ウマ娘で学ぶ競馬史 #14 閃光と衝撃(1996)
みなさん、ウマ娘やってます?
(シリアスマヤちんで失礼します)
突然ですが、ミスターシービー(ウマ娘)かわいすぎないですか?
我慢できずに言っちゃいましたけど、これは反則だと思うんですよね。
こういう綺麗とかわいいの境界線にいるお姉さん、すごくタイプです。
ミスターシービー(本家)もめちゃくちゃイケメンだったんで、それをいい感じに落とし込んだだけなんでしょうけど、初めて見た時あやうく恋に落ちそうになりましたよね。
同じこと思った方は右斜め下の♥押していただけると助かりま(以下略)
今回でようやく96年が終わります。
(ほんとは#12で終わってる計算だった)
これ書き始めた当初の僕は、#26でコントレイルを紹介できると思ってやがったんですよね。エピファネイアも怪しいくらいですよ#26て。
追記:エピファどころか…ディープインパクトでした…
まあでも↑これで2021編は紹介し終えたつもりでいるので、多少は楽かなって。
今んとこ12年を5ヶ月で進めてるので、年末年始頃にはソダシの紹介も終わっていることでしょう!(あほあほガバガバ計算)
てことで、今回も爆速ダブルジェットで参ります。
↓前回
盛衰
まずは1996年の短距離GIを振り返っていこう。
以前も紹介した第1回GI高松宮杯。
今回はナリタブライアンは無視して短距離馬目線で見ていきたい。
すごいスピードで走り切ったのはこの馬。
電撃の女帝
フラワーパーク
父 ニホンピロウイナー 母父 ノーザンテースト
18戦7勝[7-2-1-8]
主な勝ち鞍 春秋スプリント シルクロードS
主な産駒 ヴァンセンヌ
95世代
他馬を置き去りにするその鋭い末脚は、父から受け継いだものだった。
マイルを駆け抜け伝説を作ったニホンピロウイナー。
春秋マイルGIを制覇したその末脚。時代を越え、父が果たせなかった天皇賞制覇を成し遂げたヤマニンゼファー。それに対し、より短距離で真価を発揮したのがフラワーパークだった。
骨折の影響でクラシックを諦めたフラワーは3歳10月とかなり遅めのデビューを果たした。
こうなると普通の馬は勝てない。未勝利戦とはいえ他の馬はレースの勝手を分かっているし、筋肉も締まっている。経験差が格差となる。
フラワーも初戦は10着と大敗。だが…
雨の中行われた重馬場の2戦目。他の馬がバテる中、最後までスピードを維持したまま1着。
以降、覚醒したように連戦連勝を繰り返しオープン入り。4歳にしてようやく本格化を迎えた。
そんな中、春のオープン戦で敗北を喫する。
この時彼女を負かしたのが後のライバル、エイシンワシントンだった。
敗北をもとに陣営は騎手をチェンジ。
マヤノトップガンで絶賛大暴れ中の田原成貴が鞍上となった。
フラワー調教師の松元氏はトウカイテイオーの調教師でもあった。あの有馬記念以来の伝説のコンビだ。
乗り替わり初戦は今年から創設となったスプリントGIII、シルクロードステークス。
エイシンワシントンはもちろん、ヒシアケボノやドージマムテキ、ライデンリーダーといった豪華メンバーで発走となったが、なんとこれを快勝してしまう。
ワシントンは前走が59kgという重ハンデを背負ってのものだったので、疲れを引きずり最下位に。
レースは別定重量といって、重賞を勝ってたら斤量がプラスされるタイプのレースだったので、未勝利だったフラワーパークは有利に。
(これ用語解説の記事で解説できてなかったので、追記ついでにめちゃくちゃ魔改造して読みやすくしました。読んでね)
フラワー自身の強さと相まって、重賞初勝利を果たした。
そして本番の高松宮杯では、ヒシアケボノ、ビコーペガサス、ナリタブライアンら強豪ひしめく中3番人気に支持されると、2着以下に影すら踏ませぬレコード勝ち。
勝ちタイム、1:07:04。
レコードはなんと12年間も破られなかった。
スプリントGIでのレコードはロードカナロアとビッグアーサーの1:06:07。そして良馬場で行われた2019年高松宮記念の勝ちタイムが1:07:03なので、普通に今でも通用する走りだったことが分かる。
