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「この手のひらに」(森鷗外「杯」によせて)

       わたくしの杯は大きくはございません。
       それでもわたくしはわたくしの杯で戴きます。

                  森鷗外 「杯」 より


これを私は、人には人の生き方や分際、容量があると解釈している。
私の杯はこの手のひらだ。
しなやかでも逞しくもない、丸く短い指のこの手のひらだ。

けれど神様はこの手のひらに文字をくださった。
僅かな想像力と、暮らしに追われながらも書くことが出来る環境と。

きっと何事かを成し遂げる人の手は湖が入る程に雄大なのだろう。

私はこのちっぽけな手のひらに、水たまりを汲んでそろそろと歩く。

人の才能に嫉妬する。
手に入らないものを羨む。
悟ることの出来ない未熟さを死ぬまで抱えながら。

書く。

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