5話【桜の舞い】『樹々は唄い、風に舞う』第一部~樹々の恵み編~
5話【桜の舞い】
桜の舞い、当日。
東谷街道の脇に設けられた 桜の花枝に彩られたゲートをくぐると、観客席スペースの向こうには、舞台となる〝大平岩〟。 ●6
その舞台の後ろを ぐるりと取り囲むかのように植樹された、桜並木。
そして舞い散る桜の花弁に彩られた〝壱乃峰〟 ●7 から連なる峰々までもが、一望できる。
受付の奥にはケータリングコーナーがあって、のりあをメインに そのスタッフ達が、宴の来場者に 春の樹々の恵みを振舞っている。
めりあは「今、いいかな?」とだけ声を掛けると、メニューを見ながら のりあに話しかけた。
「のりあ、いつも凄いわね。
ホオ葉おにぎり、木の実たっぷりのパンケーキ、瑞貴さんのブナの実に、ドリンクメニューは 山桜さんの桜茶、春の花のハーブティーと野草茶……。」
「うふふ。 みなさん、喜んでくれると良いですけど。。。」
「どれも美味しそうで、迷っちゃうわね。
私は とりあえず、いつものコーヒーにしとこうかな?
こならちゃんは?」
「わたしは、野草茶にしてみるのれす!
こないだ お手伝いしたときに、瑞貴さんが おいしそうに飲んでたのれす。」
「あぁ、そうだったわね。
じゃ、のりあ。 コーヒーと野草茶で。」
「はい、かしこまりました! 少々お待ちくだ……」
「のりあ~、お待たせ!
栃餅、持って来たわよ!」
まだ のんびりムードが漂うケータリングコーナーに、一段とアクティブなとっちがカットイン!
たった一人で仕込んだとは思えない大量の栃餅を、どっさりとトレーに入れたまま長テーブルの隅に置くと、そこからヒョイヒョイと人数分を取り分け、
「これは、私から 皆へ。 あと、私にも野草茶ね!」
と、のりあに ご注文。
「めりあ、こなちゃん、おはよ!
あっちのテーブルで、早速 朝イチのミーティングしましょ。
のりあ! あっちにお願いね!?」
「あ、はい! じゃあこれ、あちらのお三方に、お急ぎでね?」
「すんませ~ん! 栃餅と桜茶、もうイケます?」
「こっちも、栃餅と おにぎりと パンケーキと、桜茶と……」
「よー食うなぁ。 じゃ俺も並んで…… と。」
とっちの栃餅は、本人同様 大人気!
「とっち手作りの栃餅と、春の風物詩 桜茶。
この取り合わせ、今しか食えないからねぇ!
いやぁ~まさに、『春が来た!』って感じだよぉ~!」
お待ちかねの栃餅が並び始めると すぐに行列ができ、次々と提供されていく。
その盛況ぶりを眺めつつ、山桜師匠も加わって 朝イチのミーティングは続く。
「~前回同様な感じで、進行役をしますね。
サポートも、めりあさん、同じで宜しい?」
「はい、それでお願いします。
今春の変更点は、お客さんのリアクションのボードを、桜の花のイラストで3段階評価にしました。
それと、こならちゃんもサポートしてくれます。」
「よろしくお願いしますのれす!」
「これもまた、上手に描けてるわねぇ。 さくらの絵も、評判よ?」
「ありがとうございます!」
「じゃ、基本的な流れは、こんな感じで行きますんで。
何かあっても、臨機応変に、良くなる方向に、対処していきましょ。
あと、めりあと こなちゃんは、流れが変わるようなアクションをしようと思ったら、行動する前に必ず私にお話ししてね?」
「了解です!」
「はいなのれす!」
「……そろそろ、頃合いかしらね?
