中世編020-3:帝都防衛隊(03)
非常にグロい殺害シーンや屍姦などがあるため、
一般の趣味のお方にはお勧めできません。
※※※ 性犯罪とその残虐描写がありますが ※※※
※※※ 犯罪助長をするものではありません ※※※
中世編の外伝的な位置づけになるサイドストーリーの第3話で、noteメンバーシップのマガジン用記事です。Jらを派遣した大陸大帝国の顛末記になります。
色々と長い話がありますが、リョナグロロリ殺害系は今回もありません。
ちょっとエッチなシーンがある程度です。
なお、本編にもエ"ロリ"ョナ/グ"ロリ"ョナはありません。
※犯罪を描写している作品ですが、犯罪助長・幇助をするものではありません。
【不穏な夜】
アラクゴとアグリスは指揮下の各大隊に帝都城壁内外の配置の調整を指示し、城下の街にある兵員用食堂で遅い夕食を摂る。食事中にも連絡係や部下が報告や指示要請にやってくる。大概は大隊の隊長が決済した報告や提示状況連絡だが、依頼も稀に入ってくる。
「ミリアム大隊から城壁外の偵察増強の奏上がありました」副官のサミアがアラクゴの横に立ち、判断を仰ぐ。
「ミリアムが?サーニャ大隊と合わせて1200名にて城壁外を見回っている筈だが…」
「それを2000に増やしたいということです。サーニャ大隊の残りも城壁外配備との依頼がありました」
「それは却下しないとだめだ。今回の主戦場は城壁内を前提にしている」
「はい、それは周知してはいるのですが… 城壁外戦力不足とのこと…」
「本格的な侵攻時には交戦を回避して速やかに城壁内に戻る手筈だ。城壁外を多くしても得ることはない」
「ミリアム中佐は城壁外で交戦するつもりなのかも知れませんわ」ミリアムはナーキン産まれだが、城壁外の交易市場の交易隊護衛私兵隊で育っている。城壁外の街並を守ろうと考えているのだろうが、それだとすると、ちょっとした不協和音だ。
「侵攻時の相手の兵は3万以上の規模だ、しかも、ソヴィーの重装騎馬兵が主体となるだろう」
「そうですわね。軽装歩兵1200人が2000人になっても蹴散らされますわね」サミアの表情が曇る。
「城壁内に撤収する間に掃討される…… 」
「1200人なら急襲されても8割は撤収出来ますわね。でも、2000人となると…損失が増える」
「騎馬兵の侵略速度は軽装歩兵の撤収の速度の倍はあるからな」
「重装騎馬兵の数で対応を変える様に指示致します」
「200騎以上の重装騎馬なら即時撤収でよいな」軽装歩兵同志であれば複雑な城壁外の複雑な建造物という地の利があるが、重装騎兵に軽装歩兵が固めた小隊の軍は効果がない。
「そう伝えておきます」ソヴィーの重装騎兵は1騎につき3〜4名の支援歩兵が付く。つまり、1騎で4〜5人の小隊を編成し、200騎だと800〜1000の兵だ。さらに小弓兵が付いてくるので、1200の軽装兵や警備警邏隊では歯が立たない。
「ああ、伝えてくれ。今回は討って出る攻めの戦いはない、守城戦だ。普段やっていた捕物ではないからな」
「守城戦は兵法の授業で学びましたが、警邏の者にはつくづく、不向きな仕事ですわ」サミアが苦笑しながら食堂から出ていく。
守城戦専従の部隊があったら、仕事は殆どなく兵役を終えるか、あったとしてもその兵の人生で一回か二回だろう。守城戦がそんなにあったら国は保たないだろうな…… とアラクゴも苦笑する。色々な連絡や指示依頼をこなしたら、もう夜も遅い。アラクゴは市街の兵員配置の確認しつつ宮殿横の兵舎自室に戻り、いつもより遅い眠りに付く。
騒然とした環境であっても深い眠りを得ることはアラクゴにとっては苦もないことだった。迎撃戦の準備で兵や兵器の音や指示の声を子守唄に眠りについて3時間ほど、つまり深夜に鼓膜に違和感を感じて目を覚ます。修道院見習いの子が吹いていた笛の違和感だ。
