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ウマ娘で学ぶ競馬史 #21 幻の世代 (2000〜01)

ゆるゆるな画像でこんにちは。
みなさん、ウマ娘やってます?
タマモクロスいつ実装されるんだ問題で界隈は持ち切りですが、SSRカフェがかっこよかった&ファインがかわいかった&シナリオが神がかってたので許しましょう。

ちなみに僕はシービーさん、アヤべさん、タマちゃんさんの三面待ちです。(投稿前にタマちゃんさん来たんでフウジンさんとの三面待ちにします)


こういう記事を書いている側としては、アニメで出てこなかったウマ娘のサポカを何よりも早く実装してくれと思うばかりです。紹介時に使えますからね。
その点ではカフェのSSRとイナリワンSRの実装は嬉しいです。
特にカフェは史実のイメージピッタリの厨二感あふるるデザイン。痺れますよ。

今回紹介するのはカフェ世代。追加されたイラスト素材を余すことなく使っていきましょうか。


前回とは打って変わって、“幻の最強世代”とも言われたほど実力者の多い世代。
幻になってしまった経緯を語ります。
(※めっちゃ文字数多いんで冬休み全部使って読んでください)

↑前回

伝説① 新馬戦

01世代は伝説の世代だ。目次にもある通り何個か伝説があるので順を追って説明していきたい。
まずは「伝説の新馬戦」から。


競馬はGIが全てではない。
生産者やホースマンにとって最も重要なレースは「午前に行われるレース」だ。

午前の新馬戦や1勝クラスで競馬をちゃんと覚えた馬が、後に大成し伝説になる。

新馬戦は年間300レースほど。
年間7000頭の競走馬が国内で生まれ、デビューできない/海外へ輸出される馬がだいたい合わせて1000頭ほどと仮定し、3〜4000頭が地方競馬で走るとすると、中央でデビューできる馬は2〜3000頭くらいのはず。(実際は違うかもしれんけど)


つまり、確率的に新馬勝ちの可能性はガバガバ計算で1%くらい。
前回のエイシンプレストンのようにダイタクリーヴァみたいな強い馬に負ける可能性もあるし、GI9勝アーモンドアイですら新馬戦は負けてる。(ニシノウララ最強説定期)

そして、新馬戦自体にもムラがある。
ローカル競馬場で6頭立てで行われる新馬戦と、主要場で12頭立てで行われた新馬戦なら絶対に後者の方がレベルが高い。

中でも極めてレベルの高い新馬戦を、人々は「伝説の新馬戦」と呼ぶ。


クラシック01世代を語る上で外せない5つのレースの内の1つが、この伝説の新馬戦だ。

未勝利で終わっていく馬もいる中、出走馬8頭全頭が後に勝利を挙げていて、8頭中4頭が後のオープン馬。超ハイレベルだ。


1着はジャングルポケット。後のダービー馬。
2着はタガノテイオー。幻のGI馬。
3着はダイイチダンヒル。若葉ステークス(皐月賞トライアル)勝ち馬。
5着はメジロベイリー。後のGI馬。
これもうGIIIでよくね?って思うくらいのハイレベルさ。



実際、このレースから3週間後の札幌3歳ステークス(GIII)では、ジャングルポケットとタガノテイオーがワンツーフィニッシュ。3着は後のGI馬テイエムオーシャンだった。




その後、ジャンポケはもちろん朝日杯…ではなくラジオたんぱ杯(現ホープフルS)へ直行。
中山競馬場が超苦手かつ距離が長い方が向いているトニービン産駒なので、当時は中山開催だった朝日杯を避け、阪神開催だったラジたんに挑んだのだろう。

タガノテイオーは東スポ杯(GIII)へ。
新馬戦で2着ののちもう一戦し勝利、そして札幌3歳→東スポ杯と、なかなか使い詰めてはいたが底力で勝利。
「ジャングルポケットより下」という評価を払拭すべく、そのままGIに直行。
父サンデーサイレンス、母父ダンジグという良血馬だったテイオー。ニッポーテイオー、トウカイテイオーに次ぐ第三の帝王になる日は目下に迫る。




朝日杯。ついにその日が来た。
昨年と打って変わって、今年の有力馬はほぼ全頭が内国産。ここの勝ち馬がそのまま三冠を制すことになるかもしれない。
大きな期待がかかった一戦。1番人気のタガノテイオーが3.9倍と、かなり票が割れた。

上位人気全頭が負けを経験している。
明確な本命の不在。大荒れの予兆だ。

坂を駆け上がり鋭く伸びる一頭。
まさかまさかのメジロだった。

メジロの威光

メジロベイリー

父 サンデーサイレンス 母 レールデュタン
母父 マルゼンスキー 半兄 メジロブライト

7戦2勝[2-0-2-3]

主な勝ち鞍 朝日杯

01世代

タガノテイオーは伸びなかった。
そしてそのまま星になった。
最後の直線でボキッと聞こえるほどはっきり折れていたらしい。

その状態でなお追わせた藤田騎手の思考が読めないが、もう助からないから最後くらいはという感じだったのだろうか。


連対率100%。2着を死守し消えた無冠の帝王。
2000mも走れるポテンシャル。翌年も現役が続いていればデジタルのライバルにもなり得た存在。幻のGI馬というより、確実にGIを勝てていた存在。種牡馬としての期待値も高かった。それだけに、誰もがその別れを惜しんだ。



メジロの苦悩

そして、勝ち馬は10番人気メジロベイリー横山典弘。
ノリさんが穴馬を勝たせるのはいつもの事だから置いとくとして、朝日杯でメジロ。違和感を感じないだろうか。


ベイリーはサンデーサイレンス産駒。ブライトの弟。
今までのメジロならブライトの母レールデュタンには死ぬまでライアンを付けさせていたのだろうが、それでは立ち行かなくなっていた。資金難だ。

87年生まれのライアン世代から、93年のドーベル世代まで、5世代に渡ってGIどころか重賞を勝つ馬すら現れなかったメジロ牧場。ドーベルがGI5勝してなかったらとっくに終わっていたのではとすら思う。

そんな状態で当然考えるのは、「天皇賞(春)向けのスタミナ配合の馬だけで馬主生活を続けるのは、これからの時代厳しいんじゃないか」ということ。


当時はサンデーサイレンス、ブライアンズタイム、トニービン全盛期。リアルシャダイやパーソロン直系全盛期の頃のように、「スタミナで押し切って勝つ馬」は前時代のもの。
スペシャルウィークやテイエムオペラオーのように、「長距離“も”走れる心肺機能を持ったスピードのある中距離馬」がトレンド。
競馬の高速化」が進んでいたのだ。


色々と試行錯誤した結果、メジロ牧場は「天皇賞を勝てる」より「重賞を勝てる」を優先してしまい、夢のあととなっていく。ベイリーとまた今度紹介するメジロダーリングがその予兆だった。


メジロ最後のGI馬、ベイリーは皐月賞に向けての調整中に故障。復帰後も輝けず屈腱炎発症で引退。
嘘のようにあっけないメジロの衰退。
そして社台グループの勢いはまた強くなる。