お客さんも十分集まって頂いたようですし、参乃峰の樹々が、ざわつき始めましたね。
こならちゃん、あの『春の大風』が もたらす桜吹雪を背景に、舞いを披露するのですよ。」
「では、とっち。 参りましょうか!」
「はい! 山桜さん。 私達のステージへ!!」
進行役の出番が近づいた とっちと山桜は、スタンバイするため大平岩に設けられた、舞台に向かって。
めりあと こなたは、のりあの隣で出張出店している『銀杏屋 ひがしたに』で、人気のぎんなん3種と新メニュー『きんちゃん』を味わいつつ。
暖かな春の風を受け 陽光を浴びながら、宴の開始を皆と待ちわびていた。
春の大風は、続いて弐乃峰の樹々を ざわつかせ、風が止んだ参乃峰には、桜吹雪をもたらす。
舞台脇の紅白の垂れ幕の中では、出番を控えた舞い手が、それぞれの最終調整や確認を。
少し離れて 隅の方では、山桜と とっちが最終打合せをしていた。
「……舞といえば、その髪留め。 本当に大切にしているのね。」
「うん。 峰乃 赤松に逢えるんだもん。
桜の舞いは、私もこの子も、晴れ舞台よ!」
と、くるりと山桜に背を向けた とっちの後ろ髪には、アカマツの枝先の針葉を模したヘアクリップが、ひときわ輝いていた。
そのすぐ下で留められている、ブナの葉を模したヘアクリップも、春の陽光を浴びる若葉のように、活き活きと。
やがて、弐乃峰は はらはらと舞い散る桜吹雪に彩られ。
大風は、壱乃峰の頂上付近に鎮座するアカマツ巨樹の枝葉を揺らし始めた。
「さぁ! 今春も やって参りました、春の宴 桜の舞い!!
進行は わたくし、皆様お馴染みの とっちと……。」
「『アバンギャルド家元』こと、山桜が務めさせて頂きます。」
「みなさぁ~ん!! よろしくお願いしまぁ~すっ!!」
舞台上で、アイドルばりのポーズを取る、とっちと山桜。
待ちに待った宴の開幕を、観客達は盛大な拍手と大きな笑いで迎えた。
「長い冬も終わり、この壱乃峰にも 暖かな風が吹き 陽光を浴びることができる季節がやってまいりました。
今日は盛大に、優雅な舞いと 森の恵みで、春の訪れを皆様と共に お祝いしたいと思っております!」
「皆様、もう待ちきれないご様子ですね。
とっち、もう舞い手の紹介、しちゃいなさいな。」
「そうしましょう! では、見目麗しき舞い手の みなさん、舞台上へ どうぞぉ~!」
観客の拍手に後押しされ、舞い専用の巫女装束に身を包んだ舞い手が、舞台の中央に並ぶ。
その様は、まるで紅白の花が咲き誇るよう。
上半身には純白の白衣を纏い、足の運びに合わせて揺れる緋袴が、よく目立っている。
後ろ姿では、和紙で束ねられ水引で しばって髪留めとした 長い黒髪と、緋袴の腰帯部分に施された装飾を見ることができる。
壱乃峰の、頂上付近の樹々が ざわめき始め、宴の開始を告げている。
中腹の緩斜面からは、とっちと山桜のアナウンスが聞こえる。
「春が…… 来たのですね。
参りましょう、皆の元へ。」
頭頂に輝く前天冠は、中心にアカマツの優雅な樹形とその左右に枝先の針葉が。
風に たなびく千早は、風に揺らめく枝葉と戯れるかのように。
高位の巫女にのみ許される それらの装束を、春の陽光に煌めかせ、春の大風に舞い踊らせながら、樹の巫女 峰乃 赤松は出立した。
「~ではここで、舞いの各流派の特徴や、舞い手のご紹介をしたいと思います。」
「まずは、皆様ご存知の、『山桜流』。
こちらの山桜さんが興された流派で、そのスタイルは 枝葉舞派。
枝を優雅に振って舞うのに加え、葉なども舞わせるのが特徴です。
桜の舞いのような 祭典向けの舞いに、芸能としての舞いのエッセンスを加えるなど、常に新たな舞いの形を追求する流派!
舞い手は、さくら・瑞貴・ふたば・寿美の、4名がエントリーしています。」
「なお、古流である『奥山流 峰乃派』。
風に身を任せ、枝葉を優雅に風に乗せて舞う、代々の巫女と成る者が舞っていた基本形の流派ですが……。
今春もエントリーは ございませんでした。
……でも 皆様! 奥山流を受け継ぐ 瑞貴が舞いますので、どうぞ ご安心くださいね。」
「最後に、『とっちダンススクール』につきましては、私から。
皆様お馴染みの、こちらの とっちさんが考案なされた、舞いの新境地です!」
「葉のざわめきに乗せた枝の振り様は、これまでの風に吹かれる受動的な〝舞い〟よりも、自ら動く能動的な〝踊り〟に近く、葉や種を飛ばし舞わせるのに加えて 回転などのアクションを付けるのが、特徴的!
