「食べる音楽」リターンズ
No.8 鰻屋密度日本一
みなさんにある漁師の話をしよう
彼はカワカマスやフナの漁をしていたが
ウナギがとれると大喜び
ロレーナが死ぬほど好きだから
ポー川のウナギは長くて太くてきれいで最高さ
おいでよ、ロレーナ!天気の良い日にポー川へ連れていってあげる
釣り具を持っておいで 辛抱強くするんだよ
さあ ポー川のウナギをとりにおいでよ!
イタリア/フェッラーラ民謡<ポー川のウナギ>より
ウナギの価格高騰が止まらない。「ウナギだけにうなぎのぼり」という古典的ダジャレをもう何百回聞いたことだろう。稚魚のシラスウナギの不漁が原因だそうだ。アメリカはウナギの国際取引を規制しようと検討している、という。ワシントン条約だなんて、ウナギはいつから絶滅危惧種になってしまったのだろうか。
さて先日、千葉県にある佐倉市民音楽ホールで行われた合唱祭にゲスト出演した。そして、この日京成電車でえっちらおっちら千葉までやって来てくれたピアニストをねぎらうべく、終演後夕食をごちそうすることにした。
車に乗り込みいざ出発。目的地は成田山新勝寺の表参道。そんなところにごちそうディナーに値するレストランがあるのか、といぶかしがる向きもいらっしゃることだろう。何を隠そう、成田山の参道は800mほどの間に、なんと50軒ほどのウナギ料理を扱う店がひしめき合う「うなぎ屋密度日本一」のスポットなのだ。
お目当ての店は明治43年創業の老舗「川豊」。ウナギ料理激戦区の中にあっても、古風な外観と店先の巨大なまな板でウナギをさばく職人技とでひときわ目立っている。伺った当日は日曜日、それも夕方であったため、いつもは店の外まで続く長蛇の列もなし。ささっと座敷の奥まで案内される。まずは慰労と感謝の気持ちをこめてビールとお茶で乾杯。白焼きもおつまみも一切頼まず、音楽談義などしながら、ただひたすらうな重を待つ。「割きたて、蒸したて、焼きたて」にこだわる店では、料理が運ばれてくる時間すらも愛おしい。店のお向いにある観光館からは、成田祇園祭りのお囃子が聞こえてくる。
そして我々の胸の高鳴りに呼応するように、ひときわ高くなった祭り囃子の響きにのせ、うな重と肝吸いが登場!重箱のふたを開けた瞬間に立ち上る湯気と焼きたての香りを胸いっぱいに吸い込む。食べ始めると2人とも無言となり、ひたすら最高のウナギを食す官能に酔いしれる。焼き加減もさることながら蒸し加減が絶妙なのだろう。身はどこまでもふんわりと柔らか。創業以来、継ぎ足しながら受け継がれてきたタレは、甘みも濃さもちょうど良く上品な味わいだ。滋味たっぷりの濃厚な味わいにもかかわらず、うな重ダ・カーポもありではないか、と思うほどの軽やかさ。気がつけばあっという間にたいらげてしまった。
お土産の蒲焼きを携えての帰り道、またここへ戻ってこよう、と心に誓った。淡水魚として知られるウナギが、海で産卵、孵化し、再び淡水へと戻ってくるように!