Nouns DAOのフォークとは? 2. フォークの原因と、その結果起こったこと
Unyte Intern の田伏です。
第2回となる今回は、注目を集めているNouns DAOの「フォーク」について解説します。NounsDAOの説明は、第1回の記事をチェックしていただけると嬉しいです!
フォークとはそもそもどういったものか、その背景と具体的な内容について見ていきます。
1. フォークについて
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・プロトコル : 組織の運営や意思決定の基盤となるルールや規約
フォークとは、簡単にいうとDAOの分裂です。オリジナルのDAOから分裂に賛成したメンバーが、脱退 & 新しいDAOを作り、オリジナルとは別のDAOとして運営していきます。このように、トークン保有者のグループが新しいプロトコルに移行するための方法を指します。
Nouns DAOでは最大でも15%の賛成票で可決されるため、意見が反映されないことを不満に感じる瞬間が多いかもしれません。そのような「意見の違いの積み重ね」から生じることが多いフォークですが、今回のNouns DAOのフォークのきっかけは「ミーム派」VS「慎重派」の対立構造と、投機家の参入の2つです。
・「ミーム派」VS「慎重派」
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・ミーム : (実用性) < (SNSでの影響力やバズっている)という状態や、そのような暗号通貨
CoinDeskさんの記事に詳細が載っていたので参照しています。
Nounsをカルチャーとして広めようとしていた「ミーム派」は、認知を広めるためにトレジャリーを使うことに躊躇がなく、宇宙ステーションに3DプリントされたNounを送るプロジェクトに63ETH(当時のレートで約2700万円)の予算を割り当てましたが失敗に終わったり、本当に必要だったか定かではないプロジェクトも見受けられ、マーケティングに合計で2600万ドル以上費やしています。ただミームとしてのNounsの現在の地位は、ミーム派あってのものだともいえます。対照的な「慎重派」は、NFTの売上をそのままプールしているトレジャリーの大きさを重視し、トレジャリーからの安易な支出をよく思っていない人たちもいました。この対立構造がある中で、2つ目のきっかけがやってきます。
・アービトラージャーの参入
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・アービトラージャー : リスクを低く保ちながら利鞘を稼ぐ投資家
・レイジクイット : 自身の持分に相当する資金を引き出し、DAOを抜けること
最高で約130ETH、2022年までは平均して約80ETHほどで落札されていたNounですが、市場の影響を受けて値段がどんどん下がり、直近では25ETHほどになっています(中には6.8ETHのものも)。ここに目をつけたのがアービトラージャーで、割安になっているNounに目をつけ購入し、Nouns DAOのガバナンスに関わるようになりました。彼らがやりたかったことはレイジクイットと呼ばれるもので、本来は方向性の違いからDAOを抜けるメンバーに対して、そのメンバーの取り分を資金プールから受け取ることができるという「少数派の保護」のためのものです。レイジクイットの際にもらえるETHは、(トレジャリー) / (Noun総発行数)で計算され、Noun1体に35ETHほどの価値があるため、35ETH以下で購入できればノーリスクで利鞘を稼ぐことができます。彼らはフォーク推進派を形成し、自分達の利益の源泉であるトレジャリーから予算を取る提案には反対するなど、提案が通りにくい状態を作り出しました。
2. 最初のフォーク提案
そして満を辞して、レイジクイットを想定したフォーク提案#354がされます。(過去にもレイジクイットの提案がありましたが、#247は強制拒否、#248は反対多数で否決されています。)
本来賛成多数で可決されるところでしたが、Noundersの強制拒否権が発動(記事の最後で解説)され、提案自体がキャンセルとなりました。#354では大きく5つの機能が提案されていましたが、メインはレイジクイットを想定したフォーク機能の追加でした。
1. 提案の編集
2. 署名による提案
3. 異議のみ投票可能な期間の追加
4. スナップショットを投票開始時へ変更
5. フォーク機能の追加 (20%の賛成でフォーク可能) -> 記事の最後で解説