また、扇子の舞いのように、葉を舞いの道具として使うことも革新的な、観ていて とても楽しい舞いを披露して下さいます!
舞い手は、双子のアイドル紅葉と楓!
扇子の舞いは、銀杏屋の看板娘、一葉!」
「今春の桜の舞いは、以上の流派と舞い手で行われます。」
「若手の成長ぶりにも、ご注目下さいな。
皆様、乞うご期待!!」
観客席の隣では めりあが、舞台上の とっちと山桜に向けて、ボードを掲げて進行のサポートをしていた。
「……でね、こならちゃん。 こっちのボードが、プログラム進行。
いま掲げてるように、『流派 と 舞い手』のお話しをするタイミングだと、進行役に伝えるわけ。」
「はいなのれす!
めりあさん、こっちの わたしが描いた桜の花は、何のボードなんれすか?」
「あぁ、それね。
こならちゃん、さっき『山桜さんも、とっち社長も、すごくお話しが上手なのれす!』って、言ってたでしょ?
その感想と、お客さんのリアクションを見て、『桜の花に例えたら、何分咲き』と思ったボードを見せるのよ。」
「いまは、満開なのれす!」
「そうそう。
こうやって、進行役に『今は何が主題か』と それに対する『観客の注目度』を伝えてあげれば、何を どんなふうに話せば良いか、分かりやすくなるのよ。」
「分かったのれす!
あと…… めりあさんも、やさしく教えてくれるので、わたしも うれしいのれす!」
「あ…… ありがと。。。
……こならちゃん! 油断しないで、お仕事の続きよ!」
満開の笑顔で こなたに言われた めりあは、 いつもの調子で照れ隠し。
『舞い手の 披露の順』と書かれたボードにチェンジして、掲げる。
「続きましては…… 舞い手の披露の順と、舞いの内容につきまして。
今春も とっちプロデュースが、大炸裂します!」
「えぇ~!? お師匠様ぁ~、ハードル上げ過ぎですよぉ~。」
「これこれ、とっち。 お師匠様は、止めて下さいな。
どうせ呼ぶなら、最初に言いました通り、『アバンギャルド家元』で!!」
一同、大爆笑! こなたのボードは、引き続き 満開の桜。
「……なぜかしら。
あの やりとりが、懐かしく感じるのは。」
そう独り言ちながら、大風を伴って森歩きの道を下る峰乃 赤松は、宴の舞台が一望できる 高台へ。
「舞い手の披露の順は、次の通りとさせて頂きました。」
「まずは、皆様ご存知! 双子のアイドル『紅葉と楓』が、宴を一気に盛り上げます!!
続きましては、山桜流から『寿美』が、正統派の舞いを。
とっちダンススクールからは、『一葉』が扇子の舞いを。
再び 山桜流から『ふたば』が 力強い舞いを披露し、異なる流派の舞いを楽しんで頂こうと思います。」
「そして…… クライマックスは、『瑞貴』と『さくら』!
壱乃峰の 舞いのツートップと言われる、実力者同士の一騎打ち!!
どう? 萌える展開でしょ!?」
「あっはっは! 流石は、とっちプロデュース! 見事な構成です!
皆様も、もうすぐ始まる舞いの披露、どうぞ楽しみになさって下さいな!!」
とっちと山桜の前座トークで すでに温まった宴の、客席の近く。
『主賓の到着 と 開演待ち』と書かれたボードに変え、めりあは こなたに持たせてみたけど……。
舞台上から「見えなーい!」のサイン。
それならば! と、めりあは こなたを肩車してみた。
ボードが見やすくなった とっちからは「OK!」のサインが。
とっちが、「春の樹々の恵みを味わいながら、桜の舞いを、春の宴を、存分にお楽しみ下さい!」と、ケータリングコーナーの紹介を終えた頃。
にわかに風が強まり、桜吹雪を舞い散らせながら、峰乃 赤松が舞台まで連なる、桜並木まで降りて来た。
その神々しいまでの美しさと 優雅な立居振舞から、宴の会場は 一転して厳粛なムードに切り替わる。
観客席から思わず発せられる、「お美しい……。」「優雅ね。。。」の声を受けながら、峰乃 赤松は、桜並木から舞台の脇へ。
紅白の垂れ幕の中では、整列した舞い手と山桜が、最敬礼を以て迎えている。
「皆様、もうお気付きの事と存じます。
桜の舞いの主賓、樹の巫女 峰乃 赤松様が、只今ご到着なされました!
