Upstream BootCampのテーマ「Web3」。Web3とはなにかをまとめてみた。
はじめまして。Upstream BootCamp運営事務局の中村匡です。プロバスケットボールリーグであるB.LEAGUE、B1に所属する滋賀レイクスターズで経営企画を担当しています。
「Web3」とは何か、大枠を掴みにいこうというのが本記事の目的です。
Web3とはなにか?
「Aとは何か」という問いは非常に単純であるが、一方で、奥が深く難しい問いでもある。例えば子どもに「リンゴって何?」と聞かれると「木になる赤い果物」と多くの人は答えるが、「果物って何?」とか「どうやって実がなるの?」とか、問答が永遠に続いていきそうな気がする。だが、この問いの掘り下げを行っていくことで、子どもはどこかで「リンゴ」の全体像を掴んで、理解するのだと思う。
これと同じことを、「Web3」をテーマに行い、全体像を把握していくことが本レポートの役割である。
本題に戻り、「Web3とは何か?」という問いに対して、ざっくりと定義を行うと、以下の様になるようである。
①「インターネットの第3世代」。(「インダストリー4.0」=第四次産業革命という具合。)
②ブロックチェーン技術を活用することで、仮想通貨やNFTが利用するプラットフォームに組み込まれたインターネット。
● 定義1:「インターネットの第3世代」
まずは、「インターネットの第3世代」というところを紐解いていく。
第3世代があるなら、当然第1世代、第2世代がある。インターネットにおける第1世代、第2世代(=Web1.0、Web2.0)とはどのようなものであったのか?
【Web1.0】閲覧のみの静的ページ
役割:Read
時期:1990年代半ば~2000年代前半
インターネットの普及が進んだ1990年代のインターネット環境が、この「Web1.0」である。
この草創期のインターネットでは、ウェブ上のページはユーザー側では編集不可能であり、ユーザーは受動的に情報を収集することしかできなかった。
ページ作成者からユーザーに、一方向的に情報を発信し、あるいは情報を受信することがこの時代のインターネットの使われ方であったと言える。
【Web2.0】プラットフォーマーの出現。個人による「発信」が可能に。
役割:Read+Write
時期:2000年代前半~現在
「Web2.0」のステージでは、誰でも情報を編集し、発信することができるプラットフォームが出現した。代表的で、かつ私たちの生活に身近なものを挙げると、FacebookやTwitterなどの「SNS」であったり、更に遡ると「2ちゃんねる」のようなネット掲示板がそれにあたる。
この時代に、インターネットは「見るだけ」のものから「参加する」ものに姿を変えた。インターネットという存在が所謂「オタク」チックなものから、多くの人にとって身近な存在、必要不可欠な存在に変身したと言うことができる。
RPG的な表現をすると、「Web1.0」世界における我々勇者の能力は”Read”だけであったが、世界が「Web2.0」にバージョンアップしたことで、情報を発信する能力=”Write”が加わったという具合である。
では、更にバージョンアップした「Web3」ではどんな能力が追加されるのか?
一言で示すと、ユーザーは”Own”、つまり「所有する」ことができるようになる。
一体何を所有するのか?何かを所有したとして、何ができるようになるのか?という疑問が頭に浮かぶのだが、その前に『Web2.0の問題点』を考える必要がある。
「Web2.0」では、先述の通り、SNSや掲示板などのプラットフォームが出現したことで、私たちは自らの手で情報を発信できるようになった。
Facebookは友人だけでなく、ビジネス上の繋がりも生み出すネット上の名刺のような存在になっている。発信といえば、オリジナルの動画を投稿して世界中にコンテンツを発信するYouTuberの存在は説明不要であろう。
その他、Amazonを使ったことがない人は最早マイノリティ側になった。そもそもネットを使用するに欠かせないPCやスマートフォンのOSの殆どはMicrosoftやApple、あるいはGoogleが提供するものである。「Web2.0」の発展は、これらのプラットフォームを生んだ”Big Tech”、つまりGAFAMの存在があってこそのものであった。
これが、『Web2.0の問題点』である。
GAFAMらBig Techらが持つ巨大プラットフォームは便利である反面、現代のインターネット環境において著しく独占的な存在でもある。多くの人がこれらのプラットフォームを利用することで、その個人情報は巨大企業に集中した。これにより、全世界の人間の個人情報を特定企業が独占的に保有しているというプライバシー上の懸念や、セキュリティ面で大きなリスクが生じている。
この中央集権的なインターネット環境における諸問題を解決するため登場したのが、「Web3」である。
● 定義2:ブロックチェーン技術を活用することで、仮想通貨やNFTが利用するプラットフォームに組み込まれたインターネット。
