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3話【こなた、東谷街道へ。】『樹々は唄い、風に舞う』第一部~樹々の恵み編~
3話【こなた、東谷街道へ。】
しゅるっ、ふわり、たん、ととっ。
すすっ、とん。 くるり、ふわっ、しゅるり。
他には誰も居ない お稽古場は、さくらの独り舞台。
静寂の中、さくらの足音と、舞い専用の巫女装束の衣擦れの音だけが、響いていた。
少し薄暗い、板張りの お稽古場の中、さくらにだけ ぼぅっと照明が当たっているかのように、巫女装束の白衣がひらり、ふわりと舞っている。
鮮やかに映える緋袴は、さくらの足の運びに追随して、朱色の腰帯や白衣の袖と共に、ひらり ふわりと舞う。
そして その表情は、とても穏やかで、自然にこぼれる可憐な微笑みは、舞うことが本当に大好きな さくらの心情を、よく表していた。
ここは、さくらの母 山桜が興した、『山桜流』の舞いの お稽古場。
とても大きな山桜の樹の根元、街道に面した部分は大きな樹洞になっていて、舞いを披露する際には、そのまま街道から見える舞台ともなっている。
しかし今は、桜吹雪に彩られた障子で ほぼ閉め切られ、さくらの、未だ お稽古中の未完成の舞いは、おいそれと見る事は出来ない。
萌え出る葉の芽吹きと 未だ5分咲きの山桜の樹を、目印に。
こなたは、約束していた 一葉の銀杏屋と、さくらの舞いの お稽古を見に行くため、東谷街道を、てくてくと。
片手に いつものスケッチブックを持って、お絵描きの題材も探しながら、てくてくと歩いている。
「お花が いっぱいの東谷街道、きれいだなぁ~!
この とても大きな山桜の樹が、さくらさんの おうちで…。」
「一葉さんの…… あった! 『銀杏屋 ひがしたに』だぁ!
すごい にぎやかだなぁ。。。
一葉さん、いそがしそうだから、さくらさんの おけいこ見てから、帰りに寄ろぅっと。」
その店先で、こなたは くるりとターンして、てくてくと。
とても大きく とても達筆で『 山 桜 流 』と書かれた看板を、目指して。
「……あれぇ!? 閉まってる。
さくらさん、今日は おけいこ、お休みなのかなぁ。。。
ごめんくださぁ~い。 さくらさん、いらっしゃいますかぁ?」
少し隙間の空いた、桜吹雪の障子の前で、こなたが さくらを呼んでみる。
「……もしかして、こなたさん…… ですか?」
スッと障子が開き、お稽古用の巫女装束を身に着けた さくらが、顔をのぞかせた。
「あらあら、ごめんなさい。 いま、舞いの お稽古してて。
まだ未完成だから、外から見えないようにしていたのよ。
ちょうど休憩に入ったところだから、どうぞ上がって下さいね。」
「まぁ! 栃実の言ってた通り、ほんとに可愛らしい娘。
あなたが、こならちゃんね。
すぐにお茶にしますから、上がってお待ち下さいな。」
と、さくらの様子を遠巻きに眺めていた山桜は、こなたの姿をチラリと見ると、すぐに家の奥へ。
お稽古場の隅にある休憩所で、さくら と こなたが、舞いの お稽古について あれこれ話していると、山桜が 自慢の桜茶を持って来た。
「さぁさぁ、おあがり下さいな。
こならちゃん、この娘は本当に舞いが大好きでねぇ。
素質も感性も集中力も抜群で、『伝説の舞姫 舞の再来』とまで言われているのよ。」
「いえいえ、私なんて、まだまだ。
舞様の お足元にも及びませんわ、お母様。
こなたさん、今日は舞いの お稽古、見て頂けるかしら?
まだ未完成で申し訳ないですけれど。」
「もちろんれす!
あと、できれば、絵に描いてみたいと思ってるんれすが。。。」
「あらまぁ! さくら、素敵な申し出ではありませんか!!
こならちゃん。 どうぞ、見学しながら、描いてって下さいな。
お稽古の合間には こうして休憩も入れますから、その頃合いにでも出来た絵を さくらに見せてやって下さいな。」
「こなたさんは、宜しいかしら?
