Masamune Variable Bodoni Medium
今回は暗号化フォントの触りみたいな話でいきたいのだけれど、相変わらず枕が長い。まぁお付き合いを……なかなか、予告した到達点にたどりつけない……。
さて、文字の端から突き出している細い棒や飾りのことをセリフといって、これがある書体をローマン、ないものをサンセリフと呼ぶ。そのローマン体の仲間も、ざっくりと、古い、新しい、その中間、その他に分類され、bodoniは新しい、というグループ、いわゆるモダンフェイスに分類される。
まぁ新しいといってもデザインされたのは18世紀で、日本じゃまだ頭に丁髷の時代。今回はそのbodoniをベースにセリフの厚さを弄ってみるVariable Bodoni。というのがそもそもの発端だったんだけど……まぁ結論からいうとご想像のとおりです。
まぁ、まずタイトルのように文字のサイズが変わると、セリフの幅も細くなる、まぁ、字が小さくなるんだから当然だよね。これを上の図のようにセリフの幅を変えずに文字サイズだけ変えるようにしたい(実装的には逆なんだけど…つまりセリフ幅が太くなったり細くなったりする)ということで、これをバリアブルフォントで実装しようとしたのだが……だけれども、またしても大失敗。
実際いろいろやってみるとセリフだけではなく腕の幅もいじらないと見栄えが悪い。具体的にはセリフの最大幅から逆算したほうがいいかな、ってぐらい。まぁ、そりゃそうだ……そのくらいならなんとかなりそうだ、さらに、細い線を単純に拡大するとサイズごとの書体の見た目が悪い。縮めた書体が同じ書体に見えなくなったりする。まあそれも、そのとおり。って泥縄式ってほんとダメ。実際単純な思いつきで始めてみたことなので、他にも次から次へと問題発生。またさらに技術上で幾つかダメなところがあって、でも途中までやっちゃったんでなんとか他の用途にでも再利用できないかなぁとして悪あがき。
時は天正十八年、豊臣関白秀吉の奥州仕置に不満をもった勢力が蜂起、大規模な一揆が勃発。世に言う葛西大崎一揆である。事態収拾を命じられたのは会津の蒲生左近衛少将氏郷と米沢の伊達左京大夫こと政宗。ところがこの政宗、このとき20代の弱冠者にも関わらず、実は裏で一揆を扇動するなどの陰謀を巡らせるほどの悪巧み。もう豊臣トランプ秀吉には腹黒い若造のロケットマンとしか思えないのだが、なかなか尻尾をださない。
一方左京大夫この機に乗じて秀吉の仕置によって召上となった、会津三郡を取り戻せんとす。
だが、しかし秘密は家臣の裏切りによりあっさり露見。一揆を扇動する政宗の花押が入った密書を土産に左近衛少将氏郷が陣に転がり込むのは、政宗の父輝宗が、悪辣な政宗の謀により殺害させられた折に殉死せし須田道空親重が子の須田伯耆。とまぁここは講談調に虚実混濁気味。
さて氏郷から報告を受けた関白は政宗をシンガポ……もとい京の都へ呼び出し問い詰める。陰謀が露見したのを察した政宗は白装束に金の十字架を担ぐというレッツパーリーなド派手コスプレ衣装で入京。「腹黒い暴れん坊の若僧も今度ばかりは腹をくくったか」とばかりに待ち構える左近衛少将氏郷、ところが、しおらしいどころか、この正宗。コスプレ衣装を着替えて関白の前にでてくれば、シラを切る、シラを切る。しびれを切らした左近衛少将、ならばと左京大夫に動かぬ証拠を突きつける。
ひとつは須田伯耆の持参せし一揆の扇動を図った証拠、もうひとつは政宗が過去に出した本物の書状。何度も煮え湯を飲まされてきた左近衛少将、今度は悪賢い左京大夫に言い逃れさせまいと用意周到「間違いなく二通の花押は全く同一。つまり一揆の扇動は事実、これがQEDだ!」どうだ、今回ばかりは逃れられまい。
ところが、左京大夫これを僞書なりと笑い、鶺鴒の花押の眼には必ず針で穴を開けているがこれには穴がないと釈明。大事な書類にはちょっとした工夫をおこなってます。特にこの鳥の横向きに見える風の花押などは云々と……たしかに正宗が本物と主張する書状にはセキレイを模したというその花押の瞳の部分にくっきり開いた穴。一方、一揆を扇動する証拠の品にはそれはない。いやいや、それはないって……その場に居合わせた関白、左近衛少将は沈黙。左京大夫も、なんかやばい汗がでたけど、なんとかなってね? ってことで沈黙。
