『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』トークショー 小笠原瑛作さんと佐野伸寿監督が登壇
カザフスタン・日本合作映画『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』のトークイベントがアップリンク吉祥寺で行われた。
映画の主人公阿彦哲郎役の小笠原瑛作と佐野伸寿監督が登壇した。
冒頭、小笠原さんが阿彦さん役を演じることとなった経緯を語る。「今日来るはずだった清水聡(ボクシング・ロンドン五輪銅メダル)さん、彼が小笠原さんを紹介してくれました」と佐野監督が触れると、「合同練習会で清水さんと会って、『僕の先輩が映画に出てくれる人を探していて体を酷使できて減量ができる人なんだけど、小笠原くんどう?』って、それで佐野監督とはじめて新橋で会ったんです」と小笠原さんが当時を振り返る。
佐野監督は「小笠原くんはまず阿彦さんと背が同じ168センチ、あと格闘家だからすごくいい体をしている。阿彦さんは収容所を生き抜いた人だから体が強いんです。だから阿彦さん役は本当の意味のアスリートがいいと思っていました」と語り、ひどい暴力を振るわれるシーンで、通常の役者では単に痛がる演技をしてしまうが、小笠原さんは暴力に耐えながらも闘争心を目に宿していて、それは格闘家だからこそ出来る演技だったと振り返った。また阿彦さんの人柄に触れ「阿彦さんは立派な人、ぜったいに悪口を言わない。ただ自分が与えられたことをひたむきに一生懸命やっていく、そういう人柄を表現できるのは小笠原くんだって思った」と身体的のみならず内面についても小笠原さんと阿彦さんとの共通点があったことを語る。
しかし、小笠原さんもカザフスタンの撮影現場では苦労があったようだ。「僕は4年間大学で演技を勉強して、演じる、役作りというのをずっと勉強してきて。でも、今回の現場では「演じようとしないでくれ」と監督から言われて驚きました。ロシア語もわからないし、演技の確認もできないし、いつも自分がちゃんと演じられているのか不安がありました」と当時の葛藤を語る。それに対して佐野監督は、撮影中はあえて小笠原さんと現地の人たちとを別々にして過ごさせるようにしたことを明かした。「演じてほしくないと言ったのは、主役は台詞で説明してはいけないと考えているから。説明は周りの役がする。それよりも、小笠原さんには感情を表現してほしかった。実際に阿彦哲郎さん自身も、ロシア語も分からない中で、半信半疑で状況に対応しようとしていた。だから、現地スタッフと馴れて合ってしまわず距離を置くことで、リアルな阿彦さん像に近づけられたと思う」。
小笠原さんは阿彦さんと会ったときを振り返り、「僕、阿彦さんに本当に会えてよかったです。1回目の撮影のあとに阿彦さんの家に行かせてもらって時、『寒くないですか?』と日本語で僕に声をかけてくれたんです。すごくあたたかそうな方でした。体もしっかりされてました」と述べ、佐野監督は小笠原さんが演じている“足をひきづって歩く後ろ姿”が阿彦さんにそっくりだと娘のイリーナさんが言っていたことを明かす。そして、映画が公開されたことをきっかけに分断された家族が再びひとつになれたことを心から喜んだ。
最後に小笠原さんから「最初の撮影ではカザフスタンには20日間、コロナ禍を挟んで3年後に1ヶ月ないくらいの期間カザフでロケをして、日本人は佐野監督しかいなかったから、映画のことやいろいろお話しして、自分の人生には格闘技しかなかったから、人間として成長させてもらった撮影現場だったと思います」と感謝を述べた。
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