蟲玉の効果で感覚も鋭敏になっているので聞こえる…耳に感じ取られる…様になっているのだろう。意味は読み取れないが盛んに吹かれている。敵兵の侵攻でもあったのであろうか?とアラクゴが窓から外を見るが、城壁内に動きはない。心配していた北大門は至って平静な様子だ。東西の門の周辺も通常通りだ。
暫く様子を伺っていても城壁内の街並に異常は見えない。兵舎を出て城下街中央に作られた司令所を訪れると、中でアラクゴ配下の大隊長のサーニャとミリアム、それにアグリス配下の軽装歩兵大隊長ミルズが他の連絡兵からの伝達を受けて議論している。
「何があったんだ?」アラクゴが司令所入り口で声を掛けると、皆が一斉に礼をする。
「礼はよい、状況を知らせてくれ」
「はい…東西の門を敵兵が取り囲み始めています」ミリアムが答える。
「東西?北大門ではないのか?」
「北大門前には敵兵は見当たらず、五千ずつの敵兵が東西の門から500m程に展開しております」ミリアムも不思議そうに答える。
「数は正しいのか?」
「夜目の効く兵が概数を報告しております。見落としがあっても、どちらの門も五千は越えないでしょう」ミリアムも本格侵攻するには少ない敵兵数に疑念を持っている様だ。
「で、どの国の兵か、判るか?」
「軍装からすると東門周辺はアーヌの毛皮装束、西門はダハンが主体と思われます」アラクゴの配下サーニャが戦況図を見ながら答える。
「ソヴィーやマンスー・スヌーンの兵ではないのか?」敵全軍の八割を占める主力軍が居ないのか?とアラクゴが確認する。
「はい、それらはまだ駐屯しており、ナーキン周囲には確認されていません」サーニャも敵軍の薄い配置を訝っている様だ。
「で、敵兵の動きは?」
「東西の門を取り囲む様に展開中と思われます」サーニャが続けて答える。
「城壁内の兵は討伐編成に配置しました」ミリアムは城壁外戦で敵を撃破できると見ている様だ。
「城壁外の兵は撤収させたか?」
「城外警戒の千二百兵は北門の外に集結させており、東西の門から兵を出せば挟み撃ちが出来ます」自信あり気にミリアムが答える。
「五千の敵に二千では撃破できまい」
「それでも敵に痛手を与えられます」ミリアムが食い下がる。
「お前は算数も出来ないのか?」アラクゴが語調を強める。
「二千の兵で挟撃すれば三千は軽く倒せます」
「二千の兵はナーキン一万兵の二割だ、十万の敵の五千は?」
「五分(ぶ)…です」
「二割を費やして五分を討ち取っても無意味だとは理解できぬか?」
「でも、それでは敵を討ち減らせません」
「此度(こたび)の戦いは持ち堪える戦いだ、敵を倒す戦いではない」
「持ち堪えるだけでは限度が…」
「限度?10日だ。10日でこちらの勝利だ」
「わかりました、城壁内に軍を下がらせます」ミリアムが部下に指示を出す。
「ああ、そうしてくれ。必要最低限の斥候員以外は下がらせろ」
「索敵斥候は東西の門は不要ですね、北大門に集中させます」
「下がらせた兵は城壁警護に当たらせてくれ」
「城壁警護?」ミリアムは不満そうだ。
「ああ、城壁上に投下物を載せる作業だ、マーガスの大隊が作業中だ」
「そんなに大量に載せるのですか?」
「城壁で最低3日耐える、そのためにはもっと必要なんだ」
「判りましたが、何を載せるのですか?」
「落とせるモノなら何でも、それで城壁を越えようとする敵を引き剥がす」
「東西の門については?放置していたら敵兵に突破されてしまいます」
「東西門の城壁上でサミアとサーニャの大隊が迎撃態勢を作っている」
「さらに、後ほど、ラハブ殿の弓兵が支援する、城壁への侵攻兵を削いでくれる」
「弓兵を城壁に並べるのですか?」
「いや、城壁越しに打たせる。五千の敵の内、三割は減るだろう」
「残った兵を城壁から剥ぎ取る…そう上手くいくかしら?」
