【完結編】いじめっこが膝から崩れ落ちた


それから超ウルトラライジングサンダーマウンテンゴリゴリラグビー部の小野寺と兄がハイパーダッシュヤンキーの五熊と3人でいる事が多くなった。

というのも小野寺とまともに喋れるのが私達2人しかいなかったのだ。


最初は、ラグビー部とヤンキーと仲良くなったのだから残りの2年間安泰だと喜んでいたのだが、やはり2人はいじめっこなのだ。

私がいじめの被害にあう事はないが、他の人がいじめられている時に「うわ、こいつと友達で同類と思われるの嫌やなぁ」と思うようになっていった。


五熊に関してはいじめっこ気質ではあるが理不尽に暴力で押さえつけるような事はしなかった。

例えば早口言葉を交互に言っていって噛んだ方がシッペをされるというゲーム(強制参加ではあるが)を提案して、その中で勝った時に本気でシッペをするというバラエティ性があるのだ。

そして、負けたらちゃんと自分も罰(シッペ)をうけるし、シッペされた時に「痛ったー、ガッツ(シッペをしたヤツの所属する柔道部の顧問)にちくってこよー」などというユーモラスな発言もあるし、周りの笑いもあるので参加させられた側も心底嫌がってはいなかったと思う。


その一方で小野寺に関しては前のように急に乳首を掴んで嫌がったら殴ったり、先程の早口言葉のゲームなんかにしても噛んでもみとめないし、認めざるを得ないぐらい噛んだ際は「(シッペ)やってみろよ」と睨みをきかせ、やった瞬間に「誰にシッペしてんのじゃー」と言うて普通に殴るという、ただただ殴りたいだけでユーモラスのかけらもないのだ。

だからもちろん周りも笑わないし、からまれた側は心底嫌がっていた。


しかもこのユーモラスのかけらもない人間小野寺は授業中や休み時間などボケ数がやたらと多いのだ。

はっきり言って全く面白くない。

しかし、笑わないとまた被害を受ける可能性があるので皆愛想笑いをするのだ。

彼が面白くないという事に気づいてはいけない。

そんな宗教のような空気だった。

私にはこの状況が地獄だった。

これだけならまだしも小野寺は人のウケたボケやツッコミをすぐにパクるのだ。

特に私はよくウケていた(ぐふふ💕)のでよくパクられた。

そして、パクって使いどころを間違えるのだ。


はっきり覚えている。

歴史の授業のことだ。

歴史の強面(こわもて)の先生はいじるほどではないが少し顔が大きかった。

パッと全身を見て顔デカイなぁとなるほどではない。

わざわざいじるほどでもないがまあ言われたらデカイのだ。

その先生が授業中に足を組んで授業を受けてる生徒に対しこう言った。

「足組むな偉そうに、デカイ顔しやがって!」

私は瞬発的に口を開いてしまった。

「誰が言うてんねん、先生の方が顔デカイでしょ!」

はっきりと言う。

爆笑だった!

確実に爆笑だったのだ(*☻-☻*)

この字面だけを見ると大して面白くないかもしれないが、その時の強面の先生が作り出す緊張感の中で完璧なタイミングだったのだ。

それにまだこの先生が顔デカイという事に誰も触れていなかったというのも新鮮で切れ味を生んだのだ。(本当なのだ、ここを疑われてはもともこもない、とにかく本当なのだ、中2やし。)


しかし、ユーモラスのかけらもない小野寺という男は何も分からず“顔デカイ”というワードだけをかっさらって使いどころを間違えまくるのだ。

なぜならユーモラスのかけらもないからだ。


次の歴史の授業の時に小野寺は私語で注意された後、先生にこう言った。





「顔デカイねん」





これはただの悪口だ。

これをボケたったみたいな顔で言うのだ。

もちろんただただ怒られていた。

次の英語の授業で全然関係ない『この空欄に当てはまる動詞は』みたいな時にも小野寺は「ビッグフェイス」と答えた。

もちろん面白くない。

全くお題にそっていない。

それでも今までの被害者達は愛想笑いをする身体になってしまっていたのだ。


私は何よりあの歴史の授業での私のユーモラスな発言がどんどん面白くないものに塗り替えられていくのと、これによりさらにおもろないボケ数が増えて愛想笑いの数が増えていくのが苦痛だった。

