見出し画像

#書く術 note 第9回 #スローシャッター マガジン vol.22 合同記事 田所敦嗣ロングインタビューby直塚大成

直塚さん、ついに本気のOJT

みなさん、こんにちは。
SBクリエイティブより本年10月に刊行される(はず)の新書、
『書く術』(仮題)製作委員で、教官担当の田中泰延(風間杜夫)です。

前回、風間杜夫が何を意味するのかわからないという声が多数でしたので
画像を貼っておきます。

「おまえはドジでのろまな亀だ!」

(※画像は著作権で保護されている場合があります。
 出典:TBSチャンネル公式サイト)

新書『書く術』は、コンテスト応募によって選ばれた直塚大成さんに、
私、田中泰延がいろいろと文章指導する、
という内容になる予定ですが、

ここで実際のライターのお仕事をお願いするという
エクストラカリキュラーアクティビティ、
それは課外授業や。
オンザジョブトレーニング、つまり
報酬の発生するお仕事をお願いいたしました。

それは
ひろのぶと株式会社から刊行された
『スローシャッター』


その著者の田所敦嗣さん
同書が生まれた背景について、
そして人となりについてじっくり聞いていただき、

●インタビュー全文を文字起こし

●記事としてライティング

●ひろのぶと株式会社発行の印刷物として書店での配布や直販サイトでの特別付録として発表したい

というガチでマジなお仕事をお願いいたしました。
もちろん、正当な報酬の発生する依頼でございます。

まずは、オンラインで2時間以上にわたるインタビューを敢行。

『スローシャッター』編集チームの廣瀬翼がクライアント・オブザーバーとして同席しております。


直塚さんがこのロングインタビューを全て耳で聞いて文字に起こした5万8千字、これはライターというお仕事の基本となる試練です。関門です。トンネルです。山陽新幹線です。

5万8千字、誰も読まない気がしますが、これでも公開にあたり、7万8千字から意味不明な部分を削っております。

直塚さん、がんばりました。お時間のある時にぜひお読みくださると幸いです。

そして印刷物になった時に、どのようにライターとして記事をつくっていったか、どうぞお楽しみに。

それでははじまりはじまり。

インタビューはzoomにて行われました

超ロングインタビュー 開始

廣瀬:今日(オフィスからではなく)おうちです。
田所:あ、おうち?
廣瀬:おうちでございます。
直塚:おうちなんだ。
廣瀬:田所さんもご自宅からっていうから、私も帰ろうかなと思って。
田所:そうそう、今日、ちょっとね、あの、髪を切ってもらったりってするとかって予定があったんで、これから。
直塚:ふんふん。
廣瀬:オシャレな予定じゃないですか。
田所:オシャレではないけどな……。
直塚:おしゃれ(笑)
廣瀬:ふふふふふ。
直塚:え、結構、田所さんはひろのぶと(株式会社)の人と平日も会ってるんですか?
田所:そうそう。誰だっけ、有名な作家さんがさ、本出して。あの、オレちらっと見たんだけど、なんか「本を出すんだったら東京に住め」みたいな題名の本があって。パラパラ~ってめくったら、やっぱり、そういう、なんだろう、やり取りの頻繁な中央がどうしても東京になるんで、あの、郊外に住んでるだけでめんどくさいんだよってあって。
直塚:ああ~。
田所:廣瀬さんはわかると思うけど、(遠方に住んでいると)終電の時間がすげー早くなっちゃうんで。
直塚:終電か~。
田所:そうそう。だから、まだそれでも都内の場合は廣瀬、加納(ひろのぶと株式会社のスーパー社員)、泰延さんは近いからいいんだけど、俺だけ遠いから、豪さん(『スローシャッター』装幀の上田豪さん)と俺が遠いんで。
廣瀬:ふっふっふ(笑)
直塚:豪さん、しょっちゅうなんか「電車乗り損ねた」だの「タクシーがどう」だの言ってますよね。夜中に。
田所:HAHAHA。しかも、できるだけ豪さんも含めてみんなが終電に間に合うようにって事務所を出ているのに、すぐそのあとのツイートで「俺何行き乗ってんだ」みたいな。へっへっへ。おいおい。
直塚:みんなあの時間までいるんですか? 豪さんが、一番早い。
田所:いや、ほぼ一緒だよね。
廣瀬:(コクリ)
田所:豪さんの終電に合わせて、まあ、でもゆっても10分、15分のズレだから……まあまあ、ほぼほぼ、同時くらいだけど。
直塚:(よそ見)

田所:そっか。で、いま直塚さんは、アルバイトとかしてんの?
直塚:いまアルバイトは……なんかたまーに日雇いくらいでいってるんですけど、できるだけバイトに行く時間は減らして、極貧生活しながら、ずっと本読んだりしてます。
田所:へぇ、日雇いみたいなのがあるんだ。
直塚:はい、日雇い、なんかほんとに、引っ越しの手伝いとかぐらいで。継続してやってたら突然の予定に対応できなくなるので。
田所:(コーヒーに口を付け、たばこに火を付ける)ああ~、そうだよね。
直塚:もうどうせなら今年1年で、伸ばせるだけ伸ばしてみたいな。で、また戻す。あとは、お金は何とかすればいいんで、あとから。
田所:ん~、もうあれだね、こないだ見た文章の中にあるとおりだね。1年間は、フルで、いろいろやると。
直塚:そうですね。泰延さんがほんとに忙しそうなんで、思った以上に。
田所:ハッハッハ。
直塚:もうなんかろれつまわってらない日とかあって、同じこと3回言ってるとか、そういうのがあって、だからなんかこっちが頑張ろう……みたいな感じになってます。今。
田所:そいで、その、もう、精神を振り絞って、もうやっと、渾身のひねり出したギャグを、あの、加納さんと廣瀬さんが全無視するっていう。
廣瀬:HAHHAHHAHHAHHA(体をのけぞって高笑い)
田所:もうそういう日々なんですよ。だから、泰延さんのストレスがたまる一方。
廣瀬:ふふふふふ。え、なに、泰延さんのストレス~?
直塚:こっち(「書く術」)の女性陣にも全然ウケてないから。
田所:(めちゃめちゃうなづく)
直塚:「はい、では次行きましょう」みたいな(笑)
田所:はっはっは。そうだ。それだよね。
直塚:いつもそういう空気なんだろうな~、向こうも。と思ってます。逆に。
田所:わかる。あれ「書く術」のやつはたまに後ろで聞いてることよくあったんで、めちゃめちゃスルーされてんなと思ってました。
直塚:(笑)。ぼくも、泰延さんのテンションわかるんですけど、その、女性二人が、シーンってなってるからろくに対応できない。
田所:そうだよね(頷く)。あれね、男の人は気を遣うんですよ。笑わなきゃいけな……まあ実際面白いから笑うんだけど……微塵も笑わないよね、廣瀬さんは。
廣瀬:ん~。
田所:つるーん、すーん、といっちゃう。
直塚:ボケを。泰延さんボケが一番いいのに。
田所:うん。
直塚:その、ライターの方が出した資料を見るとボケが全部消されてて。
田所:(苦笑)
直塚:そこ、そこ大事なのにな。
田所:ハッハッハ。つらい(笑)つらい(笑)。へえ。いまなに、日雇いのバイトも、アプリみたいなのあったりするの?
直塚:そうですね。タウンワークとかいろいろあります。
田所:タウンワークとかで、その日の仕事ってパッて拾えたりするの?
直塚:そう。空いてるのとかってありますよ。
田所:へえ~。
直塚:けっこう、あって。でも逆になんか、田所さんのレアなバイトとかってどうやって見つけたんだって話なんですけど。
田所:ああ~、でも、やっぱり知り合いづてが、当時は多かった。まあ、当然スマホとかなかったから、こんなのあるよ~って言われて。
直塚:やぁ、そうですよね~。なんか、全部アプリで出来ちゃうのも、それはそれでな~って思います。けっこう、レアな経験になるときもあるんで。
田所:うんうん。あの、それで俺が去年びっくりしたのが、ええっと、ソフトボールの、ちょうど直塚くんの1個上か2個上かな。社会人はいりたての子が、ソフトボールの試合のあとに俺の車の後部座席に財布まるごと忘れていったんだよね。あと、靴と。なぜか綺麗に並べてある状態で置きっぱなしにして駅降りてって、で俺も後ろ確認しないから、そのまま、月火水木ぐらいまで、なんにも知らない状態で。その人の先輩が、「あれさ~、〇〇くんの財布って、見てない?」っていうから「えっ、俺ぜんぜん見てないっすよ。車見ましょうか」って。木曜日の夜だからほぼ金曜だよね。それで見たら、綺麗に並べて置いてあって、「え、その前に気づかない?」っていう話したら「今の子はアプリで生活してる」って。もうスマホをなくすほうがやばいんだよ、どっちかっていうと。
直塚:ああ。
田所:それ(スマホ)は秒で気づくんだけど、財布をたぶん使わないんだよ生活で。
直塚:そんな使わないんだ。
田所:びっくりしちゃったよね。会計も全部、アプリでやってるっていう。メール全て、ぜんぶアプリ、スマホに詰まっちゃってるから。

直塚:いやあ~、え、そっちの方がいいと思いますか? 田所さん。なんか、ぼく結構財布とか好きなんで。
田所:うんうん。
直塚:……あの、なんか。
田所:でも、なんか、どうだろう。あのー、やっぱり、いままで世の中の中央値みたいなイメージってあるじゃない。こう、わーっとなんかアニメが流行ってるとか、ぱっと映画が流行ってるだの、タイムラインにもうわーって上がってくるのを、割と僕はとろいんで、2年後くらいに全てそれをレビューする。
直塚:(笑)
田所:(笑)。あのー、いまやってることが追い付かないんで。
直塚:はいはいはい。
田所:だから、『鬼滅の刃』とかも、2年後ぐらいになってひとりでテンションめちゃめちゃ上がって、「これすごくね!?」って急に言い出すんで、周りが「何言ってんだこの人」みたいになるんだよね。
直塚:(笑)
廣瀬:(笑)
直塚:「お前いまごろ?」どころじゃないくらい遅い。
田所:そうそうそう。「天元ってかっこいいよね!」みたいなことを急に言い出す。「なんの話ですか?」みたいな(笑)。もうその、ずっと繰り返し。で、やっぱ世の中がいいなって言ってるやつが、いいっていうのはだいたい間違えがないと思ってるんで。
直塚:しかも、ちゃんと遅れて、ドストレートにハマるんですね。そこが面白いすね。
田所:そう。
直塚:あえて避けてるとかじゃなくて。
田所:へっへっへ(笑)。鬼滅の主題歌とか連続で聞きだしたりして車ん中で、なんでいま……。
直塚:あんなに流れてたのに(笑)
田所:そうそう(笑)。「懐かしいですね!」とか言われて。
直塚:(爆笑)
田所:え、もう懐メロなの? これって。ちょっと懐メロですって。
直塚:今俺ハマってるのに、みたいな。
田所:そうそうそう。「この良さがわかんないの?」「いや、あの、だいぶ前にわかってます」みたいな話も……へへへへ(笑)。
直塚:え……そう。なんか、田所さん紅蓮……その、鬼滅の刃とかかけるんですね。なんか、アヴリル・ラヴィーンとか書いてたから、本の中で。英語のやつばっかバンバンかけんのかなと思ってたら。
田所:ああ~全然、好き嫌いないですよ。なんでも聞いちゃうので僕。
直塚:そうなんですか。あれ、あの、アヴリル・ラヴィーンめっちゃよかった。今日初めて聞いて。
田所:おお~アヴリルなんて、もう全然おばちゃんだもんね。
直塚:そうです……いや、アヴリル・ラヴィーン自体はなんか友達の誰かがはまってるな~くらいだったんですけど、なんか、あの……なんでしたっけ……本に書いてあった「nothing……」なんとかnot……

※ アルバム『Let Go』収録曲の『Anything but Ordinary』。田所さんの著書『スローシャッター』では「究極のロック」に登場します。

田所:うん、うん。
直塚:あの、あれ、2002年(のリリース)なんだと思って。
田所:そうそう(笑)
直塚:そりゃ聞いてないわけだわ、と。
田所:へこむわ(笑)。
直塚:あるある(笑)。
田所:カラオケの最後に「○○年」って出るのはほんと最近しんどいよってなってきてるよ。最近の歌だと思ってたら20年前の曲だったみたいなことよくある。
直塚:いつかわかるんだろうな~。

田所:まあさっきの話に戻ると、なんでもアプリに入れて、なんかあった時困るんじゃないかと思ったりしてるんだけど、結局、その2年間、冷静に考えたら困ったことが一度もなくて、急にスマホが要は壊れたとか、池に落としたみたいな話はないし。かたや毎回バックから財布を取り出して会計してるっていうのがだんだんあほくさくなってくるのは間違いないんで。
直塚:うんうん。
田所:やっぱそれに従うってか、若い子たちがやってることに、割と、2年ズレぐらいでついていくイメージ。でそれがね、いまだかつて間違ったことがないな~って思うんですよ。
直塚:じゃあ、けっこう、いま流行りのやつに、まあ、遅れながらもがんばって付いて行ってるって感じですか。
田所:うん。
直塚:そしたら、大丈夫なのか……。
田所:最初はアレルギーがあるんだけど。そうそう。
直塚:ええ~、反発したくならないんですね。反発したくならないってか……。
田所:あの~。
直塚:うちの親とか全然聞いてくれない。「PayPay入れなよ」って言うけど……。
田所:ああ~そうだよね。ヤダとか、めんどくさいとかいうけど、あの、やらないほうがめんどくさくなっちゃってるんで、今の世の中って。知らないことで損することがどんどん増えてる気がするので。
直塚:うんうんうんうん……え。
田所:あれって自発的に知りにいかないといけないじゃないですか。今は。インターネットなりなんなり。誰も教えてくんないから。
直塚:そうですね。どこにでもありそうで誰も教えてくれない。
田所:そうそうそう。
直塚:書いてあるよっては言うけど、どこにも載ってないみたいなのがありますよね……。
田所:うんうんうん。そこでどんどん乖離しちゃってる。60歳以上の人なんかは乖離しちゃってるのが顕著なので、これはやっぱり、世の中、急激に置いてかれちゃうよなっていう恐怖はありますよね。
直塚:そっか……。え、ZOOMとかって、どう思ってるんですかね。ZOOMによって、距離、福岡と東京を繋げることはできるんですけど、結構、(今回のインタビューは)やる前に、大阪に行って、あの一日だけで3か月分くらいあったなと思うくらい会うことって、めっちゃ良かったなと思ってて……思ってるんですよ。

※直塚さんと田所さんは2022年12月に大阪・梅田ラテラルにて開催された「ひろのぶと株式会社 #全恋 #スローシャッター ジョイント大忘年会」で会っています。ちなみにこの時、直塚さんは福岡から大阪まで青春18切符で移動されたそうです。

田所:うん、うん(強く頷く)。
直塚:なんか、ずっとTwitterで喋ってる人とひとこと交わすだけで全然距離が変わってくるから、ZOOMって良し悪しあるなあみたいなとこがあるんですけど、それは、結構、ZOOMはどう思いますか?
田所:あのー、泰延さんが言って「ハッ」ってなったのが「有史以来、自分の顔を見て会話するとは思わなかった」っていう、唯一のツール(笑)。たしかにそうだなと思って、相手の顔を見るけど、自分の顔も見ながら話さなくちゃいけないってないよね。
直塚:はいはいはいはい。
田所:それは、見方としてはすごい新鮮でおもしろかったけど、やっぱり、一定の哀しさ、さみしさはあるとは思う。実際に会った絶対にいいに決まってる。
直塚:そう、ですよね。なんか最初に握手するとか、会った時に同じ部屋に入るときとか、「よろしくお願いします」とか。なんか(今日のZOOMインタビューは)、「お願いします」の礼も無しにはじまったから、ほんとはその、なんかそういう、身体のやりとりみたいなものが欲しい気もちょっとしてますね。
田所:とんでもなくアメリカとチリと日本の3社で行わなきゃいけないってときは「あー、こりゃあZOOMができてめっちゃ便利だなあ」って思ったけどね。
直塚:いやあ、そうですよね。え、じゃあお仕事も2年間で、特に変わってないんですか。ZOOMって、かなり導入されたんですか。田所さんのとこも。
田所:されました、されました。
直塚:あー。それでもやっぱり、行かなきゃいけないことは行かなきゃなんですよね。
田所:そうだね。
直塚:たとえば……遠くには。
田所:どうしても自分の目で見て判断しなきゃいけないことは山ほどあるので。ちょっと写真で見て「こんなんですよ」って言われてもそれじゃわかんねえなってなるのが、やっぱ大きい。