「他に献策があるのかね?まずは東西の門、それくらいは判るだろ?」
「ああ、最低でも7日、10日保たせたら勝利だ」
「はい、任務にあたらせます」
「荷上げが終わったら北大門側の警護、東西門の後詰めもあるな。忙しくてすまん」
「忙しいのも10日ほどですよね」ミリアムが苦笑する。
東西の門周囲の敵兵の動きが、アラクゴが居る司令所に続々と集まってくる。まとめると、東西の敵軍はハシゴを多数並べて陣形を作っており、東西同時に侵攻を始める様だ。盾を構えた400兵の列が6つ、それに混じってハシゴの隊列が4列、さらに後ろに大弓兵の部隊が2列という陣列を形成している。東西に五千の兵、合わせて1万の軍勢だ。
「敵の弓兵、少なくありません?」副官のラミアが戦況図を怪訝そうに見ている。
「先鋒の盾兵が弓を抱えていそうだな」アラクゴとしては弓戦になることを危惧していた。
「とすると、小弓兵ですわね」大弓を携えていたら見張りが気付いている。
「こちらも弓兵は展開済です。城壁上で待機中です」サーニャが状況を報告する。
「城壁上通路帯の弓兵を濃密化しません?」ラミアの献策にアラクゴが少し考え込む。
「北大門近辺の弓兵を移動させましょうか?」アラクゴ配下最年長のマーガスも乗り気だ。
「東西門の城壁上は最適にしております」サーニャが反論する。
「人員配置はどうなっている?」アラクゴがサミアに問う。
「東西両門城壁にそれぞれ六百名を展開してます」
弓兵戦の場合、弓の補給と防御の盾の要員二名が弓兵一人に付く。六百名ということは、弓兵は二百名だ。補給要員と盾要員は白兵戦になれば剣とナイフでの戦闘要員も兼ねるが、手狭な城郭上での白兵戦では兵力になりにくい。
「補給要員にも弓を手配しておけ」
「補給が途絶えます」サーニャが珍しく反論する。
「既に弓兵一人に四百矢はあるだろ?」
「ハシゴが掛かったら隊列変更ですか?」サーニャも少し理解した。
「もっと厳密に…敵兵が城壁の高さの八割登った時に補給兵も弓で撃て」
「弱い小弓でも近い距離なら有効な打撃になりそうですね」
「小弓用の矢を二千本用意させますね」ラミアがアラクゴの発案に同意する。
「東西に四千本ずつ、配置してくれ…出来るか?」小弓戦は速射が重要な要素で、訓練されていれば五秒間隔で打てる。四千本の矢も二百名だと数分で消費されるが打撃力はある。
「え?合わせて八千本…… 残りが四万本を割りますが、準備出来ます」
「そうしてくれ…」守城戦は守る側からすると消耗戦になり、消耗にも気を回さないといけない。これまで首都警察、あるいは警備業務での小戦闘を主務として『消耗品は補充するもの』であり、消耗戦の経験がなかったアラクゴは【消耗を気にする戦い】の奇妙な違和感に苦笑する。
アラクゴと同じ位階のアグリス准将の帝都周辺警備部隊の弓兵も加わり、七人の大隊長が同じく七人の副官とともに状況確認と対応手配で動き回り連携をとっている。想定していた人数のほぼ倍の指揮官が指揮所に集まり、飽和状態になってくる。
【守城戦・東西門】
東西両門の先三百m程で敵軍の動きが止まったという報せが入り、指揮所に緊張が走る。城郭外にある民家・商家群の手前で敵軍が止まっている。避難命令で誰も居ない家屋群の前で火を焚いているとの報せが入る。
「城壁前の集落を焼き払うつもりなのでしょう」ラミアが首をかしげながら敵の目的を推察する。
「火を?夜襲の意味がなくなるのに…」サーニャも不思議がる。
「火の奥、10m先を狙う様に指示を出しておけ」アラクゴがアグリスの部下ヒルダに命じる。
「弓隊は既に展開しております」ヒルダはアラクゴの指示と同じ指示をしていたと、少し誇らしげだ。
「敵が火を放った瞬間に弓で討つ、それも伝わっている様だな」