峰乃 赤松様。 どうぞ、舞台上までお越し願います。
皆様、一礼と 盛大な拍手で、お迎え下さい!」
ひときわ大きな拍手と歓声、美しく舞い散る桜吹雪に迎えられた峰乃 赤松は、とっちのアカマツ針葉のヘアクリップに一瞬 目をやると、舞台の中央へ。
「今春の桜も、見事ですね。
宴の舞台も整い、皆が健在であることが善く伝わります。
此度の、春の訪れを祝う宴。
皆と共に、心行くまで 楽しみたいと存じます。」
無表情ながらも、慈愛に満ちた眼差しで皆に そう告げると、峰乃 赤松は、舞台の前の主賓席に着席。
続いて とっちも舞台を降り、主賓席の隣で山桜とともに、引き続き進行役を。
大風や樹々のざわめきも落ち着きを取り戻し、桜吹雪が美しく舞い散る中、いよいよ舞いの披露が開演となった。
「それでは、宴の本番! 舞いの披露に移りたいと思います!
なお、皆様ご存知の通り、この舞いの披露は 山祭りでの舞い手の一次選考を兼ねております。
峰乃 赤松様が、舞いの優雅さなどを審査なされ、宴の最後に審査結果の発表とさせていただきます。」
「……皆様、もう お待ちかねの ご様子ですので、早速 最初の舞い手に ご登場頂きましょう!!」
「いきなり、大人気アイドルが降臨っ! 『紅葉と楓』!!
曲は、昨秋のライブツアー『もみじがり』でも大人気の、この曲!
『 め い ぷ る ★ り ~ ふ 』!!」
観客の大きな拍手と大歓声に迎えられ、紅葉と楓、登場っ!!
舞台を縦横無尽に動き回るフォーメーションや、ステージ前端まで出てファンサービスする振り付けは、日頃のライブパフォーマンスそのもの!!
紅葉は、活きの良い元気な振りで。
楓は、しなやか かつ 若さあふれる振りで、広げた手のひらを、2人で左右対称に動かす。
そして…… 曲のサビでの、決めポーズ!!
「みんなぁ~、いっくよぉ~!!」
「みなさん…… ご一緒に! せぇ~の!!」
「 め い ぷ る ★ り ~ ふ !!」
客席までも巻き込むド派手なパフォーマンスに、宴の盛り上がりはすぐに最高潮を迎える。
これには、常に無表情な峰乃 赤松も、思わず拍手を送るほど。
「みんなぁ~! 今日は、ありがとー☆」
「みなさん。。。 今日は、ご声援…… ありがとうございました……!!」
「もーみじ! かーえで!」
鳴りやまない拍手と、紅葉・楓コールの中、とっちは、次の舞い手を ご紹介。
「みんなぁ~! 盛り上がってるかぁ~ぃ!!?」
……紅葉と楓の直後に登場するのは、とても勇気が要りますが。
どうか皆様、温かいご声援を、よろしくお願いしますね!」
「……続きましては! 山桜流の元気娘!!
『寿美』の、ダイナミックな舞いを、ご覧下さい。
お題目は、『天仰 ~てんをあおぐ~』!」
寿美の、ケヤキ特有の樹形を活かしたダイナミックな舞いに、客席の熱気は冷めやらぬまま。
両手を広げ、分枝 ★2 は天を仰ぎ、全身を揺らす、舞い。
不動に近い足の運びを補って余りある、上半身の振りは、勢い余って葉を小枝ごと飛ばす ★3 ほどに!
「次の舞い手は、とっちダンススクールより…… 『一葉』!」
「銀杏屋の看板娘が披露するは、エントリー中で唯一となります、自らの葉を舞踊の道具として使う、舞い!
