うやうやしく押しつけがましい敬語

■許しを請われて応対に戸惑う

 ある日の朝方、カフェでレジに向かい、代金を払おうとすると、店員さんは「その前に、ポイントを付けさせていただいてもよろしいですか?」。
 次の日の昼時、別の店でカツサンドを注文すると、店員さんは「マスタードを付けさせていただいてもよろしいでしょうか?」。

 2日続けて似たような応対に接し、同じように戸惑った。どちらもどこか奇妙な申し出なのだが、どこが奇妙なのかわからない。取りあえずは、相手が求めるまま〝許可〟するしかなかった。

 それから3、4日過ぎて、ようやく頭の整理がついた。2人とも、

  1. 「~を付けてもいいか」で私に許可を求めつつ、

  2. 「~させていただいても~」という謙譲の形を用いてへりくだった

わけだ。
 ポイントにしろマスタードにしろ、客の私が得するサービスなのだから、堂々と申し出てくれたらいいものを、許しを請いだしたから、私は答えに窮したのだろう。
 へりくだる必要もなかったわけで、私はわけもなく持ち上げられたことになり、かえって気圧されたのだろう。

■サービスの提供にへりくだりは必要か?

 客によってはマスタードが嫌いな人も、欲しくない場合もあるだろうし、ポイントのほうは集めていない人や、ポイントカードを持参していない場合もあるだろう。

 いずれにせよ、店側にはサービスを提供する用意があるのだから、あとは客の好みに委ねるのみ。それがほしいか尋ねられれば、客の私はスッと答えられただろう。定員さんたちは、例えば、

  • 「~を付けましょうか?」

  • 「~をお付けしますか?」

のように尋ねてくれたらよかったのだ。
 サービスの提供をもちかけるのだから、用向きからしても敬意の向け方からしても、こういう尋ね方が合う。

■敬語につきまとう「押しつけがましさ」「差し出がましさ」

 これに対し、冒頭のような「~を付けさせていただいてもよろしいですか?」とは、ポイントなりマスタードなりを付ける前提で、そうしていいか尋ねる問いかけ。客にとっては、それをもらうか選ぶ段階を飛ばされることになる。
 許しを請う姿勢自体は遠慮深さを感じさせるが、客に選ばせないという意味では段取りが不自然なわけで、おおげさに言えば、押しつけがましさを帯びることにもなる。

 冒頭の店員さんたちには、おそらくそういうつもりはないだろう。
 流行の「させていただく」を、ほかのちょうどいい敬語法を思い浮かべることもなく、意味のずれに気を留めることなく、無難に選んだということではないか。

 あるいは、「~をお付けしますか?」ぐらいでは敬意が足りない、ということだろうか。「~を付けさせていただく」を使っておけば、とにかく平身低頭する姿勢を示せる。

 さらに、「~をお付けしますか?」を使うには、「自分がサービスの提供者だ」という、より主体的な意志をもつ必要がありそうだ。
 客の側から見れば、定員がそれを態度に表すのはごく自然なことだが、たまに店頭に立つアルバイトの立場では、つい気が差してしまうのかもしれない、差し出がましく感じてしまうのかもしれない……。
 店員さんたちの立場も事情も知らないけれど、自分の戸惑いの訳を掘り下げてみたかった。

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