直塚:はい。実際、ぼく、いまいちそう、あらためて、インタビューっぽくなってしまうんですけど、
田所:うん。
直塚:あの、物流って言っても色々あるじゃないですか。田所さんの、冷凍で魚を送るところもあれば。
田所:うんうん。
直塚:だから、その、田所さんがやっているのは、なんか、商社……商社って言っても色々あるな……。行って、現場監督みたいな感じなんですかね。本部からくる、現場監督みたいな。
田所:ちょっと、そういう意味では、営業の担当部門があるような大手商社に比べると、うちはちょっと専門的にはなるんで。
直塚:はいはいはい。
田所:もちろん、どの商社にも業界ごとに専門的な人はいるんだけど、多くはないんですよ。どっちかっていうと。あの、ていうのは、僕はたまたま水産に長く従事していたというか、アルバイトも含めるとすごい年数になっちゃってるんで。
直塚:はいはいはい。
田所:勝手に魚のことは詳しくなっちゃった状態から、全然違う機械屋さんに最初は就職して。
直塚:ふんふん。
田所:で3年、4年。4年ちょっと勤めて、ま、そこでも貿易やってたんですけど。だから英語はずっと使ってたんですよね。
直塚:はい。機械屋っていうのは、machineの機械ですか。
田所:そう。マシンです。ええ。
直塚:あー。
田所:あるときに声がかかって。あのなんて言ったら……ちょっと知り合いのあれで、上司、もう、今もう上司リタイアしちゃったんですけど、当時の上司が、「なんだ田所くん。あのー、魚の事よく知ってんだ」って話になって。「はあ、いま機械屋なんですけど昔アルバイトで、時給がいいって理由だけで7年か8年くらいやってたんですよ」っなんていってたら「そんなやってたの?」とか「高校からずっとやってました」って話になって。
直塚:そんなやってたんだ……はい。
田所:通しでね。ずっとやってたわけじゃないんで。休みの日とか、そういう夏休み春休み冬休みとかを使って、通しでなんだかんだいいながらテンポラリーに7年やってたって話で。したら、その会社の上司が「いやあ、あのうちの会社は割と商社とか世界中行くっていうんで、英語の専門で色んな資格持って入りましたって子はいっぱいいるんだけど、やっぱ魚のフィールドに慣れてなくて辞めちゃったりするんだよね」って話になって。
直塚:うんうんうん。
田所:「そうなんすね」「でかたや、ガチガチのスペシャリストの魚屋をアラスカなんか連れてくと言葉が通じなくてノイローゼになるんだよ」つって(笑)。「どっちもダメなんだよな(笑)」って話になって。
直塚:はいはい(笑)。 はい。
田所:で「バランス取れてるかもしれない」とか言われて「田所君だったらちょうどいいかも」って誘われてってのがきっかけで。
直塚:へー。ちょうどいいやつがいたぞみたいな、その、上司からしたら。
田所:そうそう。言葉もある程度できるし、魚のことも知ってるし一番いいじゃないかってなって。入れてくれたんですよね。
直塚:最初の機械屋は、けっこう、じゃあ、あのなんか、流れで入っちゃったみたいな感じなんですか? 就活の。
田所:そうそう。全然、自分が就活して、この会社面白そうだなって思って入ったので、まったく、つてもなにもなく入って、うん。
直塚:じゃ、そこでスカウトされて、特にその機械屋が嫌だったっていうわけでもなく、こっちが面白そうだなって。
田所:そうっすね。もうほんとにそれ。あの、僕、勤めて2年半ぐらいめでもう声かけられてたんで、正直、まあ1年半以上「どうすんの? きてくんないの? どうすんの?」って言われ続けたんだけど、そのときの機械屋の仕事が面白かったんで「簡単にやめるわけにもいかないし」と思って、すぐには動かなかったんですよ。
直塚:まだ20いくつとかですもんね。そんときは。
田所:そうそう。24、5ぐらいだったと思う。

直塚:なんか、その、(『スローシャッター』で描かれる)エピソードのなかで、最初の海外で、大失敗する……大失敗というか、ひどい目にあうじゃないですか。けっこう。
田所:出鼻からね。
直塚:はい。あれで、よく、この仕事就いたなと思うんですよ、正直。その、この海外を飛び回る。最初のファーストイン……その最初の感じが最悪なのに、なんか「よし、俺はまた世界を飛び回ろう!」ってなるのが、「どういう心境?」と思って。
田所:あー、でも、あれはなんなんすかね。でも、あの、学生時代にアメリカにいた空気が自分にとって、まあ、すべて新鮮だったっていうのがあるかもしれないですよね。
直塚:ああ~、じゃあやっぱ、アメリカに行って、だいぶ変わったっていうか。うだうだ悩んでたみたいな描写がありましたけど(『スローシャッター』収録の「ティッシュと石鹸」)。
田所:うん、うん、うん。
直塚:アメリカ行って、こっち、「こういうのも悪くないな」っていうのが……。
田所:そう。そうですね。悪くない、し。まあ、従兄弟が日本とアメリカのハーフなんですけど、まあ日本語ほとんど喋れなくて。でも、なんていうのかな、やっぱり日本の血もなんとなく彼らはもっているので、観ている景色とか描写っていうのがちょっと日本人目線からもアメリカってこんな国なんだよとか、僕に説明してくれるんで。
直塚:うんうんうん。
田所:すごくスッと入ってきたイメージはあったんだよね。彼らが向こうで言っている「自由」っていう意味。「アメリカって言ったら自由だよね。」って僕なんかも言うんですけど、わかりもしないで当時。
直塚:ふふふ(笑)。はい。
田所:その「自由」の本当の意味っていうのが、すごく、こう、自分にとって、しっくりして。「あぁ、こういうことか」と。要は、相当な責任を負わなきゃいけないんですよね。そのアメリカの国って、自分自身が。
直塚:頑張って自由になってるってか、自由になりにいってる……みたいな感じですかね。
田所:そうそう。よく会社でも、まあ、廣瀬さんくらいだともうそういう会社さんを見たことあると思うんですけど。大手になれば、たとえばウチのいま僕のやってる仕事でも、魚を買い付けるなら買い付ける部隊があって、加工しなきゃいけないなら加工する部隊があって、日本に入ってくるための貿易をやってる専門の部があって、総務とか、ファイナンスを担ってる部や法務部とか、為替とか見てるって部があって、もちろん国内も営業の部があってって、とにかく部署がたくさんあって、ひとつの商品つくるのに、たぶん、2〜300人関わってるんじゃないかみたいな、商品がたくさん商社はあるんですけど。
直塚:はい。
田所:で、それを、僕一人でやってるんですよ。全部。
直塚:あ、全工程を……まあ、一人でやっている。
田所:そうです、そうです。はい。会社として、例えば直塚君が入ったらもうその、色んなことを覚えてもらうために3年か4年ぐらいは、ほとんど何もしなくていいんですよ。要は、利益なんて叩き出せなんて誰も言われないし、あの。
直塚:ただ見て回れ見たいな。
田所:そうそうそう。あちこち回らされるっていうなかで、自分でその流れを覚えると。あと「じゃあ直塚、この2年ぐらい3年見てきて、なんかやりたいことはないのか」「あー僕、これ、いいっすね」って言ったら「じゃあちょっとそれやってみなよ」っていうような会社なんで。で、自分で仕入れてみて加工して、まあ加工しなくて原料のまま日本にもってきて売ったっていいんだけど、自分の好きなメソッドでトライしてみて、それで1円でも稼げたら、「おお」とかなるじゃないですか。嬉しくて。
直塚:はい、はい。
田所:それが基軸になればいいし、ならないんだったらやっぱり、上司のアドバイスとか「こんなことやったらどう?」っていうのもありますけど。
直塚:じゃあ結構自分で、その、ビジネスチャンスを探してくるみたいな感じのとこもあるんですか?
田所:そうですね、はい。だから日本で、何がウケるかみたいなのも考えなきゃいけないんですよ。まあ、はやりものって意味ではなくて、やっぱりメジャーな潮流ってあるので、メジャーな商品のなかでも、ちょっとこう、風変わりなものをやろうとか、ちょっと変化させたものやろうとかのもできるし、ドメジャーなもの売ってもいいしとか。
直塚:ああ。じゃあ別に水産ってわけじゃなくて、そのなんか、チーズケーキのこともあったので(『スローシャッター』収録の「オリジナル」参照)、頭の中わかんなくなっちゃって。こう、そういうのも、ビジネスチャンスってかなんか。
田所:そうですね。
直塚:話があったから、やってみようみたいな。
田所:商社のよくある好きな言葉で「儲かりゃなんでもいい」っていう表現があるんですけど。
直塚:はい。
田所:犯罪以外だったら。あの発想って割と「自由」っていう発想と僕は似ていると思っていて。
直塚:はい。
田所:そういう観点で、まあほんとに、お金に換えられるものがあって面白いんだったらやればいいっていう意味だと思うんで。
直塚:ああ~、商社ってそういうことをやってたんですね。なんか。
田所:そうそう。割と……自由な社風なんですよ。その自由の自由って意味も、その、商売に関しての自由度が高いって意味で、設計も、自分でやりなっていう人たちが多いんで。

直塚:最初見てくるってのは、先輩についていくっていう意味ですか?
田所:えっと、先輩に「こういうところに行ってきなさい」っていう地図だけ渡されて行くみたいな。
直塚:え……その……じゃ……、なかに入ってるやつは「行ってきなさい」って言われた。
田所:そうそうそうそう。「こんなことやってるから~。こういうとこ、見てきて~」っていう説明だけなんで、多分2時間くらいのミーティングしかやってないんじゃないか。あとは「GO!」みたいな。
直塚:(笑)
田所:ふっふっふっふ(笑).

直塚:体育会系すね。なんかもう、「とりあえず行ってこい」みたいな。
田所:うん。でも、実際行ってみたら、もう、向こうは当然その仕事ってのは出来上がってるので、見ればわかりますよ。一週間も見てりゃあコイツら何やってるのかってすぐわかります。「あ、なるほどね!」みたいな。
直塚:え、じゃあ、何を以て、帰ってくるんですか? それは。(『何を持って帰るんですか?』と聞こえた可能性あり。今回はどちらにせよ答えが似てたのでセーフ(直塚さんメモ))
田所:えっと、たとえば、(『スローシャッター』)冒頭のアプーのところなんかは天然の鮭を水揚げするところだったんですけど(『スローシャッター』収録の「アプーは小屋から世界へ旅をする」)。
直塚:はい。
田所:毎日毎日テンダーボートでひたすら、多い時で2000トンから3000トン。で、毎日その、我々は日本の鮭の買い付けをするので、鮭のボディを見るんですよ。表面の、その、例えば傷がついてないかとか。綺麗な。紅鮭がメインだったんで、紅鮭は通称「ブルーバック」っていうんですけど、ものすごく、その品質の高い紅鮭って、背が青いんですよね。で、そういう、「グレーディング」っていうんですけど、全部で「ABCDEF」っていうくらいまであって。要はどんどんどんどん、産卵に近づけば近づくほど鮭ってちょっと茶色くなって、模様がバラバラ出て来たりするじゃないですか。顎もこう、出てきて。
直塚:うんうん。
田所:ああいう感じになっていくっていうのは、えーっと、商品価値としてはちょっと落ちるんですよね。
直塚:あ~。
田所:汽水、汽水域っていって、海水から淡水に切り替えるときに、品質が一気に変わっちゃって。海水で泳いでるときのほうが、おいしいんですけど。
直塚:そっか。で、その「グレーディング」を見て品質を判断する。話し戻ると、それ(工場の作業の様子)を見て、こういう感じなんだ~っていう流れを把握するみたいな。
田所:そうですね。で、毎日、その検品レポートを、まあ当時手書きで。Aグレードの割合がだいたいトータルで見たら、今日は60%ありました。Bグレードは20%でした。残りが、何パーセントでしたっていうのは、毎日本社にファックスを送るんですけど、そのタイミングを本社はたぶん見はからって、ああ、じゃあこっから買い付けようみたいなときが来るんすよね。で、そのこっから買い付けようのときに我々も、「明日辺りからものよさそうだからちょっと買い付け入るかもしんないんでよく見といてねー」っていわれたら僕はそっから、血眼になって見るわけですよ。間違えちゃいけないんで、グレーディングを。
直塚:じゃあ(本社と現場は距離が)離れてるけど、めちゃくちゃすぐ「アイー、じゃあ今から買おっか」って早いスピード感で。
田所:ありますあります。
直塚:えぇ、そうなんだ。なんで、そんなに、でかいコンピューターもっていくんやろと思ってたんで(『スローシャッター』収録の「アプーは小屋から世界へ旅をする」参照)。
田所:HAHAHAHAHA。
直塚:そういうことを……やるんですね。
田所:そうですね。当時はメールも相当遅かったんで実はファックスの方が早かったんですけど。エクセルで添付して送るまでにあの、2分くらいかかったりするんで、「もうファックスの方がええわ」って。(笑)ずっとあの、マークがぐるぐるしちゃってて、いかないとかね。よくありました。
直塚:めちゃめちゃ遅いみたいな。
田所:ISDNっていう規格が昔あったんで、それくらいの……レベルだったね。ものすごい遅いんですよ。

※ISDN:Integrated Services Digital Network。アナログ電話回線を使ったデジタル通信網のこと。「総合デジタル通信網」とも。2024 年1月の終了が決まっています。

直塚:聞いたことないですもんね。
田所:うん。あの、インターネット繋ぐときの音って、廣瀬さんはもしかしたら知ってるかもしれないけど、昔あって、繋ぐときにピーヒョロピーヒョロ音が鳴るんですよ。
直塚:……ほう。
田所:その音がねえ~、まだしていた時代なので。
直塚:その音がまだしていた時代(笑)。 はい。
田所:もう、知ってる人は知ってるんですけど。
直塚:え、Windowsの起動音とかじゃないくて、もう、そのもっと前ですよね。
田所:そうですそうです。ネットの接続音は全世界一緒なので。
直塚:そんなことが……。じゃあ、あれなんですね、なんか、大御所みたいに来て「よしこんな感じか。あとは別のこういう部隊にパスだ」って感じではないってことですね。
田所:これ昔の音です。……あの、これ聞こえてる?
直塚:聞こえてます。……え、これ?
田所:これ、ワンパターンなんですよ。全世界これです。

(パソコン起動音:プワァーン)
 
直塚:…………。
田所:HAHAHAHAHA
直塚:え、これつい、え、いまついたんですか今?
田所:すごいでしょ。まだ繋がってないこれは。最後、ピタッと音が消えるんで。……すごいでしょこれ。これもうね、ずっとこれなんです。(音が消えて)これで繋がった。
直塚:(笑)。
田所:HAHAHAHAHA
直塚:で、よし繋がったぞ。と。
田所:はい。これは起動するたびに、繋ぐたびにこの作業をしなきゃいけないので。
直塚:うんうん。
田所:だから、これやんだったらFAXのほうがはえーなあみたいな、よくありましたよね。だからパソコン持って行った意味まるでなくて、ただの筋トレになったっていうだけなんですけど。
直塚:(笑)。場所とって、めちゃくちゃ。
田所:よりによって、あの、クソ重たいやつ持って行っちゃったんで。

直塚:え、じゃあその、アラスカの旅費とかあったじゃないですか、クソ高いみたいな。あれは流石に、その、経費で出るんですか?
田所:あ、もちろんもちろん。移動経費はすべて会社が出すので。僕がチグニックとキーナイのあたりに行った出張(『スローシャッター』の「アプーは小屋から世界へ旅をする」「キーナイの夕陽」「究極のロック」)では、航空券代だけでたぶん100万くらいしてますね。
直塚:めちゃめちゃ取られてますね。
田所:めちゃめちゃ高いス。うん。その短距離のとこほど高いスよね。あの、たいして飛ばないセスナみたいなとこって実はすごい値段してるんでアレ。
直塚:もう、その全然、飛ばないから
田所:そうそうそう。行って帰るだけでも。
直塚:高い、金でも。
田所:ほんと、たいした距離じゃないのに、アレ行って帰るだけで20万くらい取られてると思うんで、日本行けるやんってなっちゃいますけど。
直塚:でも、飛ばなきゃ行けないから。
田所:そうそう。僻地に行けば行くほど、たいした距離じゃないのに料金が上がってくっていう。
直塚:でも僻地に行けば行くほど、やっぱ行くだけの価値はあるってことですか。なんか、20万かかるじゃないですか、行くだけで。
田所:あ、そうですね。回収できるだけのやっぱり、商売はやるので。現地で行う業務の利益を計算して、旅費以上の利益は出して帰ります。当時……100数十トン買い付けたので、そうですね。これだけの商売を、アプーのとこで、終わらせてるんですよ。
直塚:へえ……そういう規模なんだ。え……この(『スローシャッター』の「アプーは小屋から世界へ旅をする」で描かれている時間の)間に、実は(それだけの買い付けの仕事を)やってるってことですか。
田所:はい。それで、一度でその規模の仕事をすれば、目標の利益が出たうちの田所がじゃあ3か月行ってた旅費が100万くらいだったとしても、トータルで見ればプラスになるでしょみたいなところが、ざっくりとした換算。

直塚:そのなんか、モチベーションみたいな、その給料制なんですか。それとも、なんか漁師みたいにデカいマグロ取ってきたら、その分半年やるぞみたいな。遊んでていいぞって感じではない。別に。
田所:それだったら毎日釣り行ってるんですけど、残念ながら、あの、サラリーなんですよね。月給制の。はい。
直塚:そっか。でもまあ、じゃあ売り上げで競うってことではなくて、そういうことはないですか? ありますか、やっぱ。
田所:ない。ないですね。もちろん、頑張れば、評価は上がるんですよ。けど、まるまる儲けられるかといったらそうではなくて。例えば会社全体の業績が、まあ、そんなに良くなかったよねってなったら、ちょっと、例年よりは落ちたりもしますし。
直塚:じゃあ、やっぱり、チームで頑張ろうねみたいな。
田所:そうですね。はい。だから全体的に、その、全く反映されないわけではなくて一部が反映されるというのは、ありますね。その責任っていう意味では、今いい話ばっかりしましたけどダメな年もあるので、悪かった年は、まあちょっと落ちますし。でもそれも自分の責任ですよね、やっぱり。例えば直塚君が自分で見つけてきてやってみたことでその年は儲かった。でも、次の年は同じようにやってみたけれどあんまりうまくいかなかったってなったら、その分は給与に反映されてしまうので。誰のせいにもできないっていうのは、あります。
直塚:はいはいはい。
田所:やれって言われたからみたいなのはないです(笑)。自分で選んだんだろってなっちゃうので。
直塚:そっか、じゃあ結構、ずっと頭を使っとかなきゃいけないんですね、アンテナを張りまくって。
田所:そうですね。水産は昔からそういう意味では情報戦って言われていて。とにかく電話とかFAXが、他の業種よりは多かったんじゃないかって思いますね。為替のディーラー並みにたぶん電話とかしょっちゅう使ってたような気がするので。
直塚:んな……なんか、なるほど。だからなんかあれなんですね、速い、速い情報とか最近の情報には乗っかっておいた方が得になるっていうか。それがそのまま、ありがたい、利益をもたらしてくれるみたいな感じ。
田所:はい、はい。