あと、舞いの最中は、すごく集中していますから、あまりお構いできなくて申し訳ないのですが……。」
「宜しくてよ。
さくら、こならちゃん。
舞い手と絵描きは、互いの舞踊と作品で、語り合うものですのよ。」
「では、そういう事で。
私はこれから、栃実……。
いえ、あなた方の言う『とっち社長』の処へ参りますから。」
「行ってらっしゃいませ、お母様。
とっち社長にも、どうぞ宜しくお伝え下さいませ。
……では、こなたさん。 私達も、始めましょうか。」
「はいなのれす!」
いつの間にかペンを持ち、開かれた こなたのスケッチブックには、すでにさくらの表情や巫女装束の下描きが描かれていた。
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「こなたさん、お描きになるのでしたら、どうぞ こちらへ。
舞台で舞う際は、こちらが正面となりますから。」
と、さくらは こなたを、桜吹雪の障子へと誘う。
休憩の間は換気のために開かれていた障子は、スッと少しの隙間を開けて、閉じられて。
静寂の戻った お稽古場には、ひとりの舞い手と、ひとりの絵描きが。
すすっ、とん、くるり、ふわっ、しゅるり。
ささっ、かりかり。しゃしゃっ。
しゅるっ、ふわり、たんっ ととっ。
すーーっ、しゃっしゃっ、ぴたり。 かりかりかり、さっしゃっ。
2人の魂の会話が終わる頃には、街道の人気も まばらになって。
さくらの舞いに、強いインスピレーションを受けた こなたが描き上げた、ラフ画。
それを見て、自らの舞いの完成度に さらに磨きをかけるべく、こなたに感想を求める さくら。
互いの心の距離は すぐに縮まって、すでに友情を超えた信頼関係までもが、芽生えようとしていた。
「……これから、一葉さんの処へ…… でしょ?」
「はいれす。」
「絵が完成しましたら、どうぞ またいらして下さいね?」
「もちろんれす!
今日の この大切なひとときと、わたしの想いを込めた絵を さくらさんにお見せするために、がんばるのれす!」
「ふふっ。 楽しみにしておりますわ。」
さくらは、これまでにない程の、可憐で優雅な満面の笑みを こなたに見せると、こなたを一葉の処へと送り出した。
そして こなたは、また てくてくと。
今は客足の落ち着いた、『銀杏屋 ひがしたに』へ。
その軒先では、和服をセパレートタイプにした二部式姿の一葉が、陳列棚の整理をしているところだった。
「 い ち よ う さぁ~ん!! こなられす!」
「いらっしゃいませ! わぁっ こならちゃん、来てくれたんだぁ!!」
「はいっ!! なのれす!
さっきは おいそがしそうれしたので、さくらさんのところへ行ってたのれす。」
「お心遣い、有難うございます。」
「ほぇ?」
「ありがとう、ね! こならちゃん。
どうぞ、こっちに座って。 すぐに持って来るからね!」
店先に設けられた、簡易な食卓と長椅子。
『銀杏屋 ひがしたに』では、銀杏の栽培と仕込み、樹々の恵みや山の幸との交換は もちろん、自慢の銀杏をより美味しく提供できるよう、茶店とも呼ばれる試食コーナーも設けられていた。
ぱたぱたと草履を鳴らして店内に戻った一葉は、すぐに しずしずと、お茶と定番の『炒り ぎんなん』、そして現在試作中の新メニューである『きんちゃん』を、お盆に乗せて持って来た。
「こならちゃん、お待たせ!!
こちら、当店で一番人気の『炒り ぎんなん』。
こちらは、新メニューの『きんちゃん』になります。
どうぞ、味わってみてね!」
「ありがとう なのれす。 さっそく、いただいてみるのれす!」
まずは、『炒り ぎんなん』を、ひとつぶ パクリ。 もぐもぐ。
「ふもふも…… ふぅん!! ふんごく おいひいのれふ!!!
いひようはん、こっひの『ひんひゃん』は、何なのれふは?」
「わぁっ! ありがとう、こならちゃん!!
……でも、ちゃんと食べてから、お話ししようね。」
「ふぁい。」
「『炒り ぎんなん』は、文字通り 殻付きのまま炒ったものね。
ウチでは、殻は もちろん、中の薄皮まで取って お出ししてるわ。
うすく緑がかった黄金色の、つややかな丸い大粒が、ウチの ぎんなんの売りよ!
見た目からして、美味しそうでしょ!?」
目をキラキラ輝かせながら、愛おしそうに銀杏の説明を始める 一葉。
「でね、こっちの『きんちゃん』は、いま試作中の新メニューね。
いろんな ご意見を頂いて、いろいろ試してるところなの。
火を通した ぎんなんと山菜の刻んだものを、お揚げの中に入れて、ぐつぐつ煮るの。」
「お揚げの口をしばった形が まるで巾着みたいだから、巾着ぎんなん。
商品名としては長過ぎるから、縮めて『きんちゃん』にしたの。
どうぞ、食べてみて。 お出汁が中までしみてて、美味しいよ?」
「はい! いたらきまふなのれふ。。。 ふもふも。
ふぉっひの『ひんひゃん』も、ふんごふ ほいひいのれふもふも……。」
「ゆ…… ゆっくり味わってからで良いのよ、こならちゃん。。。」
「ふもふも。」
今度は ちゃんと食べてから、『きんちゃん』の感想と、銀杏を頂いたお礼を一葉に。
そして こなたは、小皿に盛られた 残り4粒の『炒り ぎんなん』を じっと見つめ、サラサラとラフ画を描く。
その様子を間近で見ていた一葉は、こなたにひとつ、イラストを描いてもらう事を思い付いた。
「こならちゃん、前にも見せてもらったけど、本当に絵が上手よね。
実は、ひとつお願いしたいんだけど、良いかな?」
「ぎんなんの、絵れすか? もちろん、よろこんで描かせてもらうのれす!」
「ありがとう!