伝説② ラジオたんぱ杯

ジャンポケ新馬戦と同じく「伝説の一戦」として語り継がれているのが、同年12月のGIIIラジオたんぱ杯

ジャンポケが挑む一戦。
朝日杯1〜2着相手に勝ち切った彼なら1番人気は不動かと思いきや…まさかの3番人気。
他にも化け物が2頭いた。

00世代ダービー馬アグネスフライトの弟、アグネスタキオン。比較的デビューが遅めで12月。
ラジたんと同じ阪神2000mでデビュー。
上がり3F33.8秒という当時では考えられない異次元の走りを見せた。
ちなみにスペさんが“生涯で”見せた最速の上がりが5歳の時の天皇賞(秋)で34.5。
天皇賞の方が直線長いし身体も出来上がってるし圧倒的にアドバンテージがあるのにこれだ。
こいつで2番人気です。おかしいよこの年。

一番人気は1勝クラス、エリカ賞で伝説の新馬戦3着ダイイチダンヒルを3馬身半突き放したクロフネ
しかもムチを軽く2発打っただけ。余裕の勝利。
2戦連続レコード勝ちの怪物。
走り方にもまだまだ余裕があり、本気で追わせたらただものじゃないと思われていたに違いない。
圧倒的人気。単勝1.4倍。

もちろん勝つのは…

タキオンなんですけどね。

後のGI馬を完封。メジロブライトが記録したレースレコードを3秒縮め2:00.8。2歳芝2000m日本レコード
驚異的なスピードで全ての馬を過去にした。

(ちなみにこの記録は19年間破られなかったし、破られた日は超高速馬場で3着までがタキオンのレコードを超えていた。なお勝ち馬はオープン入りも出来てない)

2着にジャングルポケット、3着にクロフネと、人気と真逆の結果にはなった。けど4着には5馬身差付けたし3頭がみな強いのは確かだった。

20世紀の終わりに大きなインパクトを残した2歳重賞。レースをリアルタイムで見た人は「この3頭でクラシック決まるだろ」と思った人がほとんどなんじゃないだろうか。

で、ここからは実際そうなったよという話。


不動の三強

地獄のような不良馬場で行われた弥生賞
馬場以前にタキオンが出るということで回避馬が続出し8頭立て。なんだかマルゼンスキーみたい。

結果はご覧の通り。
不良馬場とは思えない脚の伸びで5馬身差。
この時点で三冠を確信した競馬ファンも多かったはず。

それでも主戦の河内洋騎手は「この馬の本調子じゃない」と首を傾げていた。どういうことなの…



スプリングステークス
河内洋は幸せな悩みを抱えていた。
タキオンに加えて、もう一頭の皐月賞馬候補の主戦になってしまったからだ。

数奇な運命

アグネスゴールド

父 サンデーサイレンス 母父 ノーザンテースト
全兄 フサイチゼノン

7戦4勝[4-0-1-2]

主な勝ち鞍 スプリングS きさらぎ賞 若駒S(OP)

2019〜2020ブラジルリーディングサイアー
主な産駒
🇺🇸Ivar 🇺🇸In Love
🇧🇷Janelle Monae 🇧🇷Mais Que Bonita

01世代

タキオンと同じ馬主、同じ厩舎、同じ騎手でデビューしたゴールドが、タキオンと同じく無敗で皐月賞に挑めることになってしまったのだ。

しかもこの馬もデビュー戦では上がり33秒台出せてる怪物。
記者に「どっちに乗るんですか?」と聞かれた河内騎手は「どっちも乗らないとかね(笑)」とふざけて返していたが、最初からタキオンに乗ることは決めていたらしい。タキオンは特別な存在だった。


しかしその後、ゴールドの骨折が判明。
兄のフサイチゼノンもエアシャカールに弥生賞で勝っときながら故障で皐月賞を目指せなかった馬。そういう家系だったのかもしれない。
もちろん素質はただならぬものがあったため種牡馬入り。で、なんやかんやで時は経ち、彼はブラジルで三冠牝馬の父になる。そうはならんやろ。

(2021年のBCマイルでも産駒インラブが日本馬に先着して3着になりました。筆者はもう一頭のゴールド産駒イヴァールの馬券を買ってたので外しました。他馬のワイドが当たったのでセーフ)


少し時を戻す。きさらぎ賞にて、そんなゴールド相手に半馬身差まで詰め寄った馬がいた。

栄光と零落

ダンツフレーム

父 ブライアンズタイム 母父 サンキリコ

26戦6勝[6-6-0-14]

主な勝ち鞍 宝塚記念 新潟大賞典 アーリントンC

01世代

天皇賞馬モンテプリンスを産んだ牝系から生まれたダンツフレーム。デビューから5戦で全連対と、前評判に違わぬ強さを見せていた。

タキオンを避けるようにアーリントンC(1600mGIII)で重賞初制覇を挙げると、そのまま皐月賞へ。距離延長→距離短縮→距離延長というなかなか気持ち悪いローテだが、フレームはその後も期待に応える。



閃光と消ゆ

皐月賞はもちろんタキオンが1番人気だった。
2番人気ジャンポケも共同通信杯を楽に勝ったとはいえ、役者が違った。

他の追随を許さない圧倒的なスピード。
その名になぞらえて、彼はこう呼ばれた。

光速の貴公子

アグネスタキオン

父 サンデーサイレンス 母 アグネスフローラ

4戦4勝

主な勝ち鞍 皐月賞 弥生賞 ラジオたんぱ杯

2008年日本リーディングサイアー
主な産駒
ダイワスカーレット ディープスカイ ロジック キャプテントゥーレ リトルアマポーラ レーヴディソール

母父としての主な産駒
ノンコノユメ ワイドファラオ ニシノデイジー

01世代

(き…貴公子…?)

ウマ娘ではマッドサイエンティストなタキオンさん。
これにもちゃんとした理由があるのだ。


この日、タキオンの三冠を誰もが思い描いた。
対して、陣営は誰もがその状態を憂いていた。
「到底この馬の本調子ではない」と、騎手も調教師も語った。
きっとそれは、タキオン自身もだった。
追い切りを嫌がり、ゲート入りを渋り、直線でも手応えは悪いまま。いつかの二冠牝馬を彷彿とさせる。

アグネスフローラの家系は虚弱体質の馬が多い。タキオンももれなくそうだった。圧倒的なスピードに身体が付いていかなくなっていたのかもしれない。


ご覧の通りタガノテイオーの朝日杯から始まり、アグネスゴールドが故障してるほどヤバい馬場の中山競馬場。もしかしたら…と語った調教師の悪い予感は当たり、タキオンの脚部の爆弾が爆発してしまった。

長浜調教師は彼の引退会見で苦渋の表情を浮かべながらこう語った。
「夢であって欲しい」
「レースに出られなければ、負けと同じ」と。

タキオンは無敗のまま種牡馬入りするも、一部を除きほとんどの馬に脚部の弱さが遺伝してしまい、後継種牡馬を作れぬままこの世を去ってしまった。

とはいえ50年振りに日本産馬で日本のリーディングサイアーになったり、GI馬何頭も生み出したりして大仕事をやってのけてはいる。

同期の馬が日本とブラジルでリーディングサイアーになってるってなかなか無いこと。地球の真裏だぞ?


