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『日常を眺めて』1通目by Χ #338

日常を眺めて』は、パーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designへ同じ時期に留学していたΧとkenkenが、ささやかな日常を留学生活の後日譚として語り合う交換noteです。

タイトルもテーマも曖昧なまま、見切り発車で始まるこの連載企画。私と同じ時期にパーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designに留学していたkenken(以後kenさん)と交換noteを始めることにしました。

不特定多数に向けて書いていくというよりは、お互いに生存報告の手紙を出し合うような心持ちです。kenさんも最近noteに記事を投稿し始めたということもあり、お互いに記事のネタを提供し合うというのも狙いで始めます。掲載頻度は未定ですが、それぞれが毎月更新(二人で月2本更新)するくらいを想定しています。


私とTransdisciplinary Designとの出会い

テーマは未定ではあるものの、私とkenさんは二人ともTransdisciplinary Design(略称はTD)という世界的にも珍しい学部で学んだという共通点があるので、Transdisciplinary Designを軸にやり取りできれば盛り上がると思います。たとえば、「なぜTDを選んだのか?」「TDとは何だったのか?」「TDはどう活かされているか?」といったことを書いていくのはどうでしょうか? というわけで、まずは私がTransdisciplinary Designと出会うまでを簡単に書いてみます。

私は高校の時に野球の戦略を統計学的に分析するセイバーメトリクスを研究していました(とあるコンクールで最優秀賞を取るくらいでした)が、「自分たちが勝って喜ぶようになった分だけ、負けるようになる他のチームが悲しむだけのゼロサムゲームではないか」と思うようになりました。

大学では工学を学び、テクノロジーで人類の幸せの総量を増やそうと思うようになりました。しかし、研究室で開発された最先端技術を使ってプロダクトやサービスを立ち上げるビジネス活動を通して、テクノロジーが必ずしも消費者の役に立つわけではないことを学びました。「では、人の役に立つとは何か? そもそも人を幸せにするとは何か?」と考えるようになり、そんな時に出会ったのがデザインでした。

テクノロジーの使い方をユーザー目線で考えるデザインを学びたいけれど、国内の大学・大学院はデッサンなど美術系の試験を乗り越える必要がある。海外に目を向けてみれば多様なバックグラウンドを受け入れる制度があるらしい。こうした試行錯誤の末に出会ったのがTransdisciplinary Designでした。

デザインにテクノロジーやビジネスを掛け合わせた学部は他にもありますが、Transdisciplinary Designはその掛け合わせる対象に制限がないことが魅力だと思います。これまで学校で学ぶ機会の少なかった人類学や心理学、哲学、宗教などに触れながら「幸せとは何か?」を探究することもできました。Transdisciplinary Designは自分の興味・関心を表すピッタリの表現であり、留学を通して大切なアイデンティティを手に入れることもできた気がしています。


「What is Transdisciplinary Design?」

でも、Transdisciplinary Designが自分にピッタリと言いながら、Transdisciplinary Designとは何かを説明できないことに悩んでいます(「Transdisciplinary Designを説明するのは難しくて」ともったいぶるのが心地良いというアンビバレンツな気持ちもあるのですけど)。

端的に説明できる常套句があれば便利なのですが、留学中に教わることはありませんでしたね。「What is Transdisciplinary Design?」と卒業式の日にも学生から質問がありましたが、最後まで先生から答えを聞き出すことはできませんでした。

ということで、ニューヨークを去った今も私たちは「What is Transdisciplinary Design?」という宿題を残したままなのです。そして、この宿題を一人で抱えるにはあまりも難しいし、あまりにも面白すぎる。だから、kenさんを道ずれ(?)にすることにしました。

私は修了制作の「How Zen Inspires Design Ethics」から引き続き仏教的な視点を参照しながらTransdisciplinary Designを語り直していくでしょう。kenさんもきっと自分なりに翻訳・再解釈するプロセスにいるはず。この企画を通してお互いのTransdisciplinary Design観を語り合いたいです。

もちろん、「What is Transdisciplinary Design?」という問いに対して正面から論じる必要はありません。きっと私たちが何か日常で気になることを書いた時、その文章には自然とTransdisciplinary Designらしさが滲み出るはずですから。肩ひじ張らずに、その時に感じていることや考えていることをお互いにシェアしていきましょう。この企画を通してTransdisciplinary Designに興味を持つ人が少しでも増えれば嬉しいですね。


「たった2年の留学だよ。」

「What is Transdisciplinary Design?」を語り合いたいと書いてみたものの、この謎を解き明かしたいとか、 Transdisciplinary Designを世間に広めたいという気持ちを全面に押し出した企画にしたいわけではありません。

ここで思い出すのは学部長のJohn Bruceが言っていた、彼の映像作品は出演者と関係性を生むための言い訳にすぎないということ。この企画も「What is Transdisciplinary Design?」に答えたいから始めるのではなく、この企画を通してkenさんと交流する機会をつくりたいというのが本音なのかもしれません。

以前もお話したかもしれませんが、私は進級、進学のタイミングで必ず友人と離れる人生を送ってきました。友人の喪失を繰り返す苦しみに耐えられなくなり、私は友人をつくらなくなりました。「どうせ別れるのなら仲良くしない。友人を作らなければ、この苦しみは味わうことはなくなる」と思うようになっていたのです。

でも、友人を失うのが苦しいのと同じように、友人がいないこともまた苦しい。だから、「どうせ別れるのなら仲良くしない」のではなく、「どうせ別れるからこそ仲良くする」と思うようにしたのです。そんな時期にTransdisciplinary Designへ留学することになりました。

私とkenさんの関係は、いわばたった2年の留学生活で同級生だっただけ。それでも、留学を終えた後も定期的に連絡を取り続けています。「What is Transdisciplinary Design?」の呪縛に囚われた者同士の縁をこれからも続けようと思うから、この企画を始めたのかもしれません。


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