……今ね、イラスト入りのメニューを作ることになっててね。」
「私、唄や舞いは とっち社長のとこで お稽古してるから少しはできるんだけど、絵を描くのだけは苦手で。
でね、ウチの人気3品の、『炒り ぎんなん』と『揚げ塩まぶし』に『茶碗蒸し』、それから『きんちゃん』の、イラストを描いてもらいたいのよ。」
「おまかせください! なのれす。」
「助かったわぁ! 本当にありがとうね。
じゃ、『揚げ塩まぶし』と『茶碗蒸し』、すぐに持って来るから!」
もう一度、ぱたぱたと草履を鳴らし、そして しずしずと、お盆を持って戻ってくる、一葉。
「ごめんね、ぎんなんは一度に たくさん食べると良くないから、これは お見せするだけね?」
と こなたに言い残し、お客さんから尋ねられた商品の説明をするため、一葉は陳列棚へと戻ってしまった。
こなたは、そんな働き者の看板娘の後ろ姿と、メニューイラスト用のラフ画をサラリと描き上げ、さくらにも言ったように
「完成したら、お見せしますのれす!」
と約束して、帰り道の街道を てくてくと。
夕暮れの迫った街道沿いの山や峰は、歩きながら物思いにふける こなたを手助けするかのように、静まり返って。
こなたは、今日の とても印象深い出来事を振り返りながら、考えを巡らせていた。
「一葉さんも、山桜さんも、さくらさんも。
そして、瑞貴さん、とっちさんに…… のりあさんも、めりあさんも、紅葉さんと楓さんも。
みんなみんな、自分が大切にしてる事や、森のめぐみに、いっしょうけんめいなんだなぁ……。
すごく、すてき。」
「わたしにも、何かできること、あるのかな?
わたしも何か、がんばりたいな。。。」
「……って、あぁ! そっかぁ!!
さくらさんと一葉さんの絵を、描き上げること。
それが、今のわたしに、できること!
……がんばらなくちゃ!!」
とても晴れやかな 明るい笑顔で、夕焼け空を見上げながら。
「うん! わたしも、がんばらなくちゃ!!」
と、こなたは 繰り返して。
てくてく てくてくと、東谷街道を後にしたのでした。
【キャラクター紹介】コナラの樹に宿る精霊『こなた』
『樹々は唄い、風に舞う』第一部 ~樹々の恵み編~
3話【こなた、東谷街道へ。】
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
特典としまして、3話以降は、各話の末尾にて【キャラクター紹介】を掲載しますので、合わせてお読み頂ければ幸いです。
ここでは、これらのキャラ設定で出てきたアイデアを簡潔にまとめて、キャラ名と由来、モデルとした樹種、木彫り彫刻キャラ作品画像、作中でのキャラ紹介の順に、掲載してあります。
それでは、作者が頭を痛めて生み出したキャラ達と、魂を削って彫り上げた彫刻作品を ご覧くださいっ!
『こなた』
キャラ名は、樹種名の〝発音〟から、発想しました。
幼い娘が「こなら」と発音するなら…… キャラ名は『こなた』になるでしょう。
・モデル樹種: コナラ(小楢) Quercus serrata
ドングリをつける樹種から、最もポピュラーと思われる、コナラをチョイス。
コナラの樹は、初めて実をつけるのが 最短3年、植えて育てたら10~15年で実がなることから、作中では11歳で〝初結実〟を迎えた、というキャラ設定をしました。
![](https://assets.st-note.com/img/1718524899223-aoFexAMxgv.jpg)
・キャラクター紹介:
壱乃峰の、みんなの中では最年少で、今秋 初めてドングリを実らせます。
のちのち 木の実を振舞うために頑張る健気な性格で、手のひらに乗せたドングリを「どうぞ♡」ってゆってるポーズが 人気です。
名前は『こなた』だけど 舌たらずのしゃべり方で「こなら」と自己紹介したので、みんなから「こならちゃん」と よくゆわれます。
そのたびに「こならは、『こなら』なのれす!」って ゆってる気がします。
ドングリについてる帽子みたいなベレー帽がお気に入りで、実は絵を描くのが得意、丸いものが大得意です。
ちなみに、作中の挿絵イラストも、こなたが描きました。
・衣装やルックス:
ベレー帽を ちょい斜めにかぶり、濃色ロングTシャツの上に淡色Tシャツ。
ダボっとした ヒザ上までの カーゴタイプの白い短パン姿。
靴はスニーカー。 髪型はショートボブ。
タレ目でよく笑う表情は、『幼い可愛らしさで、満ち満ちている』と よくゆわれます。
11歳 身長145cm
4話【舞いの家元、山桜流】に、続きます。。。
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