アサラトの音量と演奏速度の関係性
アサラト大音量化計画
楽器分類上、アサラトは体鳴楽器に分類される。
体鳴楽器とは楽器そのもの(本体)が振動することにより音が鳴るものであるが、その音量は楽器の物理的な大きさに依るところがかなり大きい。
アサラトは様々な楽器の中でも小型の種に分類されるが、それは単純に考えて、音量もそれ相応に小さいということになる。
音量が小さいということは時にメリットになることもあるかもしれないが、大半のシチュエーションでは足枷となることのほうが多い。
逆に言えば、可能な限り大きな音を出すことが出来れば、アサラトの楽器としてのウィークポイントを一つ無くし、ポテンシャルを最大限まで引き出すことに一歩近づくのではないかと考えた。
楽器を使って大きい音を出すということは、最も効率よく楽器を振動させることであると言い換えることができる。
体鳴打楽器は素手やマレット、スティック等のストライカーで楽器を叩いたり、楽器同士をぶつけ合ったりして発音しているが、この動作に無駄があり上手く振動を伝えられないと大きな音を出すことは出来ない。
そしてこの無駄な動作を無くすということが、どんな種類の楽器を練習する上でもよく言われる“脱力する”ということに繋がってくる。
多くの打楽器奏者が、力任せに楽器を叩くよりも、脱力して重力に自重を乗せて叩く方が大きく良い音がすると考えているように、筋肉を適度に緩め、瞬間的なキレを意識することこそが音量を上げるために重要なのである。
例えば、ピアノの鍵盤をゆっくりと力を込めて押さえつけても小さな音しか出ないが、鍵盤に触れる一瞬にだけ力を入れ、高速で打鍵すれば大きな音が出る、ということを思えばわかりやすい。
これをアサラトに置き換えてみると、球同士を打ち当てる力(圧力)を意識するのではなく、瞬間的なぶつかる速度を上げることに注力すれば、音量もそれに比例して大きくなると考えていいのではないだろうか。
音量の変化に伴う演奏上の制約
より大きな音量で演奏するためには、球の(移動)速度を上げなければならない、というところまでは簡単に辿り着けたのだが、これをいざ実践しようとすると、アサラト特有の演奏法にある問題が隠されていることに気付いた。
アサラトの一般的な奏法は球を握り前後に振る“シェイク”が基本になり、その動きに付随して球が動き、衝突し、アタック音が生まれるというものである。
つまり、シェイクの速度と球の運動速度とを切り離して考えることは難しく、球の速度を上げようとすれば、自ずとシェイクの速度も上がることとなり、それはすなわち演奏(楽曲)の基準となるテンポ自体が速くなるということを意味している。
ここで実際に騒音計を用いて計測した演奏速度と音量の相互関係についてのデータを用意したので参照していただきたい。
演奏速度(BPM)の上昇に伴って、各奏法ともに音量が上がっていることが一目でわかる。
このデータから、より大きな音で演奏するという当初の目的については、一つの回答が得られる形となったが、同時に演奏速度に比例して音量が“強制的”に変動させられてしまうという不自由さも露呈する結果にもなってしまった。
テンポが遅ければ小さく、逆にテンポが速い場合は大きな音しか出せないということは、スローな曲で重く印象的なフォルティッシモを演奏したり、高速連符を繊細で転がるように表現したりすることはまず不可能だということになる。
もちろんシェイクの動きに依存しない演奏法(クリックや当て系)を使えばその限りではないが、それだけでプレイを組み立てるとなるとアサラトの良さ、というか特有のグルーヴまで抑制されてしまい、アサラトを演奏する意味が薄まってしまうと私は考える。
シェイカーとカスタネットで代用できるような演奏ならば、果たしてそこにアサラトの存在理由はあるのだろうか。
考察のまとめと今後の展望
演奏速度と音量に相関性があるということ。
そしてそれがアサラトの持つ大きなハンディキャップである、ということがここまでの検証から導き出されることとなった。
当然、アサラトの更なる進化のためには、この問題に対する解決策を見出す必要があると強く思うのだが、残念ながら私の力では現状、効果的な改善案は見つけられていない。
これについては、さしあたり今後の課題の一つとしてこれからも研究考察を続け、進化の足掛かりを注意深く、貪欲に探っていきたいと考えている。
また今回、アサラトの音圧を測定している際に、調査テーマとは別に気になったことや、気づいた点がいくつかあったので、そちらも後日まとめて発表したいと思う。
些か冗長なレポートとなってしまいましたが、最後までお読みいただき誠にありがとうございました。