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愛国戦士 鯨(14歳)
中学生の僕は愛国戦士であり、正義の体現者であり、ネトウヨ(インターネット右翼)でした。
父親がくれた型落ちのノートPCのせいで、小学生ぐらいからインターネットに触れていたのですが、本格的にネットに浸るようになったのは中学二年生。
iPod touchを買ってもらった事で、ニコニコ動画を見れるようになったからでした。
当時のニコニコ動画は会員制だったのですが、メールアドレスを持ってなかった僕は断念。YouTubeでコメ付き転載動画ばかり見ていたのですが、iPod touchはsafariのメールアドレスを最初から取得できるので、僕はようやく夢のニコニコ動画に足を踏み入れました。
ゲーム実況者に影響を受け、話し方が真似てみたり。カゲプロに影響され、フードをかぶり、くっせぇイラストを落書き帳に描いていたりしましたが、何より一番強い影響を受けたのがネトウヨ系のニュース動画でした。
もちろん、当時は政治のせの字も知りません。最初は単なるニュース動画だと思い、総合ランキングに乗っていた適当な動画を視聴しました。
それが僕の”覚醒”です。
日本国旗をバックに、シュッとした若い男性(何となく僕の中で、ニュースや政治を語る人は年寄りのイメージがあった)が語る内容は、僕の琴線に触れるどころか、がっしりと掴んできたのです
その名を「KAZUYA CHANNEL」
未だに細々と活動している(っぽい?)右翼系配信者です。
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やれ隣国は、とても悪辣な行為を日本にしているだ、北方の国は日本固有の領土を占領して、実行支配されたら国連も文句言えないだの、戦時中に起きた虐殺は誇張されている、だと言うのに賠償金を払わされている。
彼の語る真実は、少し前に流行った字幕が上から流れるだけの動画や、今でいうゆっくり解説系と同じような内容だと思って構いません。
ネットde真実ですか……と冷笑してしまうような内容でも、当時の僕にとっては天地がひっくり返るような衝撃で、まさしくコペルニクス的回転でした。
おそらく僕は、地動説を知ったラファウと同じ顔をしていました。
虐殺は無かった?
実はGHQと他の隣国のせいで、この国は疲弊している?
美しい国ニッポンと優性民族大和?
なんてこった。本当だとしたら、僕はこれらの主張を……。
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それからの僕は……いや、愛国戦士 鯨(14歳)はインターネット右翼として、片翼のまま広い大空を羽ばたく事となりました。実質セフィロス。
もちろんKAZUYAの動画には毎回賛同のコメントを残し、テレビで放送されるニュースを呑気に受け止める母親に対し「可哀そうに、真実を知らないから呑気な顔で見ていられるんだ」と冷笑するようになりました。
大人になったら靖国に参拝するつもりだったし、学校で歴史教育を受けた際にも、わざわざ反論する事はありませんでしたが、内心では「真実は違うんだよな。まぁ、知らないのも無理はないが」と後方覚醒者ヅラしていました。
幸運だったのは、政治系の話題をする友達が周囲にいなかったことです。
僕の中で政治系の話題は憚られるという常識が残っていた事、クラスメイトにミリオタ(かわぐちかいじ とか好きそう)がいなかった事。
どちらか異なっていたら、僕はもっと違う人生を歩んでいたのかもしれません。
夢の終わりは15歳。中学を卒業する前ぐらいだったと思います。
それは邯鄲の夢のようにあっという間で、泡が弾けるようなものでした。僕はKAZUYA以外の右翼系メディアに手を出します。他の情報も知りたかったのです。
彼の者は言います。
「そなたらに告ぐ、南京大虐殺の噂は虚なり。日本の民は無垢の者を一人と害さず、むしろ慈しみと正義を求め、平和を守る民なり。」
それに対し敬虔な信徒である、クジランティヌスはこう思ったのです。
「それは流石に無理あるくねー?」
彼らは虐殺は嘘で1人も民間人を殺してないって言ってて、僕は流石にそれ無理あるだろと思ったのです。でも動画のコメント欄は賛同の嵐。
いやいや、ちょっと待てと(松本人志)
一度熱が冷めると、もう元には戻れません。
粗は沢山見つかるし、なんかノリはキモいし、そもそも世の中って悪と正義の二元論で語れないからこんなに面倒くさいわけで、作為的に簡略化しようとする右翼メディアは、合理的に見えない。
そういう観点から言えば、あまり美しくはない。
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今にして思えば「KAZUYA CHANNEL」自体は、そこらへん上手くやってたと思います。
南京大虐殺は誇張だけど少しはやってたかもね、みたいな主張だったので。
後から知ったのですが、KAZUYAは右翼界隈からはビジネス右翼と言われ、右翼系ニュースが儲かるからやってるだけのパンピーみたいな評価のされ方でした。そりゃ大嘘はつけないって。マトモなんだもん。
なので僕はネトウヨ故のやらかし、みたいなのは殆ど無いです。内に秘めていただけで、表に出すことはほぼ無かったので。
でもこの体験はワクチンのように体に残ってて、陰謀論にハマることもありません。そう考えるとネトウヨになっていて良かったかも。
ありがとうKAZUYA。そしてRIP。
貴方は私の幼年の師であられた。