長所が目立つ人は幸せだと祖母が言っていた話。
『人間いいとこも悪いとこもある。その長所が目立つ人は幸せな人や。』
亡くなった祖母はよくそう言っていた。
『いいとこが目立つって?』
まだ子どもだった私は祖母と話すことが大好きだったので、よくそうやってお喋りしながら質問していた。
『例えば困った人がいてたら手助けするやろ。その時に周りに見てる人がいるとする。みんなの目が自分に向いてるから手助けしとかなあかんなって気持ちで手助けする人は自分の為に動く人や。そやけど、だーれも見てへん所でも困った人を自分の気持ちで助けようと思う人は心がある人や。』
『うん、それはわかるけど、長所が目立つ人は幸せって話は?』
『まぁ、ちょっと待ち。要するにな、良いことをそっと出来る人は、人の口から口へ良い評判が回るってこと。わかるか?だーれも見てへん所で困った人を助けたとしても、それは絶対回り回って良い評判になっていくもんやねん。』
『私がやりましたー!ってことを特に自分で言うわけでもないのに、良い評判が人から人へ伝わる人ってこと?』
『そういうこと!』
祖母は折り曲げた膝をポンっと叩いてうなづく。
『せやけどな、皆が見てる時しか困った人を助けへん自分のことしか考えてへん人はな、例え良いことをしてても誰も見てへん時は見て見ぬフリしてることを誰かに見られてるもんやねん。そしたら人の口から口へ悪い評判が立つもんなんや。』
『あの人ホンマはいい人なんかちゃうよ!とか言われてしまうってこと?』
『そうや!控えめにしてても長所が目立つ人は幸せやってことはそういうこと。』
なるほどなぁと子ども心に思ったことを大人になった今でもよく覚えている。
祖母は『短所が目立つ人は損やな。』という話し方を一度もしなかった。
『長所が目立つ人は幸せな人や。』
そう言って生きていく上での社会での在り方、自分自身が持っていなければならない倫理観を子どもの私にもわかりやすく、偏見を持たないように教えてくれた。
祖母は苦労の多い人生を生きた人であったが、人の支えになり、時には人の力をお借りしながらその86年の人生に責任と誇りを持ち、頑張りぬいた人だった。
亡くなったとき、お葬式には遠方からもたくさんの方々が来てくれていた。
「しーやんはできたお方やった。」
人々の口から口へと祖母の良い面が語られているのを耳にした。
「さすがやおばあちゃん!」
哀しみの中でそんなふうに嬉しく思ったことを今も忘れない。
「目立たぬ人の長所」を見る力を教えてくれた祖母を誇りに思う。
祖母から教わったことを大切にしながらこれからも生きていきたい。
こんなふうにたまに、おばあちゃんの知恵袋を記憶の引き出しの奥から取り出してきて振り返る作業は、私を支える見えぬ杖になっているのかもしれない。
きっと私は幸せ者なのだろう。
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