ちょっと脱線はしたが、ここにウマ娘タキオンのキャラ付けの理由がある。

もしもタキオンが人並みの知能を有していたら…真っ先に自分の脚を頑健にする方法を試すのではないか。
その過程でマッドサイエンティストになることくらいは厭わないだろう。
タキオンは最強ではないが、最強かもしれなかった。
その可能性を究めるにはああなるしかなかったのだろう。ウマ娘タキオンはそういう意匠でデザインされたのだと思う。おそらく。


皐月賞で世代最強タキオンがターフを去った。
またしても2着に食い込んだダンツフレームはダービーで再起を狙う。


時代を創る者たち

NHKマイルカップ
次の世代最強格はここにいた。

鞍上に武豊を迎え、磐石の体制で迎えた初GI。

後方からぶち抜いて栄光を手にした、その馬の名は…

白銀の来訪者

クロフネ

🇺🇸外国産馬

父 フレンチデピュティ 母父 クラシックゴーゴー

10戦6勝[6-1-2-1]

主な勝ち鞍
ジャパンカップダート NHKマイルC 武蔵野S

主な産駒
ソダシ カレンチャン アエロリット アップトゥデイト スリープレスナイト ホエールキャプチャ クラリティスカイ フサイチリシャール ホワイトフーガ

母父としての主な産駒
クロノジェネシス ヴェラアズール ノームコア
レイパパレ スタニングローズ ノーヴァレンダ

01世代

(く、黒船…?)

共同通信杯を目標にしていたが、ちょっと状態面で不安があったため毎日杯から始動し、5馬身差で圧勝し、このレースに挑んだクロフネ。無事勝利した。


米国で生まれた世代屈指の評判馬。来訪者感を出すためにこの馬名になったのだろうか。白いけど

馬名に違わぬ超弩級の衝撃を与え、この馬が次に挑んだのは…世代の頂点だった。



日本ダービー

21世紀の幕開けとともに、日本競馬は変化を迎えていた。

マル外解放元年と言われた2001年。
ついに外国産馬もクラシックに出走出来るようになったのだ。

昨年もダービー2着と好成績を残している武豊の駆るクロフネ。最初からダービーに出る予定でこの馬名が付けられたのだろう。内国産馬限定だった鎖国的クラシックを打ち壊すのは、太平の世を揺るがすのは、黒船しかいない。白いけど
対するは東京競馬場で輝くトニービン産駒ジャングルポケット。内国産馬の意地を見せつけたい。

内国産馬VS外国産馬。
対決の行方は…

新時代の扉を開いたのは、国産馬代表の意地だった。

密林の暴君

ジャングルポケット

JRA賞2001年度代表馬

父 トニービン 母父 ヌレイエフ

13戦5勝[5-3-2-3]

主な勝ち鞍
ジャパンカップ 日本ダービー 共同通信杯 札幌3歳S

主な産駒
トーセンジョーダン オウケンブルースリ
トールポピー クィーンスプマンテ ジャガーメイル
アウォーディー アヴェンチュラ ディアドムス

母父としての主な産駒
サクセスエナジー

01世代

レース後、ジャンポケは吼えた。
「俺が最強だ」と言わんばかりに。

皐月賞で躓いていい位置を取れなかったのに3着に食いこんできたその実力をまざまざと見せ付けた。
新世紀のダービー馬が歴史の始まりを告げる。
ここからはジャングルポケットの時代かと思われたが、そう簡単にいかないのが01世代だ。


対してクロフネは5着に敗れた。
1600m→2400mを1か月でこなすのは、はっきり言って無茶である。だが、これにも明確な動機がある。
調教師・松田国英はクロフネの未来を考えていた。

いずれこの馬が種牡馬入りした時、マイルでしか勝てない馬と言われるか、マイルからチャンピオンディスタンスまでこなせる万能馬と思われるかで、馬の価値が大きく変わる。

そのため、マイルGIで最も勝ちやすいNHKマイルを勝たせてから、ダービーに挑んだのだ。
尤も、NHKマイルで体力を使ってしまったためダービーではガチガチに仕上げられず5着に沈んだのだが。

以降、このローテは「マツクニローテ」と呼ばれ、松田国英厩舎の馬はだいたいこのローテで使われることになる。




札幌記念
ジャンポケはここにいた。
札幌記念というレースは、力の抜けた3歳馬にとってはとても有利に設定されている。2021年もソダシが勝ったが、これには斤量の利が大きかった。ジャンポケも例外ではない。

ここで古馬と戦っておくことで、秋のレースに備えたかったのだ。

…備えたかったのだが、彼を阻んだのもまた同期だった。

単勝1.3倍の敗北。
直線短いだけで急に勝てなくなるジャンポケ。
そんな彼を倒したdopeな馬が…

幻のMonster

エアエミネム

父 デインヒル 母父 アリシーバ

17戦8勝[8-1-3-5]

主な勝ち鞍
札幌記念 神戸新聞杯 オールカマー 函館記念

主な産駒 ワシャモノタリン

01世代

(馬名の由来はもちろん某ラッパーです)

2番人気とはいえ、圧倒的人気馬を倒しての1着。
そしてなんと次走の神戸新聞杯でもクロフネやダンツフレームを下して1着。
これはTurf Godになる日も近いかと思われた。


そんな神戸新聞杯で3着クロフネを抑えて2着だったのがこの馬。

不屈の飛翔

サンライズペガサス

父 サンデーサイレンス 母父 ブライアンズタイム

24戦6勝[6-4-1-13]

主な勝ち鞍 産経大阪杯2勝 毎日王冠

01世代

父サンデー母父ブライアンズっていう豪華配合。
池添騎手の腕で大駆け。菊花賞へ向かう。


ダンツフレームは初めて連対を外し4着。
菊花賞に不安がよぎる。

クロフネは2400m自体が厳しかったことが分かったため、天皇賞へ向かう。




菊花賞
もちろんジャングルポケット、エアエミネム、ダンツフレームで上位人気は埋まっていたのだが、パドックで1頭、すごいオーラを放つ黒い馬がいた。

未知の輝きを放ったのは、“夏の上がり馬”だった。

漆黒の摩天楼

マンハッタンカフェ

父 サンデーサイレンス 母父 ローソサイエティ

12戦6勝[6-0-1-5]

主な勝ち鞍 菊花賞 有馬記念 天皇賞(春)

2009日本リーディングサイアー
主な産駒
レッドディザイア ジョーカプチーノ ヒルノダムール
クイーンズリング グレープブランデー シャケトラ
ルージュバック ガルボ ラブイズブーシェ