直塚:なんか、話しはちょっと変わってくるんですけど、さっきパソコンの起動音の話があって、やっぱ、時間がかかるじゃないですか。そういうのって。
田所:はい。はい。
直塚:で、話し戻るとZOOMとかの話になったら待つ時間が減ってくる。
田所:はい。
直塚:けど、田所さんの文章って、結構冒険の中の「待つ時間」ってのを、結構、ながく、筆を書いてるなと思ってて。
田所:はい。
直塚:待つ時間で生まれた交流みたいな。
田所:うん。
直塚:これがZOOMで、こう、こちらアラスカですってやってたら。
田所:はい。
直塚:なかった出会いがいっぱいあると思っているんですけど。でも田所さんは、なんか、呼びかけに、自分からなんかあそこ行こうぜってなるより。誘われたものには全部応えてるっていうイメージがあるんですよね。
田所:あー。
直塚:だから待つ時間とかって、大事だなあと僕は思っていて。これ(『スローシャッター』)を読んで、逆に一周回って、遅い方がいいんじゃないかみたいな。
田所:あ~。
直塚:思ったんですけど。なんか……そういう。速すぎることの弊害みたいなものって考えないですか。
田所:そうですね。だから、ネットで書いていて、何度もその局面に、どうしても書かざるを得ないなあと思ったのは、当時スマホはなかったって。書かなきゃいけなくなってしまう文章って多くて。
直塚:うんうんうんうん。
田所:「いや、そんなの、スマホで調べりゃわかるじゃん!」って今の子は読んじゃうとわかっちゃうので、やっぱり、そう思っちゃうから。ここの説明入れなきゃいけないなってのはすごく多くて、やっぱり、ずっとないんですよね、スマホが。
直塚:そうですよね。スマホがあるのは、たかが……10年くらい。
田所:はい。あれもう、劇的にあれだけで荷物の量が減った気がするので。
直塚:ぃやぁ、でも、僕みたいな世代はずっと最初のやりとりがLINEとかなんで中学生からLINEになってて、一周回って、何度も言いますけど一周回って羨ましいなって感じがしてて。
田所:うんうんうん。
直塚:なんか、こういう交流が、これから失われていくんじゃないかなっていう怖さが。いま断れるじゃないですかLINEで「行きません」とか言ったら。だからなんか……、その、(『スローシャッター』は)そういうものがすごい、羨ましくなった本でしたね。
田所:ああ~、ただ、どうだろうな。当時、スマホあったら絶対に持って行ってますよ。
直塚:(笑)
廣瀬:(笑)
田所:HAHAHAHAHAHAHAHA。僕が、当時スマホ持ってたら全然持ってくでしょ!ってなると思うよ。
直塚:確かに、絶対持っていきますよね。ま、ただそこでずっとスマホがあったらずっとそこでゲームやったり色んな事やってるから、あんまり人と話さなかったんじゃないかってことは、あるかもしんないですよ。本当に。
田所:うんうんうんうん。
直塚:いや、なんか、そうですね。こうコロナ禍で、2年くらいあって、こう僕それで就活、就活とバッチリ被ってたんで、就活とか。
田所:うん。
直塚:就活とか、それこそ大学生みたいなものとか被ってたんで、なんか、田所さんとか大人の方々がこう「変わらない日常が戻ってきたね」っていうけど、変わる前がわかんないから。
田所:あーあーあー。
直塚:すごい。損した気分、なんか、なんか。なんていえばいいんだろう。
田所:うんうんうん。
直塚:……なんですかね。
田所:ちょうど、先々週くらい、あれはどこだったっけな。ちょっと怒られちゃうな(笑)。えーっとねぇ、ライターさんで、稲田さん(『全部を賭けない恋がはじまれば』(ひろのぶと株式会社)の著者で占い師の稲田万里さん)の知り合いの女の子(2人組)が、『スローシャッター』をどっちも買ってくれて。
直塚:うんうん。
田所:その子(2人組のうちの一人)は結構割とグイグイしてる子なんで、ちょっと「田所さん、私はどうしても感想が言いたいんで、この日に飲みに行きませんか?」って言われて。「あ、ハイ」って。
直塚:パワフルっすね。
田所:それで2時間くらい飲んだんですけど。ちょうど直塚君のひとつか2つ上くらいなんですけど、彼女はちょうど社会人に入って2年目で、その、まさに直塚君と同じような、大学の一番最後の時期に海外旅行へどことどことどこ行くっていうのを、中学生くらいから決めてたらしいんですよ、その子は。(でもコロナ禍で)大学の最終学年なってこれだけ私はこれだけ行くんだって言ってた1年間がまるまるつぶれたんで、っていう話の文脈から「『スローシャッター』って良かったです!」って言うと思ったら「『スローシャッター』みたいなの見てると、私たちの時代の、この苦しみがわかるかどうかってのは、すごい、わかってほしいんですよね」って言われて、僕「あ、ハイ」って謝ってた時間があったんですよ(笑)。
直塚:その子も結構言いますね、それ(笑)。
田所:そう。よくわかんないけど怒ってんなーと思いながら「あ、スイマセン」って言ったんですけど。ただ、そのぐらい、「この学生時代に閉鎖された時間を過ごした我々の身なんて、大人の人には到底わからないだろ」っていう怒りに近いような熱を感じて。これはちょっと、僕らはちょっとね、当然オンタイムじゃないんで。これはちょっと理解できないなあと思いながらも、ただ、それが聞けただけでもちょっとうれしかったんで。
直塚:うんうんうん。
田所:なるほどねと思って。だから……相当、みんな苦しかったと思いますよね。学生さんなんかも。
直塚:そう……ですね。僕たちは、まだ、その変化を読み、気づけてるんですけど、もっと下の子は多分。
田所:そうそうそう。
直塚:結構ノリノリで過ごしてて、これが当たり前になっていくのかな~と思いつつ、ちょっと、ZOOMで喋ってると。
田所:うん。
直塚:景色が2次元的に見えて来たりするときもたまにあるので。
田所:ああ、そうだよね。いま、幼稚園生なんかは保母さんがマスク外すと泣く子いるって言ってましたからね。怖くて。
直塚:え(笑)。
廣瀬:(笑)
直塚:口裂け女みたいになってるじゃないですか。ほんとに。
田所:そうそう。マスクをしてる顔が、デフォルトになっちゃってるから。あの、保母さんがなんかの時にポーンってとったら、二人ぐらい女の子が泣いちゃってみたいな。
直塚:(笑)
田所:もう怖い!とか言われて……へっへっへ(笑)。そんなことあんの!って言ったら、いやああるらしいっすよ最近とか言われて。これ完全にやばいじゃんってなってて。
直塚:それはやばいな……。
田所:うんうん。ま、これは本当にどの全世代そうですけど、僕らこういう時代を経験してないですよね。僕も、直塚君も、廣瀬さんも。こんなコロナの。昔ね、その、色んな流行り病が歴史上では習った気はしますけど、僕らが実際直面したってのは生まれて初めて、全員初めてだと思うんで。

直塚:ただなんか、あれですね。これで、コロナのおかげで僕も文章書くようになったし、田所さんも文章に書くようになって、結局この3人は全員泰延さんに偶然拾われてるってか、繋がってる。
田所:うんうん。それね~、すごいな~。それね、直塚君がそういう視点で考えられるっていうのは、僕、すごいね、今の若い子どこでそういう感性を習うんだろうって思うんだけど、あの、多い子いるんですよ。その~、じゃあコロナだったけど、そのかわりコロナでこんなことを得たよねってプラス思考になれる人って、すばらしいと思ってて。まあ、いくらでも愚痴言おうと思えばいえるんですよね。この世の中なんて、あの、9割9分面白くないことばっかりなんで。
直塚:うんうんうん。
田所:だから、実は、そのスローシャッターみたいなのも、ま、この3人だから言いますけど、割とねあの、世に対するアンチテーゼみたいなので、「そんなに仕事ってつまんなくないでしょ」って言いたいんですよ。まあ仕事なんて、みんなつまんないしやだし、めんどくさいのわかってんすけど、僕だってねえ、明日行くのだってやなくらいなんで(笑)。めんどくせえなって思ってるんで、そんなのはもう当たり前の上で、でも、やっぱり、仕事してるとこういうことってあるよねっていうことを書いて、明日仕事行くのヤダなって思ってる人が、それを読んでくれたことによって、まあちょっともう行ってもいいかなって思うようになってくれたらいいなって。
直塚:うんうんうんうん。
田所:Twitter上って、いま、溢れてるじゃないですか。明日仕事行きたくない。だるい。まあ、もちろんわかるんですよ。ツイートするのは自由だし、あれなんだけど、まあ、「みんな同じやって!」って思うときがあって。みんな同じやんって、そんなのみんなあるって、って思うときはあるんで。だからあえて僕は、ツイートではあえてネガティブなことは言わないようにしているのも、ひとつあって。
直塚:うんうんうん。そこ、僕自身は、ライターとして、ぶつかってるとこでもあって。泰延さん、「書きたくない」「書きたくない」っていうんで(笑)。そのネガティブな感じが「え?」ってなって。「せっかく選ばれたんだから、どんどん書いていきましょうよ! ガンガン書いていきましょうよ」って言うんですけど「いや、書きたくないから」みたいになって(笑)。
田所:(笑)
直塚:で、ただ、泰延さんの知り合いも「書きたくない」「書きたくない」って言う人ばっかりだから。これは演技なのか、素で言ってんのかわかんないみたいな、こう……それは、本当に……なんか、めっちゃ「書きたくない」って言うなあって思いますね。
田所:あーん、まあ、なんかね、こう、同じ。用意して、腰を据えて書くって、旅もまったく。どのカテゴリにも当てはまるんですけど、若い時の方がやっぱり、割と簡単にやっちゃうんですよね。これがね。
直塚:あー、はいはいはい……。
田所:なんでもそうですよ。僕、釣りをやってるときも、ソフトボールやってるときも、最近ね、準備するのがめんどくさくなってきちゃって。
直塚:うん。
田所:グラウンド出て、プレーしてれば「ああ、今日来てよかったなあ」と思うんですけど、もう、朝起きて「また着替えんのかあ……」とか「これ用意しなきゃいけねえのか」とか、なんでもなかったその準備がめんどくさかったりとか、これ、日に日に億劫になってんなって思ってて。
直塚:全部、僕たちからしたら「風呂入るのめんどくせえ」ぐらいの感じがすべてになってきてると。
田所:そうそうそう。
直塚:脱ぎたくねえなとか。
田所:そうそう。だから書くっていう行為も、出来るんだけど、多分すごい、こう、準備がいるんですよね、恐らく。年齢を重ねれば重ねるほど。で、明らかに体力は消耗するし。……まあ、あの、大変なんだと思います、すごく。

直塚:ふんふんふん(笑)。じゃあ、ちょっとなんか話、ちょっと仕事に対するアンチテーゼみたいなことの話で聞きたいことがあるんですけど、田所さんは、なんか仕事に対して最終的に嫌な人もいたけど……。
田所:うん。
直塚:結局仕事は面白いよねっていう風に振ってるじゃないですか。
田所:はいっ、はいはい。
直塚:たとえば50点くらいの出来事があった時に。
田所:はい。
直塚:51にしてポジティブに言ってもいいし、49にしてネガティブに言ってもいいんだけど、こう、頑張って51にしてみようとしてるというか。その、自然にかもしれないんですけど。
田所:うん。
直塚:こう。そういう意識がなんかあるなあと思ってて、なんか。
田所:ああ~。
直塚:そう、なんか、嫌な人とあっても……最終的には、無理やり、結局あいつもいいやつだったなみたいな。
田所:うん。すごい。すごい、それ、合ってる。めちゃくちゃヤな人でも、いいところを見つけようとする癖がやっぱあって。いや。みんなこの人最低だとか言うけど、そんなことないんじゃないって逆の目線でも見たいんですよね。
直塚:はいはいはい。それで、なんか、自分も大学とかで勉強してることで。
田所:うん。
直塚:景色が、たとえば2人いるじゃないですか、それで、すっげーつまんねー景色だなって言う人と、見てみてあそこになんとかがいるよ、というのを見つけてくるタイプがいるじゃないですか。
田所:うんうん。
直塚:で、田所さん色んなとこいって風景とか見たと思うんですけど。最終的な、そっち(ポジティブな方)に振る人ってなんだと思いますか。
田所:その時々に、割とね、僕は、集中してない人の方が、描写って、色々表現できるのかなって思ってて。たとえば、次の便に乗らなきゃいけないから、何かあっちゃいけないんで、搭乗の1時間前にはもうゲートの前で座って本を読んでるって人、結構、世界の空港行くとあちこちにいたり。心配性なバイヤーさん連れてくと「もう2時間前には空港にいようぜ」って言う人いて「ええー!」って言ったりするんですけど、「そんなの15分前でいいですよ」って言ったら「15分前なんて駄目だよ事故るよ」とか言われて。「大丈夫、大丈夫」なんて言って、僕なんかわりとギリギリに行くんですけど。
直塚:はい。
田所:やっぱり、早め早めの行動をする方ってのはおそらく旅にすごく集中していたり、ミスっちゃいけないっていうタイプだと思うんですけど、ぼくギリギリまで、まあ、本にも出てきますけど(『スローシャッター』収録の「ターミナル」)、たばこ吸ってたりしてセキュリティのオヤジにお前「また来たの?」とか言われて、全然ゲートに行かないんで。
直塚:うんうんうん。
田所:言い方変かもしれないですけど、集中してないんですよね、多分、色々なことに。
直塚:あのゲートの回(『スローシャッター』収録の「ターミナル」)は、集中してない2人の喋りみたいなもんでしたもんね。
田所:そうそう(笑)。
直塚:ぽけーっとふらついた人たちが偶然集まるみたいな。
田所:そうそう。ボケっとしてる分、いろんな景色見てるみたいな。空港の外の周りでもボケっとしてる人を見てるとか、人間観察みたいになっちゃうんですけど。
直塚:はいはいはい。たしかに、そうでしょうね。せっかちな人って「早く帰ろう」とか言いますもんね。
田所:そうそうそうそう。あの、僕、すごいせっかちな人って、あのー、苦手か苦手じゃないかっていったらちょっと苦手で、とにかく、速く何かを済ませてって、そんなに変わらないのになって思うんですけど。ま、あの、泰延さんがギャグでね、その「新幹線の先頭車両に俺は、出来るビジネスマンだから乗る。東京に一番最初に着く。で、一番後ろの号車に乗ってるやつとは俺は口は利かない」って言ってツイートしてて、笑いましたけど。まあ、ああいう人って、リアルにいるんですよね。旅してて。
直塚:あ、その……えー……。
田所:うん。
直塚:できるだけ、いっぱい行こうって言う人も、まあ、割といるとは思うんですけど、そうですね……割と、そうですね……。ゆっくり……っていうのができるのは大事か。
田所:うん。旅に集中、まあ、旅に集中ってか、いろんなところで集中してないんじゃないかって思いますよね。気が散ってるっていうか。
廣瀬:(めちゃくちゃ頷く)
直塚:そっか、じゃなんか、こうなんか、5人くらいいて、あそこなんとかがいるよって言う人って、けっこう知識量が多いなってことが多くて、知識量ってか、どうでもいいものを集めてるってことかもしれないですけど。
田所:はいはいはい。
直塚:その、東京タワーだけ見るんじゃなくて、その下町に変なおばちゃんいるよとか、そこにストーリーを作れる人、その場に。
田所:いますよね。「東京タワーのネジってこんなにでかいの?」「いやネジ見てんの?」とか。
直塚:この塗装がさ~とか、細かい観察する。
田所:いるよね。
直塚:そういう、変な奴が、意外と、綺麗な景色なんじゃないかなーとか。逆に言えば、それがみんなが見えれば、カメラマンが見てる景色がみんな見えればいいのになとか思ったり、するんですけど。じゃあ、田所さん、この旅の本をポジティブに、51とかポジティブな方にかけたのは、若い時に、開高さんの本とか読んでたじゃないですか。
田所:はいはいはい。
直塚:開高さんの本とか、選書の中にあった本が基本的に旅の本で。
田所:うんうん。
直塚:基本的にってかざっくりまとめちゃいましたけど。
田所:うん。
直塚:なんか、旅の本があって、昔からそういうの読んでたんですか。
田所:あとは、歴史ものを読んでたな。司馬遼太郎とか、池波正太郎とかも好きだったんで。彼らも描写が凄く多いんですよね、どっちかっていうと。あの、池波正太郎とかそうじゃないですかね、『鬼平犯科帳』とかそうですけど。事件とかより描写の方が多いんじゃないかって思うくらい。
直塚:はいはい、(池波正太郎って)『鬼平犯科帳』の人ですか。
田所:そうそう、あの描写なんか見てると、ほんとに、よく軍鶏屋とかに行くんですよ。鳥の、軍鶏鍋に行くんですけど、鬼平が。ああいうとこの、あれ(描写)を見てると、ずっと、ああ~あの鳥鍋食いてえな~ってなるので。
直塚:(笑)
田所:あの、おいしそうな描写を書くのがとにかく上手で。
直塚:なんでそこに時間かけたの、みたいな。美味しそうに書く。
田所:そうそうそう。ん、で、軍鶏屋なんてしょっちゅういってるのに、軍鶏の描写がさっきと変わるんですよね。
直塚:うんうんうんうん。
田所:また、さっきと違う美味そうなところを見て書いてんな~って思って。そいうのはやっぱ、才能だと思うんですけど。
直塚:そうですね。観察できるかどうかか。
田所:いや、どうなんだろうな、こういうのって原因なんてないんじゃないのかな。性格なのかもしれないですよね。だからね、よく滑るんですよ、友達と行ってて。たぶん、直塚君と廣瀬さん3人で旅行に行ってても「ここすごくね?」とか急に興奮して(僕が)言い出すとこが2人にまったく刺さらないとか、連発すると思う。「え?」みたいな。「え?」「そこですか?」みたいな。
直塚:な、なんでそこですか?みたいな。
田所:そうそう。
直塚:なんでそこですか?って言われて欲しくないですよね。なんか、ちょっと食いついてほしい。
田所:エッフェル塔を前にしてるのに、エッフェル塔のなんか、下にあるごみ箱で喜んでるみたいな。たとえばね「こんなときにゴミ箱あるんだ!」「え、そこですか」
直塚:エッフェル塔の下なのに……あの、どうでもいい感じで。
田所:エッフェル塔見ようよ。その周りを見てるっていう(笑)。
直塚:なんかでもそういうのって、みんなが見てるものは見なくていいんじゃないって言う人もいるじゃないですか、あえて逆張りで見る人もいるから、でも田所さん「鬼滅の刃」とかも見てるから、そういうタイプじゃなさそうだなってのは思って。
田所:そうそう。遅いけどね、波に乗るのが(笑)。
直塚:じゃあ2年後とかに、エッフェル塔に感動したりするんですかね。
田所:しますします。もちろんエッフェル塔にも感動するし、もし今度暇だったら、もう知ってるかもしれないけど、あの、スフィンクスってエジプトにあるじゃないですか。
直塚:はいはいはい。
田所:あのスフィンクス像の近くまでグーグルマップでグーっと引っ張ってって、あの、クルって反対をGoogle Earthで見たらびっくりするんですけど、真後ろケンタッキーとかあるんですよ。
直塚:なんかそれ見たことある!
田所:そうそう。
直塚:スフィンクスの目の前にある。
田所:砂漠の真ん中にあると思ってたら、めちゃ街。目の前にあるみたいな。もうああいうの見たとき物凄く興奮しますよね。「マジか!」みたいな。
直塚:いやー、いいですね。
田所:うん。
直塚:それで、僕たまに「お前らに言ってもわからんから一人で行くわ」ってときがあるんですよ。
田所:(笑)
直塚:てなると、みんなで行きたい派ですか? いくら滑っても。
田所:いや、自由行動しても全然、オッケーですね。
直塚:あ~。
田所:割と昔から、2時間後にここに集合ねって感じでやってました。
直塚:あ、その、なんか、みんなでここ行こうとかじゃなくて。
田所:うん。あの、もちろんメインで見に行く観光地はみんなで行ったとしても、あの、じゃあ、町で色んな市場見ようぜ~ってときは、割とつるまないというか、2時間後にここでね~とか、もちろん、あの、歩いてれば道でね、また会ったりしますけど。あの、お互い、自由に動いてる方が好きでしたね。まあ、つるんでるやつもいましたけど。
直塚:あー、そうだよな。