これに挑むことになったナリタブライアンは相当不憫だったのかもしれない。
そして、そんな名牝に肉薄したのがこの俊足。
小さなヒーロー
ビコーペガサス
父 ダンジグ 母父 コンドルセ
27戦4勝[4-6-2-15]
主な戦績 スプリンターズS2年連続2着 高松宮2着
94世代
(見切れるキャロットマン)
このタイミングで紹介することになったということはそういうこと。彼はこれで全盛期を終え、GI未勝利のままターフを去る。悲しい。
本来、小柄な体型が有利に働くはずの短距離路線。
しかし、短距離の追い込み馬というピーキーな脚質だったことが災いし、あと一歩届かないレースが大かった。
何より大きかったのが全盛期を史上最強の驀進王とマイルの女王に邪魔されたこと。
ようやく居なくなったと思ったら骨折で休養。
なんとか復活したと思ったら自分より数倍でかいやつにスプリントで負かされるという屈辱。
今度こそはと挑んだGIで新たな女王に完敗。
とにかく生まれた時代を呪うしかない名馬だった。
GI成績は14連敗。2着は3回。
一度はヒシアマゾンを負かした快足馬はしぶとく現役を続けるも、最後は大雨の中駆ける世界のマイル王の背を追いかけながら引退することとなった。
引退後は種牡馬になったものの、骨折したりとかであまり子供を作れず、なんやかんやで数年で種牡馬を引退することになってしまった。なんかどこまでも恵まれてない感じがする…。
安田記念。
とんでもない豪華メンバーでレースは幕を開けた。
GI馬8頭+タイキブリザード&ビコーペガサス。
短距離版有馬記念。人気馬をじっくり見ていく。
1番人気はトロットサンダー。昨年の伝説的な勝ち方でファンが増え、7歳馬ながら勝てると思われていた。しかしメンツが濃すぎるので単勝3.6倍。
2番人気は昨年の安田記念勝ち馬ハートレイク。また鞍上は武豊。トロットと戦ったらどうなるのか、マイル王対決が期待されていた。
差のない3番人気はタイキブリザード。昨年の安田記念は3着だった上に、宝塚と有馬で連続2着というポテンシャルの高さ。
しかも前走の京王杯SCではトロットとハートを破って1着になっている。ここでトロットは3着になってるのに1番人気なあたりマイルにおける信頼感がすごい。
4番人気はヒシアマゾン。昨年のジャパンCでの激走の反動か蹄の調子が悪く、産経大阪杯を回避してぶっつけで安田に挑まざるを得ないほどにガタが来ていたが、それでも夢を見たいファン。
5番人気はフラワーパーク。マイルではちょっと距離が長い気がするが、未知数。
6番人気は皐月賞馬ジェニュイン。7番人気はオークス馬ダンスパートナー。8番人気にビコーペガサス。
超豪華メンバーの決戦。そんな中でも突き抜けてみせたのはこのコンビ。
中盤で先頭に立ち、そのまま驚異的な粘りで1着をもぎ取ろうとするヒシアケボノ。
その奥からタイキブリザードとトロットサンダーが熾烈なデッドヒートを繰り広げ前に飛び出してくる。
ジェニュインやダンスパートナーは4着争い。これだけの豪華メンバーをもってしても付け入る隙の無いほど強い走りだった。
わずかにハナ差でトロットサンダーが1着。ブリザードは2着。そしてクビ差でヒシアケボノが3着。
マイルだけは譲れない。そう感じさせる走りだった。
この後トロットは骨折してしまい、さらに馬主の不祥事がありそのまま引退を余儀なくされた。終わり方こそ不憫なものの、7歳でマイルGIを制したその走りは記録に残り続ける大きな遺産となった。
トロットなき後のマイルチャンピオンシップ。
安田記念の豪華メンバーはだいたい中距離GIや海外遠征に本腰を入れてしまい、めちゃくちゃ層が薄くなってしまった。
1番人気がジェニュイン。2番人気がビコーペガサス。
GI馬はジェニュインとヒシアケボノの2頭だけ。
お察し状態である。
なおさら負ける訳にはいかない。
単勝1番人気とはいえ4.9倍、本命不在の裏返し。
最後のGI勝利から1年半。正真正銘、本物の強さをもう一度。
ジェニュインは頑張った。