「はい、もちろん」暗闇が明るくなると視力が劣化する…それを見越しての反撃で当然の指示だ。
弓兵実務の最高責任者らしくヒルダはアラクゴが思っていた以上に手練れだった。
「すまん、つまらない事を聞いてしてしまった」アラクゴが珍しく頭を下げる。
「いえいえ、弓はわたくしの専門、閣下と同じ方針で嬉しく思います」ヒルダが畏まる。
「閣下か…まだ慣れないな」攻略受けて上位佐官将官戦死のどさくさで最近将官任命されたアラクゴが苦笑する。
「失礼しました…どうお呼びすれば…」ヒルダが恐る恐る伺う。
「そのままで良い。この戦いが終わる迄には慣れないとな」
「敵が東西門外周家屋群外縁に火を放ちました」連絡兵が駆け込んで来る。
「弓兵は?」
「射撃を開始している模様です」修道女見習いが笛音を聞きながら続ける。
「外周家屋の先は城壁から距離がありますわ。当たる矢は見込めませんが、足止めとして…」敵を殲滅と云いたいヒルダだが、大仰なことは云えない、得られるであろう効果を示す。
「それで充分だ、間抜けな敵兵には当たるだろう…」アラクゴも足止めが目的と考えている。
東西門城壁外周への侵攻が始まって3時間ほどで外周民家群が燃やされ更地にされた。城壁から10mほどの所に盾兵に守られたハシゴ架設隊が城壁に取り付こうとしている。東西の門でほぼ同じタイミングだ。
東西の門を挟んで双方から激しい弓の打ち合いになっている。城壁上の高さから射掛けるチーナ側だが、相手の弓兵の数が5倍以上で苦戦を強いられている。負傷した弓兵を下がらせて交代要員が城壁を登ってというチーナ側の手順に比べ、敵軍は負傷・死亡兵を放置して増員するアーヌ・ダハンの戦術の差もあり、その差は開いていく。
「あと3時間ほどで西門の城壁の兵が崩れますね」サミアが少し悔しそうな声だ。
「城壁内からの中弓援護を増強しましたが劣勢は変わりません」ヒルダも少し焦り気味の調子だ。
「ああ、よく頑張っているな」戦況図を見ながらアラクゴが労う。
「申し訳有りません」サミアが頭を下げようとするのをアラクゴは押し止める。
「思っていたより善戦している。負傷兵の救護と治療を怠るな」
「え?押されていますが…」
「敵兵の数が多すぎるからな。だが敵兵の損失も大きいだろ?」
中隊単位でまとめられた損失と城壁からの戦果が続々とアラクゴらが居る司令部に届けられる。敵の方が大量の損失を出しているが、圧倒的な兵力差で押され気味な戦況が続く。東門もやや遅れて西門と同様の状況になってくる。
「西門の城壁へ敵のハシゴが掛かり外せません」戦況報告が駆け込んでくる。
「城壁上の弓兵の七割を下がらせ、剣兵を前に出しなさい」マーガスがアラクゴに聞こえる様に指令を出す。
「剣技部隊には背中に盾を背負わせて下さい」アグリス配下の弓兵長ヒルダが助言する。
「背中に?」マーガスが問い質す。
「はい、城壁内から向こう側を弓隊に打たせます」
「わかった。兵の安全を優先しておいてくれ」
「え?城壁を抜かれたら……」マーガスが不満そうだ。
「たぶん、あいつらの真の目的は東西の門ではない」
「北門の近辺に敵兵は展開しておりませんが…」
「やつらの戦いは、戦闘馬車が基本。戦闘馬車は兵の展開はほとんど必要ない」
「とはいっても、東西門だけでも苦戦しております」
「苦戦はしていない。敵兵の損失が膨大だ。そして残った敵は城壁上での白兵戦で止められる」
「では、城壁上の弓兵を城下に下がらせます」
「この布陣で問題はありますか?」ヒルダにアラクゴが確認する。
「問題ありません、前線に出ているアグリス閣下にもお伝えします」
