続々私刑執行人ツヨイちゃん #11 VS神様(後編)
天界に居た頃。
中身があるようで何にもない生命の動きが時々憎くて、でもそれを否定することも無く。天より更に上の世界がくすんで見えていた。
神様の下に私たち天使が居て、その下に人間が居て、神様は上も下も無いというけれど、そんなことは嘘っぱちだと思っていた。ひねくれている訳じゃない。事実なのだ。強きものが弱きものを淘汰。ポジティブに見れば捕食された後も血肉となって生きている。――そんなもんは詭弁だ。
分解されたらただの栄養でしかない。 そこに自我は無い。
そんな循環の続く世界のどこが希望なのか? 「世界を憂いたところで、我々より先に世界は広がっていたんです。生きるしかないのですよ、その法則に従って」「それを改めて作ってるんじゃ本末転倒なんだよッ!」「では答えを教えて下さい」
淡々と神様は私に容赦なく攻撃を仕掛けてくる。 磔。瓦礫。槍。弓。炎。氷塊。――昔気質なものばかりだ。 対して私は――ミサイル。爆弾。火炎放射器。人間がそれぞれの大義のために使ったもの。槍や弓の延長線上にあった、支配のための武器たち。
「神様なんかよりよっぽど賢いよ、人間は!」「愚かだと思わないのですか。沢山の命を奪って」「愚かであっても、世界は眩しく見えるかもしれないじゃない……!」「だから……分からない人だな」
神様はほとほと呆れかえっている。 私と対話することの不毛さに飽き飽きしてるのかもしれない。
「アンタはどうして私を見放さない? 捨てたら楽になれる」「それでは結局何も解決しないから……」「こんなに殺し合ったって、どうせお互い死ねないの分かってる。殺せないの分かってる」「答えは永遠に平行線ですね」
私たちは互いに傷つけあうことに酷く虚しさを覚えた。 記憶を失ってただの人間として生きている間の葛藤には、神に近しい記憶と能力を思い出した今でさえ答えが出ない。
果てしない。永遠。無限。
それを思い浮かべた時、蛇姿の白目さんが空から降って来た。私の体に巻き付き、陰部に噛みつく。痛さやいやらしさは無く、丁度それは電源コードを挿したくらいの調子だった。
「神様。私は一つ思いつきました」「その蛇とどうするつもり?」「私たちは次世代の神様にも、人間にもなれない。新しい世界の神を目指します」「新世界……」「新しい世界には何もないがある。そんな場所に私たちだけが存在すれば、それはまた新しい自由の始まりとも言える気がするんです」「貴方は倒錯しているかもしれませんが、心根はきっと優しい――いや、淀みないのかもしれませんね」「褒めているのか分かりませんよ、それ」
神様はこれまでとは打って変わって穏やかな表情を見せた。 私はどうしてか、長い間解けなかった誤解が解けたかのように感じた。
「ありがとうございました、今まで見守ってくださり。……私はかつて天界を混乱させてしまい、天使から悪魔と呼ばれるようになってしまいました。にもかかわらず下界に落とすだけで命を奪わなかったこと、感謝いたします」「礼には及びませんよ。不思議な気持ちです」
白目さんは私と同化してからはまったく話さなくなってしまった。 空を包むベルゼブブの闇に声を掛ける。――すると、その闇は大きな橋を空中に作り、天まで続いていった。
私はそれにゆっくりと踏み出し、新世界を目指した。
後ろにはきっと神様が居て、眺めているのだろうか?
随分遠くまで来たところで、もう干渉しようのない地球に振りかえった。 うんざりするほど綺麗な青色。 どうせ神様は防いでしまうかもしれないが、やっぱりなんだか恨めしいと思った私は地球を爆破した。
意外にも誰が守る訳でも無く惑星は砕け散ってしまい、私はいったいこれまでの葛藤はなんだったのだろうと。
ある意味色々解決したように思えたので、しっかりと新世界を作っていく決意が出来た。
自由、ねえ……。
あくびを一つかまして、まずはひと眠り。
<続>