前回書いた通り、対抗馬のヒシアケボノは夏で20kg太っちゃって、安田記念と同じ戦法で行ったら脚がもたずに勝手に沈んだ。
ビコーペガサスも本質はスプリンターだから追い込みするには距離が長くて今いち伸びない。
ジェニュイン本人も鋭い脚で差し切ったかと言われればそうでもなくて、エイシンワシントンがバテるのを横目に見ながらゆっくり伸びて勝利。
それでも頑張った。
同期のフジキセキとタヤスツヨシは既に引退済み。後輩のロイヤルタッチも夏で全盛期過ぎてボロ負けしてるし、イシノサンデーも不振。
サンデーサイレンス産駒早熟早枯れ説が囁かれる中、ジェニュインとダンスパートナーは実力で黙らせたのだ。
(1年と経たない内にSS産駒が古馬GI勝ちまくるようになるのはまた別の話)
ジェニュインはこれが最後のGI勝利となったが、引退までずっとコンスタントに馬券に絡み続ける善戦っぷりで強さをアピールしていた。もっと評価されていい。周りが強すぎたのもあるけど。
年の瀬のGIは打って変わって、歴史に残る名勝負となった。
ここ10年で競馬にハマった人ならまず通るであろうCM、THE LEGENDシリーズ。
知らない人がいるならぜひ見て欲しい。THE WINNERもいいぞ。
このレースは語るより見てもらった方が早い。
息も付かない熱戦だ。
エイシンワシントンとフラワーパーク、2頭の一騎打ち。
ゴール板までの距離を完璧に読んで差してくるフラワーパークと天才田原成貴。しかしエイシンワシントンは予想以上の粘りを見せた。
10分以上に及ぶ写真判定が終わる。
勝者、フラワーパーク。
着差、わずか1cm。
判定に使われた写真がネットに上がってるので調べたい方は調べてほしい。じっくり見ても全然分からないくらいの差だ。
疑惑の判定とされるほどのごくごく僅かな差。
泣いたのは他でもないエイシンワシントンだった。
不遇の天才
エイシンワシントン
父 オジジアン 母父 シャム
25戦8勝[8-4-3-10]
主な勝ち鞍 CBC賞(GII) セントウルステークス(GIII)
94世代
フラワーパーク主戦、田原成貴は語る。ゴール前は、馬を押したんじゃなくてあえて「引いた」んだと。
テニスボールはギュッと握り潰すと、手を離した時に反発して一瞬だけ大きくなる。その原理を手綱で使ったんだと。
なんかもう見えてる世界が違うような発言。一瞬の判断でこれをやれるのが凄い。
エイシンワシントンの熊沢さんも必死に粘ったのだが、なんとも惜しい結果になった。もう同着でええやん
ワシントンはその後故障し引退、GIを勝つことは叶わなかった。
デビュー時からレコード勝ちを繰り返したものの、度重なる故障で真価を発揮することができず、ようやく歯車が噛み合った瞬間に飛び込んできたフラワーパーク。運の尽き。
しかし、彼も敗者とはいえCBC賞でフラワーパークを破ってレコードタイムで勝っていること、GIで1着と1cm差の好走を見せたことが評価され、GI未勝利馬としては珍しく種牡馬になることができた。
産駒からは1億円稼いだ馬が2頭も現れ、ビコーペガサスよりも断然安泰な老後を過ごした。
今でもエイシンワシントンの血が入っている馬は走っている。
地方競馬の馬券を買うために血統表を見て「おっ」となる瞬間も、もしかしたらあるかもしれない。
フラワーパークもフラワーパークで、高松宮杯(GI)初年度にして初の春秋スプリントGI制覇を達成し、歴史に名を残す名牝となった。
ここで燃え尽きたのか、晩年は全盛期ほど活躍は出来なかったものの(それでもほぼ5着以内)、引退して繁殖牝馬になると、安田記念で年度代表馬モーリスのクビ差2着になったヴァンセンヌを輩出。
そこそこの成功を収めている。
ヴァンセンヌも種牡馬になってるので、GI前の条件戦とかを見てるとヴァンセンヌ産駒を見かけることもあるはず。
閃光
さて、ここからは秋の3歳GIまとめ。
前回エアグルーヴが親子2代でオークスを制覇し、フサイチコンコルドが衝撃の末脚で他馬をちぎってダービー馬になった。
夏を挟んで彼らがどうなったのか、最後の三冠目を見ていく。