西門上で隊列の組み換えが行われ、そのスキに乗じて敵兵がハシゴを駆け上ってくる。西門を挟んで十数本のハシゴが掛けられ、剣を振り回して登ってくる。その上から岩や松明を叩きつけて敵兵を押し返し、さらに城壁に残った弓兵が薙ぎ払うが敵兵の数人が城壁を乗り越えてくる。城壁内の弓兵百人ほどが斉射で矢を放ち城壁の向こう側に打ち込み、へばりつく敵兵を刮ぎ(こそぎ)落とす。
城壁上に登り着いた敵兵に剣兵が躍りかかる。双方の矢が飛び交う中での白兵戦、死傷者の数が膨れ上がってくる。
「負傷者は軽症であってもすぐに引きさがらせなさい」マーガスが部下に指示を飛ばす。
「西門城壁の弓隊は100名死亡、負傷者が150を越えました」伝令が駆け込んでくる。
「半分が?交代兵200を城壁に回せ、東門はどうだ?」小弓隊を展開しているサーニャが伝令に問う。
「東門は…… 先ほどの伝令では死亡が30、負傷が50と…」戦況集約担当官が答える。
「西門にも交代兵100を展開させよ、死亡者については放置、交代を急げ」サーニャの指示が飛ぶ。
「城壁の上が死体で埋まるのも困るだろ?」アラクゴが遠回しに指摘する。
「蟲玉の効能もあるだろ?」ビルギッタの言っていた【効能】をマーガスが指摘する。
「…… 放置は撤回、敵兵の上に遺体を落としなさい」サーニャが苦しげに指示を変える。
【守城戦・大弓隊】
城壁の上では防衛戦が続けられている。敵軍はハシゴの間隔を狭めて、複数の兵が左右に盾を掲げて駆け上ってくる。城壁上から矢を盾で掻い潜り敵兵が城壁に登ってくる。城壁上では西門で白兵戦が続く。東門でもハシゴを五本掛けられて苦戦を強いられる。
「押されていますね」西門からの報告をマーガスが伝えてくる。夜が白み始めて、朝日が辺りを照らし始める頃、チーナ側の劣勢が明確になってくる。だがアラクゴの表情に焦りの色はない。
「さて、ラハブ閣下にご登場願うとするか…」アラクゴが立ち上がろうとすると司令部に
ラハブの筆頭副官ミストラが入ってくる。
「ラハブ閣下の命により、支援いたします」ミストラが敬礼する。
「大弓で敵後方の支援部隊を叩いてくれ」
「はい、東西門に100人ずつ展開させております」
「弓は?」
「東西に2000本ずつ、合計4000を手配しております」
「かたじけない、取り掛かってくれ」
ラハブ配下の大弓隊が東西門の手前100mほどの地点に整列すると、隊長が城壁に登り敵状況を確認、手信号で右側上空を2回指し示す。展開していた弓兵が大弓を引き絞り矢を放つ。その矢は隊長が示した領域を通り、場外に飛んでいく。隊長が矢の着地点を確認し、敵目標とのずれをチェック。さらに右方向に一回、上方向に二回指差して矢の通過点を補正する。
隊長の指示した空間に向けて100人の大弓兵が構える。隊長が右手を上げ、振り下ろすと揃って矢が放たれる。100本の矢が城壁上空を通過し、敵軍の後方300m奥の資材馬車群に降り注ぎ、周囲の兵站要員ごと潰す。続いて2射目、3射目が敵後方の待機兵と補給部隊の群れに降り注がれる。
大弓の矢は中弓の矢の20倍ほどの重さがあり、鏃(やじり)も鋭利で重量がある。薄い木の盾程度は簡単に貫き、隠れている兵や馬を斃(たお)すことが出来る。城壁周囲での白兵戦では押され気味だが白兵消耗戦で拮抗を保っている。その拮抗を打ち破るために、消耗補給破壊を目的とする戦略だ。
ミストラの大弓隊により補給部隊が破壊され、補給経路と待機兵の群れに1分ごとに打撃が加わる。その状況で敵の消耗量が激しいハシゴ隊の厚さが奪われていく。大弓100本の10射目で優劣が入れ代わってくる。
「東西の門は抑えたな」戦況報告を聞きながらアラクゴがマーガスに確認する。
「……」大弓隊の戦果であり自分等の戦果ではない…マーガスが唇を噛む。
アラクゴの視線は戦況図の北門に注がれている。
──── つづく ──
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