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海外で学ぶ理由を振り返る ―ゼロから始めたデザイン留学— #207

最近、デザインについて書いた記事がnoteさんのマガジンに取り上げていただくこともあり、私の記事を目にしてもらえる機会が少しずつ増えているみたいです。私の記事を見つけてくださった皆様、ありがとうございます。

デザインにまつわる記事を書いているのは、私がパーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designや独学で得た知識を言語化して共有するためです。

ただ、留学を決めた理由についてはあまり書いていませんでした。そこで、自己紹介も兼ねて「なぜパーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designに留学しているのか」を書いてみることにしました。理由の説明には過去とのつながりを語る方法未来の目標を掲げる方法の二つがありますが、今回はその両方の視点から書いてみることにします。


なぜ、私はニューヨークにいるのか?

自分の進路がどうやって決まってきたのかを振り返ることで、私がなぜパーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designで学ぶことになったのかを振り返ってみます。

『ガリレオ』に魅せられて

デザインを学ぶ前は理系の世界にいました。その始まりは小学生の頃です。四年間クラス担任だった先生が理科の先生だったこともあり、理科が好きでした。ドラマ『ガリレオ』を見て福山雅治さん演じる湯川先生に憧れてもいました。科学が世界の全てを解明してくれると思っていました。

中高生の頃は、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)という理数系教育に力を入れるように国の制度で指定された学校に通っていました。私は理数系カリキュラムに特化したクラスに入り、数学の研究をしていました(ちなみに、この研究はある数学コンクールで最優秀賞を取りました)。

大学受験では工学部を志望しました。その理由は、当時『スーパープレゼンテーション』という番組でMITメディアラボが紹介されていて、エンジニアが未来を良くするというビジョンに魅了されていたからです。


工学とビジネスの限界を知る

大学で所属していた研究室は、学術的な研究を社会に還元することに積極的でした。そんな研究室で過ごした経験から、私は工学に加えてビジネスにも興味を持つようになります。

私が修士一年生だった時、研究内容をもとに商品(介護用おむつに装着する排泄物検知センサ)開発をするベンチャー企業を研究室で立ち上げることに。私はそのプロジェクトに学生ながら携わることになり、半年かけてプロトタイプ作成や特許出願などの準備をしました。その後、起業のプレスリリースをするとYahoo!ニュースのトップページに記事が掲載されたこともあり、誰もが知る有名企業からコラボのオファーが殺到しました。学生の身でありながらビジネスの世界を垣間見れたのは、貴重な経験です。

こうして商品化を進めていく際には、想定されるユーザーがその商品を使いたいと思ってくれるかどうかを確かめる必要があります。ということで、実際に介護施設でインタビューをしました。プロトタイプを紹介しながら話を聞いた時に「ハイテクかもしれないけど、導入したいわけではない」というフィードバックが私にとって印象的でした。その時、「テクノロジーやビジネスだけを学んでいても人の役に立つものはつくれない」と気づきました。

「人の役に立つものをつくるとは?」を考えていた時に出会った本が、佐宗邦威さんの『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』です。そこには、イノベーションはエンジニアリングとビジネスとデザインが組み合わさる必要があると書かれていました。エンジニアリングとビジネスを学んできたけれど何かが足りないと思っていた私は「その答えはデザインなのかもしれない」と思いました。そこからデザインの問題解決の力に惹かれるようになったのです。


日本でデザインを学ぶのは難しい

デザインを学びたいと思った時に、日本では美術大学に行くことが真っ先に思いつくと思います。ただ、美術大学に入るにはデッサンスキルを問われたり、ポートフォリオの提出が求められたりします。この条件は私のようなデザイン初心者にとっては厳しいものでした。

一方、海外に目を向けてみるとデザイン初心者にも門戸が開かれたデザインスクールがいくつも見つかります。たとえば、Stanford大学のDesign ImpactやAalto大学のInternational Design Business Management(IDBM)などの修士コースでは、工学の学士が出願要件となっています。

デザインやデザイン思考を学びたいならば、いっそのこと海外に飛び出す方がいいのかもしれない。こうしてデザインをゼロから学ぶために海外留学を選びました。


パーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designとの出会い

では、世界に数多くあるデザイン思考を学べる学校の中から、パーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designを選んだのはなぜでしょうか。それは私自身が「Transdisciplinary(分野横断的)」に興味があるからです。

もともと様々な学問ジャンルの本を読むのが好きでした。理系ではありましたが、科学系の専門書を読むだけでなく歴史や行動経済学などの専門家が書いた一般向けの本も読んでいました。どうやら私は、理系や文系という分類に関係なく人間が積み上げてきた知の全てに興味があるようです。

そんな私の興味とピッタリ一致したのが、Transdisciplinary Designでした。デザインとビジネス、デザインとテクノロジーを学べるデザインスクールはあっても、デザインとそれ以外の全てのジャンルを融合させようとしているのはTransdisciplinary Designしかありません。実際に入学してからは、デザインを学びながら、哲学、心理学、人類学、社会学なども学ぶことができて、自分の知的好奇心が満たされています。


以上のように、理系も文系も芸術系も学びながら、イノベーションに必要なエンジニアリング、ビジネス、デザインの三要素を全て身につけようとしてきた。それが私の人生であり、パーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designにいる理由です。


デザイン留学生としての私が担うミッションは?