記念すべき第1回秋華賞。
本命はもちろんエアグルーヴ。
母ダイナカールが回避した三冠目。
ここで勝てば明確に親を超え、世代トップの名牝として君臨できる。
だが、彼女は本調子ではなかった。
陣営が「ここは負けられない」という気持ちで調教を仕上げ過ぎた結果、体調を崩してしまい、トライアルには出ずにぶっつけ本番となってしまった。
その上で襲いかかる悲劇。
エアグルーヴフラッシュ事件。
レース当日、いつも通り出走馬はパドックを周回していたのだが、エアグルーヴに向かってフラッシュを焚きながら撮影する輩が現れたのだ。
人間ですら集中力が切れかねないこの行為。
サラブレッドは極めて繊細な動物なので、光や音にかなり敏感に反応する。
結果、エアグルーヴはめちゃくちゃイレ込んでしまった。落ち着きのないままレースは始まる。
そんな事は露知らず、ファンはエアグルーヴの単勝を買いまくり1.7倍。
波乱のレースが幕を開けた。
レース後の馬券の飛び散り方が荒れ具合を伝えてくれる。
上位馬は5、3、7番人気というまさかの展開。
先頭で駆け抜けたのはこの馬。
白貂
ファビラスラフイン
父 ファビュラスダンサー 母父 カルドゥン
7戦4勝[4-1-0-2]
主な勝ち鞍 秋華賞 ニュージーランドトロフィー
主な産駒 ギュスターヴクライ
96世代
すんごい覚えにくい名前。ファビュラスじゃなくてファビラス、ラフィンじゃなくてラフイン。
ラフインはla fouine。laはtheのような冠詞で、fouineは貂(テン)というイタチの仲間のフランス語。でもfabulousは英語。ややこしいな。
日本の馬名は9文字以内の制約があるからュが消えるのは仕方ないとして、全部英語にするとファビラスマーテンになるからそれでよかったと思うんだけど、おそらく馬主的には父ファビュラスダンサーの母父、ジアックス(The Axe)からインスピレーションを沸かせ、なおかつこの馬の生産国であるフランス語を入れたかったんだと思う。欲張りすぎでしょ。
ところで、弊シリーズでは馬を紹介する時、馬名の上に二つ名っぽいキャッチフレーズを添えている(半分以上は筆者が自分で考えたものである)
当時からそう呼ばれてたり、一部雑誌でそういう表現がされていた馬もいる。今回ならダンスインザダークはネットから引っ張ってきた。
今回、この馬を“白貂”と紹介した。
目が良い人は気付いたと思うが、この馬、全然白くない。
某白貂の名画から拝借したかったのもあるが、ちゃんとした大義もある。
この馬、こう見えて芦毛なのだ。
オグリとかゴルシみたいに白くはなくとも、芦毛馬はクロノジェネシスみたいに灰色であることが多い。
でもこの馬はどう考えても芦毛には見えない。なのに引退後はちゃんと白くなってる。
似たような例でエイシンヒカリという馬がいて、ここで紹介することになるほどすごい成績を残した名馬なのだが、その馬も引退後に脚先から徐々に徐々に灰色になっていった。
別に芦毛だからなんだって話だが、そういう馬もいるよっていうことを話したかった。
(どうでもいいけど引退後のタマモめちゃくちゃ純白でかっこいいから見てほしい)
そして菊花賞。今まで散々苦渋を飲まされ続けてきたあの馬が火を噴いた。
一瞬で他馬を置き去りにしたその末脚はまるで―
闇に舞う閃光
ダンスインザダーク
父 サンデーサイレンス 母 ダンシングキイ
母父 ニジンスキー 半兄 エアダブリン
全姉 ダンスパートナー 全妹 ダンスインザムード
8戦5勝[5-2-1-0]
主な勝ち鞍 菊花賞 京都新聞杯 弥生賞
主な産駒
デルタブルース ツルマルボーイ ザッツザプレンティ スリーロールス ダイタクバートラム クラレント
ファストタテヤマ 他多数
母父としての主な産駒
ラブリーデイ ユーキャンスマイル
アルバート ボッケリーニ ルビーカサブランカ
96世代
ロイヤルタッチ、フサイチコンコルドという実力上位2強との接戦。それを完璧な走りで差し切ったのだから強い。
最も強い馬が勝つと言われる菊花賞。もちろんダンスはこれからに期待がかかっていたのだが…