母父としての主な産駒
テーオーケインズ メイショウハリオ
テーオーロイヤル ソウルラッシュ レイハリア

01世代

かっこいい二つ名ランキング第1位、‪✝漆黒の摩天楼✝さん。ちなみにこれは筆者が勝手に付けたのではなく、元から言われてたやつ。(クロフネとジャンポケは筆者が考えました。この競馬史で書いてある二つ名の半分以上は筆者が原案なのでご注意を)


元々高い素質は持っていて評価も高かったのだが、弥生賞では4着と微妙な成績。調教で体重がガン減りしたのが影響。

1勝クラスから再起動を図るも、またしても体重が爆減。パドックでも明らかに調子悪そうなのが分かったという。命の危険すら感じた人もいたとか。もちろんボロ負けした。

このままじゃヤバいので4ヶ月休養させ、8月のレースに出走。この頃には体質の弱さも改善された。
馬体重は+46kgだったが、新馬戦からは4kgしか増えていない。いかに体重が減っていたかが分かる。

もちろん難なく勝利し、次の2勝クラスも通過。
夏競馬で本格化したのだ。
そして3勝クラスをすっ飛ばしてセントライト記念に挑んだが4着と敗れ、菊花賞では6番人気の穴馬になったのだった。

セントライト記念の敗因は2つ。
①鞍上が乗り替わりだったこと。
主戦の蛯名騎手はアドマイヤロードという馬に騎乗依頼が来ていたため、重賞未勝利の若手騎手が騎乗したのだった。

②騎手がレース後に言ったことには、「距離が足りない」と。
言っておくが、セントライト記念は中山2200m。
中距離にしてはそこそこスタミナが必要になってくるレース。
そこで距離が足りないって正気か?若手騎手だからってちんぷんかんぷんなこと言っていい訳じゃねえぞ?と当時は思われていたかもしれない。
が、これはどうしようもないほどに事実だった。新馬戦を除いた勝ち鞍が全部2500m以上なのも裏付け。
ちなみにこのレースで乗ってた騎手は父と両方の祖父が調教師で現在は調教助手をしている二本柳さん。そりゃ的確なコメント出すよね。

で、実際に菊花賞を楽に勝った。
やっぱゴリゴリのステイヤーだった模様。
まさかこの馬がこれからの01世代を引っ張っていくことになろうとは、この時点では誰も思わなかった。


ちなみに、このレースの裏で「エアエミネム事件」が起こっていた。
実況が1着になった馬を言い間違え、「エアエミネム差し切ってゴールイン!勝ったのはマンハッタンカフェ!」と誰もが困惑する迷実況をかましてしまう。

本当は3着だったエミネムはこのショックでLose Yourselfしてしまい、以降全然勝てなくなってしまう。Love The Way You Lie出来るようになるまでは約1年を要した。他人のミスを肯定する道程は到底短くないということの証明。



一方そのころ牝馬クラシックは、圧倒的一強体制だった。

阪神3歳牝馬
あの馬が覇権を握る。

伝説の新馬戦でワンツーだったジャンポケ、タガノ相手に札幌3歳Sで3着と善戦した、あのテイエムオーシャンだ。

もちろんこの年の最優秀3歳牝馬はオーシャン。

年が明け、そのままの勢いでチューリップ賞を4馬身差圧勝すると、決戦の地へ向かった。


桜花賞
テイエムオーシャン陣営には特別な思いがあった。

オーシャンの祖母エルプスは桜花賞馬。
エルプスは短距離寄りの馬だったが、当時の牝馬としてはとんでもなく優秀な成績を収めており、鳴り物入りで繁殖入りしたのだが産駒は全然走らなかった。
(ちなみに筆者はこの馬を競馬史本編で紹介しなかったことをかなり悔やんでいるらしい。ミホシンザン世代なので全然リソース割けたとかなんとか)

そんなエルプスの孫でとうとう素質馬が現れた。
陣営は期待に溢れていた。
そしてゲートは開き…

3馬身差圧勝。横綱相撲。
世代最強は間違いなくこの馬だと、そう思わせた。


オークス
ここまで来たら三冠も狙っておきたかったが…
やはり阻んだのは、距離の壁だった。

充分伸びているところに凄みを感じるが、やっぱり届かず3着。先祖の血って距離適性にめちゃくちゃ関わってくるから仕方ないところはある。

中距離×直線長いというトニービン産駒にピッタリの舞台で、トニービン産駒レディパステルにしてやられた。

2着はローズバド。いずれローズキングダムを紹介する時にこの馬にも触れたい。


秋華賞
オーシャンはトライアルを使わず、ぶっつけ本番でここに挑む。
やはり前走は距離だったと思わせる走りだった。

ローテの不安もあったがローズバド、レディパステルらを下して見事二冠牝馬の座を手にしたのだった。

大海に躍る女王

テイエムオーシャン

父 ダンシングブレーヴ 母父 リヴリア 母母 エルプス

18戦7勝[7-1-4-6]

主な勝ち鞍
牝馬二冠 阪神3歳牝馬S 札幌記念 チューリップ賞

01世代

ここからは余談になるが、↑のメンコ、どこかで見覚えはないだろうか。
メンコというより、このカラーリングだ。

🤔

はて…?

タルマエさんとオーシャンが同じメンコをしている事は理解出来たが、何故同じなのか分からないはず。解説しましょう。

競馬もスポーツであるので、馬や騎手という選手を支えるトレーナーやチームが存在する。
チームが存在する以上、近代スポーツはチームのオリジナルグッズを作りたがる。
ウマ娘ファンの皆様は福永祐一先生がなんとも言いがたいデザインのジャージを着ているのを見たことがあるはず。あれは福永祐一オリジナルの服だ。

そういうグッズ展開は人だけでなく馬にもある。
「厩舎メンコ」と呼ばれるものが存在する。

ラヴズオンリーユー、コントレイル、パンサラッサなどで有名な矢作厩舎は、自厩舎の馬にはこのメンコを付けている。言っちゃえば矢作ブランドである。


ここまで来たらタルマエとオーシャンが同じ厩舎の馬だった事も分かったはず。
オーシャンの所属は、騎手としてカツラギエース、ヤエノムテキの鞍上を務め、調教師としてテイエムオーシャン、カワカミプリンセス、ホッコータルマエをGI制覇に導いた名ホースマン、西浦勝一先生の厩舎の馬だったのだ。

西浦先生がこのメンコを付け出したのも、厩舎のアピールのため。無事にウマ娘で宣伝されたが、惜しくもつい最近先生は定年を迎えてしまった。惜しい。




 話を戻そう。
無事二冠牝馬となったオーシャンは、この年の“最優秀3歳牝馬”に選ばれた。


………ん?
記憶力のいい方は覚えていてくれたと思うが、オーシャンはちょっと前にも最優秀3歳牝馬の座に輝いている。これは誤字ではなく事実。


実は2001年から馬名の数え方が変わり今基準になったのだ。それで色々ややこしくなってしまった。
彼女は2年連続で最優秀3歳に選ばれた唯一の馬だ。
ある意味珍記録。
ちなみにこの年から朝日杯FS、阪神JFになった。
その辺はまた次の回で話すとしよう。