田所:こないだ、(2022年6月に『スローシャッター』の取材で)泰延さんとベトナム行った時も、だいたい大きな市場に入ると、「じゃあ1時間後にここにしましょう」って言って、お互いみんなバラバラ~っと行っちゃうので。誰もつるまなくて。
直塚:へえ~
田所:だからおじさんになればなるほどつるまないのかもしんないんですけど。鬱陶しいので、お互いが。
直塚:なんか、泰延さんと僕も思ってた印象と違って、結構、寡黙な時もあるんだなって、びっくりしましたね。その、(2022年12月に大阪・梅田ラテラルで開催した)忘年会とかで「すっげぇ気ぃ使ってゴミ拾うじゃん」とか。そう、思ってたのとちが……いい意味で、なんか思ってたのと違うなっていうのはありました(笑)。
田所:わかる(笑)。泰延さんは、すごい気遣いの人だよね。
直塚:なんか、話題の中心に入らず、すごい細かいことしてるなあとか思ってました。
田所:へっへっへ(笑)。すっと、あの、いらなくなったお皿を片付けてるよね。
直塚:そうそうそう。「注文してください」とか。
田所:(笑)
直塚:「そういうのを学びました」って「書く術」の人にいったら、「その、そういうことを学んだんですか?」「そ、そこ?」みたいなこと言われて。
田所:キャラクターとしては意外だもんね。やっぱりね、それは思ってたのと違うから、「おっ!」ってなるわけで。
直塚:うんうんうん。なんか、やっぱり、さっきの、なんか二面性じゃないけど、泰延さんがすごい静かな人だからこそ、ああいう文章が書けるんだなって思ったときもありましたし。やっぱり、直接、見てるだけじゃわからん。長い時間一緒にいないとわからんなあってなりました。感じましたね。
田所:だから直塚君と、たとえば僕で共通点で、コロナのおかげであったとすると、僕ね、最近書こうと思ってやめたり、書こうと思ってやめたりしてる題材が、えっと、僕自身は「孤独に強い」って思っていて、「孤独に強い」っていうとなんかちょっとね、厨二っぽいので好きじゃないんですけど。
直塚:(笑)
田所:要は、なんだろう。なんでこの孤独に、なんでこう訓練されてるんだろうって思ったら、旅って基本的に割と孤独で。孤独っつってもね、ひとりでいる意味の孤独なんじゃなくて、自分でディシジョン、判断しなきゃいけないことが、どんどん増えるんですよね。日本にいる時より。当然、勝手も知らない場所なんで、下手するとバスの乗り継ぎでさえ、スペイン語わからないけど「たぶんこれだろ」って思ったら全然違うとこまで行っちゃったらどうしようとか。
直塚:はいはいはいはい。
田所:すべてのことにおいてビビりながら行動しなきゃいけないので、やっぱり、自分の中での自問自答が増えるのが旅だと思うんで。で、やっぱりコロナも同じ感覚でいくと、やっぱり人と会えないし、自分の中で自問自答することって、たぶん、おそらく平時の時よりは増えたんじゃないかなと勝手に思っていて。そういう意味では、僕、人と話すのも大事なんですけど、自分自身の中でも、ひとりごとを頭のなかで言ってるとかって結構ね、やる人の方が僕はいいと思ってて。いやそんなことないよなとか、あんなことないよなって、言いながら、ぶつぶつぶつぶつ、頭の中で考えながら行動してる人って、あの、意外に、なんだろう……ひとりの時間が長くても、こう、苦にならなくなってくるっていうか、繰り返しなんですよ。
直塚:はいはいはいはい。
田所:だから、旅って、必然的にそれを強制される場所になっちゃうんで。
直塚:せざるを得なくなってくる。
田所:そうそう。移動時間も長いし、どうせひとりだし、街中歩いてるときなんかもすごい独り言、言ってますよね「あれぇ、さっきと同じとこじゃね?コレ」とかいいながら。ずーっと独り言、言ってますけどね。
直塚:旅のおかげで強くなったってところもあるんですか? その、もちろん、強制的な旅だったときもあるでしょうけど。
田所:そうですね。割とそういう……趣味がたとえば釣りなんかだと、単独で動くことが多くて。あの、noteにもしかして……いや、あれはツイートだったのかな。下手すると、一週間あの山に、岩手からあの早池連峰っていう山登って、登山ではないんですけど、ある程度登って、釣りして家帰ってくるってことがあると、帰りに「ただいま~」ていってウチの母親に口きいたのってそのときに「あれ? 俺、3日か4日声出してなかったんじゃねえかな」って思うときがあって(笑)。そのくらい、こう、喋んないっすよね、ひとりだったら、こう……。
直塚:あんまり……ええー……。それすら忘れてるんですね、喋ったかどうかすら。
田所:そうですね。「俺、声出すのひさしぶりじゃね」っていう感覚が出るくらい喋らなかったりするんで。でも楽しいんすよね。一人でいることって、別に。
直塚:だから、周りから見たら楽しいって思われてないかもしれないけれど、意外と内心めっちゃ楽しいよみたいな。
田所:そうそうそう。なんか、ちょっとね、表現がすごく、難しいんだけど。ちょっとワクワクするんだよね。自分で全部やんなきゃどうにもならないシチュエーションが繰り返されると、僕喜んじゃうんすよ、僕道に迷うと喜んじゃうんですよ。道迷うと。
直塚:キタキタキタ!みたいな。
田所:そうそうそう。そうっ、道ロストすんのすごくワクワクしだして。どうしよう、どうしよう。
直塚:ここはどこなんだろう、みたいな。
田所:そうそう、ちょっとねビビってんですよ。ビビってるんすけど。でもちょっと迷う、迷いだしたってわかると、ちょっと嬉しくなったりとか、変な感覚ですよ。ちょっとね、説明しづらいけど。
直塚:へえ~。
田所:もちろん不安になって、ビビって、道聞いちゃうって人も当然、いるでしょうし。なんか(でも僕の場合は)、そこは自分で解決したいとこがあって。
直塚:そっか。僕もそういうとこがあるんですけど。まあ、親父がせっかちで、おふくろがすごいスローな人なんで、母親から言われたのは、「遠回りってすごい楽しいんだけど、意外とうまくいくのは最短距離でポンポンポンポン行く人なんだよ」ってみたいなことを、ちっちゃいころから言われてて。それ、そういうイメージがあることで、ビジネス書とかすごい「最短で!これを成し遂げる」みたいな本がいっぱいあるじゃないですか。たとえば。
田所:うん。
直塚:そういうのに田所さんは食いついたりしないタイプですか。それとも、一時期見てた時期はあったみたいな。
田所:ありました。一時期見てた時期はあったけど、やっぱり飽きますよね。どっちかっていうと。
直塚:あ~、そうですよね。
田所:正解って、やっぱりそんなに、ピンポイントにハマらないんで。
直塚:うんうんうん。
田所:結局努力しろってことはなんとなく書いてる気はするけど、どれも同じじゃね、書いてることってなりはするんで。何冊か読んでみると。
直塚:結局、がんばれみたいな。
田所:言ってることがどれも、なんとなく結論が同じだと、飽きちゃったみたいなのはありますよね。ちょっと、なんとなく、斜に構えていろいろなものを見てる気はします、あんまり人には言わないけど
直塚:あ、そうなんですか?
田所:あんまり、人を信じない。「そんなわけないでしょ~」って思いながら、見てる自分は結構いますよね。
直塚:え~。なんか。その~、斜に構えるって言いながら、僕結構、この『スローシャッター』を見てて思ったのは、「そこの声掛けに応えられなかった自分」ってのがいて。例えば田所さんが、誰かに誘われた。
田所:うん。
直塚:そしてついていったらこういう出会いがあったっていうものに、ひとつひとつ誠実に応えているイメージがあって。僕はそれを読みながら、そこで「あ、忙しい」って言っちゃったときがあったなとか、なんか、斜に構えて「いや、そこは行かなくていいだろ」って思ってた自分がいるなあってずっと思ってて。
田所:ああ~、そっか、それはそうだね。対・人では、そういう意味では、時間は大事にしています。今のは、ビジネス概要の全般的な話とか、世の中の潮流みたいな話が、よく陰謀論みたいなのいう人いるんですけど「そんなわけねえだろ」っていう。やっぱり、数の態勢って、どうしても、あって。全体的にこういう流れになってんだから、人はそんなに、何億人何万人がこう、考えて同じ方向に行ってんだから、そこにはそんな間違いはないよなって、っていうのには従うってイメージですね。
直塚:うんうんうん。
田所:もちろん、外れたことやって儲かる人とかもいるんですけど、それの方が確率としてはスーパーレアで、やっぱりそこは、何億人って人たちが同じ商売のやり方をしてお金を稼いでれば、やっぱりそっちの潮流に乗っちゃった方が早いっていうのはあるので。そういう意味では、斜に構えるというか。ビジネス本で割と突飛なこといって、「独自性を出せ!」とかこと言ってる人いると「いやいや(笑)それがわかったらみんな儲かるわ」と思いながら。
直塚:(笑)
田所:それができねえから言ってるんねん(笑)って思いながら。ていう意味では斜に構えてる。でも、対・人のコミュニケーションに対しては、あの、どんな人でも、話すことは好きなので。
直塚:うんうんうん。
田所:なるべく時間を割いて、話せるのは、すごく、好きです。

直塚:その、人に話すときに、障壁がないっていうのに、僕、聞きたいんですけど。
田所:はい。
直塚:あの、2年前の、それこそコロナがあって、(それまでは僕は)それこそ文章とか書いてなくて。アウトドア、バリバリ、小学生とわーとかそういうことをやってたんですけど。
田所:ほう。
直塚:その、2年間、コロナがあって、たぶん僕だけじゃないと思うんですけど、「なんで2年前あんなことできたんだろう?」って思うことがあって。
田所:ちょっと遠いよね。世界が。
直塚:なんであんなにアウトドアなことが(できていたのか)、逆に今から小学生に喋りかけるの怖いなみたいになってくるんですよ。
田所:うん。
直塚:で、なんか、でも、田所さんの本を読んだら一歩踏み出して人と喋ってみたら面白いことあるよ、とか。その、それをやっぱり人と話したいという気持ちにはなったので。あの、なんか、一歩踏み出す、それこそ2年間で忘れてしまった人に対して、一歩踏み出すためにっていうか、意識してることってありますか? 一歩踏み出す時に。
田所:あ~、でも、生きてきた中で、あの、僕、すごい恵まれてるなと思ったのは、僕の上の人たちがすごく素敵な人が多かったんですよ。あんまりろくでもない親父ってのと近づいて、毎日過ごすっていうことがなかったんで。
直塚:ふんふんふんふん。
田所:ガキの頃から割と年上の人と、よく交流さしてもらっていたというか、親父に連れて行ってもらって、僕がまだ高校生なのに、今の僕ぐらいの年の人たちと一緒に釣りやったり、学んだりってやると。やっぱ、夜飲み会なんかになると、会話なんか、当然、子どもの会話ってあんまりないんで、そういうの聞いてて、素敵だなーっていう会話をしてる人たちの、そういう真似をしてるところってやっぱりあって。身近なとこで言うと、ワタナベアニさんの話し方みたいなのは、ああいう人たちってのは、僕の周りのおじさんたちにはたくさんいて。
直塚:はい。
田所:やっぱりフラットなんですよね。俺が俺がって話す人はやっぱり嫌われるし、お互い聞きながら、話題を探り探り見つけてって互いに面白い話題を出してくるっていう話し方が、みんなしていたので。だから、やっぱり、人と会うときも、やっぱりフラットに話を聞くっていうのは、あの意識的に出るようになって。
直塚:あ、その、憧れってか、かっこいいなって人たちが、そういう振る舞いをしてるのを見て、真似してるうちに、だんだんできるようになったっていう……。
田所:そうそう。なんでこの人たちは素敵なんだっていう理由がわかったっていうか、ああ「フラットなんだ」と思って。あの(笑)武勇伝みたいなのをいきなり言っちゃうおじさんみたいなのはいきなり飽きちゃうんだよね。おぉうわー(笑)とかなっちゃうんですけど。
直塚:はいはいはいはい。
田所:そういう人は……ほとんどいなかったですね。やっぱね。
直塚:そう……ですね。なんか、寡黙な、感じですよね。
田所:うん。でも、やっぱりこう、あの、なんだろうな、欲みたいなもの言えばそりゃ自分のこと話すって気持ちいいと思うし。直塚君くらいの後輩が3人ぐらい一緒に飲み行って、「田所さん、どうぞ!」ってお酌をされながら「田所さんって今までどんなお仕事されてきたんすか?」って言われて、「え、俺別に大した事やってねえよ」って言いながら自分の会話を永遠にしていいって時間がもしあるとすれば、たぶん、気持ちいいと思いますよね。
直塚:うんうんうん。
田所:ただ、ちょっとそれって一方的やすぎやないかって思って。自分もそれを、ねえ、若い時にやってきて、若い人目線で見たら、1ミリも面白くなかったんで。
直塚:(笑) 気ぃ抜いたらやっちゃうようになってしまうんですよね、多分。
田所:気を抜くっていうか、なんすかね。やろうと思ったら、たぶん誰でもやれるんじゃないかすかね。あの、自慢話永遠としてとか。
直塚:あー、はい。確かに。
田所:うん。自分語りみたいなのをやってって言われても、たぶん嫌いではないと思うんですよね。ただ、それじゃ会話は成立しないし、弾まないし、多分、次に会いたいとも思わなくなっちゃうと思うので。
直塚:ああ~、そうですね。それはほんとに。
田所:だから、それがしたいんだったらお金払うお店に行けばいいなって思う。だからサービスってすごいよくできてんなあと思うのは、いわゆるキャバクラとか、クラブとか、まあ、バーなんかもほんとはそうで、「いや、今日マスターこんなことあってさ」って話せる場ってのはお店はたくさんあるので。
直塚:うんうんうんうん。
田所:そういう場っていうのが全く世の中にないかって言うと、そんなことないので。そういうところで好き放題言えばいいわけだし……。うん。お金が別に成立してるわけでもない、本当に興味があってお互い会いましたって人たちでそれをやっちゃうと、おいおいってなると思うんで。
直塚:……やぁ、確かになあ~。
田所:うん。ないわけじゃないんですよ、そういう場が。
直塚:はい。
田所:直塚君も、今お金を払って、キャバクラに行ったら「え、すごーい直塚くーん」って言って2時間くらい好き放題自分の武勇伝を……。
直塚:いけますね。たぶん、その代わりにお金を払うみたいな……。
田所:そうそうそう……。めっちゃ気持ちいいけど、ま、対価は払いますよね。ちゃんと(笑)。
直塚:でも、おっさんは喋ったから気持ちよく、お金払うよ。10万くらいだったら出すよ。みたいな。
田所:そうそうそう。っていう世界は、ちゃんと世の中には用意されているので。
直塚:うんうんうん。
田所:もしほんとに語りたかったら、そこに行けばいいし。

