見出し画像

がん征服



表紙

概要

平均余命15カ月。手術や抗がん剤、放射線では治せない悪性脳腫瘍「膠芽腫」に3つの最新治療法が挑む。原子炉・加速器を使うBNCT。楽天の三木谷浩史が旗を振る光免疫療法。そして「世界最高のがん治療」と礼賛されるウイルス療法。産学官を横断して取材を重ね、「がんvs.人間」の最前線をまるごと描き出すノンフィクション。

https://www.shinchosha.co.jp/book/355711/

膠芽腫

膠芽腫とは脳に発生する脳腫瘍の1つで、原発性脳腫瘍の7.3%を占める非常に悪性度が高い腫瘍です。原発性脳腫瘍とは脳の細胞や神経、脳を包む膜などから発生した腫瘍のことをいいます。これに対し、肺がん乳がんなど別の臓器にできたがんが脳に転移してできた腫瘍は転移性脳腫瘍といいます。

原発性脳腫瘍はグレード1〜4に分類され、数字が大きくなるほど悪性度が増しますが、膠芽腫はその中でももっとも悪性度の高いグレード4に位置します。多くは成人に発生し、50〜60歳代に多いです。また、やや男性に多いです。

膠芽腫は脳の中のさまざまな部位に生じることがあり、生じた場所によって現れる症状が異なります。また、非常に早いスピードで増大することが懸念され、週単位など短時間のうちに症状や病状が変化することも少なくありません。

膠芽腫は難治がんとして知られてきましたが、2005年に抗がん剤“テモゾロミド”が使用できるようになったことをきっかけに治療成績が改善され、5年生存率は10%未満から16%程度へ延びました。いまだ根治の難しい病気ではありますが、がんの遺伝子検査の発展や新しい治療方法の開発などが盛んに行われています。

BNCT

BNCT(Boron Neutron Capture Therapy)は、中性子とホウ素の核反応を利用したもので、正常細胞にほとんど損傷を与えず、がん細胞を選択的に破壊する治療法で、初発・単発がんのみならず、個別臓器に広がったがんや転移性がん、難治性がんにも効果が期待できます。また、通常の放射線治療を行った後でも治療可能であり、再発がんの治療にも効果が期待されるほか、他の治療法とBNCTを併用することによって治療の効果がさらに高まる可能性もあります。本治療法は、切開や切除を行わないため患者にかかる負担が小さく、患者のQOL(生活の質)向上が大きく期待されます。

BNCTは、中性子とホウ素の反応を利用してがん細胞のみを選択的に破壊するという有効性と安全性の点で、従来の放射線治療とは次元の異なる特長を有する画期的ながん治療法で、将来のがん治療を担う4つ目の治療法として有望です。

治療の流れ

  • がん細胞に集積する特性を持ったホウ素薬剤が集積しているか否かを確認するPET検査を実施

  • ホウ素薬剤を投与

  • 原子炉や加速器から取り出した熱外中性子線を患部に照射

  • がん細胞に集積したホウ素と反応し、がんのみを選択的効果的に破壊

加速器による中性子照射イメージ(出典:住友重機械工業株式会社プレスリリース)

光免疫療法

がん光免疫療法は、光線力学的療法(Photo Dynamic Therapy:PDT)の一種です。光線力学的療法とは、光感受性物質を投与した後、腫瘍組織にレーザ光を照射することにより光化学反応を引き起こし、腫瘍組織を変性壊死させる選択的治療法です。
日本で光線力学的療法は、2003年に一部のがんに対し保険承認されておりますが、近年EGFRモノクローナル抗体と光感受性物質である色素IR700を用いた治療法が一部の頭頸部癌に対し条件付早期承認を取得し注目を集めています。
レーザー照射で破壊したがん細胞より放出される抗原が、がん細胞に対する自己の免疫を活性化し治療部位のみでなく、照射部から離れた全身の転移巣に対しても効果を発揮する可能性があることから、末期がんの患者様をはじめとして幅広い適応の可能性があります。

G47Δ

がん細胞だけで複製するよう工夫された遺伝子組み換えウイルスは,がん細胞に感染後すぐに複製を開始。その過程で感染したがん細胞を死滅させ,周囲のがん細胞にも感染を広げて次々とがん細胞を破壊する。一方で,正常細胞では複製できない仕組みを備えているため,正常組織は傷害されない。

雑談

今回は本書で登場した膠芽腫の治療に有効と思われる3種類の方法について取り上げてみた。治験や薬機法の特別承認については今回に触れてはいないが、その内容も興味深かった。BNCTとG47Δの治療効果を比較してみたりと実臨床に携わる自分としては、実際に本治療に立ち会ってみたいものである。本の内容としては専門的な内容がありつつノンフィクション形式で構成されていて、万人にも読みやすい内容となっているように思えた。


いいなと思ったら応援しよう!