今回もレイジクイットは実現ならず、、、と思われましたが、アービトラージャーも負けじと対抗します。
3. 同じ内容の再提案
#356では[will not cancel]のメッセージ付きで、強制拒否された#354と同じ提案を提出します(提案者の気持ちが感じ取れますね)。これに対してNoundersは強制拒否を発動せず、可決されました。
この201もの賛成票ですが、投票元のアドレスを詳しく見ると、同一アドレス(もしくは同一人物のアドレスと思われる)から複数票入っていることがわかります。具体的には
・19票 ×1つのアドレス
・18票 ×1
・16票 ×2
・15票 ×2
・10票 ×1
・9票 ×2
となっています。(大口保有者の合計票127) > (今回のしきい値121)より、大口保有者(これらのアドレスが同一人物の可能性もあり)が投票すれば、反対票など関係なく提案が可決されてしまいます。結果論ですが、#356が提案された時点で勝負は決まっていたと言えます。
フォークの結果、全体の56%にあたる472体がフォークに参加して、約16750ETHをトレジャリーから新しいDAOに持ち出すことになりました。[参照]。このフォークの問題点は、再び(トレジャリー / Noun総発行数) > (オークション価格)となった時に、アービトラージを狙った投機組によって再度Nouns DAOのトレジャリーが狙われる恐れがあることです。一方で、本来のNouns DAOに惹かれたメンバーと投機組が別れたことで、残ったNouns DAOでは投機組が入れていた反対票がなくなることで提案が通りやすくなり、本来の活動がしやすくなるというプラスの面もあると思います。
4. 提案されたフォーク機能と強制拒否権の中身
ここからは詳しい内容になるので、気になる方はチェックしてください!
4-1. フォーク機能の詳細
レイジクイットを想定したフォーク機能は2つの期間から構成されます。
1. エスクロー期
フォークへの賛成票としてNounをエスクロー(預け入れ)し、エスクローされたNounがしきい値を超えると、フォーク関数を呼び出してフォークを開始します。エスクローしたNounは、他の投票に対して投票権がなくなります。またエスクロー期間中であれば、エスクローの取り止めも可能です。
2. フォーキング期間
一旦フォークが始まるとキャンセルができません。また元のDAOの提案実行もできなくなります。元のDAOから新しいフォークしたDAOにトレジャリーの一部が移されます。またフォーク後、エスクローされたNounは元のDAOにトレジャリーに入り、新しいフォークしたDAOに移動するメンバーにはエスクローしたNounと同じIDを持つ新しいトークンが新しいDAO内で付与されます。新しいDAOでのレイジクイットは、所有する新しいトークンをバーンすることと引き換えに、トレジャリーから取り分をもらう形になっています。
(バーン : 2度と取り出すことができないウォレットに送ることで、対象の暗号資産を流通から排除すること)
4-2. 強制拒否権について
提案はさまざまな項目から構成されていて、その(proposalのstruct)中にvetoedというものがあります。これはbool型でデフォルトではfalseですが、trueにすることで強制拒否を実行したことになります。vetoedをtrueにするために関数を呼び出すことができるのは、vetoerという権限を与えられたアドレスのみとなっていて、vetoer = Noundersだと考えられます。つまり、(おそらく) Noundersのみ強制拒否権を発動できるということです。発動されると、提案が実行済みでないことを確認した上で、提案に関するトランザクションを全てキャンセルします。
まとめ
DAO史に残るフォークとその背景、そしてNouns DAO特有の仕組みについて見てきました。ミーム派と慎重派への分裂、価格の冷え込みに乗じて増えた投機家、そしてレイジクイットを想定した2度のフォーク提案。大口保有者が数人集まると可決の閾値を超えられる状態にあったという点も興味深い点でした。ここから残ったDAOと新しいDAOがどのように機能していくのか、今後の動向が気になりますね。ここまでお読みいただきありがとうございました!
最終回となる第3回では、フォークから考えるDAO組織の課題と対策について見ていきます。ぜひチェックしてください!
( 不正確な部分のご指摘やご質問があれば、Unyte Intern 田伏にご連絡いただけると嬉しいです!)
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