直塚:あー、それでいうと書くことって、なんか、これ結構今、微妙に悩んでることなんですけど、書く時点で自分語りをしてしまうことは認めなきゃいけないと思ってるんですよ。
田所:はいはい。
直塚:なんか、ここが難しいところで。
田所:無理だよね。
直塚:書く時に、自分の話を書いちゃいけないっていうけど、じゃあ、そういう人は書かないから、そもそも。
田所:うん。
直塚:書いてる時点で、どこかで俺の話を聞いてくれっていう面はあるじゃないですか。やっぱり。
田所:うん。
直塚:1%2%くらい。
田所:『スローシャッター』だって、それ、ゼロにしたら何の話かわかんなくなっちゃうから。ゼロにはできないですよね。
直塚:ゼロにはできないですよね。
田所:うん。
直塚:これ、削って、僕だけ(「僕」という言葉を田所さんは文中で使わないように削って)……これ細かい気付きなのかもしれないんですけど。
田所:はい。
直塚:その、文章の最後……その、主語をめちゃめちゃ削ってるって(以前田所さんが)言ってて。
田所:はいはい。
直塚:主語を(田所さんは自身の文章で)めっちゃめっちゃ削ってるんだけど。
田所:うん。
直塚:こう、最後の一文、とか、ラスト3行くらいは、なんか「僕は」って入れてる気がしてたんですよ。
田所:はいはいはい。鋭い。
直塚:「僕は彼に」とか、それ削れるやんそこって思ってたんですよ。読みながら。
田所:はい、はい。
直塚:で、そこは意識して、やったんですか。
田所:やってます。やってました。
直塚:あ、意識して……。
田所:で、僕が先頭に来ると鬱陶しいなと思うときは、えーっと「きっと、僕は」とかっていう感じでただ単にあの冒頭を僕から始めないってだけなんですけど。僕を後ろにすることで僕が薄くなったりとか、あの、そういう小賢しいことはたまにやってました。
直塚:(笑)。いや、最後、ちょっと無理やり僕入れてきてるとこあるなって。
田所:HAHAHAHAHA。
直塚:でもそれが、それが、それが全部、全章にわたってあるから、あの、意識して、やられてる……。
田所:そう、全部を消しちゃうと「何の話……?」ってなるので、総括すると、僕はこんな風にちょっと思ったよっていうような部分を入れたりはしてますね。
直塚:ああ、それは……意識してたんですね。やっぱり。
田所:はい。ただ全面にそれを書くと、やっぱりちょっとくどくなるのは、僕の勝手な感覚ですけど、ちょっとくどいなと思ったんで「出来る限り、減らす」ようにはして。ただ減らしすぎて廣瀬さんに「これ、なんのこと言ってるかわからないっす」って言われてるのは、あの、ゲラの段階で。削り過ぎて、やっぱりわかりませんよねっていうのはよくありました。
直塚:削り過ぎ……。そこは、わかるなあ。削れるとこは削りたくなってしまうから、一回削り出すと。
田所:そうそう、『スローシャッター』の最終的な本になったときの方が原文(note)よりは、最終的に「僕」多いと思います。僕とか私はだいぶ増えたと思います。そこなくすと、意味が分かんないっすって、言われたんで、あの廣瀬編集長(注:編集長は田中泰延、廣瀬は編集補佐です!)。

直塚:はい。インタビューとは全然関係ないんですけど、たまに、文体が変わる瞬間みたいなのがあって。
田所:はい。
直塚:これ、泰延さんが追記してる?みたいな。
田所:あ~。
直塚:僕は「なんとかだが」ってときと、「なんとかなんだけど」ってときが微妙に違ぇー!って。あの、そこまで細かく見てはないんですけど、悪いつもりで見てないんですけど。
田所:いや、「だが議論」ってのあって、ぼく「だが」っていう表現を、noteの原文ではほぼ使ってないんですよ。
直塚:はい。
田所:あの「だが」ってすごい僕の中ではなんか、強い言葉に感じて。
直塚:うんうんうんうん。
田所:あるときに、泰延さんと廣瀬さんが「ひょっとすると、田所さんって英語構文で日本語書いてませんか」って鋭いとこに気づかれて。「だが」っていうとまあシンプルに、英語で言うと「but」とか。
直塚:はい。
田所:もうちょっと使う感じで「However」って、割と、逆説的に言う、文の中では強いんですよねと思っていて。
直塚:うん。
田所:だから、あんまり、こう……急変するような文章の書き方っていうのがちょっと苦手だったりしたので。
直塚:ふーん。
田所:あの、「だが」が入ってるところはほとんど泰延さんだと思います。「だがしかし」みたいなとか使わないんですよ僕はあんまりね。そういうのが。
直塚:はいはいはい。
田所:ちょっと強いなって、勝手に思っちゃうとか。
直塚:じゃあなんか、その、そういう微妙な違いってのは、泰延さんと議論した……跡、みたいな。
田所:はい、はい。ただこれは、やっぱり「ここをこうしないと、文章として構成がちょっとおかしいです」とか「成り立ってません」とか「二重主語になってます」とか、色んな説明を、ロジカルに説明で返されると「あ、そうですよね」ってなっちゃうので。そこは、泣く泣くというわけでもなく、割と納得しながら。「あ、じゃあそうですね」って入れていったことはあるので。
直塚:うんうん。「編集がない文章はダメ」って泰延さんも言ってるんで、それはもう、僕もたぶん納得できると思います。
田所:なんか、それはすごかった。ぼくね、ホント編集の仕事、僕は今野さんともすごく仲が良くて、今野さん、いつも何やってんだこの人って思ってたんすよ。編集って何すんのみたいな。わかんないすよね、普通の人だと。

※今野さん:ダイヤモンド社の編集者・今野良介さんのこと。田中泰延の著書『読みたいことを、書けばいい。』『会って、話すこと。』の編集担当です。

直塚:正直ぼくも、一緒にやってて、この人何やってんだろうなって、(編集について)思ってます。
田所:そうそうそうそう(笑)。あの、校閲はわかるんですよ。
直塚:はいはい。
田所:誤字脱字、表記がおかしい、揺れ(のチェック)だったりっていうのは。ただ校閲っていう仕事があるんだから編集って要らないんじゃね。じゃあ編集はなにすんのって思ってたら、全然いりますよ。
直塚:(笑)
田所:終わってみたらよくわかります。編集なかったら本なんてできねーよって思ってたんで、無茶苦茶になってるわ。
直塚:それを泰延さんも体感して(自身が編集を担当してみて)分かったって言う、今野さんの凄さが。
田所:はい、はい。すごい思いました。

直塚:あとなんか、まだ文章的に言えば、なんか文章の話が(今日のインタビューの)メインじゃないんですけど、アプーの話とか、田所さんが、印象に残ってる人の描写だけ、なんか、すごい、いらんこと書いてるときがあって。
田所:うん。
直塚:たとえばアプーの描写は。あ、いらんことっていうか、いい意味でいらんこと。
田所:うん。うん。
直塚:あの「日本から来たことを告げると、彼は恥ずかしそうに、まったくわからないというジェスチャーをした」っていうのは。そこは単純に「どこから来たのか聞いたけどわからなかった」とかでもいいじゃないですか。
田所:うん。
直塚:だけど、その、なんか、その説明があることで、かわいらしい姿が出て来るみたいな。
田所:はい。
直塚:特にアプーはそれを感じて。と思うと一方、なんか、例が出てこないんですけど、さらっと流す「行こうと言われたので、僕は行った。」そのぐらいで済ませてる違いって、自分の中でありますか。こう。
田所:えっと、でもそこは直塚さんに全部読まれちゃってるんですけど。アプーに関しては、もう僕の中で、僕が見ていて明らかにかわいいって思っているので、かわいく書きたかったんですよね。そういう意味では、ほんとうに。
直塚:(笑)
田所:言葉は基本的に、彼はまだ、英語もべらべら喋れたわけではないので、ちょっとこう、ジェスチャーが多めというか。わかんないときはこんな感じでやったりするっていうジェスチャーが、ほんとにキュートだったのもあって。大人同士で喋っているよりは、その描写は、だれが見ても可愛く映るだろうなあっていうような、表現にしたかった。事実、彼はそういう感じだったんで。
直塚:この可愛さをどうにか書きたい、みたいな。
田所:そうですね。あの、ありました。彼に関しては。
直塚:アプー。これは一番かわいかったですもんね。この一文で、かわいいんだろうなーっていう。
田所:あと、酢昆布を死ぬほどビビって、拒否してたっていう。
直塚:ありましたね。
田所:な、なんだそれはって。
直塚:ねぶた祭りの描写とかもあって。
田所:そうそうそうそう(笑)。
直塚:(笑)。いやー、ここは、かなり、印象にありました。
田所:うん。たとえば直塚さんも、たぶん、何か月か、こういう定例があって、2か月3か月喋ってたら多分、『スローシャッター』風に、直塚さんをかけますよ。多分。あの、色んな部分をやっぱ見るようになるので。

※『スローシャッター』の制作では9月から12月上旬まで毎週定例会を行なっていました。制作の佳境に入った11月中旬からは、定例という概念が崩れてほぼ毎日のように集まっていた気もします。(編集補佐 廣瀬コメント)

直塚:いずれ一緒にいれば……いずれってか……だんだん。
田所:はい。
直塚:音読したら映るんですよね。田所さんの文章が、マジで。
田所:(爆笑)
直塚:こう、点を打ちたくなってくる。文章に、こう。ここに点を入れてみたいな。
田所:それね、みんな、何人にも言われるんすよ。「ぼく田所さんの文章見ないようにしてるんです。うつるから」って。
直塚:(笑)。泰延さんもうつるって言ってましたもんね。この、スローシャッターの短編冊子も「うつってるー!」と思って。いつもの感じから。
田所:かなり、僕風に書いたって言ってましたよ。
直塚:あー、そうなんだ。
田所:僕風に書きすぎて豪さんに怒られたって言ってました。それやりすぎだって言われて直した部分があったって。
直塚:あ、直して、こう、頑張って直してこんな感じ……。
田所:はい、はい。
直塚:いやー「ゲラゲラ笑った」とか完全に田所さんの文章じゃんと思って。
田所:HAHAHAHAHA

直塚:アプーとか、じゃあ、たとえば出会いとかあるじゃないですか、人と。で、その、あくまで仕事だから、あんま仲良くならんどこう、どうせ別れるんだから、って言う人もいると思うんですね。
田所:はい、はい。
直塚:逆に。
田所:はい。
直塚:でも、田所さんは、その、できるだけ人とふれあって、たぶん一生会えないんだろうなとか、ここで別れるんだろうなって、わかってても、こう、情を移すというか。
田所:あの、会ってる時の喜びが上回っちゃうんですよね。たぶんね、話してるときに。
直塚:ああ~。
田所:ターミナルで会った、えっと、ヒロシ君。(『スローシャッター』収録の「ターミナル」)
直塚:はいはいはい。
田所:あれも、やっぱり「あれ? 日本人じゃね?」ってツッコんで話すことの方が、そこのテンションの方が上回っちゃってて。
直塚:その瞬間の。
田所:そうです。舞い上がって喜んでるんで。気づいて「あ、うわ、これもう会わないんじゃない?」ってなったときに、あとで哀しくなるみたいな。
直塚:なんか、どうせ声かけても……とかじゃなくて。喜んで喋った後に「あ、どうせ別れるんだ、こっから……」ってなってくる。
田所:はい、はい。あとになってクンクン言ってるみたいな。なんか(自分って)、犬、アホな犬なんじゃないかって思うときがあって結構。
直塚:(笑)。そうなんだ。
田所:それは、あんまり意識してないというか。その、会った時の喜びで。だから廣瀬さんとたとえばハノイで、偶然、なんかのタイミングで会って、話したっていっても、その、別れることを考えてない。その時のテンションの高さでワーッとお互い盛り上がって喋ったあとに、じゃあね、ってなったときにすげー寂しくなるみたいな。HAHAHA。

※廣瀬は約半年ハノイに滞在し日本語を教えていた経験があります。実は同時期に田所さんも仕事で頻繁にハノイを訪問していたそう。当時実際には現地で会ったことはありませんが、「もしその時に会っていたとしたら」という喩え話として出てきています。(編集補佐 廣瀬コメント)

直塚:ああ~。
田所:あまり後先は考えてないかもしれないですね。
直塚:そうなんだ。じゃあやっぱなんか、さっきの話と繋がって、道中やターミナルでは、できるだけオフにしてるっていうところがあるんですね。
田所:ありますあります。
直塚:そのおかげで、ずっとビジネス脳じゃなくて、声かけてしまう、オフみたいな。
田所:そうですね。(『スローシャッター』収録の「ターミナル」のエピソードがあった時は)メールのやりとりも空港で出来たらもうちょっと仕事モードだったんでしょうけど、メールは繋がんねーわ、電話もならねーわ、みたいな。
直塚:ああ~。
田所:本も読んじゃったわ。
直塚:(笑)
田所:やることね~みたいな。もうコーヒー何杯、おなかガボガボだしな。
直塚:やることね~との戦いですよね。もう、見てて思いますもん。これは……って。
田所:いよいよやることなくなって、どうしよ~ってなるんで。
直塚:やる……とんでもない。
田所:これがね、まだ、あと、そうそう。1時間くらい、あと1時間くらいなら「あ~、あと1時間か~」ってなるんですけど、「やることね~」ってなって時計見て、あと6時間くらいありますからね。
田所:長い(笑)。もうどうしたら……。
直塚:なんでやることやれたんだよって。
田所:なんでその、5時間くらい伸ばさなかったんだろうって、後悔しますよね。1時間半で全部やってしまったんだろうって。残りの、暇なことを。
直塚:6時間……。それは、しんどい。
田所:しんどい。けど、どうだろうな。今、でも、世界の主要空港でインターネットがサクサクできるっていう環境ってそんなに多くはなくて。
直塚:うんうんうん。
田所:ちょっと回線遅いけど、空港のWi-Fi借りるとかいうくらいだったら、できたりしますし、まあ、もちろんモバイルWi-Fiもね、みんな持って歩いてるんで、そんな通信に困ることはないんですけど。ただやっぱり……どうだろうな、今同じように8時間トランジットで待たなきゃいけないってなっても、スマホそんなにやらないんじゃないかって思いますよね。¥割と、すぐ飽きちゃうんで。30分くらい……。
直塚:結局、飽きちゃう。
田所:うん、もう、たぶん、直塚君なんかもどうだろう、8時間スマホやってられるかな、結構飽きると思う。
直塚:いや、絶対飽きますね。
田所:飽きますよね。
直塚:本読んでも絶対飽きますね。8時間なら。
田所:そうそう。で、ちょっと出たく……そんなにあるならちょっと近くの町だったら行けんじゃねとか。
直塚:うんうんうんうん。
田所:まあ、町に出なかったとしてもぐるっと空港回ってみようかな、とか。
直塚:だって8時間だぜってなりますもんね。ちょっとくらい時間忘れるくらいしないと。
田所:そうそうそう(笑)。で、インフォメーション見たら、よりによってだいたい食いたい店って、空港の端っこにあったりして。「ああ、これだったらちょっと歩いて行こうかな」とか。で、歩いて行ったはいいけど3キロくらいあったってなる。デカスギル……。
直塚:3km……。
田所:うん。
直塚:で、帰ってきて「よーし歩いたぞ」ってなってもまだ6時間あるな……みたいな。
田所:そうそうそう(笑)。ぜんっぜん。ご飯も食べたし。
直塚:おいおいおい、みたいな。
田所:どうしよう。
直塚:なにしよう……。
田所:うん……。

(ちょっと間が空く)

直塚:昔から、スローな人だったんですか。釣りが好きとか。なんか、こう、noteで、僕全部のnoteまでは見れてないんですけど、ちっちゃいとき、友達とワーワー遊んだり、野球したりみたいな、結構みんなが好きとか、集団が好きなタイプだったのかなと思ったんですけど。1人も同時に好きだったみたいな感じですか、それともある瞬間とか。
田所:そうですね。多分、あの親父が釣りが好きだってんでよくついて行ってたんで、みんなでわいわいやるのと急に孤独になるのと、2つの遊びをよくやってたなあってイメージありますね。だから当時の小学生で、あんなにキャンプいったり、釣りでやったり、山登ったりみたいな、単独行動に近いことをさせられてたっていうのは、きっと多分小学校、同じ同期の小学生でいったらそんなにないんじゃないかなって、思います。もっと近所の駄菓子屋で遊んだりしてたんじゃないかなって人たちが、多いと思うんですね。
直塚:うんうんうんうん。そっか、ちょっと……お父さんとかの影響で、違うことやれてたんですね。
田所:そうですね。だから、逆に「いいな~、おれ、町で駄菓子食ってたいな~」って思うこともあったし、あの、みんな、パチンコ買って。あの、昔、こういう、あれがあったんですよ、ゴムでぽーんってやるやつ(『ワンピース』のウソップが使っているようなパチンコのこと)。
直塚:ポーンってやるやつ
田所:そうそうそう。
直塚:はいはい。
田所:あの、アレをみんなで買ったからやろうぜ~って言われたから、すごい行きたかったのに「ごめん、明日俺なんか山登りなんだ」って言ったら「山登り?」って言われて「俺だけ行けない」みたいな(笑)。
直塚:(笑)
田所:よくありましたよね。
直塚:何、山登りってなりますね。友達からしたら。
田所:うん。

直塚:えー。ふと、今思ったんですけど。はい。アヴリル・ラヴィーンの話に戻って。
田所:ああ、いいですよ。
直塚:あのアヴリル・ラヴィーンのあれって。あの曲、「anything not(正しくは「Anything bur Ordinary」)」って「普通は嫌だ」みたいなことを言ってるじゃないですか。歌詞の中で。
田所:はい。すごく、若者らしい歌ですよね。