レース翌日に屈腱炎が判明、そのまま引退となった。
この世代が空気な理由の7割はダンスが消えたせいだと思う。残りの3割はフサイチコンコルドとファビラスラフインが消えたこと。
クラシックで1番目立たなかったロイヤルタッチだけが古馬になって善戦できてたという皮肉な展開。
でも未だにダンスだけは人気が高い。
理由はもちろん子供がめっちゃ走ったから。
プロフの通り親族が全て名馬なダンスは即決で種牡馬行きに。
当初の期待を裏切らず、🇦🇺最高峰GIメルボルンカップ勝ち馬デルタブルースから、ファンに愛されたツルマルボーイやファストタテヤマ(で家をタテヤマ)まで、幅広く活躍馬を輩出した。
初期サンデーサイレンス直系種牡馬といえばダンスインザダークである。
執念
ここからは古馬王道路線を見ていこう。
天皇賞(春)でナリタブライアン復活かと思われた矢先に飛び込んできたサクラローレル。
ブライアンは引退し、勢力図が徐々に変わり始めていた。
宝塚記念。
クラシック世代を積極的に出走させるため、この年から一週繰り下げて7月開催となり、ますます有力馬が回避を選択しつつあった。
この年もサクラローレルが回避。出走した3歳馬もヒシナタリー1頭のみ。それもNHKマイルからのローテなので1週繰下げはほとんど影響がなかった。
そんなわけでマヤノトップガンが1番人気だったのだが、期待の新星がいた。
稲妻三世
カネツクロス
父 タマモクロス 母父 ラッキーソブリン
28戦9勝[9-4-0-15]
主な勝ち鞍 鳴尾記念(GII) アメリカJCC エプソムC
94世代
白い稲妻と呼ばれたシービークロスの末脚を引き継ぐどころか伝説となったタマモクロス。
その後継者がカネツクロスだった。
タマモ同様身体が丈夫でなく、脚がちょっとよろしくなかったためダートで走らせていたカネツクロス。
ようやく芝で走らせられるようになり、初めて挑んだ重賞、エプソムカップ。
稲妻の差し脚とはいかなかったものの、強烈な追い上げできっちり勝利。鞍上は当時ライスシャワーを失い、馬に乗りたくなくなるほど傷心していた的場均騎手。この馬に出会ったことでもう一度競馬を頑張ろうと思えたという。
だが、歯車は一瞬で狂った。
次走の毎日王冠で思うような走りができず、オープン戦で勝ちの感覚を覚えさせようと出走した大原ステークス。
たまたま的場騎手がおらず、横山典弘が鞍上を務めたのだが、これが悪影響だった。
元々カネツクロスはよく掛かる馬で、それを抑えながら「差しの競馬」を的場騎手が1年ほどかけて覚えさせてきて、それがようやく実を結び始めた。
しかし柔軟なレーススタイルに定評のある横山は、ここで思い切って前に行かせ、大逃げの形を取らせてしまった。
レースは勝ったものの、カネツクロスは掛かり癖が再発してしまったのだった。
しかしそこからはGII2連勝、日経賞を2着のあと蹄を痛めたため天皇賞は回避したものの、宝塚も射程圏内だった。
GIで勝負になるのか。正念場の一戦だった。
このレース最大の難点が、相手に「田原成貴とマヤノトップガンがいたこと」だった。
マヤノトップガンの強みはその器用さ。どんなポジションからでも競馬ができる。
操縦の難しい馬ではあるが、才能のある騎手が手綱を取れば、馬の強さは何倍にも増幅する。
マヤノトップガンは「先行策」でレースを進行させた。
道中3番手に位置し、いつでもカネツクロスを潰せる位置取りを取った。
そしてレース終盤、逃げ馬のスタミナが切れかかるころに馬体を併せにいき、完全に潰し切った。
カネツクロスが崩れればあとはマヤノの天下。ダンスパートナーが飛んでこようと、マヤノの末脚の前では差は縮まらない。
負けるべくして負けた。勝つべくして勝った。
明暗の分かれたレースだった。
これ以降、カネツクロスは一切日の目を見なくなる。馬の育成の難しさ、幼い頃から乗り替わらずに競馬を教え続けることの重要さがわかる。
エリザベス女王杯。
始まる前から勝者の決まったレースだった。
実は秋華賞でエアグルーヴは骨折し、休養に入っていた。そしてラフインはジャパンカップへ。
