの手によって、黒き英雄は更なる輝きを放つ。

完全にロブロイを「手中に入れた」ペリエ。
沈みかけたルメール騎乗のコスモバルクがもう一度盛り返したり、後方待機を選択したアンカツ騎乗のデルタブルースが末脚を爆発させたりしていたが、全て後のまつり。

ロブロイは3馬身突き放し悠々とゴールイン。
不安点のない完璧な競馬で、ペリエ、藤沢師ともに悲願のジャパンカップ初制覇を成し遂げたのだった。


秋古馬二冠はペリエ&ルメールでワンツー。
こうなると有馬記念もその流れかと思われたが、ルメさんは国に帰った。
翌年に来日し募った思いを爆発させるのだが、それは次回語ろう。



有馬記念

単勝2.0倍という過去最高の人気を背負ったロブロイには、大きな期待と記録がかかっていた。
ここに勝てばオペラオー以来の秋古馬三冠馬。

天敵は再び五十嵐に戻ったコスモバルクと、凱旋門賞帰りのタップダンスシチー。すべて逃げ先行馬。
レースは予想だにしないほどの消耗戦になった。

有馬記念というレースは、基本的に差しやまくりが決まりやすい。
有馬に出られるような一流の馬は基本的に能力がずば抜けている。先陣切って粘り続ける馬の二枚腰より、ラスト600mをスパートかけてゴールに向かう馬の末脚の方が抜けている。

だいたいの有名な有馬記念のレースは差し追い込みorまくりが勝ちパターンだ。(オグリ、マヤノを除く)

しかしこのレースは、逃げ馬と2番手の先行馬との消耗戦。未だかつて無いパターンだった。

極限の逃げで他馬を圧倒するタップダンスシチー。
他馬のスタミナをジワジワと削る絶妙な逃げ。
レース終盤に200m11秒台連発という、地獄のペース配分で先頭を駆け抜ける。(netkeibaでこの年とエフフォーリアの年の有馬記念のラップタイムを比較してみると分かりやすいかも)

道中3番手で粘っていたヒシミラクルが疲れ果て、すごい勢いで失速していく中、沈むどころか最後の力を使ってなんとかタップを捉えるロブロイ。
半馬身差付けた後の脚色で、いかに極限のレースだったかがわかる。


天皇賞の差し切り勝ち、ジャパンカップの好位から突き放しての勝利、有馬の粘り勝ち。
それぞれ強い勝ち方をして、オペラオー以来史上2頭目の秋古馬三冠
そして、サンデーサイレンス産駒初の年度代表馬になった。


意外かもしれないが、フジもバブルもスペもタキオンもカフェもネオユニも年度代表馬にはなれてない。

97年エアグルーヴ(トニービン)
98年タイキシャトル(デヴィルズバッグ)
99年エルコンドルパサー(キングマンボ)
00年テイエムオペラオー(オペラハウス)
01年ジャングルポケット(トニービン)
02〜3年シンボリクリスエス(クリスエス)
そして04年がゼンノロブロイ(サンデーサイレンス)。
父サンデーサイレンスの産駒で年度代表馬になれた馬はたった2頭。思ったより少ない。


そんな“選ばれた馬”ではあるが、ご存知の通りロブロイは空気だ。
この有馬以降急激な勢いで衰えが来たとか、タップダンスシチーが嘘みたいに強くなって有馬の価値が下がったとか、そういうのではない。
ロブロイはここからもしっかり一流馬としての威厳を保ち続ける。なのに空気だ。



ロブロイほど過小評価された馬もいないと思う。
どんなレースでも崩れない、どんな位置からレースを組み立ててもある程度の結果を残せる、スタミナがある、重馬場もこなせる…

鞍上さえ噛み合えば最後に差せるタイプのカレンブーケドールみたいな能力持ってるのに、どうしてこんなにも人気がないのか。

これはもう「ロブロイが活躍した時代の古馬戦線自体が空気だった」と言った方が正しいかもしれない。

2004年はキングカメハメハが話題をかっさらい、そして2005年は…言うまでもない。

だが、ウマ娘世界線においてキンカメと某名バは存在できない。(許可とれないから)
そんなウマ娘界隈の中でだけでも、ロブロイ再評価の流れが来てほしいと願うばかりだ。

あとがき

ロブロイ(ウマ娘)のキャラ設定って、実馬だけでなく世論が入ってると思うんですよ。
地味。目立たない。けどすごい能力を秘めてる。
だから寡黙少女(実はナイスバディ)になったのかもしれない。絶妙な采配。

そんなロブロイチャンですが、実は旋回癖があったり、目立たないだけで癖が強かったらしいですね。なので産駒は一癖も二癖もあるやつばかりで…
いずれ紹介することになるかも。乞うご期待。

それではまた次回〜。
トゥインクルトゥインクル〜♪


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