アサラトの中身を考える #2

アサラトの中身、シェイク材についての調査の第2回。
前回は最もメジャーなシェイク材と言えるであろう“ワイルーロの実”をアサラトに詰めた場合のデータを検証したが、今回は交換用素材として多くのプレイヤーに重宝されている、人工のビーズについて調べていきたい。

使用する素材について

シェイク材の交換に用いられるビーズは、容易に手に入り、且つ安価な手芸用のビーズが一般的である。
しかし、手芸用のものは大きさが不揃い(本来の用途では全く問題ない)であったり、糸を通す穴があいているものが多かったりするので、比較実験をするにはやや不向きであると考え、科学の実験などに用いる無穴のガラスビーズを計測に使用することにした。
今回用意したガラスビーズの大きさは直径2mmと、シェイク材として使用できる最小クラスのものを選んだ。
これは今後、違う大きさのガラスビーズとの比較実験を行いたいと考えており、その際にわかりやすく差異が出るように、という理由のもと極端なサイズのものを使うことを決めた。
そして調査内容であるが、前回のワイルーロの実を用いた時と同じく、音圧と周波数スペクトルを計測していくこととする。

音圧計測の注意点と考察

早速、音圧の方から実際の計測値を見ていきたいのだが、その前に、前回のデータと比較するにあたり注意点がある。

前回の計測では1〜5gの間で充填する重量を変えてその変化を観測したのだが、ワイルーロの実と今回用いるガラスビーズとでは物質としての密度(比重)が違う。
その為、ガラスビーズを1g充填した時とワイルーロの実を1g充填した時とでは体積が大きく異なり、正しく比較することが出来ないのではないかという懸念が生まれたのである。
この問題点を解決するためには、シェイク材の重量ではなく体積を等しく揃えて実験する必要がある。
具体的な数値で説明するとワイルーロの実の体積は平均77.36mm³(個人調べ)で、φ2mmのガラスビーズの体積は4.18mm³となる。
この2つの体積比を倍率で表すと、約18.5倍の差があるということになり、ワイルーロ1粒=ガラスビーズ18.5粒とすることで近い条件での計測が可能となる。
そしてワイルーロの実の重量は1粒0.09〜0.1gあたりなので1gは約11粒となり、これを18.5倍した数、つまりガラスビーズを203.5粒程度充填すれば近い条件での比較が出来る計算となる。

以上の計算結果と(大きく支障をきたさない範囲で)キリの良い数字の方が計算や実験が進め易いという理由から、ガラスビーズ200粒をワイルーロの実1gに対応する数値として設定し、計測を行うこととする。
なお、本来二つの材質は形状も大きさも異なるため、空隙率に違いがあり、単純な体積比では完全な同一条件にはならないのだが、計算が難解になるということと、無視しても実験データに致命的な影響は及ぼさないだろうと判断し考慮から外している。

前置きが長くなってしまったが、上記の設定の下、音圧を測定したデータをご確認いただこう。

静かな屋内にて、騒音計より1mの距離を取り測定。
BPM=100のテンポで8小節演奏し、各充填率ごとの最大音圧を記録。
同じ計測を5回繰り返し、その平均値を折れ線グラフにした。

今回はⅩ軸を重量(g)で一律に表すことができないので、アサラトの球体に対する体積の比率(%)で示している。
より適した表記方法があるかとは思うのだが、すぐには考えつかなかったので、少し見づらいかもしれないが今回はご容赦いただきたい。

まず、ワイルーロの実を充填した場合と比較して見ると、ガラスビーズを充填した場合の方が全体的に音圧が高くなっていることがわかる。
原因はいくつか考えられるが、単純にガラスビーズのほうが比重が大きいので質量が重い=運動エネルギーが大きくなる、という理由ではないかと推察される。

もう一つ着目したい点は、音圧上昇の上限が両方の素材ともに概ね同じ(充填率3.84%)辺りにあるという点である。
粒の大きさも比重も違うにも関わらず、同じような上昇カーブを描いているという点から、どんなシェイク材でも球の体積の3.84%程充填した時が最も効率が良い充填量となる、という仮説が立てられる。
当然サンプル数が2種類しかない現状、些か弱い仮説ではあるが、今後また違うシェイク材を試す際はこの説を固めていく方針で研究していこうと思う。