本命、ダンスパートナーの対抗馬がいなかった。
余裕の勝利かと思われたが。
辛勝。
強烈な追い上げを見せた、同じ「ダンス」の名を持つ者。
フサイチコンコルド主戦の藤田伸二が御すその馬は大きな衝撃を与えたが、これ以降全く活躍しなかった。
そして、2着だったはずのヒシアマゾン。
久々の激走を見せたが、斜行とみなされ降着処分。
主戦の中舘騎手は次戦から降板に。
絶対女王ダンスパートナーにも、少しずつ陰りが見え始めていた。
一方その頃。
天皇賞(秋)は三強体制の1戦となった。
宝塚を楽々勝ち切ったマヤノトップガン。
オールカマーでマヤノに快勝したサクラローレル。
そしてもう1頭、天才とすら呼ばれた馬がいた。
金色の軌跡
マーベラスサンデー
父 サンデーサイレンス 母父 ヴァイスリーガル
15戦10勝[10-2-1-2]
主な勝ち鞍 宝塚記念 京都大賞典 産経大阪杯
主な産駒 マーベラスカイザー、キングジョイ
母父としての主な産駒 レッツゴードンキ
95世代
ウマ娘を見た感じマーベラスが口癖の不思議巨乳という印象しか持てないが、何を隠そう史実は放尿へk……史実はとんでもなく強い馬だった。
ビワハイジやハヤヒデ、ナリタブライアンなどが生まれた早田牧場で生を受けたマベサン。
体つきが良くなかったため買われなかったのだが、牧場関係者がJC勝ち馬マーベラスクラウンの馬主を説得し交渉成立。調教師もクラウンを管理していた大沢師に決まる。
2歳の夏、調教で併せ馬をさせると、武邦彦厩舎のオースミタイクーン(後のGII2勝馬)相手に10馬身突き放すとんでもない脚色を見せ、本人の前にいる時以外は子煩悩な武邦パパは「豊に乗せてやってくれ」と大沢師に頼み込んだ。
しかしデビュー前に右膝骨折した上に放牧先で疝痛(腹痛を伴う病気の総称。ストレスからなる。馬は痛みに弱いため怪我するとこうなりやすい)をこじらせてしまう。480kgあった体重が390kgにまで激減し、関係者曰く「骨と皮だけだった」と言われるほどげっそりしてしまう。
懸命な治療の甲斐もあって命を取り留めたが、デビューはもちろん大幅に遅れた。
(ウマ娘マベサンはこの出来事無かったことになってそう。だってそんだけ体重減るような病気にかかったらあそこまででか…なんでもないです)
めでたくデビューしたと思ったらクラシック直前にまた右膝を骨折した上に左後脚まで骨折し、3歳をまるごと骨折で棒に振った。もう復帰できるのかすら怪しい状況である。
しかしここからがすごかった。
4歳春、復帰2戦目で勝利を挙げると、以降は無敗。ずっと無敗。
単勝2倍を切るような人気を毎回背負いながらも、常に僅差で圧勝。
エプソムカップ、札幌記念、チャレンジカップ、京都大賞典と連勝街道をひた走る。
常に僅差で勝ち続けるその姿をシンザンに重ねる者すらいた。まあ、実際は先頭に立っちゃうと気を抜いて走らなくなるから僅差で勝たせてただけらしいが。
そんな古馬三強が相見えた天皇賞。
彼らを迎え撃つのはバブルガムフェロー。
3歳ながら距離適性から菊花賞を回避し、天皇賞で復活勝利を狙う。
すっかり古株になったナイスネイチャやジェニュイン、カネツクロスも出走し、グランプリさながらの盛り上がりを見せた天皇賞。
ジャイアントキリングは唐突に。
サクラローレルは出遅れ後方待機。
馬群はギッチギチに固まり、とても差し馬が抜け出せない状況だった。
最後の直線、やはり前は空かずローレルは伸びきれない。
トップガンもちょっと掛かり気味で苦しいところ。
マーベラスもローレルをブロックしようとするあまり左ムチが思うように打てない位置取りに。
唯一ベストな位置取りをしたバブルガムフェロー蛯名正義が勝利。
3歳馬の天皇賞制覇は史上2頭目、58年振りの快挙。
藤沢和雄厩舎初の八大競走制覇。時代が変わった。
一方、サクラローレル横山典弘は猛烈に叩かれていた。さすがにサクラ軍団調教師の境さんも大激怒。
「これなら俺が乗った方がマシだ!」とまで言われたという。
(元騎手だった境師はかなりのやり手で、オグリキャップの5代母クインナルビーで天皇賞を制したりなどしている)