上述のような、Web2.0時代における諸問題を解決する技術が、ブロックチェーンである。
ブロックチェーンは端的には「分散型台帳技術」と呼ばれるもので、特徴としては大きく3点である。
①改竄が困難
②システムダウンが起きない
③取引記録が消えない
仕組みなど、詳しい説明は割愛するが、肝心なことは「インターネット上の取引データが安全に、分散して記録される」ことである。
ブロックチェーンを用いたサービスでは、複数のユーザーで取引情報が共有される。データの改竄や不正アクセスなどが発生した場合、他ユーザーとの差異が発生するため、すぐに不正が検知される。
このブロックチェーンの特徴を活用することで、Web2.0の問題点である「特定企業による個人情報の独占」や、それに伴なう情報漏洩のリスクが解決されると考えられている。
「Web3」では、ユーザーは”Own”、つまり「所有する」ことができるようになると先述した。ブロックチェーン技術を用いることで、インターネットユーザーは中央集権的なプラットフォーマーから自らの個人情報を取り戻し、それを”Own”することができるようになるのである。
● 「Web3」の具体的なメリット
「Web3」はどういうものなのか、大まかな把握ができた。肝心の、「実際、何ができるようになるのか?」という点について整理したい。
① 個人情報や行動履歴のデータを自己管理できる
Web3の時代では個人情報などの様々なデータを、提供するのか否か、ユーザー自身で管理することができる。
最も身近な例としては、やけに自分の興味のありそうなものばかり表示される広告が挙げられる。
例えばGoogleは検索エンジンを無料で全世界に提供しているが、その対価に我々の検索履歴やWeb内の行動履歴を取得しており、これを用いて「この人に関連しそうな広告」を表示させている。
Web3においては、このような履歴などの情報を提供するか否か、自身で管理することができるので、広告を非表示とすることも可能となる。
② 特定サーバーに依存しない。
ブロックチェーンを活用していることで、特定のサーバーを経由せずにデータを管理することができる。また、指定のサーバーと直接データ通信を行うことが可能となるため、仲介サーバーも不要となる。つまり、ある企業と、その企業とネット上で取引を行おうとするユーザーは、仮想通貨や自身の個人情報を直接やりとりすることができるようになる。
③ セキュリティが向上する
ブロックチェーン技術が使用された分散型ネットワークにおいては、個人情報や取引情報は暗号化され、更にそれを複数ユーザーが共有することとなる。先述の通り、この根本的な仕組みにより、不正や改竄が許されない環境が構築されている。
また、特定の企業やサーバーに情報が集約されているWeb2.0の環境下では、その企業、サーバーがダウンしたり攻撃にあったりした場合、大量の情報が流出する懸念があったが、複数ユーザーによって情報が分散して保有されているWeb3の環境下では、そういったリスクは軽減されていると言える。
④ 国境の制限なくサービスを利用できる
現在インターネットは、日本であれば自由に使用することができるものの、中国を筆頭にネット上の検閲を行い、アクセスに制限を課している国家も存在している。
一方で、ブロックチェーンに加わることには、条件や権限などは与えられていない。検閲システムのような中央集権的なサーバーも存在していない。ユーザーは使用したいサービスに制限なく、ダイレクトにアクセスをすることができる。
● 既に導入されている「Web3」領域の技術
ここまで述べた通り、「Web3」を「Web3」たらしめる最大の要素がブロックチェーンである。このブロックチェーンを用いた「Web3」時代の新しいサービスはどういったものがあるのかを紹介する。
‣ NFT
今最も話題となっているブロックチェーンによるサービスが、NFT(Non Fungible Token)である。日本語に訳すと、「非代替性トークン」となる。
NFTとは、イラスト等のデータについて「このデータは替えの利かないものである」という唯一性が、ブロックチェーン技術によって担保されているものである。この唯一性が担保されていることにより、このデータは「所有者が明確」になり、「希少性」を持つこととなり、ユーザー間で売買が行われる。
現実世界のアート作品が売買されるのと同様に、インターネット内でデータが売買されるという理解が最もシンプルだと言える。
NFTの事例を挙げると、デジタルアート作品として”CryptoPunks”や”EtherRock”が有名な例である。また、ゲーム内で取得したアイテムやキャラクターがそのまま資産となる”NFTゲーム”も話題を集めている。2021年にはTwitter創業者のJack Dorsey氏による世界最初のツイートがNFT化され、オークションで約3億円で落札されたなんていう事例もある。
‣ メタバース
メタバースも最近頻繁に聞く”バズワード”の一つである。メタバースは、インターネット上に構築された仮想空間のことを言う。仮想空間に自身のアバターを作り、アバターによって仮想空間内で行動することができる。