『革新的な振り付けが評判の とっちダンススクール』と、『アバンギャルドで有名な、私の山桜流』との、対比も 見ものです。
お題目は…… 『扇子の舞い』! では 一葉さん、どうぞ!」
舞台上は 一転して、静かで優雅な 一葉の舞いへと。
しずしずとした足の運びで、舞台上を 右へ、左へ。
両腕の、円弧を描く 振り様は、その先に持った自らの葉を模した扇子を、より綺麗に見せている。
美しく翻る扇子と その舞いは、桜吹雪と相まって幻想的な光景を演出した。
「再び、山桜流からは…… 『ふたば』!!
その若さ溢れる力強い舞いは、私達に元気をくれます!
お題目は、『力枝』!!」 ★4
拳を天に突き上げ、ふたばが舞台の中央へ。
「ズン!」と足を踏み鳴らし、仁王立ちで、根の張りを表現!
上半身の振りは、アカマツの枝ぶりのごとく、力強く!
対して、しなやかに広げられた指先は天を仰ぎ、ヒラヒラと舞わせることで 風に揺れる針葉を表現した。
観客席の隣では、ボードの掲出から 宴を楽しむことにシフトした、めりあと こなたが、舞いの披露について話していた。
「『若手の成長ぶりにも、要注目です!』って、ホントだったわね。」
「こならちゃん。
前回では ふたばちゃん、メンタル面の弱さが出て、途中で舞いが止まっちゃったのよ。
寿美ちゃんも、持ち味のダイナミックさに磨きがかかって、すごく良くなったわ!」
「ほぇ~。 そんなことが あったんれすか。
でもでも、舞い手の みなさん、すごく上手なのれす!
ところで めりあさん、一次選考は だれが通るんれしょうか?」
「そぅねー。 まだ最後まで終わってないから、何とも言えないけど。
瑞貴さんと さくらちゃんの、どっちかじゃないかしら?
なんせ この2人は、別格だからね!」
「わたしも、そう思うのれす!
こないだ 披露稽古を見せてもらったんれすが、すごかったのれす!」
「あ、いぃなぁ~!
私、そのとき衣装合わせとかあって、見られなかったのよー。」
「さぁ! 宴は 早くも、クライマックス!
壱乃峰の 舞いのツートップこと、『瑞貴』と『さくら』!
実力者の ご登場です!」
「うぉぉ~~!!! 萌える展開、来たぜぇ~!!!」
「瑞貴さぁ~ん!! 美しすぎるぅ~!!!」
「さくらちゃぁ~ん! さ・く・ら!! さ・く・ら!!!」
めりあと こなたのおしゃべりは、観客の大きな歓声に、かき消されて。
宴の盛り上がりは、終演に向けて再び最高潮を迎えた。
「まずは…… 真打登場! 『瑞貴』!!」
「奥山流では 師範代クラスの実力を持ち、山桜流に入門して その舞いを昇華!!
風に身を任せた 優雅な古流らしい舞いの基本形は そのままに、枝を振り 若葉を風に乗せて舞わせる様は、必見です!!!
お題目は…… 『若葉の舞い』!!」
盛大な拍手に迎えられ、瑞貴は、舞台の中央へ。
すでに舞い始めているかのような その一挙手 一投足は、まさに 優雅。
瑞貴が深々と一礼をしたのを合図に、観客席は静まり返り、『若葉の舞い』が始まった。
しっかりと大地に根ざした足さばきは、ほぼ不動なれど、その僅かな動きに追随して、緋袴が風に揺れて。
白衣の袖は、しなやかな腕の振りに合わせ、枝葉が風になびくがごとく、舞う。
広げた掌と甲は、春の陽光に輝く若葉を表現しつつ、ひらり、ふわりと。
その、あまりに優雅で幻想的な舞いの光景に、夢見心地になっている観客に向けて、瑞貴は舞いにアクセントを。
自らの若葉を風に乗せ、桜吹雪と共に舞い散らせた。
桜色と萌黄色を背景に、紅白の巫女装束が、ひらり、ふわり。
瑞貴は、再度 深々と一礼して、舞いの終わりを告げるも、観客は未だ、夢見心地のままで。
少し遅れて、割れんばかりの 一層と盛大な拍手に送られて、瑞貴は、優雅に舞台を後にした。
「……早くも、最後の舞い手の ご披露となりました。」
「『伝説の舞姫 舞の再来』との呼び声も高い、『さくら』!
