アルバム『遊泳の音楽』リリースに寄せて
せっかくの機会なので、セルフ・ライナーノーツ的なものを(なるたけ簡単に)綴りたいと思い立ち、筆をとってます。文章ばかりでは視覚的につまらないので、要所に最近気になったいい感じのニットやパーカーの画像を貼りつけながらやっていきたい。
<全体>
前回のミニ・アルバムから約3年半以上も経った。長らく黙ってお待ちいただいた方、そうでない方、激烈に感謝します。
楽曲を派手に(あるいは地味に)複雑化しようと思えばいくらでもできるだろうけど、どこで歯止めをかければ曲に込めた本質的な感情を留めさせられるのか、みたいな部分での自分との戦いこそが、ポップス音楽を創作する難しさや醍醐味の一つだ。と思うことがたまにありますが、それをひとつの角度から体現できたアルバムになったんじゃないかな、と感じている。
だんだんとやりたい方向性も変化してきていて、今回のアルバム制作期間の後半あたりからは、音楽の技巧的な部分よりも、もっぱら人間の抑えがたいエモーショナルな部分にこそ興味ありまくりだったんですが、さておきポップスにおけるアレンジ面や物語性、過去の時点でやりたかったことは沢山ブチ込み、ひと段落付けられた作品になりました。
冷たい急流や温かい浴場の中で気持ちよく、あるいは狂うように漂うような、奥行のある音楽をこころざしました。全体的に。
分かる人だけに、などとはつゆほど思っておらず、できるなら皆に刺さってくれと思って制作しています。よろしく!
M1. 遊泳の前に (introduction)
ミニアルバムの幕開けに悩んだ結果、前回のアルバム同様、ピアノを中心に据えた短い断片作品を採用。
左右から聞こえるナンセンスなセリフの一部に、行儀が良くないとされる表現をいくつか混ぜるつもりだったんですが、相談の結果、後々厄介なことになりかねないとのことで却下した。
参照:iTunes Store の「E」マーク、これはなんぞ? | R (beadored.com)
海外都市のヒットチャートをいくつか覗けば軒並み<Explicit>マークが並んでいるのに対し、J-POPチャートでは(一部のhip-hopを除いて)ほぼゼロ。もちろん言語的特徴の違いも大きな理由だろうけど、何かおもろいです。
M2. 人のダンス
静かに燃える民族舞踊のようなイントロを作りたくって作った楽曲。Balafon(主に西アフリカに分布する、ひょうたんで作られた木琴類) の音色が結構気に入っている。あと、アウトロの幻覚的な感じとか。最近、サビに入ったとたん緩やかなグルーヴに変化する(あるいはリズムが無くなる)作り方にハマっているんですが、この曲もその一環です!
陰惨な世に対する憤怒やしんどさを無理にでも楽しさに変換することは、現代のモラル的にまだ許されにくい行為なんだろうか、みたいなことをぼんやりと(でも結構真剣に)考えながら詞を書きました。愚かな戦争早よ終わってくれという祈りも。
バンド・ソサエティ(昨今自分が組ませていただいているバンド)のメンバーでもあるシンリズム君にイケてるベース/ギターフレーズを入れてもらって完成させた。ありがとう!
M3. 光り輝く庭 (feat. 宗藤竜太)
ゲスト・ボーカリストを"フィーチャリング"なる形で初めて迎えた曲。数年前に存在を知ってからおそらく一番ライブに通ったであろう宗藤氏にヴォーカルを全編お願いし、想像以上にとてもいい形になって個人的に深く感激した。嬉しかった。歌唱表現の奥底にある機微とか、優しく軽やかに寄り添う情感を受け取ってもらえると大変ありがたいです。
曲の後半に吹き荒れるソプラノサックスは松丸契君。アウトロの約30小節に渡る(ポップスとしては)異様に長いソロをお願いしたが、やはり徐々に積み重なる起伏、塗装された道から外れてゆく旋法の先に新しい地平が見えた気がして、レコーディング中に唸った。うねる伴奏の中で周囲の空気まで引きずり込む終盤のフレーズを聴いてください。ありがとう!
M4. 爆ぜる色彩 (2024 Updated Mix)
ある特定企業のCM音楽仕事の中でスケッチしたボツ・アイデアから断片が生まれ、しばらく日の目を見ることなくパソコンの中に眠っていたが、'21年頭、そろそろ曲を作らなきゃヤバいという焦りのなかで慌てて引っぱってきて、結構まともな形になった。
今回のNew Mixではテンポの変更・楽器のリテイクの他、新たに指スナップの音を追加しました。ノリが分かりよいかなと思って。
この曲をきっかけにして、昔から敬愛していた作曲家の方に取り上げてもらったり、さらには実際にお会いしたりできたため、件の特定企業には非常に感謝してます。(某日ホームパーティにお邪魔した際、作曲者と共に大好きな曲を連弾した思い出なんかは、何物にも変えがたく輝いている。)
M5. 角を探す人 (Extended Version)
今回のアルバムで唯一の、バンド形式での作品。自分としては結構気恥ずかしいくらいポップな方角を向いた楽曲だが、シングルで発表した当初から、いろんな方から感想をもらったりBGMに使用してもらえたり、とても良・心地になった。ポップス音楽というジャンルは決して軽薄・軟弱ではない。
アウトロでのメンバーたちの大団円的なソロ、聴くたびに愉快な気分になる。手前味噌というかアレですが、上手いってだけではなくそれぞれの味のある創造的な演奏が好きです。参加いただいたしょけん氏、松丸契氏、松木美定氏、平陸氏(ソロパートの順)、改めてありがとうございました。全員、ライブでのソロはさらに素晴らしいです。
既発シングルのバージョンから細かい部分に変更がありつつ(見つけてくれた方がいればラッキー)、さらに長めのイントロが加わり、結果6'23"という長めの作品になってしまった。嬉しい!
