トイレが嫌だと体調を崩すメカニズム
ここ数年の自然災害は「記録的な」とか「最大の」というようなケースが多々あるので、何が普通ぐらいかが分からなくなってきましたよね。ただ、私たちにできることは備えることです。
トイレが使えないときどうします?
地震であろうと、水害であろうと、多くの水洗トイレが使えなくなるということは、これまで何度も書いてきました。
では、水洗トイレが使えなくなると何が困るのでしょうか?
もしも、何も備えがなければ、選択肢は次の2つです。
①限界まで我慢する
②その辺でする
皆さんなら、どっちにします?
このような問いに、多くの方は「②その辺でする」と答えます。
たしかに、止むにやまれず、そうせざるを得ない状況あるかもしれません。
ですが、よく考えてみてください。
外は雨が降っている、寒い、夜は真っ暗で危険…
とても女性や子どもにすすめられることではありません。
もし、その辺ですることで何とかなるなら、阪神淡路大震災以降、トイレ問題が繰り返されることはなかったでしょう。
都市部であれば、穴を掘るような場所は限られています。
かなりの人口密度なので、あっというまに劣悪な衛生状態になり、悪臭だけでなく感染症が蔓延すると思います。
あっ、念のために言っておきますけど、水や食料は多少我慢できても、排泄は待ったなしですからね。
トイレが嫌だとなぜ体調を崩すのか
感染症が蔓延するのは、とても恐ろしいことですが、今回、説明するのはトイレ問題が引き起こす、もう1つの健康被害のメカニズムです。
最初に、結論を言いますね。
人はトイレが嫌だと出来るだけトイレに行かなくて済むように水を飲むのを控えてしまいます。この、水を飲むのを控えるという行為が深刻な健康被害をもたらすのです。
被災により、ただでさえ弱っているのに水分摂取を控えると、血圧上昇、体温低下、脱水、免疫力低下などを引き起こします。
心筋梗塞、脳梗塞、肺塞栓、誤嚥性肺炎、また、我慢により膀胱炎等になることもあります。最悪の場合、命を落としてしまいます。
そんなの分かっているよ、という方もいるかと思いますが、
災害時に応急的にトイレが配備されたとしても、そのトイレが和式で使えなかったり、トイレまで遠かったり、夜間にゴソゴソとトイレに行くと周囲に迷惑をかけてしまうのを気にしたり、知らない人と共同でトイレを使うのが怖かったりなどなど、1つでも気になってしまうと、人はトイレに行かないようにしてしまうものです。
東日本大震災、被災者の声
では、どのくらいの人が排泄リズムを崩してしまうのか、東日本大震災の時に気仙沼市の避難所でヒアリング(2011年4月29日~5月1日)した結果を紹介します。ヒアリングは、避難所内の体育館や、仮設トイレを使用しに来られた方に対して実施し、男性33人、女性53人の計86人から意見を聞くことができました。
避難所のトイレは避難されている方々が当番制により掃除をしていたことから、まあまあきれいでしたが、被災者へのヒアリングでは、「トイレが汚い」という意見が少なくありませんでした。また、「町会毎でトイレ掃除を行っているが、昼間は働きに出ている人もおり、避難所に残る大人は限られてしまう。そのため、負担は重い」という意見もありました。
なかでも私がとくに印象的だったのは、子どもたちの声です。
・ トイレをかわいく行きたくなるように造りかえられたらいい。絵を描きたい。夜、トイレに行くのが怖くても大人には頼らない。(10歳未満・女)
・ 混んでいるので使いたくない。外の草むらでしている。大便はたまに友人の家に遊びに行った時にトイレを借りている。あまり大便もしていない。(10歳未満・男)
・流していなくて、うんちが残っていた、落書きがある、我慢している、ドンドン叩かれるので怖い、混んでいる、恥ずかしい、がまん、ボットン、うんちは出るが毎日ではない。(10歳未満・女)
・ 懐中電灯はついているが電池が切れても換える人がいない。和式に慣れていないので子どもはとくに使いづらい。土足なので、汚れてしまう。毎日交代で掃除しているが、大勢で使っているので、一日たつと汚くなる。(20歳代・女)
普段とトイレ環境が異なることで、どれほどストレスになるかが分かりますよね。
続いて、排尿について説明します。
下図は、排尿回数を示したものです(左:男性、右:女性)。
女性は5回、3回、4回が上位を占め、男性は5回、4回・6回、2回でした。排尿回数が2~3回という人は男女ともに24%でした。
具体的なコメントとしては、「夜中に4回くらい起きる」「以前の半分になった」「夜はガマンする」「何となく出るような気がするのでトイレに行くがあまり出ない、残尿感がある」「被災当初、血尿が出た」「薬を飲むのでトイレの回数が多い」などがありました。
排尿回数
調査:日本トイレ研究所(東日本大震災)
日本泌尿器科学会のホームページでは「一般的には、朝起きてから就寝までの排尿回数が8回以上の場合を頻尿といいます」という記述がありますので、かなり乱暴に解釈すると、1日の排尿回数は5~7回ぐらいかなと思います。
これから考えても、3回以下というのは、かなり少ないですし、とても心配な状態です。
人はトイレが嫌だと水分を摂ることを控えがちになることがご理解いただけましたでしょうか。
だからこそ、自分自身、そして家族が安心してトイレに行けるように、水・食料とセットでトイレを是非備えてください。
トイレの備え方については、以前に書きましたので参考にしてください。
「携帯トイレがあなたの安心を守ってくれる」
あと、書籍『うんちはすごい』には、「災害時のトイレの知恵(自宅編)」の詳細も掲載してありますので、ぜひ読んでみてください。