その人気と、舞いの完成度や表現力から、今春も大トリを務めます!」
「枝を優雅に振りつつ その花弁を舞い散らせる様は、まさに桜吹雪のごとく!
また、今春は さらに新たな舞いを取り入れたと、伺っております!
あぁ…… もぅ、こうしてご紹介してる私も、楽しみで仕方がありません!!
それでは 皆様、『これぞ、山桜流!』と言わんばかりの、優雅で可憐なさくらの舞いを、どうぞご堪能下さい!!!」
「お題目は…… 『桜の舞い』!!」
盛大な拍手と歓声と さくらコールに迎えられて、可憐な微笑みと優雅な出で立ちで、さくらは舞台上へ。
瑞貴に倣って 中央で深々と一礼をした後、舞台の風下側で桜吹雪を全身に浴び、『桜の舞い』は 始まった。
しゅるり、ふわり。 すすっ、とん。
純白の白衣の袖は、しなやかで優雅な腕の振りに合わせて。
鮮やかに映える緋袴は、足の運びに追随して、ひらり、ふわりと舞う。
すすっ、とん。 たんっ ととっ。
軽やかな歩調や軽快な跳躍は、春の訪れを喜ぶかのよう。
とととっ、とと。 しゅるっ、ふわり。 さわさわ、はらりはらり。
少し強めの、足の運びと腕の振りで、さくらは自らの花弁をも、散らし舞わせる。
くいっ、ふわり。 くるり、ふわっ、くるり、しゅるり。
片足立ちで身体を広げ、回転しつつ桜吹雪を身に纏う舞いは、春の陽光への感謝と、咲き誇り舞い散る花の美しさを表現。
新たに取り入れた この舞いには、皆大きな拍手と喝采を。
そして それは止むことはなく、さくらが舞台を降りてからも、しばらく続いた。
舞台上には、再び 全ての舞い手が揃い、客席からは一層 大きな拍手が。
峰乃 赤松、舞台上へ。
宴のフィナーレとして、舞い手全員による 『春の舞い』が舞い踊られる。
「共に舞う、『合わせ』。
舞い手の協調性や、森の調和までもが、解ってしまうのですよ。」
「そして、お見せしましょう。 神事の、舞踊の完成形を。
皆、精進するが善い。」
舞いの中盤、注意していないと聞こえない程の小声で そう独り言ちると、峰乃 赤松は、舞台の中央最前へ。 その、完成された あまりにも優雅で神々しい舞いは、観る者 全てを魅了した。
舞うことを忘れて、棒立ちになる者。
舞踊の完成形を会得しようと、振りを真似る者。
共に舞いながら、あの頃を懐かしむ者。
やがて、観客も一緒になって 皆で舞い、春の訪れを祝う宴は、終演を迎えた。
「……名残惜しいですが、ここで、山祭りの舞い手 一次選考の審査結果を発表して、宴の終了とさせて頂きたいと思います。
それでは、峰乃 赤松様。 どうぞ宜しくお願い致します。」
「うむ。 今春は…… 瑞貴、さくら!!
枝葉の振りが、優雅。 舞いも、美し。
皆も、精進せよ!」
「はい! 峰乃 赤松様、有難うございました!
皆様、お聞きの通り(私が思った通り)、瑞貴と さくら、実力者同士の一騎打ち! となりました!!」
「なお、これから夏季の枝葉の成長や茂り具合を、峰乃 赤松様が ご覧になり、葉の舞いの二次選抜がされます。
そして、山祭りの前日に、結果発表!
