パーソンズ美術大学留学記シーズン4 Week3 #279
2月に入れば卒業制作のExhibitionまで100日を過ぎ、あっという間に今学期も過ぎ去っていくのだろうなと思うなど。留学生活も終わりが見えてきてクライマックスを迎えているワクワク感と、卒業制作は無事に終わるのだろうかという焦燥感が半々といったところ。
Thesis
今週から4週間は"Critical Sharing Session"という形式が続きます。これは隔週で進捗報告を行い、それに対して先生や学生からフィードバックをもらうというものです。私は今週と再来週に発表することになっています。
具体的には、まずPresenterが5分間で進捗報告を行います。その後、Discussantと呼ばれる人が議題を提示します。続いて20分間のディスカッションを行うのですが、この時は発表者は参加せずに議論を見守ります。続く10分間で発表者はディスカッションに参加できるようになりますが、そのまま議論を見守ることもできます。
というわけで、今回は発表してみて学んだことを書き留めておきます。ちなみに、私の取り組んでいるテーマは"How to stay sane in an insane world"で、New York Zen Centerでの体験を参考にしながら進めています。
プロジェクトの寿命=メンバーの思い入れ
まずはじめに思ったのは、「このプロジェクトの当事者は私しかいない」という事実です。私が「もうやめた」と投げ出した瞬間に卒業制作は途絶えてしまうし、それに対して残念に思う人も私以外誰もいません。もちろん「誰かのためになっているか?」という視点も欠かせないのですが、究極的には「私自身が私のためにやり遂げる」という構造になっています。
そのため、「自分のモチベーションは何なのか?」を深掘りする必要があります。「どうしてそのテーマを選んだのか?」「何を伝えたいのか?」ということを言語化できていないと、フィードバックの嵐を受けた時に挫けてしまいます。「私がやりたいからやるのだ」という答えを、他の人にも納得できるように説明していく作業でもあります。
こうした卒業制作を進める過程で自分の価値観や興味も明確になっていきます。「卒業制作はHealing Processでもある」という言葉が先生からありました。自分の内面を見つめると自分が囚われているトラウマに気づき、それを受け入れられるようになる場合があるからです。私の場合は極めて自己内省的な動機から始まっていることもあってヘビーな話になりやすいので、その辺りはライトに伝えられるように意識しておきたいです。
専門家の声はどこまで必要か?
新しいことをやろうとした時に障壁となるのは、既存のものとの干渉です。特に「それって専門家の監修が必要なのではないか?」問題です。
たとえば、メンタルヘルスを扱いたいという話であれば、「それは精神科医の監修が必要なのではないか?」という疑問が生まれます。デザイナーが独自のメンタルヘルスケアの方法を提案したとして、それが利用者のメンタルヘルスを悪化させる恐れはないのかという懸念です。Transdisciplinary Designという学部の特性上デザイン以外の領域に踏み込んだプロジェクトに挑戦する場合が多々あるので、専門家との理想の関係性は考えておくべきでしょう。
私が思い出したのは、以前受講していた「Global Mental Health」という授業の中で紹介されたProblem Manegement Plus(PM+)という仕組み。これは精神科医への受診までは必要ないけれどセルフケアだけでは不十分という人に向けた仕組みづくりの取り組みです。
専門家は人数が少ないため一般の人々が専門家にアクセスしにくいという問題は普遍的なはずです。だからといって、専門家を増やすというのも現実的ではありません。「どうすれば専門家の知恵を人類全体に広げられるのか」という課題に対してデザインの力が役立つのかもしれません。私の場合、どうすれば仏教や坐禅を身近に感じてもらえるのかといった問いになるのかもしれません。
Seminar
今週のテーマは"Locating the project"というテーマでした。卒業制作は基本的に自分の興味の赴くままに進めていけばいいのですが、とはいえ社会的意義を考えておくことも必要。社会的意義とまでは行かなくても、自分のやっていることが社会的にどんな立ち位置にあるのかを考えておくと、何を参考にすればいいのかが見えてきます。
私の場合、デザインと仏教の交差する領域でプロジェクトを進めたいと思っています。とはいえ、デザインはchange the world with speculation(未来を思い描いて世界を変える)というスタンスなのに対し、仏教はchange myself without delusion(妄想を捨てて自分を変える)というような違いがあります。この両者が上手く補完し合う方法を提案すれば、日本らしいデザインを考案するヒントになりそうだと期待しています。
授業内では"Locating the project"を考えるためのフレームワークとして、Discipline, Scholar, form, audienceの4つで分析する方法を教わりました。Disciplineとは分野で、デザイン、人類学、心理学など、どんな分野に関わるのか。Scholarとは専門家で、参考にしたり相談できる専門家は誰か。Formとはアウトプットの形で、Audienceはアウトプットを受け取る人です。
もしも一つの分野の中だけならば、その分野の中の有名人は明白で、アウトプットの形式も決まっていて、それを受け取る人々もその分野の中の人だけでしょう。しかし、Transdisciplinary Designではこれらを全て考えていかなければなりません。"Locating the project"というのは分野横断的な取り組みにおいては意識すべきポイントなのでしょう。
まとめ
自分一人でプロジェクトを進めていく時は、マネージャー的に何をするべきかを考える自分とプレイヤー的に実際に手を動かす自分の両方が必要になるので大変だと感じています。きっとプロジェクトマネージャー&デザイナー両方のスキルアップに繋がっているのだろうと信じて、残り12週間ほどを駆け抜けていきます!
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