革命の新世紀

ここまで01世代の栄光をつらつらと書き綴ってきたが、強かったのは01世代だけではない。
前世代も伝説を残したから、2001年は革命の新世紀足り得るのだ。

ドバイシーマクラシック
3月。春の息吹を感じる頃。
アラブ首長国連邦、芝2400mのレースコースに送り込まれた切り込み隊長は、みんな大好きステゴさんだった。

ステゴさんはどんな馬場、コース、距離でもずっとそこそこの成績を残し続けてくれていた名馬。(迷馬とも言う)
前走の日経新春杯ではトップハンデ背負ってたのに藤田伸二乗っけて1着。重賞2勝目。

この勢いに乗り、いい成績を収めてくれるんじゃないか。そう思い武豊を乗せたであろう陣営。
ほのぼのとレースを見守る。

なんか勝っちゃった
完全に本格化していたGI2勝馬、ファンタスティックライトを相手に勝利。GII3勝目。

翌年からGIになるドバイシーマクラシックで勝ってしまったのはツイてなかったが、海外でもいけちゃうことが証明され、ますます迷馬ぶりが加速するステゴなのであった。
(もちろん帰国後はちゃんと負けました)
(ちゃんと負けたってなんだよ)



阪神大賞典
薄曇りの仁川にて、影の主人公は爪痕を残す。

オペラオー不在の阪神大賞典。普通に走れば負けることはない。
だが、普通に走っただけでは強さを証明できない。

オペに負け続けて1年とちょっと。
当時の競馬ファンからしても、これを読んでいる方からしても、完全に「強い脇役」止まりだった。

あいつのいない舞台でだけは、せめて。
菊花賞馬はもう一度、3000mで花開く。

トップハンデ、59kg。
その重さを微塵も感じさせない、栗毛の豪脚。


付けた着差、8馬身
走破タイム、3:02.5
芝3000m世界レコード

刻み付けたコースレコードは、21年間も破られなかった。

その強さは観客を魅了した。
「この走りなら、もしかしたら」
誰もがそう思った。




 天皇賞(春)
世紀末覇王に翳りが見えた。
別に世紀末じゃなくなったからとかそういう理由ではない。
本当は前年と同じく京都記念→阪神大賞典→天皇賞のローテで挑みたかったのだが、和田騎手がレース中に事故って復帰が遅れ、オペラオーの調教過程も狂い、なんとか出した産経大阪杯で4着。
不敗神話が崩れたからである。


それでもオペラオーと和田は果敢に戦った。
覇王の威厳は、そう簡単には崩れない。

早め先頭で粘り込みを図ったナリタトップロード。
嘲笑うかのように軽々と差し切っていくテイエムオペラオー。
最後の最後で末脚を振り絞ったメイショウドトウも届かず、見事天皇賞(春)連覇
誰もが認めざるを得ない、世紀の大偉業だった。


GI7勝。5歳春の時点でGI7勝。
もうルドルフの壁を超えるのは時間の問題。
そう思われていた。のに…

運命は時に悪戯を仕掛けてくる。




宝塚記念
ここでついに“革命”が起こってしまう。
オペラオーの成長曲線と、ドトウの成長曲線。
その2つの均衡がほんの少しだけ崩れた舞台が、初夏の阪神だった。

ここまでGI2着6回。1着は全てオペラオー。
涙が出るほどGI2着を繰り返してきたドトウ。
「ここで勝てなければ騎手を辞めようと思っていた」
そう語ったのはメイショウドトウ鞍上、安田康彦。


一世一代の激走で、ついに、ついに覇王を下した。
ようやく掴んだチャンスをものにし、上げるは反撃の狼煙。
時代の波が来ていた。神話終焉の時が。




一方、夏が過ぎた頃。変態勇者は地方GIに赴いていた。
…説明しなくても分かると思うが、変態勇者とはアグネスデジタルのことである。今回だけでアグネス3回も出てきてすごい。

マイルチャンピオンシップ南部杯
もともと北日本のダート日本一を決めるレースだった南部杯だが、ダートグレード競走に指定され全国の地方馬&中央馬との交流が始まった。
そしてホクトベガやらのせいで中央馬が地方馬を大差勝ちしてボコる場所みたいなイメージが付いた。

デジタルも例にならい…

ムチをほぼ打たず、最後は流して余裕の勝利。
ちなみに2〜5着は全員激強ダートGI馬。
お前去年芝のマイルチャンピオンシップ走ってたよな?

そこは白井最強。考えたら負け。
ここからがデジタルのヤバいところ。
天皇賞(秋)に舞台はつづく。




京都大賞典
同じく(?)天皇賞(秋)を目指すものたちのレース。
オペ、トプロ、ステゴがそろったため有力馬が軒並み回避で7頭立て。4番人気からは単勝50倍超え。
そりゃまあオペが勝つと思われていた。

実際勝ったが、勝利の裏に大波乱があった。
原因は今回のステゴ鞍上、オペラオー絶対潰すマン後藤によるものだ。

オペに執心するがあまり後ろから来たトプロに気付かず落馬させてしまう。
かしこいステゴさんは自分からめちゃくちゃ逃げて1位入線。(もちろん失格)

トプロとステゴが馬券から消えるため、実質4頭立てのレースとなった。2着は4番人気のスエヒロコマンダー。順当。

下手すればトプロ渡辺騎手は大事故になってた可能性もあったため、後藤騎手はめちゃくちゃ叩かれた。当然の結果。




天皇賞(秋)
京都大賞典で一悶着あったぶん、なんかレース前からまた波乱の予感があった。
マル外解放の影響は天皇賞にも及んだ。

今までの流れだったら、前々回、オペが勝った秋天でメイショウドトウが天皇賞に出れるわけなかった。だって、ドトウは外国産馬だ。
グラスワンダーが5歳で現役を続行した理由はここにある。

実は、あの年から「外国産馬は2頭のみ出走可能」になっていた。
出走する気でローテ組んでたグラスワンダーが故障した2000年は空いた出走枠にイーグルカフェが滑り込み、結局内国産馬代表オペラオーが勝利した。

そして今年。もちろんドトウが出るのは確定で、残り1枠にはクロフネが入る…予定だった。

白井「デジタル出すぞ」
吉田(社台グループの人)「マジすか?」
白井「どうしても使いたいのでご理解下さい」

てことで、南部杯から直行ローテでデジタルが参戦。賞金面で劣るクロフネは弾き出されることに。

このアホみたいなローテでの出走にクロフネファンは怒り心頭。「クロフネの可能性を潰した」と発狂していたが、白井調教師は至って冷静。

四位騎手に「観客席に向かって走れ」とアドバイス。
つまり、大外に出せということだ。

その秘策がバッチリハマってしまうのだった。

重馬場の東京。荒れまくりだった内側の馬場を避けて外からすごい脚で差し切るデジタル。
並ばれたら負けないオペラオーなら、遠くから差し切るのが攻略法。

デジタルはこれでGI3勝目。

「これならば納得でしょう、クロフネ陣営も!!」
完全にクロフネの仇を討った。


ここまで無敵だったオペラオー、そしてそれを下したドトウを抑えての勝利。これがどれだけ大きいか。
覇王と怒濤の絶対王政を崩したデジタルは、人々の目には英雄のように映っただろう。
(なおウマ娘世界のデジタルさん)