こうしてニューヨークにたどり着いた私ですが、私一人の力で今のようにデザインを学べる状況になったわけではありません。これまでに出会った人や本など、その全てとの縁があったおかげで今があります。

これまで受け取った恩の大きさに気づいた時、それを返していくべきだと感じました。だから、その恩に報いる活動をしていきたいと思っています。そのために、今の私が掲げているミッションは大きく以下の三つです。

1. デザインを学ぶために海外留学を目指す人を助ける
2. パーソンズ美術大学で学んだデザイン論を日本に伝える
3. 日本でデザインを誰でも学べるようにする

『恩返しプロジェクト』

1. デザインを学ぶために海外留学を目指す人を助ける

いざデザイン留学を目指そうと思っても、どうすればいいのかを知れる情報源がまだまだ乏しいのが現状です。私自身、デザイン留学を経験した身近な人がおらず、誰にも相談できないままに留学準備をしていました。

そんな私が頼りにしていたのがnoteの記事でした。デザイン留学の先輩たちが準備の流れや留学先で学べることを書いていてくれたおかげで、その道を辿ることができたのです。だから、私が実際に留学をすることになったら、今度は私がその道をさらに歩きやすくするんだと決めていました。それがnoteを書いている理由です。

先日、私の留学準備を綴った記事を読んだ方から「参考になりました」というコメントを頂きました。まだまだ微力ではありますが着実に誰かのデザイン留学の役に立っていることを実感し、心の中で、いや一人部屋の中で実際にガッツポーズをしました。


2. パーソンズ美術大学で学んだデザイン論を日本に伝える

デザイン留学をするのは、私個人が社会的な成功を収めるためではありません。むしろ、日本人を代表して海外のデザイン事情を学び、その学びを日本に持ち帰って広めていくためです。

当時最先端の知識である仏教を中国で学び、日本にその教えを持ち帰った空海や道元。列強諸国に負けない日本にするために、欧米で学んだ明治時代の偉人たち。彼らは海外留学での学びを独占することなく、日本社会の発展のために活用しました。日本の歴史を振り返ると、海外で学んだ知識を日本に広めた人たちの功績があります。

私は彼らのように優れた能力はないけれど、彼らの精神に倣うことはできるはずです。デザイン思考発祥の地であるアメリカで学ぶからこそ身につくデザイン論を書き留めていき、いずれは体系化された方法論にまとめたいと思っています。


3. 日本でデザインを誰でも学べるようにする

デザインを学ぶためにわざわざ留学をして英語で学ばなくとも、日本国内で日本語で学べるに越したことはない。だから、私は学んだデザイン論をnoteに書いています。

でも、デザインとは知識を得て終わりではなく、デザイナーとしての考え方や生き方を身につける必要があるものです。だからといって、デザインを学ぶために海外留学が必須であったり、デザインを学ぶためにデッサンスキルが必須であったりするならば、限られた人しかデザインを身につけられないことになってしまいます。

そんな状況を変えるべく、日本にいてもデザイン初心者でもデザインを学べるようにしたいのです。このミッションを実現させる具体的なアイデアはまだ検討中です。大学にデッサンやポートフォリオがなくてもデザインを学べる学部をつくるのか。それとも、民間で学べる場を設けるのか。はたまたデザインを学べる本をつくるのか。何がベストな方法なのかはわかりません。でも、これからもデザインを学び続ければ、いつの日か名案が浮かぶ時が来るでしょう。


最後に

子供がなりたい職業ランキングにデザイナーはありません。私が子どもの頃にそうだったように、デザイナーの存在を知る機会が少ないからだと思います。これからの時代はデザインが必要だと言われながら、デザインを知る・学べる環境が整っていないのです。

だから、まずはデザインを学ぶために海外留学をする人をサポートする。さらに、海外での学びを日本に伝えることを個人レベルから始める。そして、いずれは日本で誰もがデザインを学べるシステムを構築する。この三つのミッションを一つずつ達成していくことで、デザインの認知度&地位の向上が実現すると思っています。

子供がなりたい職業ランキングの一位が「デザイナー」になった時、私のミッションは達成されたと言えるでしょう。その日を迎えるまで、私にできることを地道にしていくつもりです。

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