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「せつなときずな」第50話


刹那は注意深く、自分の人生を謀り続けた。

「子どもは好きじゃないでしょ」と看過された杉山とは、ある意味公私共のパートナーであった。
刹那にとって子どもとは、身勝手で頭が悪く、脆弱で依存を求める非論理的な存在だったが、仕事において、それはサービス業と割りきるだけの度量は持ち合わせていた。
杉山と一緒だ。

「好きか嫌いかではなく、そこにニーズがあるかないかだ」
行為の最中はいつも、理屈を耳元で囁きながらの糞変態男を、刹那は楽しんだ。

「本来このエリアで必要なのは保育園ではなく、一時託児所だ。
一宮から名古屋に出勤するワーキングママにとって、駅前の好立地に子どもを託せる施設こそが必要だった。

保育園は姉貴のために作ったが、それを回していくにはもう一本柱になる事業があった方がいい」

数年前に黒猫を畳んだ美緒さゆりが施したピアスをまとった刹那は、美緒と三人で愉しむ機会を持たぬまま、美緒が姿を消したことを惜しんでいる。
杉山と性交する時は、胸に鈴の付いたピアスを付ける。
杉山は音フェチで、キスや口淫の音を好む。
行為の最中、鈴が鳴るのことに興奮する杉山を弄ぶ刹那は、その音を聴く度に美緒を思い出す。
一度でもいいから、あの美しい唇を血が出るまで吸ってやりたかった。

あの女は、私を人身御供にすることで杉山の元から消えたのかもしれない。

保育士の資格を取るためにハニーぶれっど保育園に移籍した刹那は、今は園長の杉山佳純の下で働いている。
あなたの弟にこんないやらしいことをされて歓んでいる女ですと言いたくなるのを堪えるのが、また愉しい。
私は、もうどうかしている。

自分で望んだのだ。
この下らない世界でまともに生きていくことが、もう私には困難に思えた。
普通でいたくなかった。
何も才能がない私が、普通でない人生を送るなら、一体どうしたらいい?

それは向こうからやって来たのだ。
私は、目の前の機会を離さなかっただけだ…

絆は小学生3年生になっていた。
刹那は、杉山と関係を持つことを選択した時から、絆を飼育すると決めた。
母子家庭であることを理由として、絆に親に頼らず自身で生活ができるように誘導していく。
そのために、小出しに自尊心をくすぐるように可愛いがり、母親以外の異性は意識から排除されるように目配せした。

依存と支配で、絆の自意識を刹那中心に持っていく。
この謀りごとは、杉山にも秘密の、刹那の人生を賭けた罪だ。

何故?
何故私は、自分の子供ですら共犯者に仕立てようとするのか。

絆は、罪の子だ。

公彦の罪を背負って生きていく、罪の子なのだ。
私がそれを絆に思い知らせ、私だけが絆を救う。
他の誰にも触らせはしない。

そのために、極力お母さんからは離れなくてはならない。

絆が中学に上がる13歳の時、私はまだ32歳。
その日のために、私はきっちりと仕上げていく。

私は、どうかしている…

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