関白「やはりシラを切り通すか小僧」
左近衛「え~なんで~、この後に及んで、何その言い訳? アリなの」
左京大夫「やっべ〜、早く戻って、口封じに関係者全員皆殺しだな」
それぞれの思惑をよそに拡大する一揆。葛西大崎一揆の件
さて、さて、いかなる次第に以下次号……って
また、前置きが長くなったが、この左京大夫正宗の言い逃れ、もとい教訓に範をとって作ったのがこのMasamune Variable Bodoniだ。
たとえば、SUNTORYなどのように自社の書類には自社で作った専用のフォントを使(ってるんだよね?)っているようなコーポレートアイデンティティ状態は、逆に契約などのセキュリティ面でも利用価値がある。
「脱税などとは、とんでもない。これこれ、この偽の書類に使われている書体はリョービのTBゴシックRであります、我が社では自社の書類には●ントリーゴシックを使用するように指導していますからこの書類は真っ赤な偽物…」ってコレ普通の人には区別つかないし、笑いどころがよくわからないな……それはともかく、こういった自社専用フォントも何かの機会に流失してしまうとその機能も失われてしまうのだが、このMasamune Variable Bodoniには鶺鴒並みの工夫がしてあるのだよ、まさに、Variable。いや鶺鴒ってなんだよ。目のほうだろう。
さて、問題です。
上の4つのiの違いを探しなさい。という問題なのだが、一見なにが違うんだかよくわからない。差なんかなさそうに見える、では次に以下のアウトラインの図を見てから
これを踏まえた上でもう一度上の図を見てみよう、あら不思議。今度はすぐに判ったのではないだろうか? このフォントの中を移動するゴミ、じゃなくてポイントがカギだ。
これを今回は2軸で作成するのだけれど、前回同様たいしたことはしていない。ただし、感のいい人はわかると思うけれど、2軸だと文字は4倍にしないといけない。まぁその辺も適当に。
見て判るとおり、Glyphsで作れるobjectの中でも、めちゃめちゃ小さい。
あと、パス方向は反対にしておこう。こうすることで白いところでは点に、文字の黒いところにはスポットが発生する。つまり。ヌキってやつだ。
小さすぎて、どこにおいたか判らなくならないように注意。とりあえずコレをコンポーネント化しておく。あとは最初の位置を決めたらひたすらコピペ。簡単。それから前回の要領でレイヤーを増やしたら、フォント全体のパラメータからAxesを2軸に(名前もなんでもいいんだけど今回はCoadで)、マスターのタブに移動するとプロポーションが2軸に変更されたのでココのパラメータも前回同様に変更。
で、こんな感じにプロポーションのところに2軸のコントロールができるので、あとは、それぞれのレイヤーの、小っちゃいコンポーネントの位置を動かしてそれに合った数字を突っ込んで置けばOK。
できあがり。超簡単。
プリントアウトや印刷では、ほぼほぼ誤差の範囲内でゴミみたいなもので、一見すると何の変わりも無いように見えるフォントにも、それぞれ1文字1文字にユニークな情報が持たせることができるのは、PDF文書のやりとりなどで、文書偽造防止に役にたつグッドアイデア。variablesizeをどんなにデタラメに変更しても文字の見かけは変わらないので、ここを乱数で1文字1文字変えたりとかできるとなおgood!。なんだったらここのパラメータだけを読むようにすれば何か秘密文書とか送れそうな勢い。
スパイ大作戦ごっこが出来そうだな、あ、なんか超簡単なプログラムでいけそう…になる……かも、と考えたのだが……いやいやちょっとまてよ、だが、しかし、
「WordもInDesignも
バリアブルフォントが使えないじゃん」
ということで結局のところ企画倒れなんだな、これも。
保留中……。