シェイク材の違いによる音質の比較

次に周波数スペクトルから音質の特徴を確認していく。
こちらも前回と同様、録音データをFFTアナライザにかけて解析した図を見ながら考察していこう。
上記の測定データ(音圧)より、最も効率の良い充填率とされる、球の体積の3.84%のガラスビーズを充填し録音、解析した。

オープンシェイク、クローズドシェイク、アクセント等の奏法をバランス良く
織り交ぜた演奏を録音し、アナライザにかけて得られた周波数スペクトル。
1kHz以下はノイズ成分が多く含まれるため割愛している。

大まかなシルエットとしてはワイルーロの実を用いた際の解析データと同じく、2kHz周辺と7〜20kHz辺りに大きく二つの山が確認できる。

前回提示した(ワイルーロの実の)スペクトルと比較しやすくするため、重ねて表示した図も用意したのでご覧いただきたい。

二種類のシェイク材の周波数スペクトル比較画像。
ワイルーロの実を緑、ガラスビーズを赤で表示している。

まず2~2.5kHzの山に着目すると、ガラスビーズの方が若干高い周波数にピークがある。
前回も解説したが、この2kHzあたりのピークはクローズド(ミューテッド)シェイクで演奏した際に現れるものである。
ここからわかることは、クローズドシェイクでの演奏時はワイルーロの実の方が低音が強調されたシェイク音であるということである。
低音といっても2kHzは音名でいうところのC7(ピアノの最高音の一オクターブ下のド)に近い音なので、低いというより“相対的に落ち着いて聴こえる”といった程度に考えた方が実際のイメージに近いかもしれない。

次に7kHz以降の大きな山について見ていこう。
こちらもおおよその輪郭は似ているのだが、わかりやすくガラスビーズの方が高い音圧を示しており、ピークの形も明瞭に出ている。
これはワイルーロの実に比べ、高い倍音成分が強調された音色であることの証左である。
これは、しばしば「シャリシャリ」や「シャキシャキ」等の擬音語を用いて表現される音で、よりキレのあるタイトなリズムを演奏するのに適したサウンドと言えるだろう。

プレイヤー目線での主観的評価

蛇足かとは思うが、私が実際に演奏した際のインプレッションも参考までにお伝えさせていただきたい。
まず、一番に感じたことは、ワイルーロの実に比べて“アクセントをつけた演奏がしやすい”ということである。
粒が小さく比重が大きいことにより、アサラト(球体)の中でのまとまりが良く、固まりで内壁にぶつける感覚が非常に掴みやすかったと感じた。
言うなれば、よりマラカスやシェイカーに近いイメージだろうか。

もう一つ気になった点は、手の前後運動をしない(クリック等のシェイクを伴わない)プレイ時にも、シェイク音が付随することである。
例えばデンデンでの演奏の際、球同士がぶつかる衝撃にガラスビーズが敏感に反応し、アタック音と同時にシェイク音(シェイクはしていないので厳密には正しくない表現である)も発音されるのだが、これも粒の小ささが起因していると考えられる。
この事象については華やかさや派手さを表現できるし、より複雑なリズムに聴かせる作用もあるためとても面白い効果だと思う反面、シェイク音の抜き差しや、休符のコントロールが難しく、メリハリのないプレイになりやすいというデメリットもあり、一長一短であると感じた。

終わりに

最後に今回の実験の所感をまとめたい。
今回の計測を経て、材質の形状や比重に依らず、球の体積に対するシェイク材の体積の比率(充填率)により音圧の上限が決定されるという仮説を立てられたことは大きな収穫であったと感じる。
次回は同じ体積で比重の異なるシェイク材を用いて、この仮説の裏付けを固めていきたいと考えているので、またそちらもお読みいただければ幸いである。
また、今回調査した小径ガラスビーズであるが、安価でありながら交換した際に大きな音色の変化を感じられるので、興味のある方はぜひ一度、実際にシェイク材として採用してみて欲しい。
当然、人それぞれの好みはあると思うが、私個人としては大変気に入ったので皆様にも強くおすすめしたいところである。


それではまた次回のレポートをお待ちください。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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