詩ことばの森(215)「文机の前で」
文机の前で
毎日 原稿用紙に向かう
ということをしてみた
言葉が 自然に浮かんでくる
などということはない
古い文机の前で
沈思黙考というのでもない
ただ座って原稿に向うこと
だいたい夜中が多いのだ
昼間は多忙でどうしようもない
文字通り心を失ってしまう
心を失くしては書きようもない
器用な人間ではないのだ
しばらく座ってると肩が凝った
自分はゆっくり立ち上がると
台所へ行き食べ物を探す
テーブルの上にはなにもない
冷蔵庫にもなにもない
あきらめた自分はふたたび
古い文机に戻ると
なにもない頭を開け閉めしては
ため息などついたりする
(森雪拾)