【学科】日野市立中央図書館
前回からの続きです.
~↓↓↓1分で解説!YouTubeショート動画↓↓↓~
「日野市立中央図書館(鬼頭梓建築設計事務所,1973,東京都日野市)」は,我が国の図書館建築のあり方に建築イノベーション(新しい考え方や技術やシステムを取り入れることで,新たな建築的価値を生み出し,社会にインパクトのある革新や変革をもたらすこと)を起こした作品である.その理由を以下にストーリーで説明します.
日野市立中央図書館の前身は,1965年に設立され,1台のブックモビル(移動式の自動車図書館による移動図書館のサ-ビスから始まった(コチラ).その後,「図書館は建物ではなく,貸出サービスの全システム」という当時の館長の理念をもとに,住民への貸出サービスを主体とする現在の日本の図書館像のモデルとなった.
その地域における図書館としての存在価値は,住民一人あたりの貸出率にある.それがそのまま図書館利用率となり,その地域の図書文化の度合いを示すからだ.つまり,貸出率の低い図書館は,公共建築としての存在意義も低いことになる.
しかしながら,当時の図書館は館内での閲覧が中心で,貸出率が伸び悩んでいた.借りて帰らない住民が多いのだ.さらに,中・高校生や大学生が図書館の本を借りもせず,勉強スペースとして,閲覧机を占有するようになりだした.これでは,本を借りに来た利用者が,席を学生たちに占有されているため,ゆっくりと座って,本を選べない.当時の館長は,この状況を憂い,新築する際,成人用の閲覧机を1階の開架スペースからとっぱらい,中・高生を館内から追い出した.
これによって,住民が気軽に図書を借りに来て,借りたい本をゆっくり選べたり,一方,子どもには,絵本を読み聞かせできる図書館建築を実現させた.それによって,この図書館の貸出率も上がった.住民は,借りたい本を選ぶためにこの図書館を利用し,借りた後は,自宅でゆっくり読むという図書館文化がこの地域に根付いたのだ.
この理念は,我が国の図書館の理想的モデルとして全国的に普及していく.多くの図書館で,学習スペースとしてしか利用しない中・高生を追い出し,もしくは,別途,学習室を設ける等して,本の貸出サービス主体の現在の図書館建築モデルが形成されていった.
尚,この図書館の平面形状はL型で,その交点部分にメインアプローチをとり,大きいボリュームの方が成人(大人)用開架,もう,一方の小さいボリュームの方に児童用開架を設け,ゾーニングの方向性(下画像)をとっている.
成人用,児童用,いずれも間仕切りのないワンルーム型の開架スペースとなっており,貸出機能中心の構成となっている.2階にレファレンス スペース(児童開架スペースの上部/コチラ)や郷土資料スペースがあり,地下1階には移動図書館のためのブックモビル車庫と閉架書庫等がある.
(建築設計資料集成【教育・図書】P138平面図より)
2階には,管理ゾーンの他,レファレンス スペースを設け,そこには調べ物をしやすいように閲覧机が設置されている.
※レファレンス サービスとは,何らか調べたいことがあって来館された利用者に,必要な資料や文献を探すことをお手伝いする図書館サービスです.尚,「レファレンス カウンター(インフォメーション デスク)については,貸出・返却カウンターとは別に,開架書架群の近くに設けるのが望ましい.」という知識が平成24年の一級建築士「学科」本試験で問われています.
この図書館では,職員が利用者と本を結びつけるナビゲーターとなり,学生や地域の研究者の研究資料集めを支援したり,ビジネスパースンや技術者が仕事関係の調べ物ができるようにレファレンスブックや専門書をコンパクトにまとめた2階のレファレンス スペースに多く揃えている.それも,この図書館の貸出率や,住民利用率が高い理由となっている.
平成14年の一級建築士「学科」試験で問われた知識です.
【解答】○(正しい記述である)
令和2年の一級建築士「学科」試験で問われた知識です.
【解答】×(誤った記述である)
朝霞市立図書館本館(埼玉県,1987年,和(やまと)設計事務所)は,1980年代以降の図書館に見られる「より規模の大きな図書館,より多様で高度なサービス」という要望に応えるため,床面積と開架冊数の量的拡大,館内読書や調べものへの対応という質的変化,住民の交流拠点という機能が備えられている.1階平面図は,コチラ.
問題文は,「日野市立中央図書館」の特徴であるため誤り.
続く
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