直塚:はい、このまま私を愛していいの?みたいな、なんか。そういう歌詞の歌だったんで。
田所:はい。
直塚:僕はそれが、すごく意外で、「めっちゃハングリーな歌聞くじゃん」って思って。田所さんが、こう文章のイメージからして、全然違ったんで、質問が飛んだんですよ。
田所:(笑)
直塚:さっき、普通じゃないみたいな、子どものとき言ってて、ちょっと違ったっていう。これを聞いてた時は「今の状況が嫌だ」っていう意味で聞いてたのか、それとも「この世界を飛び回る日々はもう普通じゃないよね」っていうメンタルで聞いてたんですか。
田所:あ、どっちかっていうとそれは後者のイメージですね。
直塚:あ、もう、そういうイメージだったんですね。
田所:はい。そういう意味では、自由で、いいな~と思って、結構喜んでましたね。
直塚:あ~、そっか。いや、あの。
田所:「Anything but Ordinary」でしたっけ。
直塚:そうですそうです。Anything but……あれはめちゃめちゃ……いい曲でしたね。
田所:歌詞がまたいいですよね、本当にまた。
直塚:うんうん。
田所:若いんでみんな、気が狂いそうになる。こんなんでいいんだろうかとか、
直塚:うん。
田所:で、ドライブして、スリルを味わいたいっていう雰囲気とか、私ってこのままでいいのかしら、とか、ねえ、今死んでも、いいのよ!みたいな、ちょっと……英語版尾崎豊……尾崎豊っていってもわからないか。
直塚:わかりますわかります。「僕が僕であるために」とか。
田所:はい。ちょっと、その雰囲気が、この歌詞のなかに入っていて。
直塚:うんうんうん。
田所:でもこの今走ってるわけのわかんない壮大なアラスカの景色を見てると、色々なことが馬鹿馬鹿しくなるし、すげえぇなあと思いながら。
直塚:そっちのニュアンスで聞いてたんですね。
田所:うんうん。何やってんねん俺とか言いながら、運転してましたね。
直塚:(笑)。いや、でもあれはほんとドライブに合いそうだなって思いました。その、開けたサビで開けた瞬間の。
田所:はい。とにかく景色がね、アラスカは、半端じゃないほど良かったので。
直塚:うんうん。
田所:うんうん。
直塚:あれ逆だな~と思いましたね。あれ明るいテンポですっげー暗い事歌っているけど、田所さんは静かなテンポで明るいことをうたって……書いているから。
田所:そうですね。はい。
直塚:あ……逆だ。とかあと、深読みしてました。
田所:そうですね。

直塚:それと、関連してって言うか、僕は今若い目線で話してたんですけど、僕のお父さん、泰延さんの世代くらいなんですけど、仕事の愚痴を言うんですよね。で、聞く。ただ、なんか、田所さんの本とか読んでたら、見落としてた人たちの中にいい人がいるよ、とか。
田所:はい。
直塚:そんなに、出世のことばっかり考えなくていいんじゃない?とか、通り過ぎて行った景色を一度振り返ってほしいなあとか、上の人たちに。ちょっと思ったんですよ。若造ながら。
田所:はい。
直塚:で、その、田所さんを見て、羨ましいって言う感想もすごくあると思うんですね。僕自体も目にしてて。
田所:同世代ぐらいの人は、すごい言われます。それすごく。
直塚:あ~。
田所:自分は何を見てきたんだろうって恥ずかしくなりましたみたいなことを言う人がいて。そんなでもないだろうって思うんだけど。
直塚:それぞれのなかに、一冊書けるくらいには(何かが)あると思うんですよ。20年も仕事してたら。
田所:ですよね。
直塚:どんなに、しょーもないって思ってても。
田所:うん。
直塚:そこ……に、気づいてほしいなあと、著者でもないのに、こう、なんか、親に送ってみよう、親と話してみようかなって。
田所:いやいや、でも。わかりますわかります。その、感じって、その、直塚君が、部分的にすごく、ぼく、共通点として似てるなって思うところが、今話してるだけでもいくつかあったので、あの、その感じはすごいわかります。全然、著者だろうが、著者じゃなかろうが、そう思ってもらえるのはすごい嬉しくて。
直塚:あ~。
田所:なんか、なにか見落とす。見落とすんすよね、人ってね。どんどん。生きてると。
直塚:そうですよね、見落としてしまう。
田所:はい。
直塚:こんなので良かったんだろうか、俺の仕事は。でもそういうのはみんな思ってるはずで、どこかで。
田所:そうですよね~。
直塚:なんか。うちのオヤジも野球してたんで。あと知り合いの年上の人とかは、結構、ずっとプロ野球選手になりたかったんだってことをくどくど言うんですよ、結構、僕のイメージ。5人くらい、野球してるおじさんとかは。清原が良かったんだよ、立浪が良かったんだよとかいうんですけど。
田所:ええ、ええ。
直塚:なんか、そういう、憧れ、っていうのはあります?「俺はこういう人生じゃなかったんだ」って冗談っぽく言ってるんですけど、本人たちは。
田所:それね。
直塚:こんなしょーもねえ仕事に就いちまってみたいなって言う人とか、気持ちは、ちょっとありますか。
田所:ついこないだ、稲田さんとその話になって。いまちょうどほぼ日で古賀さんが、糸井さんと毎日対談してるのが、毎日あって。あれ見てるんですけど(ほぼ日刊イトイ新聞2023年1月23日(月)〜2月2日(木)連載「学校では教えてくれない 勇気の授業」)。

直塚:はい。
田所:タイプがあるとすると、古賀さんがたぶん、直塚君が言った「俺はこんなはずじゃなかった」って思うタイプなんですよね。どっちかっていうと。
直塚:うんうん。
田所:とにかくいろんな凄い人を目の当たりにしたときに、嫉妬する人と、かなわねえなって思う人に、結構大別されると思うんですけど。僕は結構、後者なので。
直塚:へえ~。
田所:あの、同じ、野球をやっていても、なんだろう。とてつもなくこいつにはかなわないなってやつが出てくるんですよね。あの、同級生で、お前どんな身体能力してんだコイツみたいなやつがでてくると。「クソー!」っていうよりは応援したくなっちゃうみたいな。
直塚:そんなすごいなら、頑張れよ!みたいな。
田所:そうそう。あと一緒に、え、こんなすごいやつとプレーしていいの?っていうことに喜んじゃう性格なので。あの、古賀さんは、僕とは、多分そういう意味では違うんだろうなって、彼はもう、すごい嫉妬するタイプだっていうので。
直塚:古賀さん、嫉妬するんですね……。
田所:あの、結構ね、最初の1、2章くらい(連載の第1回第2回)でそれ書かれてましたよ。自分は30歳までに、もっとこんなはずじゃないみたいなことを言ってたんで。俺自分で振り返って、全然そういうのなかったなと思って(笑)、やっべぇって思って。なにも知らないまま30過ぎてしまった。
田所:うん。いま、チャットにリンク貼ったんですけど、これ、あの知ってる人はあんまいないんですけど、知ってる人いないってか誰にも説明してないんで、むかーしぼくがブログをやってた頃の、あれで。さっき言ってたことって、実は、2012年くらいには同じことって思ってて、いろんなものを見過ごして、捨ててったなあと思った時に、そのフレーズ(ブログに書いてある「人は人生でどれだけ、落したものを拾えるだろう。」)が出ましたね……。ふふふっ(笑)。

直塚:あー……。そう、落としたものを拾えるって……僕、あの、僕多分嫉妬する側なんですよ、どっちかっていうと。
田所:あっ、そうなんだ! ほー。
直塚:それで、それがすごい……こうなんか、嫉妬する側だから、逆に、田所さんの文章読んで、嫉妬したものが落としてるものってたくさんあるなあって気づいて。
田所:おー。
直塚:ものすごく悔しくなる……悔しくなるというか、なんか。
田所:でも多分、分野もあるよね。あの、けっこう、その嫉妬って、その人が嫉妬するっていう理由って、全体的にこいつに嫉妬するってのは意外に僕は少ないと思ってて。ある特定の分野に対して自分は秀でてると思っているのに、こいつはなんで、その上をいくんやみたいなって、専門的なことで嫉妬することの方が多いと思ってて。
直塚:うんうんうんうん。
田所:総合的に、こいつを嫉妬するっていうの、あんまり聞いたことないんだけど。たとえば野球だったら俺の方がうまかったとか、走るのだったら俺の方が早かったとか、そういうのより専門的な、ことに対して、より、嫉妬するっていう嫉妬の根源って多いと思うんですけど、あの、僕ね、一個あるとすると、写真はありました。
直塚:あ~。
田所:写真だけは、うまい人の見ると、腹立つことあるんですよ、今でも。「え~、なんでこんないい写真撮るんやこいつ~」って。あの、もうね、表現しづらいですあれは。もう、あれは、嫉妬でしかない。分野によってはありますね。ほんとに。
直塚:でも、たしかに、それは、分野によってあるかもしれないですね。
田所:環境が同じでそろってるんですよね。同じカメラ同じ機材持ってるはずなのに、なんでこんな違う写真撮るんやっていう、スタートラインが同じなのにもかかわらず、差を見せつけられるっていうところで人は嫉妬すると思うので。
直塚:うんうんうん。
田所:野球もたぶん、おそらく同じグラウンドで同じ飯食って同じバットで生きてんのに、清原はなんであんなにすごいんやって言ってるのと、まあ同じだとは思うんですけど。
直塚:はいはいはい。
田所:同じ道具も、同じバットも持ってたでって思うのに、なんであんなにホームラン打てないんやって、ま、ちょっとそれに近いのかなって思いますね。
直塚:あれは、すごいですもんね。あの、田所さんが落としたものって、逆に、イメージ、あの、直線でできた人は、振り返って回り道で来てた人、あんなに多くの物を回り道しながら拾ってるんだって印象はわかるんですよ。なんとなく。こう直線できた人がこう思うんですけど、じゃあ、回り道できた人が、落したものっていったい何なんですか。イメージとして。
田所:でも、おんなじじゃないですかね。回り道で来ていると思っていても、もっと回れたんじゃないかって思うから、やっぱり落としているわけで。
直塚:あ~、そういう。回り道で来てると思ってるけど、もっと回ってる人いるじゃんみたいな。
田所:そうそう。もっと、色んなもの拾えてる人っているよなと思う、思うんで。もう、きりない。際限ない。
直塚:そこきりないですね。いくらまた、次の道覚えても、もっと、もっともっとって。
田所:うん、うん。
直塚:そっか~、そういうタイプか。だから昨日、そういうおっちゃんに乗り移って、ちょっと涙出そうになったんですよ。俺はなんでこんな『スローシャッター』みたいな人生を歩んでこなかったんだって。
田所:HAHAHA(笑)。すごい。そういう感想がある。
直塚:50代の魂が(笑)。
田所:まだできるまだできる。これからだから。へっへっ(笑)。でもそういうおじさんの感想を見ると、そんなことないと思うけどなって思ってて、みんなありますよと思って。
直塚:そうですね。そんなことないよな~。

<廣瀬IN>

廣瀬:そういうおじさん、そういう仕事つまんないって言ってるおじさんって、なんで、つまんないって思っちゃう。なんか、棄てたもんじゃないよ、楽しいよって、なんで思えなんだろうなあって。年齢近い田所さんから見て、ここ違うかもって、なんかあったりします?
田所:みんな、ネガティブに捉え過ぎちゃうと、絶対生きてて嫌になるっていうのは、もう目に見えてるんで。
直塚:うん、うん、うん。
田所:つまんないって思ったら、どこまでもつまんないって思えちゃうし人間って。嫌だなと思ったらどこまでも嫌になるのと一緒で。
直塚:はいはい。
田所:だから……1回Twitterで書かれたのは「田所さんって、そのおもしろがる能力がすごいよね」って言われたことあって。
廣瀬:ふん、ふん。
田所:みんなが「えっ、そんなの面白くなくない?」って思うことでも面白がって見ちゃうっていう。たぶんそれはもう、ある意味、絶対に、つまんない目線で見たらどんどん自分もつまらなくなるんで。避けたいんでしょうね。意図的に、飽きるから。
廣瀬:それって、昔からですか? なにかで……気が付いたってみたいなのがあったりとか。
田所:仕事するようになってからじゃないですかね、学生のころは多分なかったと思うんですよ。つまんないものはつまんないよね。だって楽しいことやれるしと思ってて。おれこんなのに熱狂してるんだって友達にいわれても、俺がつまんなかったら、俺は……その、つまんないけどって言っちゃってたんで。ただ仕事するようになると、やっぱり強制的にやらなきゃいけない立場になると、これはもうこの世界のなかで面白がるしかないだろうって、なったんですよね多分ね。行き詰まっちゃうから。そんなことやったら。
廣瀬:行き詰まりそうになったことがあったりとか、それを楽しそうにやってる先輩がいたりとかってあったんですか?
田所:それは、割と自由度が高い会社に入れて、すごくその、嬉しい、嬉しいというか、やりたいことを、なるべくやれるし。面白がれるような環境はあるので。
廣瀬:うん。
田所:もう、会社が変わったらまた、急に、めっちゃ元気なくなるかもしれないし……自由度全然ない会社入ったらやべえってなるかもしれない。
廣瀬:でも、俺そんなんつまんないと思うしっていう田所さん、想像できないです。
田所:そうだよね。だから、『スローシャッター』作ってても、なんでもないシーンで、あの、ちょっとこういう視点で、いまこうじゃないすかって言ってみんんが爆笑するってシーンいっぱいあったと思うんですけど、制作過程で。
廣瀬:うん。
田所:あれってちょっとそういう、他人の目線でパッて見たら、今のこういう境遇ってめっちゃおもしろくない? って、ねえ、まじめにやってる時ほど面白いことって多くて。
直塚:うんうんうん。
廣瀬:じゃあ田所さんは、旅でもそうですけど、こう(狭く)なりすぎるんじゃなくて、時々第三者視点になるんだ。
田所:そうなったときに笑いって結構、起きやすくて。いま、みんなやってるのって、仕事をやってる人たちからすれば当たり前なんだけど、知らない人が見たらこれ爆笑でしょ、っていう。なにやってんねんこいつらってなるっていうか。あの、ちょっと、クスっとするときありますよね。
廣瀬:なるほどな~、深刻になり過ぎるんですね、みんな。
田所:でも、まあ、365日いつもポジティブかって言ったらそんなことはなくて、今でも、同じように、毎日仕事やってて、うわ、もう、ほんとやだなぁとか、トラブルが重なったりすると、明日会社にも行きたくない起きるのもヤダ、そんなん毎日ありますよ。でも、人って、守る作用があるのか、逃げてもいいし、向かい合わきゃいけないし、いろんな場面に遭遇した時に、ちょっとでもプラスの方に考えなきゃなあって思わざるを得なくなると、まあ、人間ってそういう風にうまくできてるんでしょうね。うまくできなくなっちゃうから、病んじゃったりするわけで。
直塚:うん。
廣瀬:うん。
田所:なるべく大ピンチな状態でも、まあ、あの、ちょっとでも明るくいるしかないよなあみたいな。マインドはもってなきゃいけないですよね。まあ、それで劇的に回復した例ってないんですけど、まあその嫌な期間ずっと1カ月トラブってたらヤな期間は続くんですけど、少なくとも、ずっとネガティブでいてしまうときっと病んでしまうので、そこはなんとか取り持たなきゃ。

