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人生で初めてのこと。

気がつけば新緑の季節であるが、今年の元旦は生まれて初めて「初日の出」を生で見てきたのだ。

夫スナフキンは毎年1人で早朝から初日の出を見に行くことを20年以上続けているのであるが、私も娘たちも行ったことがなかった。

「行けたら行くわぁ。」

それ絶対行かへんやつな!の返事を繰り返し、グータラと暖かい布団から抜け出さない習慣を決まりとしていたのである。

しかし今年の年末年始、姉妹たちはそれぞれ友人や恋人と予定があり、それこそ出産以降初めて夫婦だけの大晦日と元旦を過ごしたのだった。

「uniちゃん、初日の出見に行かへん?」

いつも通り夫スナフキンは声をかけてきた。

「うん、ほな行こか!」

元旦の早朝、初日の出を拝みにスナフキンのバイクの後ろに乗り、海岸まで向かったのある。

寒いなんてもんじゃなかった。
2分も走れば既に凍死寸前のような具合の冷たさ。

「あかん、、、スナフキンて、着く前に凍えてしまう!!」

後ろから必死で叫んだつもりだったが、あまりの寒さに叫びに勢いがなかったようで、全く気づかないスナフキンはお構いなしにバイクで風になっているのだから何が何やら。

そこから5分くらいで海岸に無事到着したのだから、バイクに乗っている時間は10分未満だったのだと我に返った時、ようやく周りの人々の様子が目に入ってきたのである。

小さなお子さんを連れたご夫婦は、薄暗い浜辺で楽しそうに走りまわる我が子の様子を優しい笑顔で見つめている。

お年を召されたご夫婦は杖を片手に静かに佇んでおられる。

初日の出まであと少し時間がかかりそうだと皆が口にしているので、私とスナフキンは海辺の高いブロックによじ登り、腰を落として日が登ってくる方に集中しようとしていた。

そんな時、少し間隔をあけた場所に私たちと同じように座っているご夫婦から泣き声と、それを落ち着かせる声が聞こえてきたのだ。

「スナフキン、お隣さんストゼロ飲んで泣いてはるみたい。泣き酒タイプの奥さん?」

凍えそうな寒さの中、ストゼロを飲んで身体を温めるつもりが酔いが回ってきたのだろうか?

ひたすら泣き声を上げている奥さんと思われる女性の背中をさすり続ける旦那さまと思われる男性の姿は、かなり人目を引いている。

こんな時のスナフキンは驚異的な地獄耳になるのだと今回初めて知ったのであるが、まるで通訳さんのように、お隣から聞こえてくる様子を私に小声で伝えてくるから驚いた。

「uniちゃん。お隣の方病気でこれが最期の初日の出になるんやねって奥さんが泣いてはるよ。」

「!?」

言葉がすぐに出てこなかった私。

泣き酒とかふざけたこと言って本当に申し訳ない
と泣きそうになる。

「奥さん最期だってそんなストゼロ飲んで大丈夫なん、、、。」

スナフキンに小声で伝えてみると。

「いや、病気なのは旦那さん。もうスーパーも一緒に行かれへんなぁ。って奥さんに言ってるけどずっと奥さんを励ましてはるねん。」

スナフキンの言葉に驚いてそっと隣を見てみると。
少しずつ夜が明け始めていて、先ほどよりずいぶん明るくなってきたのもあり、お隣さんの表情がハッキリとわかる。

旦那さんはとても優しい笑顔で奥さんの背中をさすり、大丈夫大丈夫と励ましていた。

死が近い立場の人。
送られる側と送る側が一見して反対に見える様子であるが、お2人が積み重ねてきた日常があり、歴史があって、共有している思い出もたくさんあるのだろうと思う。

おそらく最期になる思い出の一つとして、いつものように初日の出を一緒に見ることを選んだのだということが伝わってきた。

なんとも言えない気持ちになりながら下を向いていると。

「おぉ!!きたきた!!日が登ってくるで!!」

周りにいるたくさんの人々の声が響きわたる。

美しく、眩しい朝日が全身に降り注ぐ感覚に身を委ねていると、始まりと終わりは隣り合わせだということに気づく。

当たり前の幸せに対する謙虚な気持ちを呼び覚まして下さるお天道様の存在を肌で感じた瞬間だった。

目に見えるものだけが全てではない。

年々鈍感になっていく感性に磨きをかけ直すために、人生初の「初日の出」に呼ばれた気がした2023年の幕開けでの出来事だった。

忘れぬよう記録しておこうとnoteを開いたGWの中日である。

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