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みやこ旅館
両親の故郷である淡路島に、毎年夏休みになると半月ほど帰省していた。
母方の伯母が住む家が親戚が集まる合宿場のようになっていたのだった。
この伯母の家を親戚はみな「みやこ旅館」と呼んでいた。
みやこ旅館には最大20人以上の身内が集合し、寝泊まりをしていたのだった。
朝は、一斉に皆で起こされ、近所にある焼きたてのパン屋さんに各自が好きなパンを選ぶためにぞろぞろ並んで買いに行く。
昼になればお好み焼き屋の「おるめさん」へ”にくてん”を食べに行く。
夕方からはみやこ旅館を下ったところにある波止場に行き、臭いブロック状になった餌である”アミエビ”を使ってサビキ釣りをしに行く。
目の前の瀬戸内の海にはまだ海峡大橋は架かっておらず、行きかうフェリーボートや播淡汽船が行ったり来たりしていた。波止場で釣りをしながら船に乗る人たちに手をふると、皆がこちらに向かって手を振りかえしてくれた。
夕方、オレンジ色に夕焼けが染まるころになると、竿を海に入れたら面白いようにいわしや、アジが何匹も塊で釣れるので面白くてしょうがなかった。
今、釣りがあまり好きでなくなったのは、この当時、釣れなくて退屈という目にあったことがなかったため、普通に釣りをしに行って全く釣れないのこ
とが楽しくないからだと思う。
暗くなってくるころに、母が迎えにくる。
「unimanちゃーん!そろそろ帰りなさい!今から魚料理するよー!」
そういえばお腹が空いていたことにハッと気づく。ビーチサンダルに半パンのスタイルで早足にみやこ旅館に戻る。
アルミのバケツにいっぱいの魚を持ち帰ると、みやこおばちゃんが手際よくどんどん魚を美味しい料理に変身させてくれるのだ。
新鮮な状態でしか食べれない「鯵のあらい」だとか、イワシの頭と内臓を取り出して後はよく切れる包丁でその身をバンバン叩いて塩を強めに効かせて団子状にした「いわしのだんご汁」、いわしを甘辛く素早く炊いた「イワシの甘露煮」なんかがみるみるうちに出来あがり食卓に並ぶのであった。
そこには釣った魚以外の御馳走も大量に並んでいたのだ。
さかたのコロッケ、きっかわさんのおいしいぬか漬け、たまごのおっさんから買ってきた美味しい産みたてのたまごで作られた出汁巻き、炭の匂いがする焼きたてのあなご、しらさえびの炊いたん。
美味しい晩御飯が済むと、いとこたちと連れ立って再び浜に行き、花火をするのも楽しかった。いとこのお姉ちゃんやお兄ちゃんは当時中学生だったのだが、マッチを使って上手に花火に火をつけてくれ、楽しませてくれた。
たっぷり楽しんでみやこ旅館に帰ると、明日は海水浴やね!と皆で胸を躍らせながら眠りについたものである。
美味しい食卓と、ワクワクするような体験を、あの美しい自然と海に囲まれた島で堪能していた子供時代。本当に貴重な体験ばかりであった。
しかし、そんな思い出が詰まったみやこ旅館は、阪神淡路大震災で全壊してしまった。
伯母であるみやこさんも亡くなり、今はもう帰る場所が無くなってしまった私たち。
それでもたまにいとこたちに会えば、昨日のことのようにこの夏の合宿は鮮明に思い出され、話題は尽きない。子どもの頃の体験は非常に大切なことであるのがよくわかるのである。
自分たちが過ごしたあの素晴らしい体験を、我が子にさせてやれないことを非常に残念に思う夏休みである。
そうだ。この夏休みを過ごす中で外せない登場人物がたくさんいる。
長くなりそうなので、これはシリーズ化しようではないか!
次回予告!たまごのおっさん
以降更新予定!
おるめさん
しげやん
おはるばぁのちょぼ焼き
ふえりぼーと
と続きます!お楽しみにね!
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