「食べる音楽」リターンズ
No.9 美味しい義援活動
バス、カント、アルト、ファルセットに乾杯!
何てワインですか、コヴェッロさん?
ここらでは「キアレッロ」と呼んでいます
キアレッロ、美味しいキアレッロ
おまえを今クリアにしてから評価しよう
うまいぞ、うまいぞ、うまいぞ!
A.バンキエーリ<脂ぎった木曜日、晩餐前夕べの小宴>より
2012年5月20日イタリア北部のボローニャ近くを震源とするマグニチュード6.0の地震が起きた。ユネスコ世界遺産の街、フェッラーラも震源に近く、幸いなことに街中では命に関わるような被害はなかったが、歴史的建造物は深刻なダメージを被った。中でも、街のシンボルとも言えるエステンセ城の崩落は衝撃的だった。エステ家には芸術保護の気風があり、音楽やダンス、料理といったルネサンスの宮廷文化がここで華開いたのだ。
それゆえイタリアの古い音楽を生業としている者にとっては、今回の震災は一大事である。イタリア関連の人脈を持つプロデューサーに相談し、イタリア外務省の文化機関であるイタリア文化会館において、チャリティー・コンサートを開くことにした。
さて当日のイヴェントは休憩をはさんでの2部構成であった。後半でエステ家に関連する音楽をヒストリカル・ハープと共に演奏することとし、前半は在日本イタリア大使の挨拶や現地とのインターネット中継を行った。
前半のプログラム最後には、日本のスローフード運動の先駆者でもある作家の島村菜津さんとコーヒー・ブランド“イリー”の公認バリスタである中川直也さんの対談が行われた。コンサートでなぜ?と首を傾げる向きもいらっしゃると思うが、実は今回の震災では現地のワインやチーズの工場なども重大な被害を受けていたため、「食べる義援活動」を促すためにこの対談が組まれたというわけだ。
さすがにお二人とも食のスペシャリストだけあって、次から次へと美味しい話が出てくる、出てくる。聞いているほうはもうたまらない。休憩時間にモデナの微発泡ワインであるランブルスコ、ボローニャ産巨大ソーセージのモルタデッラ、そしてチーズの王として有名なパルミジャーノ・レッジャーノをセットにして販売したところ、あっという間に売り切れ。小さな角切りにしたモルタデッラを噛みしめると、様々な香辛料の刺激と脂肪分の甘みが感じられる。そこにランブルスコを飲むと軽やかな泡がねっとりとした脂を流し、今度はチーズに手がのびる。粗く砕いた3年熟成のパルミジャーノ・レッジャーノはどこまでもフルーティーな香りがして、延々と食べ続けていられそうだ。
ちょっと長過ぎるかな、と思いつつ設定した20分の休憩は、ワイン→おつまみ→ワイン、というダ・カーポ・アリアを奏でるにはいささか短かったようで、観客が客席に戻ってくるまで結局10分ほど延長することとなった。もっとも一杯ひっかけてきた観客のノリは素晴らしく、演奏会はランブルスコのおかげで盛り上がったとも言えよう。これからは毎回ワイン付きのリサイタルにするか……。