わかりやすい身近な例を挙げれば、大ヒットゲームの「あつまれどうぶつの森」は動物のアバターを使ってゲーム内の世界で生活をする。人気アニメ「ソードアートオンライン」もメタバースの例である。
ブロックチェーンの関わり方としては、これもNFTが用いられる。メタバース内の土地や建物やアイテム、その他資産がNFT化されることで、メタバース内での商取引が可能となる。”Decentraland”というゲームがある。このゲームの世界には広大な土地が広がっており、土地を購入したり、賃貸で借りたりできる。無論その土地はNFT化されたものである。その土地を使ってアバターコスチュームの販売やNFTアートの販売などのサービスの提供も可能である。
‣ DeFi
DeFiは、「Decentralized Finance」の略称で、日本語にすると「分散型金融」となる。
これと対を成すのがCeFi=Centralized Finance、つまり「中央集権型金融」である。
このCeFiは、銀行や仮想通貨取引所のような中央管理者を介して通貨などの取引が行われるという仕組みで、要するに従来の金融サービスである。今私たちが誰かに送金しようとするなら、三菱UFJであったり滋賀銀行であったり、銀行を介して送金を行う。仮想通貨を買おうとするなら、CoinCheckなどの仮想通貨取引所を通して買うこととなる。いずれにせよ、仲介者を挟むことで振込手数料であったり仲介手数料が発生している。
DeFiでは、この中央管理者、仲介者が存在しない。関係者間で直接通貨等の取引、移動、運用が可能となる。それゆえ、仲介手数料も発生しないことになる。この取引はブロックチェーンによって記録され、承認されるものであるから、取引の安全性や信頼性がブロックチェーンによって担保されている。
このサービスが一般化した場合、中央管理者や仲介者の存在が不要となってくる。つまり、既存の様々なビジネスモデルが大きく変化、あるいは崩壊する可能性が生じるのである。
‣ Social Token
Social Tokenは、コミュニティ参加者に対する報酬をデジタル通貨で支払い、プロジェクトへの貢献を促す方法である。このコミュニティは「DAO(デジタル自律分散型組織)」と呼ばれ、共通の目的のために意欲のある人々が協力し、目標を達成するためのバーチャルなコミュニティである。
Social Tokenはスポーツにおける活用例が近年見られている。
2021年1月、Jリーグの湘南ベルマーレは、国内スポーツクラブで初となるクラブトークンを発行、この時のトークン販売で湘南は約500万円のファンディングを達成した。
クラブトークンは湘南への応援の証、しるしという位置付けで販売が行われた。トークン購入者はホームゲーム会場での体験特典やトークンホルダー限定のイベント参加など、トークン購入の対価として体験を享受することができる。このトークンは株や仮想通貨などと同様、需要によって価格が変動するものであり、金融資産としての性格も有している。
サッカーの他、Bリーグのクラブや野球の独立リーグ、地域クラブなどプロアマ問わず様々なスポーツクラブに波及しつつあるサービスである。
● 「Web3」のリスク、問題点
ここまで「Web3」時代の新しい技術、そのメリットを紹介してきた。
「Web2.0」における問題点を解決し、新たなサービスを生み出す可能性のあるブロックチェーン、「Web3」だが、一方でリスクや問題点も存在している。
‣ トラブルは自己責任
ここまで何度も”分散”というワードを使ってきたように、「Web3」最大の特徴はブロックチェーンを用いた分散型ネットワークであることである。つまり、中央管理者によるデータ流出のリスクが軽減される反面、自身の管理下においてデータ流出などのトラブルが発生した場合は、自身で対処する必要があるということである。
適切なデータの管理、トラブル時の対処方法などを一定把握していないと、「Web3」のサービスを使いこなすことは難しいと言える。
この点、中央集権化されている既存サービス「Web2.0」は、誰でも簡単に利用できるという最大の利点がある。ID、パスワードを忘れてもサービス提供者(中央管理者)に問い合わせれば再発行できるなど、個人における管理はさほどハードルの高いものではない。
‣ 普及に時間を要する
先進的な技術であり、技術的な面で発展途上であるということもあるが、現時点で「Web3」を普及させるに必要な法整備は進んでいない。
2022年5月には岸田総理が「Web3時代の到来は経済成長の実現に繋がる可能性がある」と発言しており、今後の環境整備に意欲を示しているものの、まだまだ具体的な話は出てきていないのが現実である。
※参考資料
・「Web3」とは何か?--漠然とした「次世代インターネット」の概念を読み解く
・Web3.0(Web3)とは?基礎知識や注目されている理由をわかりやすく解説
・Web3(Web3.0)とは 概要や注目を集める背景を5分でわかりやすく説明
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