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素晴らしきニュートラル『Nikon 8×30 A』

 このA型シリーズは、日本光学の誇る中型双眼鏡の理想機です。優秀な設計と完璧な技術から生まれた抜群の性能。鮮明でシャープな像が得られます。

NIKON BINOCULARS 7X35A 8X30A 9X35A(カタログ)

 皆様ごきげんよう、うにょーんです。
 さて今回は古い日本光学のポロ式双眼鏡『Nikon 8×30A 8.5°』を手に入れたのでその感想を書いていこうと思います。

概要

Nikon 8×30 8.5°

Nikon 8×30A 8.5° (広視界型)希望小売価格1万6千円(1970年代?)※
フォーカス:CF方式
   倍率   :8倍
    口径  :80mm
 実視界 :8.5°
見掛け視界:旧JIS規格68°
      現行JIS規格61.16°
射出瞳数 :3.8
   明るさ    :14.4
    FOV  :446ft/1000y
Nikon品番 :No.707

オプション:平形目当て(希望小売価格120円)※

※物価に注意。参考に1970年の平均大卒初任給は約4万円。

Nikon dealer notebook for USA 1977
Nikon binoculars 7X35A 8X30A 9X35A(カタログ)
Nikon 双眼鏡(カタログ)


 今回取り上げる日本光学の8×30A型は旧JIS規格で見掛け視界68°、現行JIS規格で61.16°のスペックを誇る双眼鏡です。ジャンルとしては広角双眼鏡に位置付けられます。

cf.(株)ニコンビジョン「双眼鏡の基礎知識:視界」

 広角双眼鏡ですから、遠くの目標をじっくり見るというよりは星空を広く見たり、探鳥(野鳥を探す事)の際に用いられるものですね。

 ちなみに、この双眼鏡Nikon 8×30Aの末尾に付く「A」は当時の日本光学がノバー7×50やミクロン6×15双眼鏡などに代表される戦前/戦中の設計から脱し、戦後に新たに設計した新型式双眼鏡であることを表すものです。
 日本光学は7×35A 8×30A 9×35Aの三機種を「Aシリーズ」と呼称し、戦後設計双眼鏡にして中型双眼鏡の理想機であると宣伝していました。

 とくに8×30A、9×35Aは5枚構成の接眼レンズ(特許)を取得した広視界型。

Nikon binoculars 7X35A 8X30A 9X35A(カタログ)
特公昭46-005900

 日本光学Aシリーズ双眼鏡のうち広視界型である8×30A及び9×35Aには特許技術の接眼レンズが付いているとカタログにて宣伝されています。この特許というのは特公昭46-005900の事でしょう。
 この接眼レンズは従来のエルフレ型接眼レンズを大口径対物レンズと組み合わせることが出来る様にしただけでなく、広視野化と色収差の補正を行ったものです。

 Aシリーズに対する日本光学の力の入れようは尋常なものではなく、CF方式の改善から各種光学設計に至るまで複数の特許が出願されています。「中型双眼鏡の理想機」は伊達ではないという事でしょう。

入手経緯

 私は野鳥観察や撮影が趣味なので、探鳥に用いる広角双眼鏡が欲しいなと思っていたところ、このNikon 8×30A型がヤフオクに出品されていたので、革紐とケース付き3000円で購入しました。
 購入した個体にはセンターフォーカスの固着とディオプターヘリコイドのグリス抜け、プリズムの曇りと対物レンズのカビがありましたが、レンズ修理のノウハウが使えたので簡単に修理しました。

 

オーソドックスなCF方式です。酸化して固着してしまったグリスを軟化させたのちに分解、清掃を行いました。
本当は写真撮ろうと思ったんですけど、古いグリスでべったりの手でスマホ触りたくなかった(笑)
対物レンズのカビ。
カビ自体は綺麗に取れましたが、コーティングが少し食われてしまっていました…見え具合にはそこまで影響がないのでよしとします。3000円ですし。
同じベッセルの精密ドライバーを持っている方ならサイズ感がわかると思いますが、この双眼鏡の接眼レンズ側プリズムは8倍機としてはかなり大きいです。
でっぷりとしたプリズムには外側に切り込みもあり、迷光対策が施されています。 