直塚:いま、ちょっと、入って良いですか?
廣瀬:もちろんもちろん。むしろ私入ってごめんなさい。
直塚:あの、今の話で、思ってたのが、ネットの世界、僕自身の感じからすると、偏るのが怖くなってしまうとか、好きなものが分からないとか、その、好きって言ってる気持ちをすごく小馬鹿にしてくるやつがいるとかみたいなのも、全部、可視化できるじゃないですか。で、それで、卑屈になって「俺の仕事なんてどこにでもあるよ」って仕事へのモチベーションが保てなくなってくる。こう、世界が、「俺みたいなのどこにでもいるし」とかこの世界から見たら何の役にも立ってねえし、ってなる。けど、でも仕事頑張りたいよね、でも仕事ってもっと面白いものじゃないとか思ってた方が仕事って楽しいと思うんですけど、なんか、そういう人たち、こう、アイデンティティを失ってる人たちに足りないものってか、説教っぽくなっちゃうかもしれないんですけど。
田所:いやいや。えっと、これも、廣瀬さんの答えの通りで「真面目過ぎちゃう」のかなと思いますね。ちょっとふざけるくらいでも。なんか、冷静に考えると、あの、面白くないですか? 仕事って……なんだろう、人間の本当の、なんだろうな、動物みたいに生きたって、きっと死にはしないと思うんですよね。毎日仕事もしないで……フラフラして。山奥行って、誰もなんか、管理してないような土地で、自給自足で、野菜育てて、その辺のイノシシとか捕まえてってやろうと思えば、毎日できるし、なんだろうな……そんなに、あの、熱を込めて、仕事なんかやんなくても生きてる人って世界にたくさんいて。
直塚:うん。
田所:あの、そういう人たちを見てると、すごい羨ましいなと思う反面、毎日これやってても飽きるだろうなと思ってて(笑)。
直塚:イノシシ獲って、帰って、みたいな。
田所:どっちに振れてもきっと飽きるんだろうなって。きっと、両極端ってどっちも飽きると思うので。
直塚:うんうんうん。
田所:で、みんながみんなたとえばそのー、なんだろうな~、やらなくてもいいことなのに、みんなが仕事をして、その、仕事の中で同僚と喧嘩したりバトルしたりとか、言い合いになったりとかってやってるのって、ちょっと、遠目から見ると、すごく滑稽だったりするんですよね。
直塚:うんうんうん。
田所:なくてもいいものでなりたってるのに、なんか仕事みたいなものをしなきゃいけないという境遇に人間はさらされていて、その狭いフィールドのなかで意見の食い違いがあって、Twitterの中でも同業者がののしり合ってるみたいとか見てると、ちょっと、遠目から見るとおかしかったりする。そんなにおかしかったら他のことやればいいのにとか、別に、ねえ、自分の、もっと、やりたいこととか、好きなことにいくらでもいけばいいのに、とか。明日辞めて、ベトナムのホテルの前で寝てたおじさんみたいに一日中原付のソファーの上で寝てればいいのにとか。なにをやったって自由なはずなんですけど、でもやっぱり、仕事って言うのは、人にとってなきゃいけないもので、そのなかでぎくしゃくしているっていうのを、自分が、そこに巻き込まれたときに、なるべく遠目から遠目から見ててすごく、面白いよなって思うとこう、ちょっと気が楽になったりとか、どうせ死なないよな(笑)とか。ここで、うわーちょっとミスでやらかしたわ~と思っても、それで、首斬られることはないしなとか、首斬られるってのはリアルで、刀で跳ね飛ばされるようなことはないし、切腹しなきゃいけないとかはないので。まあ、あの、しょうがないよねっていうマインドは、世界から学んだのかもしれないですよね。あの、とんでもなく仕事してない人いっぱいいるんで。
直塚:(笑)
田所:ノルウェーの人なんか、ほんとひどいですよ。5分前に話してたこと、「あつし、さっきのなんだったっけ」。やいや(笑)。「冗談だろ? 5分前に話したこともう忘れたの?」みたいな。
廣瀬:ノルウェーでそうなんだ。アジアとかだったらすごいイメージ合るけど。
田所:そうそう。アジアもひどいすけど、ノルウェーも。それもねアメリカ人とまたね、一緒に旅行なんか行ってると「しょうがねえ、あいつらヴァイキングの血が混じってるから全然ダメなんだ」とか、ブラックジョーク(笑)。「聞こえるから!」っていって、あいつらもう、基本的にあれだから「パイレーツ・オブ・カリビアン」の世界のやつばっかだからとか言われて、すぐわすれちゃうんだ。
直塚:へ~(笑)。
田所:だからそういう、なんだろうな、すごくいい加減な人。日本人から見てですよ。日本人から見ると、すごくとてつもなくいい加減な人でも、「あ、仕事って成り立ってんじゃん」とか、あるときに、あの「日本の方がこれ異常だな」って僕は気づいて。
直塚:うん。
田所:日本がね、極めてやりすぎなんですよ。仕事に関しては、真面目過ぎというか、几帳面すぎるというか。たとえば書類はいつまでにもらえないと、こんなことでバタバタしちゃうっていわれてても、アメリカの人なんか平気で一週間くらい遅れて来るんで。毎日メールこっちは入れてるんですけど。
廣瀬:みんな〆切の。
直塚:それでも。
田所:そうそうそう。でも、結局その一週間遅れて、こっちはめんどくさい事になったんですけど、それによって大損害を被ったとか大トラブルになったってことはないんですよね。みんながストレスが溜まってるだけで(笑)。結局アメリカ人が、なにも鼻くそほじりながらか知らないですけど、ペッーってメール送ってるやつの方が勝ちじゃね?って思ってて。
直塚:意外とサボったもん勝ちじゃね、っていうかなんか、高校生みたいですね。サボったもん勝ちじゃねみたいな。
田所:実は、それをしたことによって致命的になにかになったってことはないんですけど。なにか日本人が、えーっと、あの、色んな会社と、この書類をウチが受けたら、今度あの通関を切る人に渡さないといけない、オツナカさんにも渡さないといけない、倉庫にも渡さないといけない、みたいな、スケジュールを組んでしまうので、あの、やっぱり相手のためを思っていつまでにくださいってやってるから、気遣いをベースにしてるからストレスがたまってるだけで。実はそんなの、海外の人なんかは自分のペースでパンパンやるんで、「いやいや、もう頼むよ……」ってくらい書類遅い時もあるし。
廣瀬:フフフ。
直塚:(笑)
田所:そうこうしてるあいだに、なんか、ロングホリデーに入っちゃいましたって「おい冗談だろ」って。2週間くらい音信不通になるとか。
直塚:音信不通になるところがちゃんと、偉いですよね。ちゃんと、ガチで休みに行ってるっていう。
田所:そうそうそうそう、もう……無茶苦茶ですよもう、ほんとに。日本人から考えたらとんでもないことしてる人ってたくさんいて、それで世の中は回ってるし、そんなに困ったことなんて陥ったことないよなって思ってると、やっぱりちょっと日本人はいろいろと几帳面すぎるというか、相手のことを考えすぎるというか。
直塚:ああ~。
田所:っていう、っていう世界を見てると、いろんなことがちょっとおかしく、笑っちゃう時があって。失礼な話、そんな日本人細かいとこでストレス溜めんのみたいなってくらい。もうノルウェー人に見せてやりたいわっていうくらい。
廣瀬:ヒッヒッヒ。
田所:めちゃくちゃいい加減だよって。
直塚:もう5分で忘れるよあいつら、みたいな。
田所:そうそうそう。「いま、直塚君、さっき話してたことなんでしたっけ」って、平気で聞いてくる。
直塚:忘れた上に、平気でそれを聞くっていうがまた、面白いですね。
田所:そうそうそう。なんの悪気もなく。
直塚:思い出そうともせず。
田所:はい。
直塚:でも、それで回ってるんだから。
田所:そうなんですよ。
廣瀬:自分じゃどうにもできないから「またあいつら」って笑うしかないですしね。
田所:そうそう。だから、いつしか、とはいいながら日本の慣習のなかにがっちりやってるんで、日本なりの生きづらさが、その中で生きなきゃいけないんですけど、そういう人たちを見てる分、ちょっと気が楽になるというか。
直塚:うんうんうんうん。
田所:たぶん、見れてないと見れてるじゃだいぶ大きな差があって、まあノルウェー人あれだしなとか、メキシコ人もっといい加減だしなみたいな、感じになってると、ちょっと、ちょっとだけ世の中がおもしろおかしかったり余裕ができるみたいなとこある。直塚:落ちるかもしれないけど飛行機飛ぶじゃんとか、意外と無事に生きてんじゃんとか。
田所:そうそう、絶対メンテナンスしてないでしょと思いながら、でも飛んでるなみたいな。

直塚:俺死ぬかもな?みたいなときはあったんですか、(飛行機に)乗る前とかに。これ、やばいなってみたいな。さすがに。
田所:えーっと、九死に一生とか、間一髪危なかったってのは、えーっと、飛ぶ前に、整備士の人がおかしいって言って、ヘルシンキだったかな、ヘルシンキの空港かどっかで、僕がもう搭乗した後に一回降ろされて。何人か乗客の人が怒っていて、そんなに、たいしたトラブルじゃないんだろみたいなこと言ってたら、えっと……エンジンが、あの、その直後に、急に煙が出はじめたみたいな。
廣瀬:おぉ~……。
直塚:(笑)
田所:これね、たしかに、もう。飛んでたらやばかったなあって。
廣瀬:やーばいって気づいてくれてよかった。
田所:もうね、4発あるエンジンのうち一基が止まるってなったら多分落ちることはないんですけど、まあ、あの、一基でも動いてたら飛ぶって理論上はあるらしいんですけど、2発あるジェットのうちの1個から煙出てたんで、これは結構ヤバかったんじゃないかって。多分偶然ですけど。
廣瀬:そこは適当じゃなくてよかったですね。
田所:そうそうそう。なんかね、はっきりしなかったんですよ。エラーが出てるわけじゃないからどうのこうのとか言ってて。ただ職人さんのひとりがあの、エンジニアがなんかおかしいって言ってるって言ったんで、揉めたんですよ客が。だったら飛ばせよみたいな。
直塚:ふーん。
田所:って言ってたら、その職人の勘が当たったって言うか。
直塚:すげえ……しかも、乗客も「だったら飛ばせよ」ってなるんですね。日本人なら「ぜひ確認して」ってなるのに。
田所:そうそうそう。もう、だったら問題ないんだったら飛ばせよって。いっぱいいたんですけど。案の定、あの、エラーが結構、深刻なエラーが、後になって出てきて、みたいなことが、ありましたね。あれは今考えたら、乗ってたらやばかったんだろうなって思いながら。
直塚:ああ……。そっか。それって、その、次乗るとき怖くないんですか? すごい自分もちっちゃいなってイメージがあるんですよ。田所さん、なんか、自分も駒の一人というか、駒っていう言い方、プレイヤーのひとりで。
田所:もうありんこですよ。ほんとに。
直塚:死んだら死んだでそのときか——って極端な話じゃないですけど、そのくらいのレベルで生きてそうだなと思って。
田所:そうだね。もう、しょうがないもんね。直塚君が来週どうしてもニューヨークに行かなきゃいけないって仕事があったら、もう、その機内に乗るしかないもんね。
直塚:(笑)。確かに。
田所:ただ、なんだろうな、統計学のあれとか、ネットでも出るじゃないですか、飛行機って、事故が起きない飛行機で、あの、乗り物で、あの、一番、死亡率が高いのは、普段、何気なく乗っている車なんだよね。車が最も危ない。
直塚:うんうんうん。
田所:いつも死と直面してる率が高い乗り物ってのは、自分で運転する車が最も危ないっていう。
直塚:ふーん。
田所:飛行機なんか一番たぶんないですよね。事故率で見たら。
廣瀬:うん。
直塚:うんうん。このnoteは、もしすごい不運なことがあって、事故るとか、僕とか田所さんがするとするじゃないですか。そのときのために残しておきたいとかは、ないんですか。本を残す動機ってそういうところもあるのかなと思ってて。
田所:あ~それよりは、前に札幌のイベント(2023年1月15日(日)に三省堂書店 札幌店で開催したトークイベント「本になっても、旅はつづく。」)でちょっと僕はお話ししたんですけど、えーっと、あと10日くらいで世の中からいなくなってしまうというようなことになったとしたら、最後それを見て笑って死のうみたいなイメージで書こうっていう動機はありました。
直塚:うんうんうんうん。
田所:やっぱ自分が最後読んで面白くなかったら、ブチ切れて死ぬだろうなと思ったんで。
直塚:(笑)
田所:こんなつまんねーこと読んで死ななきゃいけないって思ったら(笑)やだなって。
直塚:そっか。自分に向けて、書いたんですね。あくまで。
田所:そうです。
直塚:なんか、俺の素晴らしい仕事を最後に、成果を残したいとかではなくて。
田所:じゃなくてじゃなくて(笑)。こんなやついたなーとか、あんなやついたわーとか、そんなのを思いながら、俺ってこんなことやってきたんだなーと思いながら、死ねたらいいなって。そんなつもりで、書いてました。死ぬ直前で、つまんなかったら絶対キレるでしょ。
廣瀬:フフフ。
直塚:自分で書いたものが、クソつまんなかったら。
田所:そうそうそうそう。最後の最後に、それを「つまんね~」って言いながら、死ぬのヤダなって。
直塚:(笑)。たしかに。いろいろ怒りたくなりますよね。つまんなく書くなよとか、いろいろ怒りたくなりますね。確かに。
田所:そうそうそう。ちょっとなるよね
廣瀬:じゃあ、世に対するアンチテーゼでそんなに仕事ってつまんないものでもないでしょって感じがあるっておっしゃってましたけど、最後の最後に自分に対して、こんなこともあったけど仕事、まあ、いいもんだったじゃん?って言うために書いてたみたいな。
田所:そう、そうだね。そうであってほしいという。願いもありますが。

直塚:だって、セサーとか僕キレてますもんね絶対これ(※セサー:『スローシャッター』収録の「最小の国から来た男」登場)。思いましたもん。お前クリスチャンやろって、全然、神に背くようなことばっかりと思って。
田所:あいつね~、めちゃくちゃいいやつなんですよでも。あの。
直塚:そうなんだ(笑)。
田所:いいやつっていうかね~、絶対セサーをね、
直塚:憎めない。
田所:はげちゃびんなんですけど、めっちゃかわいいんすよ。
直塚:いや~、フリが。敬虔なクリスチャンでありって思ってたら。
田所:そうですよ。だってこう、運転してたって教会通るたびに、こうやって(アーメン)ちゃんと、いやーこいつすげえなあっておもってたんですけど、あの……夜になるとあの、バチカン市国から出ちゃうんでしょうね、気持ちが。
廣瀬:魂が。
田所:おまえ、あんな凄いとこで働いてたくせに、反動でおかしくなっちゃったんだろうなって思ってますね。
直塚:みんな、でも、そういう人の、面白い話を見るのも良いですよね
田所:オハヨウゴザイマスしか言えないですからね。
直塚:そうなん(笑)。あれしかいえないんですか?
田所:朝、自己紹介で言うんですよ、あれだけ。
直塚:(笑)。そうだよな。これは、やられた瞬間から、あの野郎って、あの、ポジティブな意味であの野郎って思ってたんですか、それとも、書く時に。
田所:いや、やられた瞬間はホント殴ろうかと思いましたよ。ちょっと待ってよって、なんで俺がこんな、8万5000円とか言われてんだけど、酒も飲んでないのに、どういうこと、と思いながら。
直塚:(笑)。しかも、店のネーちゃんたちもめっちゃ飲んでますしね、何食わぬ顔で。
田所:とんでもなくあつかましいですよ。せっかく免税で買った煙草がそこで全部無くなりましたもん。まだ、あと、何日も残ってたのに。
直塚:瞬間火力は、ブチギレたんですね。あの瞬間は。
田所:きれました。
直塚:(笑)

廣瀬:ちょっと~。
直塚:あの、時間、大丈夫なんですか。
廣瀬:時間、あ、田所さん時間大丈夫ですか?
田所:はい、いつでも。大丈夫ですよ。

廣瀬:ちょっとだけ私も、あのお悩み相談みたいな感じで聞きたいことがあるんですけど。
田所:おっ、お悩み相談。
廣瀬:エヘヘ。あの、まずお話聞いてた中で、最初は機械屋に就職されてたっていう話あるじゃないですか。それって、メーカー?
田所:はい。メーカーです。
廣瀬:メーカー、なるほど。じゃあそのときは、商社とかではなかったんですね。
田所:うん。シンプルに、もうがっつり機械屋さんのメーカーで、割と日本でしか技術を持ってないような機械もあったので、ドイツとか、ドイツとデンマークか。そこの2カ所にやたら機械を送ってましたね。モノを細かくするとか、分散するっていうメーカーで。ものをこまかくするのって業種問わないんですよね。あの化粧品だったら、たとえば、つーちゃん(廣瀬のこと)がつけてるファンデーションのパウダーがどこまで細かくなるかっていう実験もしてるし、きめこまやかなものができればできるほど性能が上がるらしいので。で、製薬も同じですよね。同じような液体が乳化したり分散したり、てっていう研究をしょっちゅうやってるとこがあったり。あと、自動車メーカーだったらカーボン。当時ハイブリッド車の素になってたんだろうなと思うんだけど、燃料電池、カーボンのナノテクノロジーみたいなのをやりたいっていうんで。カーボンのすごく粒子が硬いので。超硬の金属を使ってもダメになっちゃうぐらい硬いので、じゃあセラミックを使ってやろうか、とか、いろんな実験みたいなのをやったりしてました。あと、モノが細かくなるっていうのは、実は、牛乳から始まってることって多くて。
廣瀬:え?
田所:牛乳って、生乳って、そのまま牛乳パックに入れると分離しちゃうんですよね。ホントは。
廣瀬:あ、そうなんだ!
田所:何にもしないでやると、生乳っていうのは必ず分離するので、あのね、分離するとね、とてもじゃないけど不味くて飲めないんですけど。たぶん泰延さんよりもっと上の世代だよね……70歳とか80歳ぐらいの人だと、昔、牛乳ってあのホモ牛乳ってよく名前がついていて、ホモジナイズする、ホモジナイザーっていうのは、もともとその分散とか乳化の大元になっていて、乳製品からその技術が発達していったって言われてるくらいなので。デンマークとかドイツは乳製品で言うと、その大国なので、デンマークからも優秀な機械が入ってきてましたし、逆に日本の技術が優れてるのもあったので、デンマークが日本の機械使ってるっていうメーカーもあったんで、結構、お互いが、そういう意味では仲のいい国なんですけど。それを対象にしてたんで、やたらドイツとか、そのデンマークよの乳製品とかのメーカーに(音飛び)、そういうメーカーでした、だいぶ変わってましたね。
廣瀬:だいぶ変わってて、めっちゃ面白いと思いつつ、就活でそれを見つけるっていうのも珍しいなあって。
田所:そうですよね。ただ、就活の時に出てたのは、基本的に外で貿易する人を求む、ってなってたんで、僕はどっちかというと機械のメーカーだから入ったってよりは、貿易やりたくて入ったていうだけなんで。
廣瀬:あーそうなんだ、もともと貿易に関心があったんですね。
田所:はい。そしたら、あの、機械のことも学ばなきゃダメだみたいなメーカーさんだったんで、あの国内の営業も一応やってましたし、毎日海外の仕事があったわけじゃないんで、うん、暇があれば国内行ったりとかもしてたし。まあ、それがあの、製造工場と、本社の事務所は別だったので、あの工場の方は、「無敵の用務員」でnoteで出てくるあのおじさんがいるとこが、まさにあの工場だったんで。
廣瀬:あのおじさんね!