一方そのころ、エリザベス女王杯
メジロドーベル、ファレノプシスといった時代の女王が消えた瞬間にやってきたテイエムオーシャン。
しかし立ちはだかるのは距離の壁。2000が限界と思われていた。

絶対の存在がいないぶん、勝機が少しでもある馬は大勢出てくる。この年の出走メンバーは凄かった。

GI3勝テイエムオーシャン
オークス馬レディパステル
昨年の秋華賞馬ティコティコタック
阪神3歳牝馬S勝ち馬ヤマカツスズラン
カレンチャンの母スプリングチケット
ゴールドシップの母ポイントフラッグ
ローズキングダム(GI2勝)の母ローズバド
スリーロールス(菊花賞馬)の母スリーローマン
ベルシャザール(JCD勝ち馬)の母マルカキャンディ
カゼノコ(JDD勝ち馬)の母タフネススター

ここまで強豪とGI馬の母が集まるレースも珍しい。
カレンチャンママがエリ女に2回出走してたり、ゴルシママがチューリップ賞でテイエムオーシャンの2着になってることはあんまり知られてない。
強い子は強い母から生まれるのだ。


層の厚さを示すように、大激戦のゴールとなった。

5着までの着差がハナ、ハナ、クビ、クビ。
名馬たちの大激戦。
勝利を手にしたのは、女王に相応しい名牝だった。

勝利に向かって

トゥザヴィクトリー

父 サンデーサイレンス 母父 ヌレイエフ

21戦6勝[6-4-4-7]

主な成績
エリザベス女王杯 ドバイWC&オークス2着

主な産駒
トゥザグローリー トゥザワールド
母の母としての主な産駒
メドウラーク リオンリオン

99世代

この馬もまた名牝。
GI2着を繰り返し、ようやく掴んだ初制覇だった。

元々中団から差す競馬で走らせてた馬だったが、「勝たせるならこれしかない」と、前走の手応えを信じて先行策で粘らせた結果、なんとか数cm差で勝利を手にした。

長い道のりの果てに、ヴィクトリーを掴み取ったのだ。


弊記事は芝編とダート編を分けるというド戦犯な決断をしてしまったため、ホクトベガ含め芝とダート両方で活躍した名馬の名馬っぷりが今いち伝わってない。気がする。
ので、彼女の蹄跡を振り返ってみよう。

トゥザヴィクトリーはオークス2着のあとしばらく燻ったが、馬体が成長し切ると復調。GIII2勝のうちファレノプシスのエリ女で4着、その後GIIを勝った後…

唐突にダートに挑む。しかもいきなりGI。
フェブラリーS。で3着。いきなり3着。
陣営の思惑としてはここで何としてでも1着を獲り、アジアのダートGI最高峰、ドバイワールドカップに挑みたかった。



ドバイミーティングや香港国際競走は、各国の強い馬が“招待”される。自分から自由に出すことは出来ず、参加する権利を与えられた馬だけが出走できるのだ。(だからだいたい少頭数レースになる)

この年日本から選ばれたのは、フェブラリーS勝ち馬ウイングアローと、川崎記念勝ち馬レギュラーメンバーの2頭。
トゥザヴィクトリーは選出されず、仕方なく芝に復帰…するはずだったのだが…

ウイングアローが体調面で大事をとって回避。
出走の意思を示していたトゥザヴィクトリーが代わりに出られることになったのだ。

てことでステゴ達とドバイに遠征し、その結果…

めちゃくちゃ頑張った。
2着は牝馬史上歴代最先着で、今なお伝説の記録。
そもそも牝馬でここに挑もうと思わないし、トゥザヴィクトリー以外の歴代牝馬は5着にすら入れてない。

このレースでの手応えを信じて、長期休養明けぶっつけで挑んだエリ女で先行策を決められたから、GIタイトルを手にすることができたのだ。

悔しさと喜びを噛み締めた池江調教師と金子真人オーナー。この黄金コンビが、4年後に衝撃的な伝説をつくる。


ここからの金子オーナーは止まらない。トゥザヴィクトリー勝利の裏でも、1つの伝説が生まれていた。



伝説③ 世界を超える

武蔵野ステークス
秋の盾の前日。弾き出されたクロフネはなぜかここにいた。
実はもともとダートを一度使ってみたかったクロフネ。金子オーナーはトゥザヴィクトリーやソダシよろしく、やれることはなんでもやらせる派の人。
天皇賞のために馬体も作っちゃったし、レース出さないのもったいないから前日の武蔵野に出そうや、ということになったのだ。


言っておくと、芝馬とダート馬は身体の作りが全然違う。ダート馬はパワーが重要。芝馬はしなやかさが重要。
全くもって必要とされる能力が違うのだが…

このレース見たらそんなんどうでもよくなるよな。
バケモンの走り。一頭だけ世界レベル。


そりゃもちろんレコード勝ち。ダート用の調教も満足にはし切れてなかったはずなのにこれだ。
こいつはもうダートで世界一獲らそうやってなるのも時間の問題。

もちろん次走はマイルチャンピオンシップになんか挑まず、ダートGIに挑んだ。




ジャパンカップダート。通称JCD。
今はチャンピオンズカップと名前を変えたが、当時は東京競馬場開催、ダート2100mで行われていたレース。距離的には川崎記念と同じ。

そりゃもう単勝1.7倍。2番人気は外国馬。
前走の再現をすることに。

強すぎる!!圧勝クロフネーーーッ!!!!!

アオシマバクシンオー

青嶋アナもびっくりの圧勝。
もちろんレコード勝ち。

ダート2100mを2:05.9

言われてもピンと来ないと思うので、この時計が世界レベルどころか宇宙レベルだということを解説していこう。


前提として、

①芝よりダートの方がタイムがかかる
②稍重馬場より良馬場の方がタイムがかかる

この2つを押さえてほしい。

①は分かるとして、②が疑問の方も多いはず。

砂場をイメージしてほしい。
ふかふかの砂場だと指を突っ込んだらスッ…って埋まる。でも小雨の時だと軽く湿って固形っぽくなる。
つまり、良馬場の方が脚をとられるから時間がかかるということ。


で、クロフネのレコードは2:05.9。
芝2100mの世界レコードは2:07.0

まだだ…まだ堪えろ…芝2100mのレースなんてそうそうないからレコードも更新されにくいんだ…

クロフネのレコードは良馬場で、最後追わず流しながらの記録です…もちろん世界レコードです…
ちなみに川崎2100mの日本レコードはスマートファルコンの2:10.7…クロフネとだいたい5秒差です…

薬でもやっとるんか?????


