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これからのトイレは通路型より広場型!?

これまでトイレの混雑解消に向けて、心理的効果やトイレ待ちのベストポジションへの誘導について説明してきましたが、シリーズの最後となる今回は、トイレの平面計画についてです。

トイレを使う側にとっては、そんなに意識したことはないかもしれませんが、平面計画はトイレの混雑解消と深い関りがあるのです。

下の写真は新東名高速道路NEOPASA清水のトイレです。

(提供:中日本高速道路株式会社東京支社)

2015年には政府が実施した「日本トイレ大賞」を受賞しています。

ちなみに、日本トイレ大賞というのは、有村治子・元大臣が快適な暮らしへの転換の象徴としてトイレに着目し「ジャパン・トイレ・チャレンジ」という政策を打ち出し、その一環として実施したものです。私は検討会のメンバーと審査員をさせていただきました(日本トイレ大賞の詳細はこちら)。

では、本題の平面計画について説明します。

平面計画というのは、空間を設計する際のトイレ配置の方針のことです。

マンションなどで1Kや2LDKとかって聞いたことがありますよね。Kはキッチン、Lはリビング、Dはダイニングです。これらをどのように配置するかが平面計画になります。

ただ、今回はトイレですのでリビングやダイニングはありません。各個室や便器を通路に沿って一列に並べるのか、二列にするのか、または広場のようにぐるっと取り囲むように配置するのかなどを考えます。

以下は、中日本高速道路のPA・SAにあるいくつかのトイレ平面図です。通路型にはフォーク型とI型の2タイプがあります。

提供:中日本高速道路株式会社東京支社

これまでのトイレは比較的通路型が多いように感じます。

同じ面積であれば、広場型よりも通路型の方がトイレの個室を数多く配置できることが特徴です。

「多くの人にスムーズに使ってもらうためには個室の数が多い方がよい」と考えるのが一般的です。

ですが、ここに落とし穴がありました

これまでも説明してきたように、数が多くても使われていないトイレがあっては意味がありません。すべての個室がフル稼働することが必要なのです。

そこで、中日本高速道路株式会社東京支社では、すべてのトイレを万遍なく使ってもらうには、通路型と広場型とどちらがよいのかを検証しました。

通路型と広場型、検証したらわかったこと

検証のために、それぞれのトイレの個室の扉にセンサーを設置して、開閉状況を把握することからはじめました。

まずは利用実態を浮き彫りにすることが必要です。

たとえば、下図の富士川SA下り線でのトイレの利用実態を記録してみると、明らかに中央通路のトイレが空いているのが分かりました(赤色になるほど利用頻度が高いことを示しています)。

富士川SA下り線でのトイレの利用実態(提供:中日本高速道路株式会社東京支社)

また奥の方が空いている傾向も見て取れます。

人を奥に誘導する心理効果については、「トイレの混雑解消に向けた3つの心理的効果とは?」、また、通路型でもなるべくトイレ待ちが出来にくくする工夫については「利用者を『トイレ待ちのベスポジ』に誘導するための3つのポイント」を参考にしてください。

では、広場型と比べるとどうだったのでしょうか?

下図を見て頂ければわかるとおり、空いている個室があるのに待ってしまっているという時間、つまり無駄な待ち時間の発生率は、広場型の方が通路型に比べ圧倒的に少ないことが分かります。

(提供:中日本高速道路株式会社東京支社)

あれっ、でも広場型の方が通路型に比べてトイレの個室が少ないのでは?と思った方、鋭いです。

通路型より1~2割程度少ない個室数だとしても、広場型の方が利用者をスムーズに受けいれる能力があるそうです。広場型、恐るべしですね。

中日本高速道路株式会社東京支社がこのような検証を実施出来るのは、各個室の稼働状況やトイレ利用動向に関する膨大なデータ把握と、そのデータを活用した空間評価システムを開発したことがあげられます。

空間評価システムとは、ある平面計画に対して、利用者データを入力することで、人がどのように動き、どの個室をどれだけ利用するかというシミュレーションをすることができるのです。

今までは、実績を踏まえてトイレの平面計画を作成し、実際につくらなければ分かりませんでした。そのため、整備後に改善を繰り返していたのです。

しかし、このシステムがあれば、事前に検証できるため、最適なトイレ計画を生み出すことが出来る可能性が高まります。

今のところ、実績とシミュレーションとの誤差は2%だそうです。

この空間評価システムを活かして、さまざまなトイレ計画をシミュレーションすることができれば、トイレの最適化が進み、結果として「トイレ混雑ゼロ」が実現すると思います。

参考論文1)伊藤佑治,山本浩司,添田昌志,諫川輝之,大野隆造:高速道路休憩施設のトイレにおける待ち位置選択に影響を及ぼす空間的要因,日本建築学会計画系論文集,第80巻 第713号,pp.1547-1555,2015.72)伊藤佑治,山本浩司,添田昌志,大野隆造:ログセンサーを用いた高速道路休憩施設のお手洗いの利用実態把握,日本建築学会技術報告集,第20巻 第44号,pp.203-206,2014.23)伊藤佑治 他:マルチエージェントシミュレーションによる高速道路休憩施設のトイレにおける空間計画の評価 その1 マルチエージェントシミュレーションの試行,日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.651-652,2016.84)伊藤佑治 他:マルチエージェントシミュレーションによる高速道路休憩施設のトイレにおける空間計画の評価 その2 分岐点における経路選択の推計値と実績値の比較,日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.627-628,2017.75)伊藤佑治 他:マルチエージェントシミュレーションによる高速道路休憩施設のトイレにおける空間計画の評価 その3 トイレブース選択モデルの構築および精度・汎用性の検証,日本建築学会大会学術講演梗概集,現在投稿中


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