次走、有馬記念も引き続き横山典弘が主戦。しかしミスれば次は無い。気を引き締めて挑んだ。
ジャパンカップ。
天皇賞に猛者が集いすぎてマイルチャンピオンシップ同様スッカスカの布陣となった。
1番人気は凱旋門賞馬エリシオ。
2番人気は我らがバブルガムフェロー。
3番人気はキングジョージ勝ち馬ペンタイア。
4番人気は10戦連続連対のシングスピール。
5番人気にNHKマイル勝ち馬のタイキフォーチュンが来る時点で勝てそうな日本馬はバブルしかいないという状況がお分かり頂けるだろう。
しかし、このレースは荒れに荒れた。
人気上位が仲良く沈む。
シングスピール、ファビラスラフイン。
予想だにしなかったこの2頭の一騎打ち。
勝ちをもぎとったのは世界最強騎手、ランフランコ・デットーリの御する馬だった。
万能なる勇者
Singspiel
父 インザウイングス 母 グロリアスソング
半兄 グランドオペラ 母父 ヘイロー
20戦9勝[9-8-0-3]
主な勝ち鞍
🇬🇧インターナショナルS 🇨🇦インターナショナルS
🇬🇧コロネーションカップ連覇 🇯🇵ジャパンカップ
🇦🇪ドバイワールドカップ
主な産駒
🇬🇧Solow 🇮🇪Moon Ballad
アサクサデンエン ローエングリン
母父としての主な産駒
シンハライト ローブティサージュ シャケトラ
95世代
勝ったシングスピールはとにかく万能馬。
馬場の軽いジャパンカップを勝ち、激重コロネーションカップを連覇。 これの翌年にはダートのドバイワールドカップをぶっつけで勝っちゃう壊れっぷり。
海外版アグネスデジタル的な感じだ。
もちろん引退後は日本に産駒も輸入され、未だに彼の血を引く馬が好走している。ダートでも走ってる。
レース自体もNHKマイルカップでバンブーピノに調子を狂わされボロ負けした秋華賞馬がジャパンカップで2着になる。訳が分からないことだった。
ルドルフやヒシアマゾンのように常識を壊した馬は多々いるが、この馬も間違いなくその一つだろう。
名前のせいで忘れられがちだけど。
バブルガムフェローは謎の大敗。
故障かと記者が問うと、「壊れたのは馬の頭だよ!!」と岡部騎手は半ギレ。
有馬には出ずにしばらく休養させることになる。
凱旋門賞の夢は泡と消えたのだった…
有馬記念。
ジャパンカップとマイルCSがスッカスカだったぶん、かなりの豪華メンバーに。
1番人気から順に
サクラローレル(天皇賞馬)
マヤノトップガン(昨年の有馬覇者)
マーベラスサンデー(天皇賞4着)
ファビラスラフイン(秋華賞馬)
ヒシアマゾン(昨年のジャパンカップ2着)
ロイヤルタッチ(菊花賞2着)
タイキフォーチュン(NHKマイル覇者)
マルカダイシス(GII鳴尾記念勝ち馬)
ホクトベガ(ダート重賞8連勝中)
ジェニュイン(マイルCS勝ち馬)
カネツクロス(GII2勝馬)
ダンスパートナー(エリ女勝ちから中1週でJC→有馬)
エルウェーウイン(朝日杯勝ち馬)
マイネルブリッジ(NHK杯勝ち馬)
全員最低でもGIIは勝ってる上に重賞を3勝以上している猛者が集い、GI馬は驚異の14頭中10頭。
当時の強い馬がバブルガムフェロー以外勢揃い。
ここで勝った馬が最強と言っても過言ではない。
大本命はローレル、トップガン、マーベラスの三頭。「古馬三強」。
負けられない横山典弘、連覇を狙う田原成貴、今度こそ勝ちたい武豊。
雌雄は決した。
勝者、サクラローレル。
マヤノトップガンが掛かって失速する中、最後まで残ったマーベラスサンデーを悠々と交わす、天皇賞が嘘のような大勝利。
1987年、サクラスターオーが涙を飲んだこの舞台で、サクラ軍団初の有馬記念制覇。
境調教師への最高の餞となった。
これだけの豪華メンバーで3着に飛んでくるのが最低人気のマイネルブリッジなのだから、競馬は本当にわからない。
ヒシアマゾンはこの5着を期に引退。
翌年も現役続行の予定だったが、屈腱炎を発症した。
ファビラスラフインも屈腱炎で引退。
万全のエアグルーヴとの再戦は叶わなかった。
