見出し画像

さよならを好きになるために。

ついに、オーブントースターが回収されていく。
一人暮らしを始めたころに、よくある冷蔵庫となんとかとかんとかと、合わせて三点このお値段、ではなく。

それと別で、パンを焼いて食べるからと一点、それのみ求めた小さなトースター。
今はもうパンを食べなくなったので、冷えて久しくなったけれど。

思えば横浜に引っ越して、台所のコンセント位置の関係で一度きりしか使われなかったトースター。
それもつい最近、どうしても使いたくて使おうとして三年ぶりくらいに「ああ、そうだコンセントが、」と思い出された君。

君。
冷えて久しい、君。
ずいぶんと冷たい思いをさせてしまった。

今ここで、申し訳なさと多大なる感謝を。
エゴを最大限、言葉の上では美しくあるために。

玄関で、出し忘れのないように(横浜市はそれを粗大ゴミと呼ぶので収集に予約がいる)下駄箱の上でその日を待つ、君。
なだらかな角丸の本体を、来る日も来る日も室温と同じにしていた君。
キッチンタイマーの代わりであった、君。

ありがとう、その日の朝は目一杯この胸に抱きしめて、それからその場へ置いて去ろう。
出勤日なので、別れの時間は取れないけれども。長いことは。

せめてその日が、雨ではないよう。
冷たいその身をこれ以上冷やさぬように。

愛着の先にある別れを好きにはなれないけれども、せめて、言葉の上では美しく。

いただいたサポートは、まとまった金額になり次第、宗谷募金へ流し込みに行きます。ありがとうございます、推しが潤います。