
職人さん。
我が家のお向かいに老夫婦が引っ越してこられておよそ3ヶ月が過ぎた。
長らく空き家だったお家に人が住んでくださることが素直に嬉しかった。
『引っ越し前後バタバタしますがよろしくお願い致します。』
ご挨拶に来てくれた時にそんなことを言っていた。
引っ越してこられてからご主人は毎日家のメンテナンス作業を1人で行いだした。
外壁や屋根のペンキ塗りを器用に済ませていく。屋根のペンキの色は2種類で色分けし、錆付いていた家はピカピカになった。
先日ご主人が実家の長野県から送られてきた林檎をたくさん持ってきてくださった。
『美味しいから食べてもらおうと思って!』
故郷の自慢の味を嬉しそうにお裾分けしてくださる笑顔は優しくてホッとした。
それからは毎日ご主人の手で綺麗に変身していくお家のことについて少しずつお喋りするようになった。
『工務店で35年勤めた大工なんですわぁ。だから屋根から壁まで一通りのことは出来るんですわぁ。まぁ大工仕事以外のことは現場で他の職人の仕事見て覚えただけなんで素人なんですけどなぁ。』
なるほどなるほど‼︎
大工さんだったのか!
本当に何でも器用に手早く仕上げていく様子はまるで手品のようなのだ。
『uniさん、お向かいのおじちゃん凄すぎやんね‼︎朝ウチが学校行く時と帰ってきた時で家が変わっていくのビックリするー!』
JKドカ弁も一目置く仕事ぶりである。
昨日から作業に入ったのは、花壇作りである。
古い鉄製の柵の土台をドリルで壊し、器用に手早く取り払った。
真新しいブロックを積み上げ、木製の柵を取り付け、土を入れて洒落た花壇が完成した。
奥さんは毎朝寒い中、窓ガラスを全て真っ白な雑巾で拭き上げる。
毎日少しずつ、古い家に命が吹き込まれていく様子を見ているとこちらも元気をいただいている気持ちになる。
夜も我が家の外灯がついていないと真っ暗だった道が、お向かいさんが明るく優しい灯りを灯してくれるようになってから本当に明るくホッとする夜道になった。
住む人が命を吹きこむことで家も蘇る。
自らの経験と、他の職種の職人さんから見て盗んだ技を全て無駄なくご自分のものにしている元大工さん。
素敵な方が住人になってくれて古く寂れていた家もさぞかし嬉しいだろう。
毎朝我が家のベランダから見える生まれ変わったお向かいのお家にキラキラと差し込む朝日を見ていると私も今日一日頑張ろうと思える。
住む人が変われば家は変わる。
家が変われば周りの環境も変化する。
大切にしたいものが何かを知っている腕のいい職人さん。
創りだすことが楽しくて仕方ない様子は人を輝かせる。
故郷の林檎を愛し、自分の腕に誇りを持つお向かいさん。
元大工ではなく、現役大工だと密かに尊敬している私なのだ。
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