M6. 蜃気楼の人
中学の頃に作った稚拙なメロディに、歌詞をはめ込み、和声を食らいつけ、形にした。実家から持ってきたメトロノームの音は録音に使用するだけの予定でしたが、せっかくなので採用。限られた時間の中で、シンプルな楽器の構成からどれくらいの色調を生み出せるか、即物的な試行を繰り返しやってみたっていう感じの作品です。
敵(もしくはライバル、あるいは味方など)に敗北せんからな・・・という心持で聴いてもらえると有難いです。
M7. 甘美な逃亡 (2024 Updated Mix)
こちらも既発曲の再ミックス・バージョン。
ちょうどアルバム制作も大詰めに差し掛かっていた烈暑の候、佐藤望(棕櫚)さんにお誘いいただき、コーネリアス氏の制作の大きな部分を担われている美島豊明さんのハウス・スタジオへ、柴田(パソコン音楽クラブ)さん・原口沙輔くんと共にお邪魔させていただいた。アレンジングやミキシングに関してとにかく学ぶこと多し、文字通り蒙を啓かれた瞬間があったが、それらの作法のうちのごく一部、アルバムのいくつかの楽曲のミックスにおいて、自分なりに少しは生かさせていただけたような気がします。嬉しいです。
前回のリリースド・バージョンと比べて、サキソフォンの少し破壊的なエフェクトを強め、歌の大部分も大差し替え。いい感じになってれば幸いです。
M8. 夢の港の夢
先行して発表したシングル曲です。
自分でも珍しくかなり気に入っているメロディと構成で、サビ途中のクラシカルな転調部分にも、自らの好みをしたたかに打ち付けたって感じです。何かを喪失した人たちの寂しさをはらんだ明るさっていうか、夢の中に出てきたにぎやかな港をイメージしつつ、複合的な意味を持たせたくて悩みながら書いた詞、見てもらえるとありがたい。
イントロのコーラスは、Carpentersの"I Won't Last a Day without You" (邦題「愛は夢の中に」)のイントロに少し引っかけてみてます。作曲者Paul Williams自身の👇のバージョンもすごく良いのでゼヒ
M9. 遊泳の後に (outroduction)
‘21年のいつごろか、ふと思い立って、適当な数の列をランダムに吐き出してくれるウェブ・サイトを発見、表示された4つの数「7 8 5 9」をそのまま音階に当てはめて(1=ド、2=レ、3=ミ、・・・)、完成された謎の音列「シ ド ソ レ」を自作曲のモチーフに使うことを強い意志で決定。楽しかった!
ミックス。収録曲のうちM5とM8はいつも大変お世話になっています小森雅仁さん。そして録音。生の楽器はほとんど全て飯場大志さんに手掛けていただいています。激甚にマジ多忙の中、高いクオリティの録り音、素晴らしく広がりのある美しい音像に仕上げていただき、毎度ながら非常に感謝しております。
マスタリングに関しては、溜池山王にあるスタジオに実際に赴き、エンジニアの山崎翼さんのお仕事を間近で見せて(聴かせて)いただくことができた。マスタリング・ルームの横っちょに設置されていた小ぶりなスピーカーから暖かい音色で流れだす音楽を耳にした貴重な機会、大切にしたいと思います。
アルバムを通して強弱差の細かい感じを失うことのないように気を遣っていただき、いわゆるストリーミング上での"圧"はごく自然な状態まで抑えていただいてるので、是非とも音量を2,3上げて聴取していただけると体験として良いかもしれません!
<おわりに>
断固としてアルバムを通して聴け/別に聴かんでええやんけ問題、シャッフル再生に諸手を上げて賛成/鬼のごとく反対問題など議題によく上がりますが、今回に関して言えば、必ずこれらの順番で聴いてくれよみたいなのは無意味な規定だし、多様な音楽の聴き方があって完全によいと思うから、どうか好きなタイミングで自由に取り出して聴いてもらえると嬉しいです(個人的には、アルバムという形式自体はやっぱり大好きすぎますが)。
1枚目のミニ・アルバムと比較しても大変多くの方に関わっていただきました、ありがとうございました。
ポップスというジャンルが決して権威(あるいは大衆)におもねるだけの”軟弱な”音楽ばかりで成り立っているわけではないということを信じ続ける。各々の思い描く美の本質に肉薄するジャンルの一つであることも。その叛骨的な精神と音楽性がうまく結びつくことを目指し、創作を諦めないでいたいです。
こんな底の底まで長々と読んでくださった皆様すごくありがとう。
是非どうぞよろしく申し上げます。ではさようなら!