あまりに速いので、アメリカではアメリカ国内最強で不滅のレコードを叩き出した奇跡のダート馬セクレタリアトになぞらえ、「日本には白いセクレタリアトがいる」と話題になった。アメリカでそこまで言われるんだから本物。
ちなみにクロフネのタイムをセクレタリアトが世界レコード叩き出した2400mに当てはめてみるとさすがに勝てないが、1600mで戦うとクロフネの方が断然速いらしい。


てことで、翌年のドバイワールドカップは確実に勝てる馬になってしまったクロフネ。そして世界最高峰のレース、ダート版凱旋門賞と言っていいBCクラシック勝利も見えてきたし、走り続けりゃホクトベガなんか過去の馬になるだろう。そう思われていたのだが。


フェブラリーSのための調教途中で故障発生
引退を余儀なくされた。

松国先生はしばらく茫然自失になってしまった。
今までやってきた調教メソッドが全て否定されたような気持ちになったらしい。

人を殺したわけじゃないけど、私の中ではそれと同じくらい、『大変なことをしてしまった』という思いが強かった

『名馬物語』より

と語っている。


幸い、クロフネは種牡馬として大活躍。
カレンチャン、ソダシなどを排出し、母父としてもクロノジェネシスに血を繋いでいる。(牝馬ばっかだな)


白井先生は「俺がデジタル天皇賞に出さんかったらこうはなってなかった。感謝しろ(意訳)」と語っている。うーん、最強。



奇跡の日

クロフネが羽ばたけなかった国外で、日本は奇跡を起こしていた。

香港国際競走で、奇跡は起こった。
前年までも日本馬が遠征していたのだが、今年はレベルが違った。

エイシンプレストン、アグネスデジタル、ステイゴールド、未紹介ではあるがGI馬ゼンノエルシド。

なんでこんな名馬達を引き連れていったかというと、昨年から4競走中3競走が国際GIに指定されたからだ。

2001年当時、日本の国際GIはジャパンカップと宝塚記念だけだった。つまり日本馬で現役国際GI馬はオペラオーとドトウしかいなかったことになる。えぇ…


国際GIに勝てば世界的に高い評価を受け、引退後に種付け数も増加する。ひいては日本競馬の地位も向上する。このチャンス、逃す訳にはいかなかったのだ。




香港ヴァーズ
沙田、芝2400m。ここがステイゴールドさんのラストレースとなった。
7歳まで走り続けて初の舞台で引退。
ステゴらしいっちゃらしい。

本当はもっと長期間に渡ってステゴを紹介していく予定だったが、途中から一年で一話を使うようになった弊競馬史シリーズでは4回くらいしか登場してない。4回でも充分長いけどね。

時代を彩った名馬と勝敗を分かち合ってきた迷馬。
ステイゴールドは香港表記で“黄金旅程”。
黄金の旅路の終着点は香港だった。


国際GIなこともあり、98年ヴァーズ勝ち馬インディジェナス、後のイタリアGI馬エクラール、昨年のヴァーズ勝ち馬ダリアプール、例の大雨安田記念でタイキシャトルの2着になったオリエンタルエクスプレスなど、豪華メンバーでのレースだったが…

なんと現地での1番人気はまさかのステゴ。
国内重賞で1番人気になったのは目黒記念のあの時だけ。直線の長さ的には東京に近いし、最後に坂が無いのは日経新春杯っぽいけど…日本なら絶対1番人気にはなってなかった。


終わり良ければ全て良し。
旅路の果て、ステイゴールドはその身に炎を宿す。

最後の直線。完全にエクラール逃げ切りの展開。
普通なら絶対に届かない位置から脚を伸ばし、ギリッギリで差し切ってゴールイン。
小柄な体躯に力を込めて、渾身の、生涯初くらいの本気の追い込み。
ゴール寸前で見事に差し切った。
今までの走りが嘘のように。

「こんな強い馬を負かし続けてたT.M. Opera Oって何者なんだよ!?」と海外で話題になった。そりゃそうなるよな。(オペさんの英語表記かっこいい)

ゴール後、表彰式で鳴り響いた君が代。
「黄金旅程」の文字が、燦然と煌めいていた。

(なおステゴ本人はゴール後も暴れていた)


主な勝ち鞍:阿寒湖特別から見事国際GI馬に出世したステゴ。国際GI馬になったため、他国でもStay Goldという馬名が付けられることはもうない。ステゴはステゴだけの名前になった。


そして、その強さから無事種牡馬入り。
元々種牡馬になる予定はあっただろうが、GI馬になったことで種付け数は大幅に増加したことだろう。

小柄な身体なので種付けの時苦労するんじゃないかと不安視されていたが、させてみると引くほど上手かった。
暇な時は鳥相手にいたずらをして嘲笑っていた高IQホースなので、コツを掴んだら一瞬なのかもしれない。(この特徴はゴルシにも無事に引き継がれている)


種牡馬としては、最初に紹介した時に挙げた主な産駒が錚々たるメンツすぎることから察していると思うが、なんとまさかの大成功。

子供だけでGI36勝している模様。孫の代まで行くととんでもない数。ユーバーレーベンもマルシュロレーヌも勝ったし。


香港カップから10年後の年の瀬の有馬記念。
似たような前残りの展開で迎えた直線、届きそうもない後ろから見事差し切った金色の馬体がその証明だ。

ステイゴールドの凄さは産駒が教えてくれる。
いずれまた語ることになるだろう。




香港スプリントは当時まだGII。しかも直線1000m。
実質アイビスサマーダッシュ(GII)。
ダイタクヤマトや次回紹介する馬が出走したが2桁着順だった。


香港マイル

ヴァーズの感動が大きすぎて忘れ去られがちだが、このレースの後にも君が代が流れた。

ここに遠征したのはゼンノエルシドとエイシンプレストン。
前走マイルチャンピオンシップで1着になったエルシドが1番人気、プレストンは6番人気と低評価だった。

エルシドはペリエが乗り、プレストンは福永だということが大きかった。

エルシドとプレストンはマイルチャンピオンシップ1着2着。馬の実力に差がないなら、鞍上の腕っぷしで道が分かれる。そう見たのだろう。しかし…

プレストンは香港競馬場で勝つために生まれてきたような馬だった。
小回りが得意、ゴール前の坂が苦手、加速力はある。
そして現地の環境がとことん合っていた。芝の質感とか、たぶん水とかも。


短距離路線が強い香港馬相手に、2着を3馬身半差引き離してゴールイン。

完全に新天地を見つけたプレストン。
「香港魔王」として名を馳せるのも時間の問題だった。

福永としてもプレストンとしても2年振りのGI制覇。
この勝利をきっかけに、翌年福永は調子を上げる。

(なお1番人気エルシドは最下位に沈んだ)




香港カップ
芝2000m、アグネスデジタルが挑んだこの舞台。
メインレースに相応しい豪華メンバーでの発走となった。

1番人気はトゥブーグ。2歳GI2勝、その後調子を崩していたが🇬🇧チャンピオンSで当時激強だったネイエフ(クロノジェネシスの祖父ナシュワンの弟)相手に接戦で2着と復調していた。