その祭典で 舞台に上がり、『木の葉の舞い』の舞い手となるのは…… 瑞貴か!? さくらか!?」
「皆様! 山祭りを、お楽しみに♪」
【5話 注釈】
●6 〝大平岩〟
その昔に起きた災厄『大崩落』にも耐えた、巨大な一枚岩。
その名の通り テーブル状で横長の平たい形をした岩で、現在は、山祭りなど神事の舞台として使われている。
大平岩の壱乃峰側には、大崩落からの復興記念植樹として、桜の並木が半円状に植樹されている。
●7 〝壱乃峰〟
大平岩の西側にそびえ立つ、東谷で最も高い峰(1111m)。
その北側には、弐乃峰(1022m)、参乃峰(1003m)と峰々が連なり、また、東谷川の水源ともなっていて、すり鉢状の東谷の地形を形成している。
壱乃峰の中腹は大崩落によって崩れ、流出した土砂が堆積した箇所は、現在の 中腹の緩斜面となっており、本作のキャラ達が活躍する舞台とした。
頂上付近には 峰乃 赤松が生立していて、峰の上部はブナやトチノキの高木が生い茂る豊かな天然林、中腹に至る 大崩落を免れた箇所にはスギ人工林やコナラ林、ホオノキ巨樹などを見る事が出来る。
★2 分枝:
ケヤキの幹は、半ばから 樹冠に向かうにつれて枝分かれするため、まるで天に向かって掌を広げたような樹形になります。
寿美の舞いは、その樹形をヒントにしています。
★3 葉を小枝ごと飛ばす:
ケヤキは、その種をつけた枝先の小枝ごと切り離し、葉を風に乗せて遠くへ飛ばす習性があります。
そのため、まだ結実していない時期でも、葉が開いていれば 風の強いときなどに、葉の付いた小枝が飛ぶ様子を見る事が出来ます。
★4 力枝:
本来はスギの枝打ちの話なのですが、『太く、瑞々しく、葉が茂り、生命力に溢れる枝は、落としてはならない』とされていて、力枝と呼ばれます。
もし力枝を切除してしまったら、樹勢が衰え、成長を阻害し、良木に育つことが出来なくなるそうです。
また、断面積の大きな切り口からは雑菌が入りやすくなり、幹の内部が腐ったり、下手をすればその木が枯死することもあり得るそうです。
作中では、アカマツ(ふたば)の 「力強い枝」の事を表現していますが、力枝は、樹の生命活動にとって重要であることも、合わせて述べておきます。
【キャラクター紹介】ソメイヨシノ(桜)の樹に宿る精霊『さくら』
『樹々は唄い、風に舞う』第一部 ~樹々の恵み編~
5話【桜の舞い】
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
特典としまして、各話の末尾にて【キャラクター紹介】を掲載しますので、合わせてお読み頂ければ幸いです。
ここでは、これらのキャラ設定で出てきたアイデアを簡潔にまとめて、キャラ名と由来、モデルとした樹種、木彫り彫刻キャラ作品画像、作中でのキャラ紹介の順に、掲載してあります。
それでは、作者が頭を痛めて生み出したキャラ達と、魂を削って彫り上げた彫刻作品を ご覧くださいっ!
『さくら』
キャラ名そのまま。
・モデル樹種: ソメイヨシノ(桜) Prunus x yedoensis
山中に自生したソメイヨシノとして、キャラをイメージしました。
どうしても桜キャラを登場させたくて、本編に〝桜の舞い〟のエピソードを追加して さくらを活躍させることにしたほどの、思い入れの強いキャラです。
桜吹雪の美しさや、枝葉の優雅さで我々の目を楽しませてくれる事を、キャラ設定に。
さらに、花や葉や実が 森の恵みとなる事も、本編で描写しています。
・キャラクター紹介:
『可憐な少女』とよく言われ、美形で大人びて見えます。
14歳のわりには 落ち着いた性格で、とても丁寧な話し方をします。
舞うことが大好きで、大得意。
母の山桜は、舞いの『山桜流 枝葉舞派』の家元です。
さくらの、巫女装束で舞い、回転に合わせて白衣の両袖と緋袴が揺れる様は、『優雅』の一言に尽きます。
楽しく舞う表情も素敵で、〝桜の舞い〟では大人気の舞い手です。
また、とっちの事務所に和服モデルとして所属していて、めりあと人気を二分しています。
・衣装やルックス:
表情は、峰乃 赤松が、幼く明るくなった感じで、髪型も峰乃 赤松そのままです。
神事では、専用の巫女装束を着用します。
高位な巫女にのみ許される〝前天冠〟と〝千早〟は着用しませんが、代わりに白衣と緋袴がよく目立っています。
特に後ろ姿では、千早に隠れていた、緋袴の腰帯部分の装飾を見ることができます。
また、髪留めの水引の装飾は控えめで、白衣の袖や緋袴の腰帯も適度な長さとなっていて、舞う際には絡まず程良く広がるようになっています。
14歳 身長147cm
6話【新緑の壱乃峰で】に、続きます。。。
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