ブライアンが去り、台頭した古馬三強。
しかし、その天下は予想以上に短かった。
最強たちの時代の足音が、刻一刻と近付いていた。
再起
おかしい。
あんなにGIを沸かせていたメジロの馬が、全く姿を見せなくなった。
この記事を読んでいて不審に思われた方もいるかもしれない。
事実、メジロ牧場は苦しんでいた。
マックイーンの黄金世代以降、GIどころか重賞を勝つ馬すら生まれずにいたのだ。
サンデーサイレンスやブライアンズタイム、トニービンらが台頭し、スピードが無ければ淘汰されるようになった日本競馬。ステイヤー血統を重視するメジロには厳しい状況だった。
そんなメジロ牧場を救ったのは、他でもないあの馬の子だった。
メジロライアン。
彼の血を継ぐ2頭の馬が、メジロを継ぐ。
奇跡の名牝
メジロドーベル
父 メジロライアン 母父 パーソロン
孫 ホウオウイクセル
21戦10勝[10-3-1-7]
主な勝ち鞍
エリ女連覇 牝馬二冠(オークス、秋華賞) 阪神3歳S
97世代
ドーベルは生まれた時から前途多難だった。
ドーベルの母メジロビューティーは特殊な血液型で、ドーベルが母の乳を飲むと貧血になり命の危険を伴うという中々異様な状況に陥った。
そこで初乳をもらったのが隻眼の牝馬、メジロローラントだった。
なんとか最初の危機を乗り越えたが、翌年には骨折。
社台ファーム全面協力のもと懸命な手術で危機を脱する。
(マーベラスサンデーといいスペシャルウィークといい、この時代の馬は幼少期が怒涛の展開すぎる)
多くの人に支えされ、2歳(当時でいう3歳)の8月というベストなタイミングでデビューを飾ることができたドーベル。
新馬戦の後直行した重賞こそ負けたものの、その後は連勝で迎えた阪神3歳牝馬ステークス。
しかし1番人気は別にいた。
前走のデイリー杯で牡馬相手に勝利したシーキングザパール。
この馬とは対戦経験があった。
新馬戦後の新潟3歳ステークスで、シーキングザパールは外に向かって逸走し、武豊を振り落とさんばかりの暴走をしながら巻き返して3着になったのだ…
ちなみにドーベルは5着だった。
この時の借りを返すべく、メジロドーベルは戦った。
シーキングザパールはなんか全然伸びない。
メジロドーベルは好位抜け出し。レコード勝ち。
メジロ牧場、3年振りのGI制覇。
そしてもう1頭、2歳馬の頂点を駆け抜けた馬がいた。
ラジオたんぱ杯。
GIIIでありながら後のGI馬が毎年のように出ることで有名だったこのレース。
誰よりも輝いた末脚。その馬の名は…
閃光の脚
メジロブライト
父 メジロライアン 母父 マルゼンスキー
全弟 メジロベイリー
25戦8勝[8-8-3-6]
主な勝ち鞍 天皇賞(春) GII4勝 GIII2勝
主な産駒 マキハタサイボーグ
97世代
実は前走でシーキングザパールに5馬身差を付けられ2着になっていたブライト。
その割にパールは阪神3歳で負けるし、でも勝ったブライトはラジたんで勝つし、強いのか弱いのか分かんなくなっていた。なおこの評価は引退後も変わらない。
ブライトはこの走りが評価され、1番人気でクラシックに殴り込むことになる。
ようやく存在感を取り戻したメジロ。
サクラの活躍も相まって、競馬はオグリ全盛期の頃の輝きを取り戻しつつあった。
時代は繰り返されてゆく。
少しずつ、しかし確実に、形を変えながら。
まとめ
ついにここまで来ました。
次回は1997。伝説のタイキシャトル世代です。
#14まできてようやく文章構成のテンプレが決まってきたので、今後は楽に書けそうです。
名馬が多すぎて更新頻度は変わらないんですけどね。
文中でも書きましたが、競馬特有の用語が分かんなくて困ってる方、このnoteも分からない単語を読み飛ばしたり、いちいちググって読んでくれてる方、ぜひともこちらを参考にしてください!
メジロブライトのウマ娘化とこのシリーズの完結(ダート編と昔の名馬編と知られざる名馬編含む)、どっちが先に来るかで賭けましょう。
僕はブライトに1京ジンバブエドルで。
それでは。
(追記:こんなに早く実装されるとは思わんやん…)