2番人気はデジタル。さすがにあの意味不ローテで結果残してるから現地ファンも評価していた。

3番人気はジムアンドトニック。昨年の香港カップ勝ち馬で、シーキングザパールのモーリスドギース賞で2着と、日本にも馴染みがある。


他にもGI馬が多数出走しGI馬大運動会と化した香港カップ。息もつかせぬ大接戦となる。

マイルチャンピオンシップや天皇賞では後ろから豪快に差し切っていたデジタル。
しかし今回は早めに抜け出し粘る粘る。
永遠に差が縮まらないんじゃないかと思うほどの粘り強さでGI3連勝。ダート→芝→海外。頭おかしい。
今のところ距離適性以外自由自在。敵無しでは?と思わせる強さ。しかしこれにもある秘密があったことは、後にわかる。



ということで、香港のGI3つを日本馬が独占した。

今まで散々日本のレベルは低いと謳われてきた。
しかし、挑まなかっただけで本当は強かった。
オグリもマックもブライアンも、本当は海外でも通用する強さを持っていたのではないか。そう思わせる一日。

この日は奇跡の日として長く語り継がれることになる。まさか15年後にこれが当たり前になるとは、誰も知らなかった。




世代交代

じゃあ国内はどうなっていたか。副題の通りだ。
オペラオー陣営は苦しんでいた。
オペラオーの乗り心地は変わらないのに、馬がどうしても伸びない。


一説では、徹底マーク有馬記念のトラウマで、オペラオーが馬群に入るのを嫌がるようになってしまったと言われている。


馬群が嫌で勝てなかったといえばタマモクロス。彼も幼い頃は馬群を嫌がり、2着3着を繰り返していた。

和田竜二にそれをどうにかする能力があれば良かったのだが、若手だから引き出しが少ない。どうすることも出来なかった。


川田将雅のように自分から促して馬のリズムを無理やり作らせて序盤から前目に付けたり、田原成貴のように意地でも折り合い付けてロングスパート、みたいなことは出来なかったししなかったのだ。
ちなみに今の和田竜二は1%でも勝ち目があるなら意地でも前に行こうとする。(2021ジャパンカップ参照)

ジャパンカップ
そんな不安点を抱えながら、和田はオペにまたがる。
幸い、状態は良かった。
最強の証明のため、何としても欲しかった8勝目。
オペラオーか、世界か、あるいは…

残り400で先頭に立ち、1馬身、2馬身、3馬身と後続を引き離すオペラオー。
最強の意地。8勝目はすぐそこまで。


そこに飛んできた新世代の暴君。
東京競馬場でジャングルポケットに敵う馬はいない。

雄叫びを上げたのは、今度はジャンポケではなく鞍上のペリエだった。


斤量差は大きい。3歳馬は55kg、古馬は57kg。
1kg違えば1馬身変わるとされる重み。
完全に時の運だが、あと1年東京競馬場の改修工事が早かったら。あと1年ジャングルポケットが遅く生まれていたら。そう思わざるを得ない。


そして…
メイショウドトウは、5着に敗れていた。




有馬記念
オペラオー、ドトウ、共に今年はGI1勝。
勝てば年度代表馬がほぼ確定する一戦。
1番人気、2番人気はもちろんオペとドトウ。
両者ともに引退レース。完璧に仕上げてきているに違いない。


年の瀬の中山競馬場。寒空のパドックに、一際目を惹き付ける馬がいた。

黒光りする美しい馬体、額の流星、歩様、どこを取っても一級品。
競馬をよく知る人ならきっとこう思っただろう。
「まるでサンデーサイレンスの生き写しのようだ」と。

こっちがサンデーサイレンス

3番人気のその馬は、漆黒のたてがみをなびかせ、颯爽と返し馬へ向かっていった。


有馬記念とは波乱がつきものだ。スペシャルウィークも、ビワハヤヒデも、メジロマックイーンも負けたこの舞台。2回以上出走し、負けずに帰って来られた馬はルドルフくらいしかいない。

昨年の天皇賞(秋)では1番人気は負けるジンクスを跳ね除けたオペラオーだったが、全盛期からは少しずつ衰えてきていた。


沈黙の幻影は、砂塵を超え、時代を超え、ターフに舞う。

凄まじい速度で先頭へ躍り出たのはマンハッタンカフェ。黒き幻影が覇王を襲った。

1着、マンハッタンカフェ。
2着、アメリカンボス。
3着、トゥザヴィクトリー。
4着、メイショウドトウ。
5着、テイエムオペラオー。
6着、テイエムオーシャン。

そして10着、ナリタトップロード。

大荒れだ。


まずテイエムがドトウに負けている。そしてトプロも大敗。で1着がカフェ。こんなの予想できっこない。

この年は2001年。9.11アメリカ同時多発テロの年。
1着マンハッタン、2着アメリカンだから「9.11サイン馬券」なんて不謹慎なことも囁かれた。


アメリカンボスはただのGII2勝馬だから置いておいて、トゥザヴィクトリー。彼女は史上唯一テイエムオペラオーに先着した牝馬となった。
GI1勝とはいえ、DWC2着は伊達ではないのだ。




なんとも言えない大波乱で終わり、年度代表馬はGI2勝のジャングルポケットとマンハッタンカフェで票が割れ、最終的にダービー勝ってるジャングルポケットが受賞。


オペとドトウは種牡馬入りしたが…
恐ろしいほど失敗に終わった。


どちらも個人馬主の馬。
そして社台グループにとっては同世代のGI馬候補を潰されまくった宿敵。
そもそもどっちも血統が日本には合わない&微妙。
三重苦で良質な繁殖牝馬が集まらずに大失敗。
GI馬を1頭も出せず、ドトウに至っては中央重賞勝ち馬すら出せてない。


良質な繁殖牝馬は今回紹介した5頭に集まった。
言うまでもなくアグネスタキオン、クロフネ、ジャングルポケット、マンハッタンカフェ、ステイゴールドだ。

タキオンとカフェに至ってはリーディングサイアー(一年で一番賞金を稼いだ種牡馬)になってるし、ジャンポケとクロフネもGI馬めっちゃ出してるし、ステゴ産駒は三冠馬と二冠馬と障害GI9勝の怪物がいる。みんなバケモン。

この時代に生まれてしまったのが運の尽きだったのかもしれない。



そんな01世代が時代をつくり、迎える02年。
オペラオーの世が終わり、知名度の低い時代へ。
でもどこまでも熱い熱戦ばかり。
知られざる激闘をとくと見よ。


あとがき

名馬しかおらんのでこんな文字数です。
執筆めちゃくちゃ時間かかりました。

途中で出てきたサンデーサイレンスの生まれ変わり云々は、マンハッタンカフェ(ウマ娘)の「オトモダチ」と関連があると考えてもらってOKです。
僕個人としてはエイシンフラッシュもかなりサンデーに似てると思ったりもするんですけどね。血は繋がってないけど。


次回はボリクリ世代。後の競馬をつくる世代なんですが、イマイチ知名度低いのでこちらで啓蒙していきたいです。

それでは。


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