しかし、さすがの私でも小野寺に対して

「お前、おもんないで」

とはよう言えなかった。

さすがに可愛そうという気持ちと、さすがにこれは俺でも殴られるんじゃないかという恐怖からだ。


それから数日後のホームルームで、小野寺が部活で怪我をしたので病院に行ってから学校に来るため3限目からの登校になるという知らせが入った。

その日の1限目は英会話の授業で英会話室に移動した。

授業が終わり教室に戻る際に五熊が私にこう言った。


「前から思っててんけど、小野寺ておもんないよな?」






革命だった。


私はやはり私以外もそう思っていたんだという安心感と、勇気を出してそれに気づいてはいけないという空気感をぶち壊してくれた行為に感動すら覚えた。

私はこう答えた。

「そうやんな!全然おもんないよな!俺も前から思っててん!ほんであいつ人のパクっておもんない出し方するよな!」

そこから私と五熊の会話は止まらなかった。

テンションが上がり気がついたら2人共声のボリュームも上がっていた。

それを聞いた今までの被害者たち(ほぼクラス全員)も賛同して会話に参加した。

被害者A「やっぱそうやんなー」

被害者B「俺も前から思っててん」

被害者C「全部愛想笑いやしな」

止まらなかった。

そして被害者のうちの1人が私にこう言った。

被害者D「今までほんまに嫌やってん、頼む、助けてくれ!」

被害者一同「うぉーーー」



まるで映画で見たフランス革命のようだった。


私はとにかく思っている事を伝えるべきだと思った。

しかし口頭で誰かが伝えたら伝えきる前にまた被害にあいそうなので、これだけの人数がこう思っているんだという事を伝えるために1枚の紙に1人一言ずつ寄せ書き形式で伝えようと提案した。


何故か誰かが色紙をもっていて、あっという間に色紙が埋まった。


しかし問題は誰が渡すかである。

渡す人間が全員分の攻撃をうける事になるかもしれない。

結局誰が渡すかは決まらずにこの話は流れるんじゃないかと思ったが、その時1人の男が動いた。





柔道部の岡田だ。

彼は出席番号により小野寺の前の席という事もあり、1番被害を受けていた男だ。

彼は殴る蹴るはもちろんのこと携帯電話を壊されたり髪の毛を燃やされたりした事もあった。

そんな彼がこの大役を自ら引き受けたのだ。



そして、2限目の授業が終わりいよいよ小野寺が登校してくる。



教室内に緊張感が走る。



何も知らない小野寺が教室へ入って来た。



腹は決まっていたのだろう。

柔道部の岡田は躊躇することなく小野寺のもとへ行き

「見てほしい物があるんやけど」

と言い色紙を手渡した。



先程にもまして教室に緊張感が走る。



しかし岡田の漢をみた我々の腹もまた決まっていた。


何かが起きても全員岡田の味方だ。


すると色紙に目を通した小野寺は



「しょうもない事すんなやー」



そう言って走って教室から去っていったのだ。


数秒間の沈黙の後








クラス一同「うぉーーーーーーーーーーーーー!」


私たちは紛れもなく革命を起こしたのだ。





そして、3限目4限目と小野寺は現れなかった。


昼休みを挟み5限目の授業で担任の先生が教室に入って来た。





担任「今、小野寺のお母さんから学校に電話がありました。






小野寺が家に帰ってきて、玄関で“膝から崩れ落ちた”そうです。」





これを聞いて私は






暴力というのは弱いんだなあと思いました。





それともうひとつ









どんな報告やねんと思いました💒


           〜完〜















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