廣瀬:なんか、その仕事も楽しかったからこう、今の仕事の話を貰ってからも1年半くらいちょっと保留してたっておっしゃってたじゃない。どこかそれはその「楽しいなー!」って思ってたんですか?
田所:そこもやっぱり、自由度が高かったのかもしれないですよね、その、業種を選ばないというか。で毎日わけのわかんないメーカーさんから問い合わせが来るんですよね、まあ、いろんな研究所。会社自体は知ってる研究所とかですけど、みんな聞いたことがあるんですけど「え、あんな大手?」とかってあるんですけど。なにをやるんですかっていうと、その、これとこれ、Aという液体とBという液体を混ぜたいんですけど、混ざんないですよ~って言う相談で来るんですよ。ほんとそのくらいの漠然とした相談で来るんで、じゃ、このAという液体とBという液体は、言える範囲でいいんでどんな成分なんですかって言うと、「ああ、油と水ですか~そりゃ混ざんないですよね」。まあ、これはたとえで言ったんですけど。だったらこういう機械の方のがいいんじゃないですか~って、なんかね、アドバイスしている自分がね、ちょっと気持ちよくなるんですよ。大学の、東工大の教授とかが、真剣に僕のアドバイスとか聞くんで。ちょっと、ちょっと快感なんですよね。
廣瀬:はい、ああ、そんな大御所が。
田所:これとこれってどうやって混ぜるの田所さんって言われると「いや、いまのそんな機械じゃ混じんないですよ」とか言いながらこっちだしたらどうでした「ああ、ほんとだ!できた!」とか言って、ちょっと快感だったりするんすよ。こっちはただ機械の特性しか知らないから、その研究の主旨がなにかなんて、当然わからないんですけど、その分野だけではちょっとイキれるってのがあって。
廣瀬:ああ~、なんかその分野だけはイキれるって言葉が、それこそ、古賀さんがいま対談してる「勇気の授業」に出てきた、「貢献感」みたいな。
田所:はいはい、貢献感。まさに、あの、ほんとに役に立ってるかどうかっていうよりは、ありがとうって言われる仕事が出来ればいいよねっていう。

廣瀬:それで、楽しかったのに、でもまあ、魚、水産に行くかってなったのはなんでですか?
田所:それは、今の上司が、結構、決め手みたいなことを言われたのが、「僕みたいなのが急に行ったって、専門的なことはわからないし、やってきたこともバラバラだし、大丈夫なんですか」みたいな話は当然したんですけど、「ウチの会社っていうのは、その、色んな血を混ぜろっていうDNAが会社の中には備わっている」みたいなことを言ってて、本当にね、あの色んな分野の人たちが中途で入ってくる人がたくさんいて、うちプロパーの人って全体で見たら3割くらいしかいないんじゃないかな、あとは全部中途で入ってるんですけど。全然別業種から入ってきて、今の水産業やってる人って結構おおいので、とにかく」いろんな血を混ぜろ」っていうその創業者の言葉が、僕の中で刺さって、「ああ、そういう会社なんだ」って思った時に、ちょっと面白そうだなってと思っちゃって。
廣瀬:なんか、会社の中で小さなアメリカみたいな感じになってそうな表現ですね。
田所:ほんとに個人商店みたいな感じだから、(一つの製品について買い付けから営業まで)ほとんどひとりでやらないといけないので、扱うアイテムは限られるんですよね。
廣瀬:田所さんに、前こう、お仕事の話聞いたときも、アイテムは限られるって、全部上流から、なんか最後まで自分で見るからアイテムは限られるって言ってましたけど、それって田所さんにとって本当はもっといろんなアイテムを扱ってみたいのか、それとも最初から最後まで見れる方が俺は良い、みたいな感じなんですか。
田所:えっと、最初から最後までもともとやらざるを得ないっていう環境の方が多いのかもしれない。あの、取捨選択がそこに無いというか、もう、廣瀬さんも同じように入ったら、「廣瀬さん、おさかな、売れると思うおさかなやってごらん」って言われたら、通してやるしかないんで。ただもちろん、そのホントの一人で、判断はするんですけど、その場所場所でもちろんプロはいるので。加工のプロに相談したりとか、そういう工場に頼ったりとか。全部が全部、僕一人で出来てるなんて到底思わないですけど。まあロアンみたいな、そういう工場の経験値のある人に相談するっていうのもしょっちゅうあるし、「これどうする」って言ったら、じゃあこれ、前にこんなことやった経験があるんでこういうのでやってみましょうかって言ったらうまくいったとか、っていうのは、もちろんたくさんあるので。
廣瀬:なんか、ちょっと、そこが、今の私の悩みみたいなところなんですけど、じゃあ「売る方の魚を自分で見つけてやってごらん」とか自分で選択っていうところ、言われたところで、こう、出てこないんですよね。
田所:出ないよね、普通は。
廣瀬:今、私もクライアントワークで、でも自分では仕事取って来ないんですよ。常に会社がとってきたものにアサインされて、そのなかで、それなりに、自分がこれなら楽しめるんじゃないか。これだったら、まあ、恥じずに出せるんじゃないかって形で仕事したりしてるんですけど、じゃあ自由に営業して自分が好きな案件取ってきていいよってなったとしたら、なにやりたいんだろうってなるんですよね。
田所:広すぎちゃうよね。なんかね「え、そんな、そんなこと言われても」って。もうちょっと専門的に何かって言ってくれたほうがいいよっていうのは、確かにあるんで、食品なんかも同じじゃないですか。膨大にあるんで。
廣瀬:だって魚って言ってるけど、ナタデココもやってるでしょ田所さん。
田所:やってるやってる。でね、あのね、思いつくことってみんなやってんですよ既に。こないだ流石にあったかい寿司はねえだろって思って、温寿司って感じで調べたらやってるひといるんですよ。
直塚:いるんですね、オンズシ。
田所:オンズシ。あの、ぬくずしとかいう、なんかね、ちょっと蒸したような寿司だったりとかして、あれ、これおいしそうじゃんとか思って、色んなこと検索するんだけど、大体ヒットします。ただ、それでも、こう、小さい会社がやってるだけで、大手が手を出してないなっていうのは、これは当然あるので、廣瀬さんもそういう視点で見て、ちょっとこれは変わってるけどメジャー誌では取り上げたことないよな、とか、拾わないだろうなってとこで、面白かったらちょっとやってみるとか。なんか、なんか、どうだろうな。パイがおっきいところって、なかなか、食っても難しいし、ただ、パイがおっきいからその潮流に乗るってのは簡単だし、どっちの側面もあると思うんだけど、ニッチなやつばっかり行けばいいってものでもなくて。ちょっとその辺で、これ聞いたことないよねとか、それが、既に誰かが同じようなことをやってても、私の視点で書いたら、だいぶ違うものになるんじゃないみたいなのがあったら、ちょっと面白いのかなって思います。だから、もうね、だいたい思いつくことって、みんな世の中、世界中でやってるんで、ほんとにもう、オリジナリティなんてないんですよ、正直。
廣瀬:ほんとに記事の企画立てても、なんか似たようなの大体出てるし。
田所:もう、音楽とかもこないだジョージ(旅するピアニスト・永田ジョージさん)と話したときに、ああいう世の中のフレーズとかリズムってのは、どうなんですか、それでもまだイノベーションがおきて、誰も聞いたことのないような歌って作れるんですかって言ったら「まあ、すごく難しいよね。なんかしらの曲に似てる」っていうのはもうなっちゃうんで。それはね、すごい大変だよって言う話は。だから、ねえ、泰延さんも一時、すごい、YOASOBIがバカみたいに売れてた時も、売れる一定のリズムってもうあるよねって話になって。それはまんべんなく彼・彼女はやっているので、誰もが、日本人がウケるあの、コードってあるんですよね、やっぱり。で忘れたことにやるとまたバカ売れして、また忘れられたころに違うパターンのやつが出てきて、ながく生きてれば生きてるほどあの曲ってこれに似てね?とか20年前のあの歌に似てるなってなってきちゃうんで。ただそれが、直塚君とかもっと若い人だとそれは当然聞いたことないから、もう当然斬新だし、ワオ!ってなって売れるんですけど。ま、その繰り返しなんだろうなって思うと、人って、いい面があるとすると、忘れるんですよね。いろんなことを。20年前こんなこと流行ったよねとか思ってても20年経つと忘れてて。ナタデココなんか、いやタピオカか、タピオカなんか一番いい例だと思うんですけど、僕らが10代くらいの時にすごいはやって、みんなタピオカタピオカってやってたブームがあったのを、食品業界はもうあれはリバイバルしないと思ってたんですよ。もう昔やったしなと思ってて、もうマンネリしちゃってるしなと思ってるんですよね。けど時代は20年も経ったらリセットされてるってことに気づいて、当然知らない世代の方が増えてくればまた流行るんで。だからファッションも、全部一緒じゃないですか。
廣瀬:昭和リバイバルとかね。
田所:そうそう、今なんかほんとに昔着てた服、みんな着てんな~みたいな、それ絶対20年後見たら恥ずかしくなるぞって服着てる人いっぱいいますけど。
廣瀬:めっちゃキティちゃんとかですよね。
田所:そうそう。でもそれも同じことで。人って忘れるので、必ず直塚君が当時、今着てた服が、10年後とか15年後見ると恥ずかしかったりするわけですよね。「俺何着てんだろう」って、髪型一つにせよ「俺なんちゅう髪型してんだ」とかってなるってぐらいファッションって変わっていってしまうので、けど、また20年さらに経つと、あの、あのときはやってたものがまた復活するし、かっこよく見えるんですよね。あんなに恥ずかしかったのに。
直塚:その、繰り返しを覚えとくのも才能ですね。なんか、20年前あれがあたったから、今行けるんじゃねとか。
田所:はい。僕、商売最近それ、よく思いついてて、もう直塚君世代じゃ誰も知らんだろうって当時はやってたものを探して、引っ張り出してみると、また、あの、斬新な気持ちで受けてくれるって商品っていっぱいあるので。
直塚:うんうんうん。

廣瀬:なんか、好きなことやっていいよって言われて、「ん、なんだろう」って言う時期も、田所さんにはあったんですか?
田所:ありますあります。今、今でも毎日ありますよ。最近だと、お寿司を海外で1から作ろうと思ったんですが、炊飯器選びからやってたら一生終わんねーぞみたいな話とか(笑)。
廣瀬:(笑)
田所:ちょっとベチャるなとかやってたらそのまま定年を迎えるだろって話になって。それで、これはもうプロはプロに任せようっていうときは多々あります。
廣瀬:へー。
田所:ほとんど全自動なんですよね。日本の米飯工場って。だから下手に海外でやるよりは、それは技術的に優れてるとこに任せて商売した方が早いじゃんて。
廣瀬:なるほどなあ。なんかあれですね。田所さんは、何やったらいいんだろうってなっても、そこで止まるんじゃなくて、ちょっとでも思いつくものを調べて、調べて、出来る出来ない(をまずは調べる)。
田所:はい。そのアクション、腰の動きの軽さとか、すぐ現物にしてみるってのは、豪さんから言われて、ハッてなったんですよね。頭の中で考えてちゃダメだって、豪さんなんでもすぐ形にするでしょ。
廣瀬:うん。
田所:手作りでもいいから形にするじゃないですか。
廣瀬:うん。
田所:で、手に取ってみて、イメージにしてみて、あ、コレ違うなとか、やっぱりすぐ、モノって形にしてみないとわかんねえなって。すっごいあれはね、忘れてました。あれはね、しばらく。
廣瀬:あ~。
田所:だから、やっぱり、(新しいものの商品化の)制作過程では爆笑することもあるわけですよ。作ったんだけど全員爆笑するくらい不味かったとか。
廣瀬:(笑)
田所:なんだこれ(笑)っていう試作品が出来たりするんですけど、そういうのも、ゲラゲラやりながら。マジな商品が出来てくるって言うのは、楽しいと思う。
廣瀬:前、会社で試食会やったけど、試食するべきものじゃなくてソースが美味しかったんじゃないか話が。
田所:ありましたありました。散々みんながうまいうまい言ってたんだけど、あるときにこれ「蒲焼のたれがうまいんじゃね?」ってなって。
直塚:(笑)
廣瀬:(笑)
田所:蒲焼のたれがうまいだけだったっていう結論になった時、めちゃくちゃ悲しかったですよ。僕、原料の方に凄い力を入れてたんですけど「田所さん、これ何くっても美味いの、蒲焼のタレじゃね?」「蒲焼のタレはどこで作ったの」「近所のスーパーで買いました」って。何の技術もなかったっていう(笑)。
廣瀬:(笑)
田所:ただ単に調味料メーカーさんがすごかったっていう話なんですけど。
直塚:そのエピソードウケるなあ。
田所:笑いますよね。そういう、なんか、あるときに気づいてくれる、いろんな意見があって。

廣瀬:うーん。田所さんの仕事の話を聞いてると、すごく、人と話すのが自然なんだけど、「無敵の用務員」の時も、周りの人はそうじゃなかったりするじゃないですか。
田所:はいはい。
廣瀬:なんだろう。フラットで、なんとなく普通に挨拶して、普通に会話してって言うのは、昔からですか?
田所:そうですね。昔から、昔からですね。
廣瀬:そうなんだ。
田所:最初から、この人が凄いなんて誰もわからないけど、なんとなくやっぱり、同じように生活してたら、「この人タダものじゃないな」ってオーラが出てる人って、なんとなくいません?
廣瀬:なんか気になるんですね、田所さんは。で、気になりだしたらほっとけないですね。
田所:そうですね。なんなんすかね……。
廣瀬:いや、きっとたぶん、ボケーっとしながらも色々目に入って……。書店に営業に行った時もフラフラ~っとどっかに行っちゃうじゃないですか。
田所:(笑)。書店の方と泰延さんや加納さんが話し中でもすぐどっか行っちゃってたよね。
廣瀬:行ってた行ってた。
田所:廣瀬さんに怒られました。田所さんどこ行ってんすかって。
廣瀬:(笑)。あの、書店営業の時だけは、加納さんに引っ付いといてください。
田所:って言ってんのに、札幌でも。あの、広大な書店で俺が適当に歩いたせいで、はぐれちゃって。
廣瀬:加納さんにめっちゃおっきい声で呼ばれるっていう。
田所:呼ばれた。「田所さーん!」って。
廣瀬:そうそう。書店営業の時はね、たまったま話しの流れでチャンスが生まれたり、書店員さんがせっかく著者さんいらっしゃってるなら話したいって時もあるから、加納さんに引っ付いててほしい~。
田所:って、書店に入る前に言ってんだよ。言ってんのに、俺だけ違うとこ行くからね。
廣瀬:それはもう、海外の文化が身に付きすぎてるんですかね。
田所:「廣瀬・加納」に小学生並みに扱われてますよね。「田所さん、動かないでくださいよ!」って。

直塚:いやでもびっくりしましたよ、忘年会行った時、このぐらいパワフルじゃないとこの会社まとめられねえんだなって、加納さん見て。なんか、こんなズバズバいうんだって。「はい。わかりました。はい」っていう、こんな、そういうタイプなんだこの人って。
田所:そうだよね。あと直塚くんが忘年会であった人だと、稲田さんなんかも、あいつのいいところってのは自分がものすごく失敗したことを、人に教えたいって言う優しさがあるんですよ彼女。直塚君に、書くからにおいては、こういう段取りでこういうことやってって、すごいしゃべったと思ったらしいんだよね。
直塚:あ、稲田さん。
田所:そうそうそう。たださ、あいつ帰り間際に我に返ったのか知らないけどさ。今日言われたこと全部忘れてくださいって。
廣瀬:(笑)
直塚:言ってましたね。
田所:俺、それきいてコーラ吹いくくらい笑ったんですけど。ああいうとこが、彼女のいいとこで。やっぱり、彼女も彼女で、すごく、人のこと好きなんですよね。
直塚:言うだけ言って忘れて、って言いますもんね。Twitterスペースでも言われました。アドバイスされて、またいらんこと言ってみたいな。
田所:最後、10秒でリセットボタン押すもんね。今言ったことは忘れてくださいって。
廣瀬:あの、泰延さんの「知らんけど」に近いですよね。「忘れて」って。
田所:そうそう。我に返ったんでしょうね。私、自分がめんどくさいっていって、めんどくさいって言ってた人そのものになってる。
直塚:(笑)

廣瀬:ちなみに田所さんは、今の会社入っていきなり、ミーティング2時間でアラスカに飛ばされるみたいな。
田所:うん。
廣瀬:びっくりしませんでした。
田所:びっくりしました。
廣瀬:びっくりしますよね。
田所:みんな、何を持ってったりするんですかって言う質問すら、まともにしてなかった。
直塚:そのレベル(笑)。
廣瀬:行ったこともない国に(笑)。
田所:そうそう、行けば分かるって。お前、アントニオ猪木じゃないんだぞって。
直塚:行けば分かるっていうのは、そうなんですけどね(笑)。
田所:まあ、行けば分かるんですけど。道一本しかないから大丈夫だよって言われて。
廣瀬:フフフ、ホントに一本しかない。
田所:ちょっと待ってよみたいな。(笑)
廣瀬:そっか。でもなんか、前も思ったんですけど、機械のお仕事されてるときも、今のお仕事されてる時も、なんかこう、仕事の好きなところとか楽しいところとか、田所さんの中で共通してるのかなっていう気がして。

(——ここから、正確ではないけどなんとなく——)

田所:へー。でも、あれですよ、今回『スローシャッター』を作ってる間の話でも、三日三晩語れるほど面白いもんね。
廣瀬:モノ作りは楽しいですわね。
田所:やっていて、終わることになるとなんか、最初は「こんなの毎日続くんか!」って毎日ビビってたのが、いざ終わってみると、ちょっと終わらないでくれって思うくらい。なんか、ちょっと切なくなったりもするし。思い返して、イベントなんかで掘り起こすもんだから、3人で、出来るまでイベントをやるのはいいんだけど、これ絶対泣くヤツやんって思って。
廣瀬:泰延さんが泣いてくれるから。
田所:そのね、途中で俺が、ちょっとね、俺がやばくなるのを泰延さん気づいてるんだよね。やばい、俺これ以上言うとちょっと色々感情が高まってくるわっていう感情を泰延さんが全部拾うから、パってみると、気づいたら泰延さんが全部泣いてるんだよ。
廣瀬:あの、こないだの(三省堂書店 札幌店での)イベントは、参加者から質問があった時に、普通質問があったら全部泰延さんがマイク先にとって、ちょっと話してからマイク回すんですけど、あのときは田所さんがきょろきょろして話し出して。
田所:あの時は豪さんと目が合って、そしたら豪さんが「敦嗣、しゃべれ」みたいになったので。
廣瀬:ああ、豪さんの采配みたいなものだったんですね。
田所:豪さんと僕が先に気づいて、「あ、泰延さんはこれは会話が出来なくなってる」って。
廣瀬:うん。

(▼その時のイベントの様子)

廣瀬:田所さんはやっぱ、(いつも接していても思うし、)仕事でも、人が好きなんですね。

田所:iasrgjiapthiiaegazgkfghuajheu(ガビ声開始

〜ここでマイクの調子が悪くなり、会話強制終了〜


いいなと思ったら応援しよう!