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【日常スケッチ】午前9時台、京浜東北線、南北線

お気に入りだった店が、なくなってしまっていた。

昨日、ひさしぶりにその店がある街に出かける用事があったから立ち寄ってみたのだけれども、外側から見えるガラスには覆いがしてあり、看板ももうなくなっていた。

いつ、なぜ、閉まってしまったのかはわからない。貼り紙もなかった。

そのこととは関係なく、今朝めざめたときの気持ちがドン底だった。最近は眠気がひどく、それでいて眠りが浅い。夢ばかり見ている気がする。時期的に、十中八九ホルモンが犯人だろう。

思考がままならず、なぜだかわたしは頭を洗った。すべて洗い流してきれいさっぱり!とはいかない。けれども、お気に入りのシャンプーとトリートメントは今日もいい香りがして、ほのかに気持ちがやわらいだ。

人と会うとスイッチが切り替わることが多い。今日は仕事で人と会う約束がある。おそらくこのまま予定がなければ、ずるずる何もできずに罪悪感だけをこしらえてしまっただろうから、予定があって幸いだった。

ラッシュから少しずれた時間の京浜東北線は、それでもそこそこ混んでいる。ただ、乗り込む駅は降りる人も多いから、空いた席に座ることができた。ラッキーだ。

「電車の広告に空きが見られる」とTwitterで見かけたけれど、目の前の広告欄はすべて埋まっていた。「本って、旅だ。」のコピーが目に入る。鬱屈してしまいそうなときだからこそ、こころに余白をつくれることをしたい。読書や音楽鑑賞や映画鑑賞。最近は、映画館にあまり行けていない。

外気を空調で送り込む換気が繰り返され、車内の空気はどことなく澄んでいる。電車は王子駅にすべりこみ、わたしはホームに降り立った。王子は、関東に出てきてはじめて住んだ街だ。

飛鳥山公園の桜は、ホームから視認できるほどには咲いていなくて、まだまだ閑散とした雰囲気だった。そういえば、王子にあるお気に入りの店はまだ健在なのだろうか。降りるのは乗り換えのときばかりで、もう久しく行っていない。

地下鉄南北線に乗り換えるため、地下に降りる。その動きとは反対に、ふと気持ちの下降が止まった気がした。

春と冬とが行きつ戻りつしながら、それでも春に向かうように、何度も不安定に陥りながら、それでも前に進むのだ、わたしも。そのことがわかっているから、耐え忍び、やり過ごす。波に抗わず、かといって諦めず。

電車は地下を進む。徐々にラッシュの様相を呈しはじめた。目的地には、まだ着かない。

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卯岡若菜
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