 私は自室から見えるシリウスを基準にレンズの無限遠や双眼鏡の光軸を出すのですが、毎度シリウスAの輝きが綺麗に見えると「修理をやり遂げた」という感覚が出て嬉しくなります。 

使用してみて

 外観は西ドイツのCarl Zeiss オーヴァーコッヘン 8×30に酷似しています。恐らくこれを日本光学が研究したのでしょう。
 丸っこいボディ形状は持ちやすく、ホールドし易いです。大きさも程よく、操作性と機能性が丁度よく纏まっており超望遠レンズを取り付けたカメラとの併用でも問題無さそうです。
 また古い双眼鏡にしてはアイレリーフがそこそこあり、眼鏡使用者である筆者的には有難いです。

 上に関連して、近眼者の裸眼使用についてです。…とはいっても私は裸眼視力が0.1ぐらいしかないのでどの双眼鏡でも裸眼使用は厳しいのですが。
 Nikon8×30Aの場合、一応30m先ぐらいまでならディオプターを最大限に活用して裸眼観察することが出来ます。
 ただ、ここまでの強度近視の方は少ないでしょうからそこまで心配する必要はないと思います。恐らく視力が0.5もあれば裸眼で星空観察も余裕でしょう。

東ドイツはイエナ工場製の戦後デルトリンテムと2ショット

 次に肝心な見え具合について。
 色味はニュートラルで、暖色でも寒色でもない中庸な色です。被写界深度も広く、解像力も十分ですから100m先で走行中の車のナンバーを識別出来ます。

接眼レンズにスマホくっつけて撮影したイメージ
被写界深度が結構深い。色収差はそこそこ出るものの気にならない範囲だと思う。

 また、広角双眼鏡にしては歪みが少なく良像範囲も広いので野鳥を探そうとパンやチルトをしても視界が安定して酔いにくいです。探鳥用の双眼鏡として必要十分な性能と言えるでしょう。

接眼レンズにスマホくっつけて撮影したイメージ
色味はニュートラルで解像力は高い。ポロ式特有の遠近感の強さが野鳥との距離感の把握に役立つ。

 舶来品と比較して広い良像範囲も魅力です。結ぶ像に関してはとにかくニュートラル。余計な色や見え方をしない双眼鏡で、癖もなく扱いやすいです。

接眼レンズにスマホくっつけて撮影したイメージ
良くも悪くも「ニュートラル」

 Nikon 8×30のニュートラルで味付けの無い見え味は利用者に余計な視覚情報を与えませんから、野鳥写真家や野鳥画家さん等にもおすすめ出来ます。

 あと地味にケースの出来が良いです。質のいい革を鋲で留める丈夫な造りでジッパーもYKK製です。

カメラポーチの様なデザインでかわいいケース
上質な革で出来たケース。ずいぶん古い製品であるが鋲止めでYKK製ジッパーと壊れる気配が無い。簡単な革の手入れだけで実用出来る様になった。

まとめ

 Nikon 8×30Aを一言で表すのならば「質実剛健」でしょう。舶来品と比べて華はありませんが、丈夫で精密な造りは日本のモノづくりの真骨頂。本体に刻印されたJAPANの文字は伊達ではないという事です。

 骨董品としてみても特にレア物という訳でもないので他の双眼鏡に隠れてしまっており値段も低いですが、きちんと手入れしてあげればその実力はオールド国産機の中でもトップクラスです。

 古い双眼鏡ですから万人にお勧めできるものではありませんが、現行双眼鏡とは異なる優しい見え味には独特の魅力があります。
 オールドレンズならぬオールド双眼鏡に興味のある方、いかがでしょうか。一緒にオールド双眼鏡沼に沈みましょう!


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