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詩ことばの森㊾「いつものように」

数年前、長年働いた会社を退職しました。ストレスフルな仕事でしたので、ようやく自由になれたと同時に、どこか寂しい思いになりました。旅行に出かけても、しばらくはどこか落ち着かない気持ちで過ごしていました。

いつものように

いつものように駅は混んでたが
今日の日差しは温かだった

急行の待ち合わせ時間だったが
今日は特に用事はなかった
電車のなかが急に空いたから
今日はのんびり乗っていこう
行くあてのない小さな旅に

今日から仕事はやめたのだ
あてのない人生で
今まで何をあてにしてきたろう
どれだけあてがはずれただろう

そんなどうしようもないことを
思いながら外をながめていたら
広い畑に形のよい欅が並んでいて
頭のてっぺんが紅葉していた

こんな日のこんな時刻に
会社の狭い机の上で
頭を悩ましていた僕のことが
なぜだか懐かしくなった

自由になった姿がひとり
秋の車窓に立っている

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